春―――

木々が芽吹き、小鳥がさえずり、あらゆる生命が目覚める季節
それはたぬきも例外ではない
厳しい冬を巣穴に籠ってたぬき玉でしのぎ合い、時には落伍した者の血肉を糧にして―――遂に春日を生きて拝むことができたのだ

「お日さまだし…あたたかいし…」
「今年もなんとか生き残れたし…」

アナグマが掘った古い巣穴をねぐらにしていたたぬき親子が這い出てきて、日の光を浴びながら小躍りしていた
成体1匹と子たぬき1匹
ちびも3匹居たが全て越冬中に力尽き、この2匹の糧となった
そして春のたぬきは百戦錬磨の越冬たぬきだけではない

「ｷｭｰ! ｷｭｰ!」
「ｷｭｩｩｩﾝ! ｷｭｩｩｩｩ!」
「ﾀﾆｭ! ﾀﾆｭｳ! ﾀﾆｭｩｩｩﾝ!」
「ママ見るし…ちびがポップしてるし…かわいいし…」
「きっと死んだちびたちの生まれ変わりだし…今度こそ大事に育ててやるし…」

春はたぬきのポップ/リポップの盛んな季節でもある
越冬に失敗したたぬきたちのションボリを存分に吸収し、芽吹いた草花から雨後の筍のごとく湧いてくる
この親子はフキノトウからポップしたちびたぬき3匹を愛おしそうに抱えて持ち帰った




「家族も増えたからごはんを探すし…」
「手つだうし…」
「ﾃﾂﾀﾞｳ､ﾁ!」
「ｷｭｰ!」
「ﾀﾆｭ!」

後日、巣穴からあのたぬき一家がのそのそと這い出てきた
親を先頭に、子たぬき、ちびたぬきがぞろぞろとついて来る様はさながらカルガモの親子だ
しばらく進むと今までの草が茂った地面とは異なる、柔らかく掘り起こされた地面に変わった

「この地面が柔らかい場所には食べられる野菜がいっぱい生えてくるし…」
「ママはもの知りだし…」

親たぬきは以前にもこの地で食料調達をしていたのだ
記憶が確かならこの辺りに―――あった
野に生えている野草とは異なり、列ごとに等間隔で規則正しく、青々とした瑞々しい野菜がたぬきたちを出迎えた

「ｷｭﾜﾜｧ…ｺﾚ､ｾﾞﾝﾌﾞﾀﾍﾞﾚﾙﾁ…? ｽｺﾞｲﾁ…!!」
「おいしそうだし…じゅるる…し…」
「ｷｭｰ! ｷｭﾜﾜｧ…! ｷｭｩｩｩ!」
「ﾀﾆｭ♪ ﾀﾆｭﾝ♪ ﾀﾇｰﾝ♪」
「ふふっ…慌てなくても野菜は逃げないし…」

にわかに興奮する子とちびたちに、親たぬきが苦笑する
虫や小動物、魚等とは異なり、一切動かない野菜ならたぬきにも楽に採集できる
野草やキノコ、野の果実の中には苦くて食べれたものではないものや、最悪毒があるものもあるが、ここに生えてる野菜はどれも安心安全
おまけにおいしくて栄養満点
まさにいいこと尽くしの食料なのだ

「さぁ収穫するし…ママはこの『キャベツ』を頂くし…」

親たぬきは葉っぱが何枚も重なった丸い塊を標的に定めた
根元の固い軸を拾ったガラス片でギコギコと何度も挽いて、脆くなったところをモチモチの手で引っ張るとブチブチと千切れた
たぬきの腕に伝わるズッシリとした重さが収穫の喜びを伝える

「たぬきはこのみどり色のつくしみたいなのをもらうし…」
「それは『アスパラ』だし…つくしなんかよりずっとおいしいし…」

子たぬきは長細い緑色の枝のような野菜にモチモチと抱き付き、引っこ抜こうとする
しかし思いのほかしっかりと地面に根付いていたため、結局母と同じくガラス片で切り倒して収穫した

