一匹のたぬきが道を歩いている
それだけなら何処でも見れるいつもと変わらぬ光景だが、普通のたぬきと違ってそれは木の棒を片手に前を探るように歩いていた
まるで目の不自由な人が道の段差などからの安全確保に使う白杖のように扱っている
そのたぬきにとって、それと同じであった

ションボリとしたたぬきの顔からでは分からぬが、その細い目はすでに視力を失っていた個体であった
自然の中で生きる上で生態ピラミッドでは下に位置するたぬきにとって、五感の一つを失うのは文字通り死を意味するはずだった
しかしながらこのたぬきは幸運であった

まず一つはたぬきの住まう場所は人間の住まう街中であり、体が不自由な人向けのバリアフリー対策が施された町であったこと
これは普通のたぬきにとっても暮らしやすい構造の地形となっており、階段を利用せずともすぐそこにある緩やかな坂道を使えば安全に移動する事が出来た

第二に天敵の少なさが挙げられる
バリアフリーと並行されて野良の動物も対策されており、野良犬やカラスと言ったのはほとんど見ない
同様にもどきも糞をする関係上、景観を汚すという理由で駆除はされるようであった

第三にこの街でたぬきは無関心という扱いをされている点だ
もどきこそ駆除はされてもたぬきは人型の形をし、人の言葉を喋る事から関わりを避けられていた
無論、たぬきがそれを逆手に取って好き放題をすればもどきと同様に駆除をするようだが幸いにもそのような話は挙がっていない
街に住まうたぬきもまた、人との関わりを極力避けながらひっそりと暮らす奇妙な隣人であることを選択したのだ

最後に第四として、五感を失って生き延びたたぬきは思いの外逞しいということだった
一つの機能を失った事で他の五感が発達するという形で盲たぬきは目が見えずとも生き延びる事に成功した
大きな耳は小さな音を聞き逃さず、尻尾は地面に何があったかを察するセンサーのような役割に、鼻はより先の匂いを感じられるようになる

(……先に人間のチビがいるから遠回りするし…)
(くんくんし…熟した実の匂いがするし…)
(この道はちゃりんちゃりんが走った跡があるし…今度から避けるし…)

たぬきが死ぬ原因はその弱さは元より独自の死生観から来る危機感の無さだ
死んでも仕方ない、次のポップ先で頑張ろう
そんな考えを常に抱えているたぬきにとって死とは終わりではなく一種のリセットボタンでしかない
もちろん好き好んで痛みを負うのは嫌だし、苦しい事にはジタバタをしたり癇癪もするがその程度だ
頭たぬきとも誹謗されるそれは彼らにとって危機感を抱かせるものに成りえないのである

しかし盲たぬきは目が見えず、それゆえに発達した五感によって危機を察知することで事前に回避するという手段を手に入れた
盲たぬきもたぬきの例に漏れずに死そのものに恐れはないが、危険を先に感じられるなら回避できることに越した事もないので生き延びる事ができた
特に発達した嗅覚は餌探しに役立ち、盲たぬきでありながらも普通のたぬきよりも食事にありつける機会が多かった
すでに数回の冬を乗り越えたほどのベテランたぬきでもあり、モチモチとした頬には少しばかりの皺が刻まれていた

「ふぅ…春が恋しいし…」

すでに真冬の時期が過ぎてあと数十回の月を見届ければ春は来る
歳のせいか冬の寒さは身に沁み、暖かな日差しの中で尻尾を乾かしたい気分に駆られる
それ以上に、同族との触れ合いにも飢えている部分があった
前述のとおり、視力を失ったたぬきは生存能力を失っているのに等しい状態だ
そんなたぬきが群れにいてもお荷物でしかなく、盲たぬきが目を見えずとも生き抜ける力があってもドライなたぬきは群れに入れるようなことはしなかった
無論、盲たぬきとてそれも理解しているから割り切っているからか、そのことには不満も覚えない
群れには入れないだけで個たぬきとしての交流はされており、今はほとんどスラムから出てこないだけで春になればモチモチとし合える日も来るだろう
孤独に冬を過ごす日々はたぬきにとっては拷問のような日々ではあるが、それでも春さえ来ればモチモチしたりダンスをしたりと穏やかで心休まる日々が来るだろう

