一年の締めくくりとなる年末
その日は何処も寒さに負けぬと言わんばかりに大盛り上がりを迎えようとしている
テレビであれば一年の歴史を振り返るように、街中を少し繰り出せばセールを行う店だってある
そうした中で人は家でゆっくり過ごす者もいれば、年末フェスで歌と音楽を楽しむ者だっている

双葉市のとある神社では年末年始となれば多くのお客がごった返している
大晦日の正月を神社で過ごす…それもまた日本人であればよくある光景の一つだろう
あえて普通の神社と違うとすれば多くのお客のほとんどが飼いたぬきを連れているということだ

「うわ…双葉神社でこんなに人いるの初めて見たかも」
「人もたぬきもいっぱいいるし…」

この飼い主の女性も参拝目的でやってきた一人なのだ
たぬきのほうは暖かい熊をデフォルメで模ったくるみルフ君を身に着けている辺りに飼いたぬきとして可愛がられてるようだ
すでに夜は10時は過ぎており、年度が替わるのはもはや目前だ
そんな中でも多くの人が神社にいるのも年末年始に向けたお店が多く立ち並んでいるからだ
焼きそば、じゃがバター、焼き魚、カステラ焼き、ソーセージから肉串まで
飲み物出ればジュースにお酒と選り取り見取り
ちょっと目を動かすだけでもまるでお祭りのように屋台が並び、中には射的や輪投げまである

「はぁぁ…良い匂い！お腹すいた～！」
「まだ晩御飯食べてないからペコペコだし…迷うし…」

大晦日を迎える神社には多くのお客が来訪するのを見越して様々な屋台を出す事は多い
そうした屋台を目当てにお客も寒い中に温かい食べ物を好きに食べていく
年末年始という一年に一度のイベントと外で普段は食べないものを食べる環境はスパイスとなって美味しく感じるからだ

「はふ…はふ…美味しい…」
「じゃがいも丸々一個なのに落ち着くし…」

さっそくじゃがバターを注文して飼い主とたぬきはその出来立てのじゃがいもに身をポカポカとさせている
じゃがいも一つを加熱して十字に切り込みを入れてバターを乗せる
ただそれだけの料理なのに寒い夜の外であれば魔性とも言える味に変貌する
少しお腹を満たせば胃も稼働してもはや止まらない。お金とお腹が持つ限りは屋台の売り上げに貢献するしかない

「しゃっせしー…しゃっせしー…焼き立てのクリームたぬきはいかがっしー…」

食べやすい一口サイズの子たぬきの中にクリームを注入してカラッと焼き上げたたぬ食
ションボリと苦悶の表情の中間とも言うべき顔した子たぬきを口に運べば外はサクっと中身はモチっとしながらクリームの味わいがある
使われている子たぬきも果実からのポップからなのか甘さが両立して一度食べれば止まらなくなる
屋台のたぬ食界ではカステラ焼きと二分する人気商品だ

「止まらんし…こんなの平時に出されたら絶対太るし…」
「今は許されるから…今日は年末のめでたい日だからセーフ…」

言い訳がましいことを言いながらも手も足も止まらない
焼きそば、たこ焼き、焼き魚と次々と胃に納めながらも合間合間に飲み物も飲んで喉を潤していく
飼い主は車での来訪なのでお酒は飲んでいない
そうしてある程度お腹が膨らんで食欲を満たせば少し気になっていた遊びの屋台のほうだ
たぬきは真剣な顔をしながら手に持つポイポイで何かを掬おうとしている

「ｷｭｩｩﾝ!ｷｭｲｷｭｩ!」
「ﾀﾇﾀﾇﾀﾇ!」
「ｷｭｷｭｷｭ!ｷｭｩｩ!」

「ふぅし…今から助けてやるから少し黙ってろ…集中し…」

金魚すくいならぬ子たぬきすくい
それがその屋台の正体だ
子たぬきが溺れない程度のぎりぎりの水量の中でジタバタばしゃばしゃと足掻いている
しかしよく見れば子たぬきの手足は存在しなかった
逃亡防止も兼ねているのか、芋虫のようにジタバタと跳ねて自分から溺れかけている子たぬきは滑稽極まりない
そうした子たぬきを掬わんとたぬきは集中して細い目が見えない程度に見開く

「しっ…」

ひょいひょいと掬い上げておわんの中に子たぬきを入れる
飼い主と屋台たぬきが確認すればおわんの中には子たぬきはゼロ
ポイポイも穴が開いて失敗だった。たぬきのさも子たぬきをおわんの中に入れたような動きだけは完璧だった

「ごめんし…私じゃチビは救えんかったし…掬えんだけにし…」
「ｷｭｰｷｭｰ!」
「ﾀﾇｰｰ!」

「じゃあ私もやってみようかな」

飼い主も試しに遊んでみるのも兼ねてポイポイを屋台たぬきから受け取って子たぬきたちを見つめる
狙い目は尻尾も濡れてもはや動く気も失せて少しだけ浮かんだ個体だ
たぬきの失敗はジタバタが激しくてポイポイが持たない個体を狙ったことにある
ポイポイの中央で拾おうとせずになるべく端のほうで掬い上げながらどんどんおわんの中に子たぬきを入れていく
終わって見れば10匹以上の子たぬきがおわんの中に収納される形となった

