今日は楽しいクリスマス
クリスマスと思い浮かべれば皆は何を思うだろうか
美味しい料理、暖かい家、サンタさんからのプレゼント
そして恋人と煌びやかなイルミネーションが施された道を歩く時間

本来であれば聖人の聖誕祭となっているが、日本であれば例え偉い神様であろうと聖人であろうとお祭りの一つに過ぎない
クリスマスケーキからターキーまで、そして子供へのプレゼント商戦のために人間もたぬきたちは逞しく売り込んでいく

「明日からクリスマスに美味しいケーキいかがですかしー！」
「〇〇店の美味しいケーキが今なら□□□□円だよー！早いもの勝ちですよー！」

サンタ衣装に身を包み、寒い外の中にケーキを売り込む姿には多くの者が共感するだろう
ああ、今年もクリスマスがやってきた…と

「ケーキおひとつくださいなし…」
「お買い上げありがとうし…お釣りし…」
「丁寧にどうもし…チビ…遅くなる前に帰るし…」
「ち…明日のクリスマス楽しみだち…！」

「ケーキ三つお願いね。袋はいらないから」
「ありがとうございまーす！こちらお釣りでーす！」

恐らく有名店のケーキなのだろう
我先にと言わんばかりに路上販売のケーキは人もたぬきも買い上げていく
これから家に帰ってゆっくりとし、そして明日になれば美味しいケーキでその日一日を幸せに過ごす事になるだろう
日本であればいつも通りの、そして当たり前のクリスマスとしての幸せがやってくる

しかしそれができるのはクリスマスという記念日を幸せに過ごせる余裕のある者だけの特権だ
公園にある机の下で一匹寂しく過ごすたぬきにはそんな幸せを得られる余裕などない存在だった

「さむし…さむし……」

薄汚れたを通り越して中身の肌が見えるほどのボロボロの布切れにしか見えない服
モチモチ肌とは程遠い、皴のあるガサガサとした頬肉
くしゃくしゃとなった新聞紙を複数枚重ねて何とか暖を取ろうとする姿は惨めですらあった

「もう8度目の冬だし…そろそろ次のポップに行きそうだし…」

このたぬき、見た目こそホームレスやスラムのたぬきと変わらないが何年もの生き延びている猛者でもある
時には単独で、時にはスラムに所属したりと転々として生き延びてきた
しかしついに今年の冬は乗り越えられそうにはないと悟ってしまう
生き延びたと言えば聞こえは良いが、人と混ざって生きられない野良たぬきのほとんどは一年も生き延びたらベテランと言われるほどの過酷な環境だ
つまりそれだけ多くの同族の死を見届ける側となり、一匹だけ何とか死なずに済んだ運の良いだけのたぬ生だった

「次のたぬ生は……人間と一緒に暮らしてみるのも面白そうし……」

野良の環境に慣れすぎたために人と混ざって生きようとは思わなかった
しかしこの寒くて何百じゃ効かない同族の死を見る事になる季節でありながら、人の町はとても綺麗であった
そして人と混ざって生きるたぬきもまた、我が子のチビと幸せそうに歩く様に胸がきゅうと締め付けられそうになる

「…フフ、未練し……」

何年も生きたたぬきとて例に漏れずに子育ての経験はある
しかしそのほとんどは死んで次のポップ先に旅立っていた
災害、もどき、自らの不注意、野良の動物…たぬきが生き延びるのに野良の生活はあらゆるものが敵だからだ
そうした中で生きられるのは運が良いたぬきだけであって、子たぬきたちにはその運がなかった
ただそれだけの話だ
運の話で言えばそれこそ人と混ざって生きるたぬきとてたまたまそこにポップしてたまたまそうして生きてるだけなのだから
それでも我が子と過ごす中で、クリスマスの日に幸せそうな顔をするたぬき親子のような時間はどれだけあったのだろうか
もはや未練がないと思った自分でももう少しああしていればと考えれば後悔も尽きない

「あっ……」

そんな思考の海に入りかけたたぬきの目には空から舞い降りた奇跡が映った
薄暗くなる空からちらちらと雪が降ってくる
クリスマスという時間を更に盛り上げる幻想的光景であり、野良に生きるたぬきにとって死を予期させる死神だ
ただでさえ寒くなる季節の中で雪まで降れば氷点下まで気温は下がり、野良のたぬきはたぬき玉を作れるほどの群れでなければほぼ全滅するだろう

「綺麗だし…チビと一緒に見たかったし……」

たぬきはよろよろと机から抜け出すともはやションボリ顔から動かない皺のある顔は少しだけにこやか気味に動いた
寒さによる肉体はついに限界に達してそのまま倒れ伏すが、たぬきは穏やかに目を閉じる
8年も生きたのだからたぬきとして大往生と言ってもいい。それも綺麗な雪の中で死ねるなら悪くない最後と言えるだろう
次のたぬ生はどう生きようか？
人と混ざって生きるのも良いし、山奥の自然のたぬきたちと交流を深めるのも楽しそうだ
次なるポップに希望を託してクリスマスの日にたぬきはその生涯を閉じていく
ちらちらと降り積もる雪はそうしたたぬきたちを覆い隠していった

「……ｷｭｩｩﾝ?」

しかしながら死にゆくたぬきがいるなら当然ションボリが集まってポップするたぬきだって存在する
たぬきが丁度その命を終わらして次のリポップに向かったと同時に、すぐ近くに別の子たぬきがポップした
子たぬきは雪化粧されていく目の前の何かを同族だと理解しているようだが、その後すぐに雪が降っている環境に声を震わせた

「…!ｷｭｩｩｩﾝ!!ｷｭｩｩｩｳﾝ!!」

裸であることの多い子たぬきにとって冬の時期にポップすることは最悪と言っていい
何せ服があっても一匹であればろくに暖も取れずにそのまま凍死することも珍しくないのだ
尻尾を枕替わりにするように抱き着いて暖を取ろうにも焼石に水だ。背中から刺すような痛みが走るほどの寒さを防げない

「ｷﾞｭｩｩﾝ!?ﾀﾞﾇｰ!!ﾀﾇｩｩｩ!!」

せめて目の前の同族が、成体のたぬきが何とかしてくれないかとより大きな声を出して助けを求める
しかしすでに命を散らしたたぬきが動く事もなく、仮に元気に生きていてもたぬきができることなど何もない
精々抱き締めて少しでも同族のモチモチと温かさを伝えて穏やかに死を迎えさせる事ぐらいだが、そうした事すら得られないのが野良たぬきであった

「……ﾀﾇｰ…ﾀﾇｰ」

すでに冷たく、ガサガサで、モチモチですらない同族の肉に寄り添いながら子たぬきは小さく小さく声を出して、その瞬間に次のリポップへと旅立っていく
ポップしてから数秒で死ぬ事も珍しくない中で、成体たぬきの傍にいながら子たぬきは1分ほどでその命を終わらせた
同族の傍で死ねるだけでも幸運と言える過酷の野良たぬき
そんなたぬきたちにせめてものを情けと言わんばかりに、もし生きていれば親子たぬきになり得た二匹に雪の化粧が施されていった