そんなションボリとした想いがその場に留まったからなのか
住処に戻り、ぼろ布のような毛布に包まって睡眠を取る盲たぬきの近くにたぬきが寝ながらポップしたようだった
お互いの寝息に気づかずに眠り続け、盲たぬきがすぐ傍に子たぬきがいたのに気づくのは起きてからすぐのことだった

「ｷｭｰ…ｷｭｷｭｰ」
「チビがポップしたし…どうしようかし…」

子たぬきも目覚めてから盲たぬきを親として認識しているのか、尻尾を抱き枕のように抱き着いてすりすりもふもふと楽しんでいる
一方で盲たぬきは困り果てていた
皺が出るほど何年も生き延びた歴戦のたぬきではあるが、視力を失った生きる上でハンデのある個体であるのは変わりない
そんな自分が子たぬきを育てようにも上手く育てられる保証どころが余計なものを背負うことで身の危険すら感じるものだ
そのため本来であれば本能のように自分より小さなたぬきを保護して育てるという欲求が存在しなかった
つまり、今まで子たぬきを育てたことがないのである

今までは優れた知覚によってチビがいることが分かっても自分には育てられないから避けようとしたり、群れのたぬきに知らせて保護をさせたことはある
同じように他たぬきに押し付けようにも春が近いとはいえほとんどが冬籠りをして中々出会えない
見捨てようにも育てる欲求がないだけで、いざ関われば見捨てる事のできない中途半端な情によって、子たぬきは生かされる事になる
これが過酷な野良に生きるたぬきであれば容赦なく首をへし折り、非常食の一つにしただろうが盲たぬきはその点で言えば、恵まれた環境の中で一匹で生きられるだけの心の余裕のある個体だったのが幸いだった

「しっかり捕まってるし…大人しくもしてるし…」
「ｷｭｩｩ」

盲たぬきは基本的に一匹暮らしゆえにそこまで餌を必要としないが余裕のある貯蓄もあるわけでもない
すでに春の兆しとして花や草が芽吹きだして色鮮やかな桜が今か今かと木々が彩り始めている
そんな中で盲たぬきはまだ服を持たないポップしたての子たぬきを抱き抱える形で餌を探し始める
本来であれば住処に残しておくのが一番であるが、幼い子たぬきは他たぬきとのモチモチや暖かさを求める本能がある
これが兄弟単位でいればたぬき玉となって問題はないが、子たぬき一匹を残していればそのままモチモチを求めて勝手に飛び出してしまう
自分にはない、しっかりとした厚みのある毛皮のような盲たぬきの服はそれは例え自らの服が無くてもしっかりとした暖かさで身も心も温まるものだった

「あれ…お前もう出ているのかし…？」
「久しぶりだし…今年も生きてて嬉しいし…」

順調に木の実や食べられる野草を採取していると、子たぬきとは別のたぬきと出会えた
スラムで住まう成体たぬきであり、盲たぬきにとって長年の友たぬきだ
いつ死ぬかもわからぬたぬ生に置いて年単位の知り合いは希少であり、それだけにたぬきたちが住まう町がどれだけ安全な場所なのかが分かる
互いの頬でモチモチし合いながら去年の秋以来になる交流は今までの孤独を上書きする穏やかな時間だ
とはいえ、友たぬきもまたゆっくりとしていられないようだった

「ごめんし…もっとモチモチしていたいけどこっちもご飯集めがあるし…」
「残念し…でもいつもより早くご飯集めなんて珍しいし…」
「ちょっとご飯が足りないかもしれんし…今の内に集めておくし…」

本格的な春が来るまでは冬籠りをしていただろうが、どうやらスラムの食糧事情が宜しくないようだった
ションボリ顔を深めながらも友たぬきはいつのまにか盲たぬきの尻尾に隠れるように移っている子たぬきを見る

