春が花を実らせ、夏は緑を生い茂らせ、秋は次なる命を後を託そうとする
そうして最後にやってくる冬という季節はたぬきにとって最も過酷な季節となる
何せ肌を刺すような寒さ、食料も見当たらない、もちろん下手に歩けば抵抗手段が少ないたぬきなど他の野生動物の恰好の餌である
なので冬を超えようと意識するたぬきは秋から休まずに食料をかき集めることがほとんどだ
これを怠ってダンスをしているようなたぬきは十中八九、餓死をして次の春までまともなポップができなくなる

「ふぅ…ご飯良し！もふもふ良し！ご飯良し！」

双葉山に住まうこのたぬきは冬を超えるために多くの餌を集めていた一匹だった
春にポップしてから初めての越冬
生来の性格としては石橋を叩いて渡るような慎重さを持ち、住処にはたぬきが数匹分は余裕を持って越冬可能であろう餌が集まっていた
これから長い時間を住処の中で過ごすためにも尻尾のケアも怠っていない
何せ人間の使うような毛布なんて上等なものがない以上、頼れるのは自分の服と尻尾だけだ
これが同族のたぬきがいればたぬき玉になって暖房を取れるのだが、生憎と双葉山のたぬきはほとんどが独り身暮らしだ
精々子たぬきを育てるぐらいに複数人で暮らすぐらいであり、成体で暮らすような個体は存在しなかった

「……越冬始めるし…春になったらみんなとモチモチだし…」

必要なものはすでに集まったと確認し終えたたぬきは住処の入り口を木の枝と葉っぱで防いでいく
まだ秋も終わっていない季節ではあるがたぬきは早々と越冬を始めるようだった

「…………ﾀﾇｰｼ…ﾎﾟｺｰｼ……」

そもそもたぬきの弱さと生態ピラミッドの関係から越冬は難しいと思われているが、実はそうではない
人間の都会に住まうたぬきであれば間違いではないのだが、山や自然の生きるたぬきの越冬の成功率は極めて高いものだった
たぬきの越冬は最低限の餌を口にしたら後はひたすら寝るだけである
これだけでもエネルギーの消費は最低限抑えられるだけではなく、元来ションボリからポップしてションボリして生きるたぬきだ
そうした生態をしているだけあってか住処の中でじっとしている分には合っているのか、長い時間を過ごす事に長けていた
ここで暇だから踊ったりでもすれば無駄なエネルギーを消費して餌を食べ尽くしてしまうため、そうしたたぬきはまず生き残れない
逆に言えばたぬきがたぬきらしくションボリと冬眠する分には遥かに生き残りやすい季節が冬だった

「……ﾀﾇｰ…ﾎﾟｺ？」

穴倉である住処は暗闇ではあるため、寝続ければ時間間隔も分からなくなる
たまに目覚めては少し餌を取ってそのまま寝るを繰り返していると、目覚めた時にふと温かい空気が住処に流れてくるのが分かった

「あれ…？もう春が来たのかし…？」

餌はまだほとんど消費していないため、そんなはずはないと思いながらも住処の入り口へと近づいていく
どうやら昼間の時間帯なのか、明るい光にたぬきのションボリ顔は更に深まる
しかしそれ以上に温かい…むしろ暑いと感じるぐらいの太陽の光にたぬきの顔はニッコリ顔へと変わった

「春だし！思いの外早かったし！」

空気や風による肌寒さはあれども太陽からの光から来るそれにはたぬきには覚えがあった
まだ小さい小さいチビだった頃から感じていた命を育む暖かさだ
思いの外越冬があっさり終わった事にたぬきもウキウキに外を繰り出していく
しかしながら歩けど歩けど同族には出会わない。春になればたぬき同士でモチモチをする
そんな目論見が台無しだ

「……早起きしすぎちゃったし？みんなまだ寝てるし…？」

ニッコリ顔も一転してションボリ顔でトボトボとするたぬきは野良ながらも感情表現が豊かであった
同族たちを寝坊助扱いしながらも一匹でやれることは限られている
このまま住処に戻ってもうひと眠りするべきか。そう考えていた帰りの道のことだった

………ｭ……

「……？」

声が聞こえた気がした
野生動物ではない、確かにたぬきと同じ声だ
同族との再会に飢えていたたぬきはきょろきょろと見渡すと微かに聞こえる声へと歩き出す
そこにはまだポップしたばかりの子たぬきがいた
まだ身動きも取れないのかピクピクと動くだけであり、しかしながら視界にたぬきを映すと途端に小さいながらも鳴きだした

「ｷｭｰ…ｷｭｰｷｭｰ!ﾀﾇｰｩ!!」
「わぁ…チビだし…可愛いし…」

壊れないように恐る恐るたぬきは子たぬきを抱き抱える
30cmほどの成体に対して子たぬきは精々ドングリや栗の実程度の大きさでしかなく、モチモチとしながらもそのあまりの小ささはすぐに壊れてしまいそうな儚さがあった
子たぬきも見知らぬたぬきに抱き抱えられてか不快感を出すように先ほどまで身動きも取れなかったとは思えないジタバタをし始める
とはいえ成体サイズのたぬきからすれば子たぬきのジタバタは簡単に抑えられるぐらいに可愛いものだ
むしろこうしてすぐにジタバタできる元気さなら何も心配は無く育ってくれるだろう
相手が同じたぬきであり、優しく抱き抱えられていると知ればすぐにジタバタは収まっていく
ションボリ顔ではあるが子たぬきも安心したように寝息を立てていた

