双葉市内のとあるビニールハウス
そこでは日本各地の様々な果実が育てられ、一年の季節を通して安定して育てられる環境が構築されている
そうして旬の時期になれば思う存分に食べられる機会がやってくる
ビニールハウスの中にぞろぞろと入ってくるのは人間たちだ
彼らは色とりどりの果実を食べにフルーツ狩りをしにきた者たちだった
先頭にいる農家のように麦わら帽子を被るたぬきは声が奥まで届くようにメガホンを使おうとしていた

「それではフルーツたぬき狩りを開始しますし…皆様新鮮な果実とたぬきをお楽しみくださいませし…」

たぬきはションボリを集めてポップする謎の生態をしている
そのポップというものが実に厄介な面もあり、ションボリさえあれば産まれる場所を基本的に問わない点だ
生きた生物の中からポップするという事例こそ報告されていないものの、そうでなければそれこそ飲食物を基点にポップすることができる
代表的なのは子たぬきの揺り籠を実らせるたぬ木だろう
見た目こそただの木ではあるが実らせる実の中身が全てたぬきという不思議な木々だ
そんなたぬ木のように数こそ多くは無いが農家で育てられる果実や野菜にもたぬきがポップするようになっている

最初の頃は果実を駄目にされたと言われたが昔の話だ
基点とするものにある程度の性質を受け継ぐことが判明し、食べ物にポップしてもたぬき含めて味は変わらないのだ
むしろたぬきのモチモチとした食感はたぬ食としての完成度も高く、天然のフルーツ大福としての価値が高まった
こうして基点となる果実の木々にたぬ木の枝を接ぎ木させることでフルーツの実で産まれる新たぬ木が産まれたのだ

「みかん、リンゴ、ブドウ…イチゴに桃か。こんだけあると結構迷うな」
「別のビニールハウスだとサツマイモとかバナナもあるらしいぜ。今度行ってみよう」

小さな籠にはたくさんの果実を入れながらもその濃厚で甘い香りは大人の男性二人の顔を緩ませるほどだ
まずはナイフで丁寧に桃に軽い切れ目を作ってパカリと割る
そうすると中には少しばかり薄い桃の果肉の色をした髪を持つ、親指サイズの子たぬきが眠っていた
自分の尻尾を抱き枕のようにスース―と眠っているが本来であれば果実の中から目覚めるのに更に時間を有したのだろう
モチモチと頬を指で当てていても特に反応することもなく眠り続けている

「桃の匂い、良いなぁ…中のたぬきもすげぇ良い香りする」

甘い甘い出来立ての桃の中に包まれた子たぬきも当然なら甘い桃の香りがする
しばらく子たぬきの感触を楽しんだ男は桃から子たぬきを取り出した
突然揺り籠から引き離された子たぬきは何処か不快そうな顔をし、徐々に意識が覚醒していく
目覚めるのはまだ早い、でも揺り籠が体から離れたなら起きなきゃいけない
そうした本能に動かされた子たぬきが覚まして最初に目をしたのは、人間の口内であった

「ｷｭｯ…?」

口内に入れられ、ころころと舌で動かされていく
まだろくに声を出すことも体を動かす事もできない子たぬきにできることはない
ただねっとりとした生暖かい唾液が全身に伝わり、不快感と未知の恐怖しかない現状にパニックを起こす事だけだ
すなわちたぬきの本能であるジタバタを行うのだがそれすらろくにされてもらえない

「おっ…モゴ…桃の風味…するわ……」
「行儀悪いぞお前…」

桃の中にいたのだから桃の風味がするのも当然なのだが口の中で転がされた子たぬきは息も絶え絶えだ
柔らかな口内から硬質な歯に添えられて子たぬきはせめて自分の産まれた証を残そうと少しでも大きな声を出そうとする
しかしそれは叶わない
声を出す瞬間と同時に子たぬきは噛み砕かれ、小さい顔は粉微塵になる
続けて細かく念入りに噛み砕かれることで小さな手足も、モチモチの胴体も、一度もジタバタを行う事もできずに桃たぬきはあっさりと人間の食道を通して胃の中に旅立った

「うわ、すげぇ…桃の大福だわこれ…」
「へぇ…じゃあこっちはリンゴのほう食ってみるか」

ポップしたての子たぬきの骨は無いものに等しく、モチモチとした体はサクリと簡単に噛み砕ける
それはさながら天然の大福であり、基点としたフルーツの味も受け継がれたそれは正しくスイーツと呼べるものに相応しいものだった
もちろんただたぬきが果実にポップするだけではこの味にはならず、農家と農家たぬきが熱心に手入れをされたからこそ生み出せる上質な味でもあった