「お見事だし…」
「ご主人凄いし…！」

これには素直に賞賛の言葉を送りながらモチモチとした拍手もおまけ付きだ
しかし手足のない子たぬきを飼うつもりもない飼い主にとってどうしたものかと悩むものだ
それならばと屋台たぬきは目の前の屋台に腕を示しながら提案する

「あそこはたぬき焼きをやってるからそこで焼いてもらえればいいし…」

向かい合わせのようにたぬきを焼いている店がいるからこそ手足のない子たぬきを掬い上げる屋台を出していたのだろう
つまりこのお店は戦利品の消化先であり、現にたぬきすくいのお客さんたちがたぬき焼きの屋台で戦利品を焼いてもらってる
串に何匹か刺してからタレを付けて一気に炭火焼きをしていく主人たぬきは手慣れたもので、先ほどまでお腹いっぱい食べていたのにその匂いは新たな食欲を誘う

「ｷﾞｭﾋﾞｱｱｱ!!」
「ｷﾞｭｩ"ｩ"ｩﾝ!!ﾀﾞﾇ"ｩ"ｩｳ"ｩ!!」
「ｷﾞｭﾋﾞﾗ"ｶﾞｧｱ!!」

手足のないたぬきが串に刺され、焼かれ、食われていく
その中でも元気よく声を出していく子たぬきには高い生命力とこれからの年の未来が明るいものだと感じさせるものだった
飼い主も手にした戦利品をたぬき焼きにしてもらい、飼いたぬきと半分こして食べ歩いていく

「もう結構食べたなぁ。たぬちゃんも満足した？」
「とても美味しかったし…大満足し…」

元々ぽんぽんお腹のたぬきは更に膨れたお腹にニッコリ顔だ
そうかそうかと抱かれたまま撫でられてたぬきはそれに身を寄せるように受け入れている
穏やかな時間、優しい時間、たぬきはいつまでもそんな日が続くといいなと思ってしまうほどだ

「お狸炊き上げが始まります！どうか一人一人、押さず駆けずに丁寧に行ってください！お狸炊き上げが始まります！――！」

神社の関係者らしき男が声を出し始めた
その言葉を聞いてたぬき連れのお客は続々と神社とは別方向に歩き出していく
飼い主もまたその一人だった

「おっ、始まった」
「ご主人…？参拝しなくていいのかし…？」

神社に来たのだから参拝も目当てのはず
そうたぬきも知っていたのだがそれに行かずに別方向に行く飼い主に疑問が尽きない
少しばかり長い距離を歩いて食べて飲んでと身を暖かくしたのがすっかり冷えた頃に目的の場所に辿り着いた
広い広場の中央が燃えている
多くの木々を種火として燃え上がる炎が天高くまで登っていくのは一種の恐ろしさまで感じるほどだ
その炎の中で、何かがもがいていた

「ｱｧｧｱｱ!!!だずげでほじぃああ！！」
「ギュブア"ァ"アア"！！」
「おど！お"どれ"！まだ！」
「ごじゅぃん"！ギュウ"ウ"ウ"ウ"アア！！」

生きながらに、飼いたぬきとして可愛がられている証の様々なくるみルフくんを身に着けたたぬきたちが、燃えていた
その炎の中に休み無しに人々は自らの飼いたぬきを放り投げていく
その度に響く困惑と助けを求めてるたぬきの声。しかしそれは飼い主たちには届かない
これは双葉市の続く儀式だった。伝統であった

ションボリという気から産まれるたぬきを一年大事に育て上げ、最後の年末に燃やして供養をするという伝統なのだ
陰気とも言えるションボリをたぬきに溜め込むだけ溜め込ませて最後は燃やして一年の始まりを晴れやかにする。ただそれだけのこと
もちろん当の飼いたぬきはそんなことは知らない。知る必要がないのだから
そして人間もそれで一年が良くなるとも思っていない。ションボリから産まれたたぬきを食べても何ともならないのがその証明だ

だけどそうしたほうが人間にとって気分は良い
たぬきも一年は大事に育てられて幸せに過ごせる
結果としてwin-winの関係を築けるのだから今も尚、双葉市に続く伝統だった

「ご主人…？」

先ほどまで仲良くご飯を食べて、会話もした飼い主の顔を見ようとした
変わらない。自分を愛して、育ててくれたいつも通りの飼い主だった
こんなところに連れてきたのは何かの間違いなんだ。そう思い込むと同時に、たぬきは炎の中に投げ込まれた

「あっ…えっ…？」

「ふぅ…来年も良い出会いのある一年でありますように…！」

くるみルフくんが炎にまとわりつくと同時にたぬきは今までに感じたことのない熱の暴力が襲い掛かった
ただでさえ燃えやすいたぬきの尻尾も持つたぬきにとって、一度でも燃えれば消し炭になるまでその勢いは留まることはない
声を出そうにも炎の中に放り込まれたたぬきは口の中も燃えて息苦しさすらも苦しみの一つとして追加されてしまう
もはやこの苦しみから逃れるには一秒でも早く死ぬことしか存在しない