「あれ……お前チビを育ててるのかし？」
「いや…丁度私の近くでポップしただけだし…今は世話してるけど……そっちはどうだし…？」
「言いたいことは分かるけどこっちもギリギリだし…ご飯が足りてない今に更にチビを引き取ったらみんなションボリするし…ごめんし…」
「いいし…」

出来れば目の前の友たぬきもといスラムに子たぬきを預けたかったがそうした目論見は閉ざされたようだった
別れを済ませ、次なる餌集めに向かおうとした直前に友たぬきは思い出したように声を出した

「言い忘れたし…近くに住んでる飼いたぬきから聞いたけどし…近々寒波が来るそうだし…やめてほしいし…」
「寒波…？季節外れにもほどがあるし…」

恐らくそれが、スラムが春を待たずに餌を集めている理由なのだろうと盲たぬきは察しが付いた
冬が終わり、春が近づいてもすぐに暖かな気候になるわけではない
時には冬の最後っ屁と言わんばかりの寒波が襲い掛かる時もある
互いのたぬきはションボリとしながら別れるとそれぞれ餌を探して歩き回る
盲たぬきの尻尾にへばりついている子たぬきはそんな親たちを苦労を知らぬように尻尾の暖かさに包まれながら眠っていた

数日後、友たぬきの言うように寒波がやってきた
すでに外に出歩くのも厳しいほどの風の冷たさは人間であってもそろそろ春が近いからと用意した薄着から真冬用の服を取り出すほどだ
それなりに厚着の服の盲たぬきですら短時間ならともかく餌集めに外を出るのも厳しいほどだ
更に言うなら服を持たない子たぬきでは一匹にしておくのも厳しいほどであり、寒波が去る日まで毛布に包まり、子たぬきを抱きしめるように眠り続けるしかやることはない

「ふぅし…」
「ｷｭｩｩｩ……ｷﾞｭｩｩ!」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「ああ…寒いのは分かるから落ち着くし…」

せめてたぬき玉になれば子たぬきも寒さを防げるだろうが、それができない以上は盲たぬきと毛布頼りだ
無駄に体力を消耗させようように自分の頬と子たぬきの頬でモチモチし合って落ち着かせる
まだ小さく幼い子たぬきではあるが、そうした親への暖かさに落ち着いたのかションボリ顔のまま眠りに付いていく
すでに老いたこの身はいつこの世を去るか分からぬ身であるが、初めての育児という問題に気苦労を重ねつつも不思議と心が穏やかに感じるようになった

「フフ…目が見えていたらチビの顔がどうなってたのか知りたかったし……私の代わりにいっぱい色んなものを見てほしいし…」

孤独なたぬ生の中で生まれたのは我が子への母性か
せめてこの子が大きくなるまで生きていたい。そう願いながら盲たぬきもまた眠りに付いていった

「たぬ………？………あれ…チビ…チビ……？」

まだ肌寒く、寒波が終わらない中に目覚める
盲たぬきは違和感を感じるように我が子を呼んだ。抱き締めながら寝ていたはずなのに、腕に伝わるそれはモチモチではなくモフモフであった

「ｷｭ…ｷｭｳ?」
「ああ…良かったし…チビ…チビなのかし…？」

声は確かに子たぬきの鳴き声であった
間違えようのない、たぬきの声であるのに伝わる感触はたぬきのそれではない
震える手で子たぬきであったそれを丁寧に全身を、頬に至るまで触り、盲たぬきは愕然としてしまった

「そんな…なんでし…なんでチビが…もどきになってるんだし…？」
「ｷｭｰ??」

全身に毛皮を覆われたそれはもはやたぬきのモチモチとはかけ離れた存在になっていた
しかしながらそれはよく見れば…盲たぬきの目が見えていれば子たぬきであることに変わりがない事に気づくはずだった
まるで着ぐるみのように毛皮を全身を覆うそれは十分な栄養と寒い時期だけになれるたぬきの防寒着のようなものだった
しかしながら目の見えない盲たぬきにはそれが分からない。手から伝わる感触だけが我が子の全てであり、天敵であるもどきに変異したとしか思えなかった