フルーツ狩りに来ているのは男性だけではなく、若い女性たちも甘い果実を舌鼓していた
丁寧に果実の皮を切り取りながら綺麗に一口サイズにカットしていき、中身の子たぬきは皮と一緒に廃棄用の籠に纏めて捨てていた
どうやらこの女性はたぬきを食べずに果実だけを食べに来たようだった

「あんたたぬきのほう食べないの？フルーツたぬき狩りだってのに」
「知らない？フルーツたぬきって果肉のほうが美味しくてその分のションボリはたぬきのほうが持って行ってるだって。だから美容のために果肉だけで良いのよ」
「なにそれ…聞いたことないわ…あまっ！」

友人同士で気楽に会話を重ねながら果実を口に運んでいくが、食われる事のない子たぬきは目を覚ませば揺り籠はなく、皮と同族しかいない籠の中でキューキューと鳴きながら身を寄せ合っている
保護してくれる親たぬきは存在せず、声だけ聞こえる人間たちは自分たちの揺り籠であり、最初の食事でもある果実を食っていく
ちなみにだがションボリからポップするたぬきではあるが、だから果肉のほうが美味しいというわけではない
というのも様々な動植物のションボリから産まれるたぬき自体のションボリはたかが知れているという部分もあるからだ
そのためフルーツたぬきを食べたところで健康に害があるとかそんなものも存在しない
それこそ一週間たぬきだけを食べ続ければ被害があるかもしれないが、それは毎日三食納豆を一週間食べ続けて腸内菌を失い他人の大便を移植する羽目になったレベルの話だ
なのでフルーツたぬきを食べずにいる女性はよくあるスピリチュアルなネットに騙されているだけなのだが、それに気づかずに美味しそうに果実を食べる者に頭ごなしに否定するのも野暮な話だろう

「うーん！甘酸っぱい！中も餅みたいで不思議な食感だわぁ」

他人の趣向に気を取られる暇なんてない
5cm近い大粒のイチゴを手に取り口に運べば甘さと酸っぱさの丁度良い味が舌の上で広がっていく
そして噛み締めれば中身の親指ほどの子たぬきと一緒に噛み砕かれ、イチゴの甘さのある餅のような食感が同時に伝わるのだ
まるで果実の中に餅か大福をそのまま入れたような食感は今まで味わった事のない代物だ
子たぬきも眠ったまま噛み砕かれて次のポップ先に迎えるのだから無情ながらも慈悲のある最後を迎えたと言えるだろう

しかしながら食べ進めればそれだけ廃棄する皮と子たぬきの量も増えていく
籠の中身はすでに何十匹の食われなかった子たぬきが同族同士でたぬき玉を作って震えている
せめて皮に残った果肉を少しでも体内に収めようと吸い付くようにしている涙ぐましい個体もいた

「もし…籠がいっぱいのようなので取り換えをしますし…」
「おっ…ありがとうねたぬきちゃん」
「いえいえ…それでは引き続きお楽しみくださいませし…」

そんな皮と子たぬきの籠を回収して空の籠に取り換えるのは麦わらたぬきの仕事であった
お客さんたちもそんなたぬきにしっかりと手を綺麗にした上で撫でたり、モチモチとしたりするが元々細い目を更に細めるように受け入れている
たぬきカフェや飲食店の看板店員としてたぬきも雇われるようになってこうして仕事をするたぬきは人間たちからも小さく可愛らしいということで好評なところもあるからだろう
そして回収された籠の中の子たぬきたちもようやく自分たちを保護してくれそうなたぬきの登場に安心したように鳴いている

「ｷｭｰ!ｷｭｰｷｭｰ♪」
「ﾀﾇｰ…ｷｭｩｩｩﾝ…」
「おお、よしよし…フフ…新鮮なフルーツから産まれたチビは可愛らしさも一味違うし…食べられなかったのはもったいないぐらいし…」

麦わらたぬきからすればフルーツたぬきという新しいブランドに成りえる存在であってもチビはチビで変わりはない
しかしながら農家として丁寧に育ててきただけに一匹一匹のチビは我が子のように愛情を感じるのも事実だ
それだけに果実と一緒に食べられなかったのもたぬ食の理解がまだ及んでいない部分だろうと頭の中で考えを切り替える

「さてと…チビたちはこの中に入ってるし…えーと…氷と牛乳と…」
「ｷｭｵ!?」
「ｷﾞｭｳﾝ!!」
「ﾀﾞﾇｯ!?」

そうしてビニールハウスの端のほうまで辿り着くと麦わらたぬきは籠の中に入っていた子たぬきを纏めて大きめのコップの中に放り込んだ
閉じ込められたような環境に放り込まれ、子たぬきも困惑しながらも理解できない突然の行いに抗議のジタバタは辞さないほどだ
一匹のジタバタが連動するように隣接した子たぬきもジタバタを行い、もはや体力が尽きるまで止まることはないだろう
しかし少し落ち着けば今ジタバタしている自分たちがなぜ無事なのかも知れるだろう
なぜなら先ほど入れられた子たぬきの下にも別の子たぬきたちがぐったりとした形で下敷きとなっているからだ
それも一番下のほうは裂傷したような傷も負ってすでに息をしていない

