ヒトが築き上げた住処であっても薄暗く寄り付かない場所も存在する
そういた場所には滅多にヒトも来ず、逆に都会に紛れて生きるヒト以外の生物がいる。
ションボリとした顔にモチモチとした体。ウマのような尻尾を持つがたぬきを自称する謎のナマモノ
野生に生きるがヒトの生きる住処では適応し切れなかった彼らは髪もボサボサ、モチモチ肌もカサカサ気味、尻尾も濡れる暇すら無く、勝負服すら持っていない全裸の姿
ションボリ顔はよりションボリとしている
一匹では生きられないから寄り添って生きる野良たぬき…彼らは通称スラムたぬきであった

「今日はこんなもんし…あまり良いのが無かったし…」
「しょうがないし…たぬきに使えそうなのはどんどん集めるし…」

数匹のたぬきがガチャガチャと何かを弄っている
それはたぬきにも扱える太さと長さのある木の枝だ
そして枝の先にはヒモで尖った石を括り付けている
見間違えようのないぐらいに槍だった

「分かっていると思うけど…終わったらちゃんと破棄するし…ヒトに見つかったら大変だし…」
「それはわかってるし…でも次に備えるのも有りじゃないかし？」

モチモチの手では作業が不得手なのかよく素材を落としては根気よく槍を増産していく
なぜスラムのたぬきが武器を作るのか
それには理由があった

「まずは乗り越える事だし…この地域にもたぬきもどきが現れたし…」
「怖いし…」
「尻尾も濡れるし…」

たぬきもどき
それは全てのたぬきの恐怖の象徴
たぬきがションボリを集めすぎたとも突然変異から産まれたとも言われるが定かではない
確かなことは脅威が迫っているならそれを対策しなくてはいけないということだ

「東の地区は…酷かったし…チビなんて欠片すら無かったし…」

たぬきの顔は焦燥感に満ちていた
スラムでは地区ごとに慣れ合うことはしないが時には情報や物資の交換ぐらいの交流はある
丁度その交流時期に向かった先には無造作に食い荒らされたたぬきたちの残骸だったのだ
あれは今でも夢に見るし…と零す言葉にたぬきたちは震えあがる

「とりあえず…できるだけ仕上がったし…武器を配っていくし…」

たぬきもどきの来襲に武器として槍を備える
それがたぬきたちの考えだった
実のところもどきがどんな姿でどんな凶悪な獣なのかは彼らも分かっていない
ただ漠然としたジタバタを駆られるような不安が頭に過ぎるのだ
もしかしたらポップする前のたぬ生で出会ったこともあるかもしれない
ただ彼らの想定外があるとするなら来襲はいつだって唐突にやってくることである

「あれ…見回りのたぬきはどこだし…？」

スラムの出入り口はいくつか存在する
その見回りをするたぬきがいなかったのだ
スラムにいるたぬきにはしては珍しくやる気があって初めて槍を手にした時は一番喜んでいた
そんなたぬきがサボるはずがない
怪しい何かを見つければ真っ先に声を出してくれるはずだ
そんな思いと裏腹に出入り口の影から聞こえる何かを食らう音から耳を背けたかった

「だ、誰だし…何かそこにいるのかし…？」
「キュ…キュゥゥン…？」

最初は同族のたぬきの声かと思った
大人の声なのにまるでチビのような鳴き声をする
ただそれは口元をべちゃべちゃに汚した四足歩行で毛むくじゃらの、たぬきとは似ても似つかぬ何かだったのだ

「ひっ！ひぃ！」
「タヌー…？キュゥゥ♪」

その何かの足元には、昨日まで話して、一緒にご飯も食べて、互いにカサカサ気味のほっぺをモチモチした仲のたぬきがいた
だけどその顔はもうモチモチできない。なぜなら顔全体が剥がれたように食い漁られているからだ
ご飯を掴む手も存在しない。歩くための足も存在しない
無造作なぐらいにバラバラにされたそれは出来の悪い壊された人形のようだった

「もどきだしぃぃぃぃいいいいい！みんなもどきがきだだだだだぁぁぁ！？やめ！やめ”じぃ！！」

スラム中のたぬきに聞こえるように発した声と同時にもどきは襲い掛かった
まるで野生動物のように俊敏に動いたそれは肩を食い潰すような圧力で噛んでいく
モチモチのたぬきは意外なほどに頑丈だ
多少雑に扱われても傷一つ付かない程度に柔軟性もあり、だからこそたぬきは野生であっても生きていくのに支障がない

