雪が舞い散る冬の季節
この時期はたぬきにとって最も過酷な季節であり、秋の内にどれだけ準備を整えられるかで生き乗れるかが決まる
呑気に踊っているようなたぬきは150%の確率で餓死か凍死であり、それを乗り越えてもだいたいもどきに食われるのが50%である
スラムで群れを作るたぬきたちも例に漏れずに越冬に向けての準備を整えていた

「ふっしふっし…これが今回の実入りだし…」
「ひーふーみーしー……良いし…これなら足りるし…」

「ｷｭｩｩﾝ！ｷｭｯｷｭｯｷｭ♪」
「今日も踊るチビは可愛いし💛…呑気に踊ってるんじゃねぇし…早く毛布に包まって寝てろし…できないなら死ねし…」
「ｷｭｯ!?」

「ちょっと備蓄足りないかもしれんし…」
「TANUマートで毛布買ってくるし…」
「ついでにお酒も買ってきてし…」
「自分で買いに行けし…」

スラムたぬきは大半が服も持たない野良で構成されているが、このたぬきたちは人と混ざって人の仕事もこなす共存型のたぬきであった
そのためポップしたばかりの子たぬきを除いて全匹が小綺麗な服を持っており、稼いだ賃金でちょっとした贅沢も許されている
しかし今はそんな贅沢も我慢の時だ。全力で越冬を挑まなければたぬきの体では年を越せるかすら怪しい

多くのたぬきが越冬用の食料や住処の改築に勤しみ、足りないものを把握しては買い出しに向かっている
そうして万全な準備を整えたたぬきたちが次に行うのは備蓄用とは別の高カロリー食料による栄養の食い溜めであった

「今日も安く売ってくれて助かるし…たぬきのケーキ屋さんはたぬきの飯屋(メシア)だし…」
「甘くて蕩けそうし…涎が止まらんし…」
「ｷｭｰ?」
「フフ…チビにも分けてやるから大丈夫し…」

買い出したぬきがスラムに戻ってくるとスラムたぬきが作業を中断してわらわらと集まってくる
たぬきでも多くの買い出しの品を一度に運べるリアカーだが、そのリアカーには多くの箱が積まれている
箱の中身はシュトーレンと呼ばれる菓子パンであった
真っ白な粉砂糖をまぶされたケーキであり、それはまるで小さな山にクリスマスに振る雪で化粧されたのを思わせる美しい見た目だ

元々はドイツで一般的に知られる菓子パンであり、クリスマスを待つ4週間の期間に少しずつ食べる習慣がドイツにはある
中身のフルーツの風味が時間と共にパンに移り、それがパンの約一月近い味の変化と日持ちを可能とさせるのだ

そして日本でもシュトーレンが近年ブームとなり、日本独自の素材と使われたのが冬の時期には売られるようになる
それにスラムたぬきは目を付けた
本来であれば一月近い期間を一日ごとに分けて食べる菓子パンである
一つ辺りのカロリーは当然ながら膨大であり、もしも人間が一日で食べるようになれば次の日の体重計も栄養バランスも恐ろしい事になるだろう
しかしたぬきにとってそのカロリーこそが越冬を超える上で重要だった
シュトーレンは菓子パンの分類とはいえ決して安い買い物ではなく、趣味趣向を冬の時期には我慢しなければならないほどだ
しかしそれだけの価値は存在する。たぬきは箱を開けてシュトーレンを仲良く分けて食べていく

「おお…甘いし…美味いし…」
「はぁぁ…こりゃお酒も進むし…うまし…うまし…」
「ｷｭｩｩﾝ♪ｷｭｩｩﾝ♪」
「おいしいち…！こんなのたべたことないち…！」
「こらこらし…落ち着いて食べるし…」

各々シュトーレンを食べているが野良では手に入ることが稀の甘味の嵐にどのたぬきもにっこり顔だ
中には越冬中に飲むはずだったお酒も開けて飲んでいるたぬきもいるが、それに咎める者はいない
今日は一足早いスラムたぬきのクリスマスのようなもの。楽しい空気に横槍なんて入れる必要なんていないのだ
とはいえ強い甘味を幼い頃から味わえば舌を肥えてしまうため、子たぬきは寝る前に苦い木の実を食わされて泣いてしまう羽目になったようだった

そうして一夜明けるとスラムのたぬきに変化が起きる
見慣れた服からなんと白い着ぐるみのような衣装に変わっていたのだ
もふもふとして暖かそうなそれは服を持っていなかった子たぬきすらも着ており、寒い冬であっても元気に駆け回れるほどだった

「ふぅ…みんな無事に生えてきて良かったし…」
「これで冬も乗り越えられるし…もふもふだし…」
「モチモチもあるし…」

たぬきたちは互いの頬でモチモチしながら互いのモフモフで温かそうにしていた
たぬきの服はいつの頃から所持をしているのだが、栄養をしっかり取っていると手に入れやすい面があった
それはさながら毛皮のようなものであり、更に栄養を取り続ければ厚みも生じるようになる
もちろん野良のたぬきがそこまで行けるのは難しく、だからこそ多くのスラムたぬきはろくな栄養も取れずに全裸たぬきと化すのも珍しくない

しかし人と混ざって生きられるたぬきは野良であっても栄養事情は問題ではない
むしろ人間の食べる多くの食料は高カロリーが多く、その中でもシュトーレンは一度に溜め込めるカロリー量が多かった
そのため一度に多くのカロリーをその身に取り込んだスラムたぬきは着ぐるみのような服が生えてくるわけである
真っ白な着ぐるみなのは事前に食べた粉砂糖をまぶした白いパンだからなのかもしれないが、たぬきも詳しい事はわからない
だからこれは一足早いサンタさんからの優しいプレゼント…たぬきたちはそう認識していた





たぬき余談話

中世の時代はクリスマス前の約4週間が断食期間にあたり、その間に口にするのを許されたのが小麦粉、酵母、油、水
その四つの食材から作られた素朴な味わいのあるパンこそがシュトーレンの始まり
後にローマ教皇によってバターと牛乳の使用が認められるようになり、ドライフルーツ等も加える事でより味わい深い今の菓子パンとなった
1600年代では約20kg近いシュトーレンを領主に納めるのが通例となった記録もある模様
当然ながら一月近い時間を分けて食べる代物なので小さいシュトーレンであっても数千カロリーはあるので一気食いは禁物
でも美味しいから分けて食べるつもりがついつい…となる人もたぬきも多いようだ

真っ白着ぐるみたぬき
越冬前に膨大なカロリーを溜め込むことで服が着ぐるみに変化したたぬき
モフモフで白クマのような可愛らしい姿ながらも越冬を行う上で耐えれるだけの耐寒性を持っている
ただしあくまで高カロリーを摂取した時になれる毛皮の一種のため、この後越冬中に無駄に動いたりしてカロリーを消費すると抜け毛のように解けて元の服に戻ってしまう
同様に春頃になれば自然に抜け落ちていくので冬限定の自然着ぐるみたぬきである