「あ"ぁ"ぁ"あ"あ"！！な、んで！だずげぇええ！！！」

走馬灯のように過ぎるのは飼われてからの思い出だった
まだ親指サイズの頃から飼われ、大事に大事に育てられてきた
最初に言葉を喋り、産まれて初めてうどんを食べたのも一番に残る記憶だった
今はもう燃えて消えつつあるくるみルフくんも成体になりつつある春頃に買ってくれた大事な一着だった
その全てが燃えて燃えて、無くなっていく
声もまともに出せずに炭化していくたぬきたち
燃え盛る炎からの煙はまるでたぬきたちから出てきたションボリを感じさせる、悲しいものだった

「ひぃぃぃし…」

そんな中、同族であり飼い仲間でもあるたぬきがどんどん燃え盛る炎に投げ込まれるのを見て怯える者がいる
男性の飼い主に抱かれて逃げ出す素振りを見せず、ただ震えているだけなのはそれだけ衝撃的な光景だからだ
しかし飼われるだけのたぬきは相応に賢いため、それは飼いたぬきとして到底受け入れられないがやってくる未来を想像せざる得ない

「うーん…」

しかし飼い主は少し悩む素振りを見せるとそのまま踵を帰して神社近くの駐車場に戻ろうとしていた
震えるたぬきを車の中に乗せ、寒くならないようにくるみルフくんの上に更に毛布で包んでいく

「ご主人…」
「なんだかんだでお前には愛着湧いてるなぁ。燃やすのもったいないわ」

一年育て上げてションボリの供養として燃やす
そういった行事を理解しても一年育てたたぬきをただ燃やす事ができない人もいる
この飼い主はそういう部類であり、そうした飼い主に飼われたたぬきは稀に助かる事もあった
とはいえ何十年と続く伝統をたらやらずにいるというのも締まりが悪く感じるにも人間というものだ
震えたたぬきを車の中で落ち着かせた後、飼い主はそのまま神社の売店へと向かう
お守りが売られている中で一際目立つのが様々なくるみルフくんを身に纏った成体たぬきも売られている事だ
ペットショップであれば割引もされている大きさながらもその価格は少し高めだ

「すみません、炊き上げ用のたぬきを一匹」
「ありがとうございます。ではこちらをどうぞ」

このたぬきたちは自前のたぬきを燃やしたくはないけど行事には参加したい
そういった人向けに売られているたぬきだった
もちろん行事用というだけあってかそこまで大事にされているわけではないが環境的には一般的なペットショップより遥かに大事に半年から一年間育成されている
ぷっくりとした頬からサラサラの髪と尻尾は何処に出しても恥ずかしくない立派なたぬきと言えるだろう
あえて言うならばどのような末路を辿るのか炊き出し用のたぬきも理解しているということだ
育成してからある程度の情操が身に付く段階で真実を知らせてから今この時を迎える、そのションボリ顔は全てのションボリを吸い取ったかのような炊き出したぬきに相応しい辛気臭い顔となるからだ

「た、たぬ、たぬきは…踊れますし！お片付けもできますし…ご飯も残しませんし…！だから…だから…」
「あーはいはい黙っててくれ」
「むぎゅ！」

サービスとして一緒に渡された布でたぬきの口を塞いで喋れなくする
飼い主にとって炊き出し用のたぬきはそれ以上でもそれ以下でもなく、ピーピーと傍で騒がられてもわずわらしいだけだ
しかしたぬきのほうはそうはいかない。ここで黙って連れていかれれば自分は炎に焼かれて苦しい最後を迎える事になるのだから
ジタバタをして逃げようにも人間の力の前には何も意味をなさず、こうして一年育てられて運良く生き延びるたぬきがいる一方で、代わりに燃やされるたぬきも存在する
一年を締めくくり、新たな一年の門出としてたぬきは燃やされ続けて行く



たぬき余談話

お狸炊き上げ
双葉市の双葉神社で行われる伝統行事
ションボリからポップするたぬきを年始の日から一年育て上げ、年末の締めくくりに燃やして供養する事で一年をすっきりして過ごそうとする
決まりとして細かいことは存在せず、年末にたぬきを燃やせば良いので別に一年きっちり育てたたぬきで無くても良い
神社側にはたぬきは飼いたくないけど行事には参加したい人向けにお炊き上げ用の成体たぬきも売っており、こちらも一年育てられた上にくるみルフ君も着用した個体なので割高

運良く生き残れたたぬき
飼い主の愛着で生き残れた
しかし一年の最後が来るたびにもしかしたら今度こそ燃やされるのではないかと戦々恐々を送るようになる
とはいえそれで8年も寿命を生き延びたのだからたぬきとして大往生である
しかしその顔は安らかとは程遠いションボリと悲壮感にまみれた顔をし、次のリポップ先は炊き出したぬきのチビとして一生を送る事になる