「ちびたちはそこの『イチゴ』を採るといいし…」
「ｲｲﾆｵｲﾀﾞﾁ…♪ ﾏｯｶﾃﾞｵｲｼｿｳﾀﾞﾁ…♪」
「ｷｭｩｩｩｩﾝ…♪」
「ﾀﾆｭｩｩｩﾝ♪」

ちびたぬきたちは地面に転がるように生えている赤い果実に群がった
これならちびの体格や力でも無理なく収穫できるだろう

「たくさんだし…いくらとってもとりきれないし…！」

子たぬきは調子に乗ってどんどん緑色の枝を切り倒していく
しかし、急に親たぬきが子たぬきの手からガラス片を取り上げて制止した

「採りすぎはメッ、だし…！　この野菜は人間さんたちも食べたがってるんだし…残しておかないとかわいそうだし…！」

親たぬきがまだ子たぬきだった頃、自分の親に連れられて別の『地面が柔らかい場所』に行った時のことを思い出した
その時は一家で今の子たぬきのように、野菜を根こそぎ採ってしまった
翌日またその場所に行ってみると、人間が悲しいような悔しいような表情をして立ち尽くしていたのを見たのだ

「それ以来たぬきはほどほどの量だけ頂くことを学んだし…人間も、たぬきも、みんなで分け合って生きていくべきだし…」
「ママ…わかったし！　たぬきもそうするし…！」
「ﾜｶｯﾀﾁ! ﾏﾏﾊﾔｻｼｲﾁ!」
「ｷｭｳﾝ!」
「ﾀﾆｭﾝ!」

素直に返事をする子どもたちの姿を見て、親たぬきは満足そうに頷いた
子たぬきやちびたちはいいたぬきに成長してくれるだろう
そうすれば、たぬきたちの世界はもっとよくなるはずだ
しばし使命感に酔った親たぬきはハッ、としてからニッコリとした笑顔を向けた

「今日はこれくらいにしておくし…帰ったら今日はパーティーだし！」
「わーい、し！　ごちそうパーティーだし…！」
「ﾀﾉｼﾐ､ﾀﾞﾁｰ!」
「ｷｭｰﾝ! ｷｭｩｩｩﾝ!」
「ﾀﾇｩｩｩﾝ!」
「と、その前に…」

親たぬきはいそいそとパンツを脱ぎ始めた
突然の行動に子たぬきたちは困惑を隠せない

「ママ…なにしてるし…？」
「ｵｼﾘﾏﾙﾀﾞｼ､ﾀﾞﾁｰ!」

だが親たぬきは意に返さず、ケツ丸出しのまま講釈を始める

「実はうんちやおしっこは野菜のごはんになるんだし…人間が撒いてるのを見たことがあるし…」
「えぇ…きたないし…」
「ｳﾝﾁｯﾁ!」
「でもたぬきたちだけごはんをもらうのは不公平だし…たぬきたちも野菜にごはんをあげるべきだし…」