「なんでし…チビにはご飯も食べさせてたし…」

もどきはたぬきから変異すると言われているが、その原因はたぬきにもよくわかってない
ションボリを溜めすぎているとか、空腹状態が長く続くと言った噂が流れているぐらいだ
しかしながら盲たぬきの言う通り、子たぬきに十分な餌を与えていたのが今回の原因でもあった

まず盲たぬきは子育ては今回が初めてであり、子たぬきが生きる上で十分な食事という配分が分かっていなかった
そのため普段は成体である自分が食べる量と変わらぬ食事を与え、これによって必要以上の栄養を賄える事に成功したのだ
そして冬に近い寒波という状況によってポップしてそう経っていない子たぬきの体は冬であると誤認し、冬用の毛皮を生やす事にも成功した
加えて盲たぬきは冬の時期はほとんど一匹で過ごすため、たぬきが必要以上の栄養を蓄えた状態で冬を迎えると毛皮を生やすという現象を知らない
こうして我が子がわずか数日でもどきに変異してしまうという勘違いを起こしてしまったのだった

「……し…」

天敵とはいえまだ小さいもどきであれば成体のたぬきであるなら対処は容易な部類だ
力もそこまで強くなく、たぬきを葬るような爪や牙もないため、首を掴んで捻れば簡単に殺す事もできる
盲たぬきももしももどきが野放しとなり、自分は元よりスラムの友たぬきや見知らぬたぬきの被害になることだって避けたいところだった
しかし子たぬきの毛皮を通して伝わる暖かさに触れるとその気が失せてしまう
いくらドライと言われるほどの切り替えの早さを持つたぬきと言えども、初めての子というには情がどうしても産まれてしまう
ましてや頬に皺が出来るほど長生きし、五感の一つがないゆえに自らの子供を育てる事を諦めていた身だ
どうしても非情になりきれなかった

「どうして…どうしてし…」
「ｷｭｩﾝ♪」

こんな思いをするなら最初からポップしないでほしかった
それでも孤独の中で自分だけを保護者として追い求める我が子に対しての愛おしさはどうしようもなく芽生えてしまう
いつもよりぎゅっと抱き締めてしまい、それを親からの愛だと受け取る子たぬきは呑気そうに喜ばしい声を上げていた

「ほら…いっぱい食べるし…」
「ｷｭｩｩ♪」

まだ寒波が終わらぬ中であっても、寒さを遮断して快適に過ごせる子たぬきは元気そうであった
盲たぬきからすればもどきになった事で寒さに強くなったのだろうと思っているが、それでも我が子が元気そうにすることは喜ばしいことである
しかし寒波が終わり、本格的な春になって外に出るようになれば？
そしてもどきを飼っているとしか見られない自分が、まだ小さいもどきである我が子の存在がバレたら？
同族のたぬきにバレるだけならまだ良い。秘密裏にもどきを始末し、盲たぬきを町からの追放をする程度で済むかもしれない
しかしもどきを害獣として駆除する人間にバレたらたぬきごと始末することもありえるだろう

「トイレは決まった場所に…人間には決して見つからずに気を付けて…たぬきは食べ物じゃないし…」

この懸念を完全に潰すなら間違いなく目の前の我が子を殺したほうが確実かつ楽な方法だ
しかし育てれば育てるほど情が湧いてしまい、その機会を完全に逃してしまった盲たぬきにはその手段は取れない
だからせめて、もどきであっても人前に出さず、糞も所構わず行わず、たぬきも襲わないもどきに育てるしかなかった
そのためにもたぬきは食べ物ではないと教え、たぬき以外の食料になるものを与え、それは自分が食べるはずだったものを含まれている
心労は絶えず、それでも我が子の無事を祈らずにいられないその心境は如何なものか

一方で教育熱心であり、沢山のご飯を与えてくれて、隙あらば抱き締めてぎゅっとしてくれる親の存在に子たぬきは存分にその愛を享受していた
本来であればポップした時から辛気臭い顔をしているたぬきであるが、その顔はニッコリ顔でいるほどだ
互いのすれ違いが起きつつも寒波は通り過ぎ、ようやく本格的な春を迎えようとしている