そのたぬきの肌ですら一瞬でブチリという音と共に食い千切られる
いっそそこで終わっていれば良いのにもどきは嬉しそうに今度は口元を食い千切る
それはまるで見回りたぬきと同じような顔となり、叫び声をあげることすら許されない
続けて手足を軽く食い千切ればジタバタすら行えず、強制的に大人しくされてしまった

（やだし…何があったし…動けないし…痛いし…やめてし…）

痛みと迫りくる死への恐怖
たぬきであればリポップがあるから平気と言えるのはあくまで覚悟が決まっている時だ
こんな理不尽に奪われるようなことがあれば誰だって恐怖を感じてしまう

「タヌー…タヌータヌー♪」

そんな恐怖こそが最高のスパイスなのだと言わんばかりにもどきは喜び顔でダルマのたぬきの腹を食い潰す
ブチブチという音とグチャグチャと搔き立てる音は不快でしかないはずだ
しかしその音も止めば小さいたぬきのはらわたを食い潰すと同じであり、顔を上げれば次の餌が自分からやってくるのだから喜びでしかない

「こ、こいつがたぬきもどきかし…」
「こんなのたぬきじゃないし…もっと邪悪な何かだし…」

槍を持って駆け付けるだけの大人たちがもどきを囲い込む
武器を持ち、数も圧倒的な有利なはずだ
それでも言いしれぬ不安はジタバタしたいという気持ちになっていくがそれを必死に抑え込む
目の前の悪魔相手にジタバタするなどそれこそ自殺行為だからだ

「みんな！一斉に行くし！やー！」
「やー！」

十匹の槍持ちたぬきの一斉攻撃
それも生存を賭けた戦いでの攻撃に手加減など必要はない
尖った石の槍の攻撃は同じたぬきのモチモチ肌ぐらいは容易に傷つけられるだろう

「ギュム…キュ？」

例外があるとすればそれは野生動物に生きる圧倒的な分厚さを誇る毛皮だ
たぬきの力がもう少し非力でなければ違っていたかもしれないが、少なくともたぬきの力と武器ではその厚みを超える事ができなかった

「キュキュー♪」
「ひっ…！ギュ！」
「タヌッ！！」

自分と遊んでくれていると勘違いしたのか
もどきは尻尾を使ってお返しとばかりに周りのたぬきたちを薙ぎ払った

ころころもちもちと転がるたぬきたち
せっかく作った武器もまるで通じず、気づけば無意識に動かされるようにジタバタとしてしまう

「キュ…キュゥゥン♪」
「ひぃひぃ…み、みんな…ジタバタしてる場合じゃない！立つしぃ！」

もどきが何かに気付いたように走り出す
そしてジタバタせずに立ち上がったたぬきも気づいた
走り出すもどきの先にあるのはチビたちの避難所だ
たぬきの脳裏に浮かんだ最悪の光景に吐き気とジタバタを抑えて走り出す
しかしモッチモチと音がしそうなその走りはもどきに比べて絶望的に遅すぎた


「キュー…」ｶﾞﾘｶﾞﾘｶﾞﾘｶﾞﾘ

一方ですぐにチビの避難所に辿り着いたもどきは立ち往生していた
住処として小さく済むちびは当然避難所も小さく、もどきが入れるほどではなかったのだ
ちなみに避難所を守っているはずの大人たちは食われることもなく無造作にバラされていた
もどきの脳内にあるのはただ目の前にある小さく美味しいお肉を食べたい。ただそれだけなのだ

「タヌー…ｸﾞｸﾞｸﾞｯ……ｷｭｰ…ｷｭｷｭｰ♪」

埒が明かないと見るや否や
もどきの鳴き声から発せられたのは子たぬきと同じ鳴き声だった
その楽しげな声には例えヒトであっても一緒に遊ぼうよ楽しいよという意図が込められているようにも感じられる
その声に釣られるように、避難所の穴から次々の子たぬきたちが這い出てくる

「ｷｭｰ…」
「ﾀﾇｰﾀﾇｰ♪」
「ｷｭｷｭｰ」

もどきの恐怖を知らない子たぬきたちは呑気にもどきを見て驚いた
そしてこの大きな何かが自分たちの遊び相手なのだろうと子たぬきは喜ぶ
愛らしい鳴き声が重なり合い、互いの顔を近づけてもどきは一口で一匹の子たぬきの顔を食い潰した