「…フフ…今日から私がママだし…よろしくだし…」

春先から思わぬ出会いにたぬきは親になる決意をし、住処へと戻っていく
そこからは一匹ぼっちから子たぬきが増えて騒がしい日々となる
何せ産まれたばかりの子たぬきは何かを食べる手段も力もないため、たぬきの取ってきた餌のほとんどはそのままだと食べれない
そうなると食べれるのは親たぬきが口内で何度も噛み締めて吐き出し餌か、たぬきの柔らかいうんちに限られる

「ｷｭｰｷｭｰ♪」ﾓﾁｭﾓﾁｭ
「あぁ…チビがうんち塗れだし…葉っぱ葉っぱ…」

まだ幼い子たぬきに餌の一つ一つを手に取って丁寧に食べるということはできない
出来立ての親たぬきうんちに体を預けて大きく口を広げて食べていく
そうなれば必然的に子たぬきもうんち塗れになってしまうのだが、たぬきはそんなチビを愛しそうに綺麗にしていた

「ふぅ…今日も暖かいし…チビもお日様の光で尻尾をもふもふさせるし…」
「ﾀﾇｰ…ﾎﾟｺｰｼ…」

日当たりの良い場所を探しては太陽からの恵みで日向ぼっこを繰り返す
たまに来る肌寒い風もあるがそれが逆に日向ぼっこでの暖かさと相まって心地よかった
子たぬきもたぬきの大きな尻尾を枕替わりに夢の世界に旅立っている
そんな子たぬきの頬をもちもちとしながら欠伸と一つ、たぬきもまた夢の世界に旅立った

そうした穏やかな日々を繰り返す中でさすがのたぬきもおかしいと気づき始めた
春になったにも関わらず自分たち以外のたぬきを見ないからだ
それどころか危険な野生動物すら見ないのはいったいどういうことだろう

たぬきは決して楽観的な性格ではない。それは住処に大量に貯蓄した越冬用の餌からして明らかである
強いて言うならばまだ一年も生きていない若輩たぬきゆえに知識のほうが足りない程度だった
だからこそ、冬がそんな簡単に過ぎていくことなどありえないという答えに至れなかった

日差しのある中で今日も暖かいはずだった
しかし目覚めれば異様なまでの寒気によって身が震えてしまう
経験したことのない唐突な寒さはジタバタもできずにいとも簡単にたぬきは身を縮めてしまった

「キュ！？ギュゥ！？！さ、さむいし…！なんし……！？」
「ｷｭｩｩｩﾝ!ｷｭｩｩｩｩﾝ!!」

子たぬきもポップしてから経験したことのない寒さに大きく鳴きだしている
なにせ服がまだないのだからいくらもふもふのたぬき尻尾を枕替わりにしても直接肌を晒している部分もあって耐えれるものではない
たぬきはその声を聞いて正気を取り戻すと急いで子たぬきを抱き抱える
たぬき自身の服とモチモチと腕に包まれていくらか落ち着きを取り戻す子たぬきであったが、まだその身を震えているようだった
急いで住処に戻ってその日は尻尾で我が子を包むようにして眠っていく

「……駄目だし…今日も寒し…」

目を覚まして外に出ようとするがやはり凍てつくような寒気がやってくる
服を持ったたぬきでさえ耐えきれないこの寒さでは服のない、それもまだ小さく弱い子たぬきであれば一瞬にしてその命を奪っていくだろう
餌を少し取っては丸まって我が子を抱きしめて眠る日々
幸いなのは子たぬきはまだ言葉も喋れないが性格としては似ているのか言った事は守ろうとする素直な子であった
暖かい外を出かけるならまだしも、今の寒さで外を出ようと気もしないのか大人しく一緒に寝て過ごす事が出来た

たぬきの冬眠は当たり前の話だが終わっていない
10月の初め頃に冬眠を開始してまだ11月に入ったばかりであり、たぬきはたまたま季節外の気候を春だと勘違いしただけなのだ
本格的な冬はこれからやってくる
寒さは増し、食べれるものは消え、餓えた獣が山を跋扈し、春が来るその日まで外に出る事も叶わないように雪だって降り始める
たぬきの親子は今度こそ本当の春が来るまで眠り続ける
また外に出れたその日こそ、同族たちと再開できることを信じて






たぬき余談話

この後のたぬき親子
無事に越冬は完了して春の山を見れることに成功した
元々大量に貯蓄していた餌のお陰で子たぬきが増えても誤差の範囲であったのが行幸だった
加えて子たぬきも我儘を言う性格ではなく、素直に親の言う事を聞いて冬眠生活に加わった
そのため子たぬきは冬から春にかけての年月をかけても精々掌サイズの大きさで成長が遅くなった
中身は成体とさほど変わらないため、春からの生活を死なずに送り続ければ立派な成体になれるだろう

双葉山
近くにキャンプ地として有名な双葉連湖が存在する
たぬきも住まうが山のたぬきはあまり群れで生活することは好まず、基本的に単独で生きている
それができるだけの豊富な資源はあるが、当然山の動物も存在しているので生き残れるのは賢く、慎重な個体のみである
春から秋にかけて山に響くたぬきの叫び声は双葉連湖でキャンプする醍醐味の一つ