「ｷｭｰ……?」

いつものように親に抱き締められながら眠っていた子たぬきはショボショボとしながら起き出す
親の腕から抜け出し、お腹が空いた事を伝えようとまだ眠っているである盲たぬきを揺さぶり、声を出していく

「ｷｭｩｷｭｩ…ｷｭｩｩｩﾝ!」

しかし親は目覚めない
どれだけ甲高く鳴き声を出そうにも盲たぬきはもう目覚める事はない
そのションボリとも苦悶とも取れる顔の盲たぬきは、すでに眠りながら寿命を迎えていた
元々野良生活による寿命の短さと子育てによるストレス、そして我が子の未来の不安が折り重なった結果だった
あれほど待ち遠しいと望んでいた春の到来が恐怖に変わり、刻一刻と変わる時の流れがついに盲たぬきの命を奪ってしまったのだ

「ｷｭｩｷｭｳ…ｷｭｩｩ?」

まだ死というものを理解できない子たぬきには目の前の親がなぜ起きてくれないのか理解できない
しかし教育こそされても傍から見れば過保護とも取れる扱いをされた幼い子たぬきに新しい行動を移せと言われても不可能なことだった
だから、待つしかなかった
時折残っている食料を自ら口に含みながらも親が起きるのをひたすら待つ
ただやれることはそれだけしかなかった
幸い毛皮を生やしているためか寒波が過ぎたとはいえ春の寒さを耐えるぐらいは子たぬき一匹でも問題はない

「…………ｷﾞｭｩ…」

何日も何日も過ぎても親は起きず、しかし子たぬきもまた起きない親を待ち続ける
食料も尽きているため、すでに数日は何も食べていない子たぬきもまたふらふらとしながら盲たぬきに寄り添っている
このままでは餓死も目前であった時、一匹のたぬきが住処を覗いていた

「おぉーいし…生きてるかし…？」

それは寒波前に盲たぬきと出会っていたスラムに住まう友たぬきであった
寒波も終わり、ようやく春の到来にたぬきたちも外に出歩けるようになる
しかし友たぬきは盲たぬきの姿を見ないため、心配になって住処まで様子を見に来たようだった

「ｷｭ………ﾀﾇｰ……」
「あっお前はあの時の……そうかし…ダメだったかし…」

まだかろうじて生きている子たぬきとすでに亡くなっている盲たぬきの姿を見て察したようだった
食料もほとんど無くなっている事から寒波中に盲たぬきは全ての食料を子たぬきに与え、出来る限り愛そうとした
春が来れば抜け毛のように落ちるはずの冬用毛皮を今の時期に子たぬきが生やしている事がその証明であった、と考えたのだろう

しかしながらまさか盲たぬきが子たぬきがもどきとなり、そのためにたぬきを襲わない教育を施してその心労が祟って死んだなど思いもしなかった

「チビ…お前のママはもう死んで…次のポップに旅立ったんだし…もう起きないんだし…」
「ｷｭｩ…?」
「……今は理解しなくてもいいし…それよりお前も私と一緒に来るかし…？こっちはチビが死んで数が減っちゃったし…」

春を目前とした寒波は思いの外影響も強く、寒波前に可能な限りの食料を集めていたスラムでも少数のたぬきがリポップ先に旅立ってしまった
幸いたぬきが死んでもそれはそのまま食料に置き換える事ができるので食料不足になる事はない
しかし唐突な気温差に負ける個体はどうしても現れるもので、ションボリとしながらこの世を去っていくたぬきもいる
友たぬきの育てていたチビもまた、そういう個体であり、寒波前に出会った頃よりションボリ顔が深まって見えるのはそうした理由だった

「来るかし…？良いし…今日から私がお前のママだし…」
「ｷｭｷｭｳ…」

差し伸ばされた手をモチモチと掴み、一歩だけ前に歩く子たぬき
住処を出る直前に、未だに眠り続ける親を振り返って、誰かに教わったわけでもないお辞儀を済ませ、新しい親となった友たぬきについていく
盲たぬきの見る事のできなかった、春の美しさが彩る外の世界を視界一杯に収めていきながら―――