最初こそ拒否感を示した子たぬきであったが、博識で慈悲深い親たぬきの説明を聞いて納得した

「わかったし…野さいへのお礼にたぬうんちとたぬしっこをごちそうするし！」
「ｳﾝｳﾝｽﾙﾁ! ｼｰｼｰｽﾙﾁ!」
「ｷｭｰ!」
「ﾀﾇｰ!」

子たぬきやちびたぬきたちもパンツを脱ぎ捨てた
プリン、と臀部が露になる

「んんんん…んっ…！　しぃ…」ﾌﾞﾘｭﾘｭﾘｭ…ﾑﾜｧ…

汚してしまわないようしっぽをピンと上に伸ばし、親たぬきが力むと菊座からもりもりと脱糞した
眉間に皺を寄せて赤らんだ顔が次第に恍惚とした表情へと変わる

「うーん、ぶりり…し…」ﾌﾞﾘﾌﾞﾘ…ﾌﾟﾘｯ…

子たぬきも親たぬきより量は少ないながらも一本糞をひり出した

「ｳﾝｳﾝﾁ…ｳﾝｳﾝﾁ…ｳﾝｳﾝﾃﾞﾙﾁ!」
「ｷｭｩｩｩ…ｷｭｩﾝ!」
「ﾀﾆｭｩｩｩﾝ…ﾀﾇｽ!」

ちびたぬきたちはポロポロと細かい糞を放出した
残りの野菜の周りへ満遍なく糞便を提供すると、たぬき一家は仕上げにかかった

「しょわわ…し…」
「おいしい野菜に育つんだし…」
「ｼｰｼｰ､ﾁｰ♪」
「ｷｭﾜﾜｧ…!」
「ﾀﾆｭｩｩﾝ…!」

たぬきたちのつるつるの陰部から、生暖かい黄色の水が野菜へと降り注いだ
爽快感と満足感で、たぬき一家はみなニッコリとした

「いいことした後は気持ちがいいし…」




「ふっし…ふっし…ふぅ…今日はよく働いたし…」
「おなかペコペコだし…」
「ｱﾄｽｺｼﾀﾞﾁ!」
「ｷｭｰ!」
「ﾀﾆｭ!」

たぬき一家は大量の戦利品を抱えて帰路に就いた
キャベツ2玉、アスパラガス13本、イチゴ21個
運んでいる最中も子たぬきやちびたぬきは興奮しっぱなしであった
なにしろこんな山のようなご馳走など生まれて初めてなのだ
重い荷物を運ぶションボリもこの喜びに比べたら無に等しい
いや、むしろこの重さにこそ喜ぶべきなのだ
そう思うと重労働も全く苦ではなかった

「みんな、お疲れし…！　たぬきたちの繁栄と健康を願って…かんぱーい！　し！」
「いただきまーすし！」
「ｲﾀﾀﾞｷﾏｽ､ﾁ!」
「ｷｭｰ! ｷｭｩｩｩｩﾝ!」
「ﾀﾆｭｰ! ﾀﾆｭｰﾝ!」

巣穴の中で親たぬきが乾杯の音頭を執った
杯なんて上等な物はないが、たぬきたちにとってはまさしく祝杯だ
そしてたぬきたちの宴が始まった

「しゃくしゃくし…タヌー♪　柔らかくて甘くておいしいし…♪」

千切ったキャベツの葉を頬張りながら、ニッコリと満面の笑みを浮かべる親たぬき

「もぐもぐし…ぱくぱくし…むしゃむしゃし…」

子たぬきは甘く瑞々しい汁で口の周りをベチャベチャにしながら、夢中でアスパラガスを貪っている

「ｱﾏｱﾏ､ｼﾞｭｰﾁｰ､ﾀﾞﾁｰ♪」
「ﾑﾁｬﾑﾁｬ､ﾓﾁｭﾓﾁｭ…ｷｭｩｩｩﾝ♪」
「ｸﾁｬｸﾁｬ､ﾍﾟﾁｬﾍﾟﾁｬ…ﾀﾇｩｩｩﾝ♪」

イチゴのとろけるような甘さに舌鼓を打ち、歓喜のジタバタをするちびたぬきたち

「どれもすっごくおいしかったし…ママや人げんさんたちへの感しゃのうどんダンスをおどるし！」

食事を終えた子たぬきがそう宣言すると、高らかに歌い出した

「きっつっね♪　たっぬっき♪」

歌と一緒に体をモチモチと揺らし、奇妙な振り付けを踊る
たぬきにとって最も重要な娯楽でありコミュニケーションであり文化である―――うどんダンスだ

「天ぷっら♪　つっきっみ♪　おっにっく♪」
「ﾁｪﾝﾌﾟｯﾗ♪ ﾁｭｯｷｯﾐ♪ ｵｯﾆｯｷｭ♪」
「ｷｭｯ､ｷｭｯ､ｷｭ♪　ｷｭｰ､ｷｭｰ､ｷｭｰ♪」
「ﾀﾇｯ､ﾀﾆｭｩﾝ♪　ﾀﾇｰ､ﾀﾆｭｰ､ﾀﾇﾝ♪」

