たぬきが空を飛んでいる
比喩表現ではない
尻尾を高速で回し、本当にたぬきが一匹で飛んでいる
ただしそのたぬきは豆たぬきだった
人の親指にも満たぬサイズの豆たぬきはモチモチ肌はそのままでとにかく軽い
通常のたぬきでさえ強い風に吹っ飛ばされて空を舞うほどなのだから小さな豆たぬきは言うに及ばずである

「ぶぅぅぅんし…ぶぅぅぅぅんし…」

しかしながら尻尾を回して空を飛ぶその姿は奇妙奇天烈と言う他無し
されども小さいだけしか取り柄も無く、その取り柄も野生で生きるなら不利以外でしかない豆たぬきにとって移動距離を大幅に稼げるのは利点でしかない
飛行を続けた先に新天地か、はたまた生きるための餌か
それを求めて飛び立つ豆たぬきは確かに自由であった

「ん…うわ、虫！？」ﾋﾟｷﾞｴ

しかしそれは人間にとって小さな豆たぬきが飛んでいるのはハエか何かと間違える程度の存在でしかなかった
大きなハエが目の前に飛んでいると勘違いした人間は追い払うように手を動かし、その手は小さな豆たぬきにとって致死に及ぶ衝撃をもたらした
何せ飛べるほどの軽い豆たぬきは相応に中身も脆く、ただ虫を寄せないように払う手の動きですら中身を粉々にするのに十分な威力となった
それに虫と違って機敏に動けず、反応速度も悪い
なので虫と間違えられた豆たぬきはベチャリと地面に落ち、ションボリ顔は苦悶顔に変えてあっさりとたぬ生が終わったのだった