「ｷﾞｭｩｩｩﾝ!ｷﾞｭｩｩｩﾝ!!」
「ﾀﾞﾇｰｯ!」
「はいはいし…元気で良いことだし…」

怒りのジタバタに耳を貸さずに麦わらたぬきはコップの中に氷と牛乳を注いでいく
子たぬきの大きさでは一般的な氷の大きさはまるで大岩が頭に直撃するような衝撃で虫の息となり、その冷たさは近くにいた子たぬきも悲鳴を上げるほどだ
続けて牛乳の洪水は容易に子たぬきたちを沈没させ、息もできずに苦しむことになる
本来であれば薄甘い栄養たっぷりの牛乳は子たぬきもニッコリ顔にさせるものだが呼吸もろくにできずに溺れていくそれはもはや白い恐怖でしかない

「スイッチオン！し…」

そしてその苦しみは唐突に終わりを迎えた
麦わらたぬきがスイッチらしきものを押せばコップの内部は猛烈な回転を初め、下部に取り付けられた刃が一瞬にして子たぬきも氷も切り刻み、牛乳と一緒に掻き混ぜていく
ほんの2分ほども刻んで掻き混ぜればそこにはたぬきの髪の毛一本、尻尾の毛一本すら存在しない立派なミックスジュースが出来上がっていた
それを紙コップに一つ一つ注いでおぼんに乗せてまだ果実を各々楽しんでいるお客さんに配っていく

「出来立てのフルーツミックスジュースはいかがですかし～。甘くて美味しい喉を潤わせるジュースだし～」
「一つ貰おうかな」
「たぬきちゃん、こっちにもちょうだい！」
「牛乳入りか…飲みやすくて良いなこれ」
「風呂上りに飲みてぇ…」

丹精込めて作ったフルーツたぬき、その中でも子たぬきをそのまま廃棄するなどもったいない話だ
だからミキサーを使ってフルーツジュースとして振る舞うサービスも存在し、現金なもので子たぬきを食べない人でもそうと分からないただのジュースになってしまえば喜んで手に取って喉を潤していく
こうして極力無駄にしないようにしているがそれでも消費しきれなかった子たぬきは砂糖漬けにされて保存食となり、農家のおやつに回される

こうして食べ放題は盛況の中で時間が経てば終わりを迎える
もう暫くは果実を食べなくていいほど食べた者もいれば、まだ食べれるから次回も検討するものもいる
甘くて美味しい果実は人の心を幸せにし、そのほとんどが満足気に帰宅をしていく
しかしながら車で帰宅するこの一家は少しばかり事情が違っていたようだった

「俊彰！あんた何勝手に持ち帰ってるの！」
「ｷｭｰ…」
「母ちゃんごめん…」

後部座席に座る男の子の掌にいる小さな子たぬき
それはフルーツたぬきの一匹であり、男の子は食べずにこっそりと持ち帰るつもりだったようだ
しかしキューキューと小さいながらも子たぬきの鳴き声が発すれば狭い車の環境ではすぐにバレる
子たぬきは自分を食わずに持ち帰る男の子が叱られているのを理解しつつも震えてじっとしていた

「せっかくだから飼ってみようかなって…」
「そうやって結局お世話はママがすることになるんでしょ！」
「はは、いいじゃないか。俊彰もそろそろペットを飼う経験もしていいんじゃないか？」

モチモチと甘い香りをするフルーツたぬきはこうしてこっそりと持ち帰って飼おうとする者も少なくない
何せ成長しても甘い香りはするのだからモチモチとした抱き心地も相まって精神的にも落ち着けるのだ
とはいえたぬきを飼ったことの経験がない家庭がそこまで無事に成長するまで飼えるかどうか
子たぬきがこれからどうなるかはまだまだわからない未来であった




たぬき余談話

フルーツたぬき
近年農作物にポップしたことで対象の商品価値が失うという問題を回避するために食べ物もそこからポップしたたぬきも美味しい食べ物であると認識させるための政策の一つ
文字通り食べて農家の皆様を応援し、そこからたぬ食という分野に気づかせるためである
基点とした食べ物の性質を受け継ぐため、フルーツの味をそのままに子たぬきのモチモチな食感は天然のフルーツ大福となる
加えて果実として丁寧に世話をされた果実たぬ木は果実は元より中身のたぬきも良質な味となるため、新しいブランド品になる方面で注目されている
たぬ木の実から産まれるタイプのたぬきなので概ね服を持たないため、果実ごと食べれるのが利点
たぬきそのものは味と香り以外は通常のたぬきと変わらないため、育てると普通に成体まで成長する