ちびたちが合いの手を入れる
親たぬきはその光景を微笑ましく見守っていた

「うどん♪　うどん♪　うどん♪　スープ♪」

体をピンと垂直に伸ばし、左右に振る
そして胸を張り、右腕を高く掲げる決めポーズ

「うっ♪　うっ♪」

そしてダメ出しとばかりに後ろを向いて尻を振る
しっぽがピコンとうねり、薄汚れたパンツがチラリと見えた

「ふう…し…いい汗かいたし…」
「ｵﾈｰﾁｬ! ｻｲｺｰﾉｳﾄﾞﾝﾀﾞﾝｽ､ﾀﾞｯﾀﾁ!」
「ｷｭｩｩｩﾝ! ｷｭｩｩｩﾝ!」
「ﾀﾇｩｩｩｩｩﾝ!」
「キュゥゥゥン♪　こんな立派なうどんダンスを踊れるようになってママも鼻が高いし…きっと人間さんも見たらメロメロになるし…！」

たぬきたちの笑顔と喜びに満ち溢れた、ションボリとは無縁の幸せな空間
おいしいごはん、楽しいうどんダンス、そして愛すべき家族たち

たぬき一家の狂宴は、夜遅くまで続いた―――




翌日、たぬき一家が食料調達をした柔らかい地面の場所―――即ち畑に一人の男性がいた
男は明らかに苛ついた様子で畑の周りを検めていた
手塩にかけて育ててきた収穫間際のキャベツやアスパラガス、イチゴが見るも無残に荒らされていたのだから無理もない
しかも周囲からは耐え難い悪臭が立ち込めていた
野菜泥棒だけでは飽き足らず、あろうことか糞尿をまき散らしてから帰って行ったのだ
発酵させて堆肥にしてあるならともかく、こんなものは根腐れの原因にしかならない
野菜を盗むのは生きるため、と考えることもできるが、これは明確な悪意の所業だ
男ははらわたが煮えくり返るような怒りを覚えた
そして見つけたのは下手人の足跡である
大小入り乱れており、親子連れであることが伺える
肉球や爪の無いシンプルな足跡で、さらに特筆すべきは二足歩行であることだ
さらに何かを引きずったような跡…おそらく二足歩行を支えるしっぽの跡だ
キツネでもタヌキでもアライグマでもハクビシンでもない―――たぬきの痕跡に間違いなかった

「くそっ！！　あの害獣どもめ…！　見つけたらただじゃ済まさねぇ…！」




『たぬきーの原罪』




例のたぬき一家は巣穴の近くでうどんダンスに精を出していた
親たぬきと子たぬきの指導の下、3匹のちびたぬきがうどんダンスを歌い踊る

「ｷｯﾁｭｯﾈ♪ ﾀｯﾆｭｯｷ♪」
「ｷｯ､ｷｭｯ､ｷｭ♪ ｷｭ､ｷｯ､ｳｯ♪」
「ﾀｯ､ﾇｯ､ﾝ♪ ﾀｯ､ﾆｭｯ､ｳﾝ♪」
「もっとモチモチさを生かすし…こしのキレも足りないし…」

子たぬきは腕組をしながらすっかりコーチ気取りである
親たぬきはそれを微笑んで見守っていた

「ｳﾄﾞﾝ♪ ｳﾄﾞﾝ♪ ｳﾄﾞﾝ♪ ｽｰﾋﾟｭ♪ ｳｯ♪ ｳｯ♪」
「ｷｭｷｭﾝ♪ ｷｭｷｭﾝ♪ ｷｭｷｭｯ♪ ｷｭｰｷｭ♪ ｷｭｯ♪ ｷｭｯ♪」
「ﾀﾆｭﾝ♪ ﾀﾇﾝ♪ ﾀﾆｭﾝ♪ ﾀｰﾇ♪ ﾆｭﾝ♪ ﾆｭｰ♪」
「やっぱりたぬきたちのちびだし…すじがいいし…天さいかし…？」