「……？」
「…………？」

顔を失い、よろよろと倒れ伏す子たぬきだったもの
ピクンピクンとジタバタするかのように痙攣をしてから動かなくなるのをじっと見つめる他の子たぬきたち
もどきは心底美味しそうな顔で味わっていた

理解できない恐怖には子たぬきもジタバタするしかない
逃げるようなこともしない小さな餌たちをもどきはじっくりと味わうために咀嚼していく
不快な咀嚼音が響き渡りその度に子たぬきのｷｭｰｷｭｰﾀﾇﾀﾇｰと声が響いては消えていく

「はぁ…はぁ…はぁ…ち、ちびは…ふあ………」

たぬきたちが駆け付ける頃にはもう終わっていた
子たぬきたちの欠片もなくただ食い漁られただろうと分かる小さな残骸の跡
ちらちらと散らばった髪の毛の糸が、そこに子たぬきがいたのだと証明されていた

「あ…やだし…こんなの……許せないしぃぃ！」

例え同属であってもドライな関係が多いたぬきではあるが、互いに協力して住む事を選んだスラムのたぬきは仲間意識が強い
子たぬきも共同で世話することもあり、無造作に子たぬきを切り捨てるような事もしない
だからこそ自分たちの今の生活を壊したもどきに怒りを込めて突撃する

しかし悲しいかな戦力の差は歴然だった
再び尻尾で軽く薙ぎ払われてたぬきたちはジタバタするしかない。中には震えてる者だっている

「やめてぇ！やめてし！ギュ！ギュッオアア！！？」

一匹、また一匹と無造作に食われていく
もしこの場で幸いと言えるならもどきはあくまで食べるという行為以外はしないことだ
これが少しでも嗜虐性のある生物であればより苦しむことになっていただろう

「ひぃ…ひぃぃ！やだし…やめてし…あやまるし…ごめんし…こないで…ひぃ……！」

最後の一匹になったたぬきは壊れた槍を…もはや木の棒を振り回しながら後ずさる
あれだけ怒りを感じた相手だというのに、気づけば涙と排泄も止まらずにジタバタすることすら忘れて目の前の悪魔に命乞いをしていた
しかしそんな言葉を耳に貸さずにもどきは一歩一歩近づいていく

「ギュオアアン！？ギィ！アアオン！」
「ひっ！次はなんだしぃ…！」

もはやこれまでかと思われた瞬間にもどきは叫び声と共に倒れていた
時折ビクンビクンとするが次第に動かなくなっていく
涙でぼやけたたぬきの視界に映ったのはヒトだった
それも猟銃を構えてる年配のヒトだ
もどきを一撃で葬ったヒトは無造作にたぬきを食い荒らすもどきの処理を任されたハンターだった
だがたぬきはそんなことは知らない
気づいたらヒトの都心に産まれて、スラムで生きてきて、ヒトの営みを知らないたぬきにとってそれはもどき以上の恐怖となった

「う……うああああ！！もう、やだしぃ！ひぃ！ひぃぃ！」
「あ、おい！？」

ヒトが止める間もなくたぬきは逃げ出した
ヒトから離れるように。もどきから離れるように。そしてスラムからも離れるように
一瞬の内に全てを失ったたぬきにもはやまともに考えられる思考はない
ただ怖いもどきとヒトから少しでも距離を取りたかった。それだけだったのだ

スラムから逃げ出してただ走り抜ける
息も苦しくなってきて、もはや自分が何処にいるのかすらわからない
だけどそれでよかった
このジタバタする本能すら超える恐怖から逃れられるのならそれでよかったのだ
だが逃げ出した先にその恐怖が存在しないとも限らない
ヒトのハンターがなぜもどきを狩っていたのか
その理由を今すぐに思い知る事になるのだから


「タヌー」
「キュゥゥウン」
「ｸｰﾝ…ｸｰﾝ…」
「ググ…クゥゥン♪」

「あ………」



たぬき余談話
人間がわざわざもどきを狩るのはたぬきの残骸が町に残す景観を損なう害獣性
人間には懐きやすいが人間に飼われていたり社会的に生きてるたぬきを見境なしに襲う部分のため