リズムはてんでバラバラで、音程も振り付けもめちゃくちゃである
しかし「かわいいちびのうどんダンス」というフィルターで子たぬきの目はすっかり曇っていた
とはいえ成長すればいずれちゃんとしたうどんダンスを踊れるようになるだろう

「みんな！　今日はここまでし…ごはんを採りに行くし…」

親たぬきが両手をモチンモチンと叩きながら呼びかけた
子たぬきとちびたぬきは素直に従い、親たぬきを先頭に行進を開始する
「もっと踊りたい」などと我儘を言わないのは先日の野菜の味が忘れられないからであろう
春の陽気はますます盛りであり、そこにウグイスの鳴き声が響き渡る

「ﾎｰ､ﾎｷｮｷｮﾁ♪」
「ｷｭｰ､ｷｭｷｭｷｮ♪」
「ﾀｰ､ﾆｭﾆｭﾆｮﾝ♪」
「ふふっ…ちびたちの美声は鳥も顔負けだし…」

ちびたぬきもすっかりご機嫌でウグイスの鳴き真似などをしながらトテトテと親たぬきについていく
行き先はもちろんあのおいしい野菜のパラダイスだ
よく耕された土地に辿り着くと、早速青々とした野菜が出迎えてくれた

「おっ、たぬきの好物の『ニラ』だし…少しピリッとするけどおいしい野菜だし…」

細長く、瑞々しい葉がたっぷりと茂っている
親たぬきは慣れた手つきで葉をガラス片で切り裂いて収穫していく

「ｷｭｰ? ｺﾚﾅﾝﾀﾞﾁ?」

ちびたぬきが地面に埋まっている物体を発見した
薄い皮に包まれた、植物の球根のようである

「これは『イモ』だし…日持ちするから多めに採っておくし…でかしたしちび…」
「ｴｯﾍﾝﾁ!」

ちびは褒められて誇らしげだ
みんなで四つん這いになり、水かきをするように土を掘ってごろごろと転がっている球根を採集した
次に子たぬきが見つけたのは地面から顔を出したばかりの新芽である

「これ知ってるし…『フキノトウ』だし！　ちびたちがポップしたやつだし…！」
「ご名答だし…子たぬも物覚えがいいし…お前も大きくなってちびを拾ったらよく教えてやるんだし…」
「まかせるし！」

「ほろ苦い大人の味だし…」という親たぬきの言葉を聞いて、背伸びしたがりの子たぬきは喜んで摘み取った
今回の収穫はニラ5束、イモ20個、フキノトウ5個であった
なおたぬうんちとたぬしっこの振る舞いはたぬきたちが催していなかったため今回は無かった

「今日は土を掘ったから体が汚れたし…公園で『水浴び』するし…」
「水あび…ひさしぶりだし…」
「ﾐｼﾞｭｱﾋﾞ､ﾀﾞﾁｰ!」

収穫品を巣穴へと運び終えた後、親たぬきの提案に子たぬきたちが色めき立つ
たぬきは元来きれい好きで、体を清潔にするのを好む
スラムたぬきなどが不潔なのは生息環境がそれを許さないからだ
悪ガキにでも見つかると厄介なので、一家は人通りの少ない穴場の寂れた公園へと向かった
そしてお目当ての水飲み場を見つけると、親たぬきが背伸びをして蛇口をひねった
水道水が勢いよく迸り、たぬきたちは水しぶきの中に飛び込んだ

「しっぽも濡れたしぃぃぃぃ…！」
「つめたいしぃぃぃぃぃ…！」
「ﾁｯﾎﾟﾓ､ﾆｭﾚﾀﾁｨｨｨｨ!」
「ｷｭｩｩｩｩｩｩﾝ!」
「ﾀﾆｭｩｩｩｩｩ!」

全身をびしゃびしゃに濡らしながら、歓喜の声を上げながらションボリする
水浴びは気持ちいいのだが、しっぽが濡れるとションボリして力が抜けてしまうのはたぬきの本能である
水浴びを堪能した後、びしょ濡れの体をジタバタさせて水分を飛ばし、服と体を乾かした

「ぶるるるる…し…」

近頃は野菜のおかげで栄養状態がいいため、たぬきの毛皮である服はパリッと仕上がっている
髪やしっぽの毛並みもツヤがあって良好であり、肌はモチモチの極みであった
こんな美たぬきは世界広しといえどそう居ないであろう
今度人間にうどんダンスでも披露すればきっとお金をくれるかうどんをご馳走してくれるだろう
そして子たぬきやちびたちが立派に育てば、勲章だって貰えるに違いない
そんな皮算用を思い浮かべながら親たぬきはニタニタと笑っていた

「みんなきれいになったし…さぁ帰ってごはんにするし…」

夕暮れ時の公園を後にするたぬき一家
なお蛇口の水は出しっ放しのままであった




「たぬきたちの幸せと長寿を願って…かんぱーい！　し！」

親たぬきの音頭と共に晩餐が始まる
『ニラ』はまだちびたちには辛いであろうから、親たぬきが頂くことにした
柔らかく、ツンとした香りが親たぬきの食欲を増進させる

「むしゃむしゃし…やっぱりクセになるお味だし…♪」

『フキノトウ』は子たぬきが食べると言い出した
鮮烈な苦みが子たぬきの味覚を突き抜けるが、当の子たぬきはそれに満足している

「ダヌッ!　にがいしぃ…でもこれでたぬきも大人のなか間入りだし…♪」

ちびたぬきたちにはクセのない味わいの『イモ』を食べさせてやる
加熱ができないためホクホクとはいかないが、シャリシャリの食感でほのかな甘みにちびたちはご満悦であった

「ﾑﾁｬﾑﾁｬﾑﾁｬ…ｵｲﾁｰﾁ♪」
「ｼｮﾑｼｮﾑｼｮﾑ…ｷｭﾜﾜﾜｧ♪」
「ｼｬｸｼｬｸｼｬｸ…ﾀﾆｭｩｩｩﾝ♪」

今日も心行くまで野菜を堪能したたぬきたちは、満腹になるとそのまま寝っ転がった

「げぇぇぇぇっぷ…し…もう食えないし…」
「おなかいっぱいになったら眠くなってきたし…ムニャ…」
「ﾈﾑﾈﾑﾀﾞﾁ…ｽﾋﾟｰ…」
「ﾀﾆｭｰ…ｽﾋﾟｰ…ﾎﾟｺｰ…」
「ﾀﾇｰ…ｽﾋﾟｰ…ﾎﾟｺｰ…」

うどんダンスの特訓に食料調達、水浴びで1日の疲労が溜まっていたのだろう
一家はそのまま眠りに落ちてしまった
夜の帳の中、たぬきの間抜けないびきだけが巣穴に響いていた




(タヌッ？　なんか…変だし…？)

親たぬきは夢うつつの中、妙な不快感で目が覚めつつあった
段々意識が覚醒していき、五感もクリアになっていく
そして異変に気付いた

「ｸﾞｼﾞｼﾞｨ…ｸﾞﾙｼﾞｲﾁｨｨｨ…!」
「ｷﾞｭｩｩｩ…ｷﾞｭｴｪｪｪ…!」
「ﾀﾞﾆｭｩｩｩｩ…! ﾀﾞﾇｩｩｩｩｩﾝ…!」

ちびたぬきたちが発しているのは寝息ではなく苦悶の声だった
皆が苦痛に顔を歪ませながら脂汗を流しながらうずくまっている
本能のジタバタすらできないほどの苦痛であることが伺えた

「ち…ちび！？　しっかりするし…うっ！？」

抱っこしてモチモチして落ち着かせてやろうと思ったが、今度は親たぬきにも苦痛が襲いかかった
腹の奥底から不快感と激痛が沸き上がり、口から嘔吐という形で吐き出された

「ぐえぇ！　おろっ、おろろろろろろっ！！！」

先ほど食べた未消化の『ニラ』が胃液と共に地面にぶちまけられる
しかしそれでも苦痛が和らぐことはなく、今度は腹のもっと下…腸の辺りがゴロゴロと鳴った

「あぁっ！　駄目だしぃ！！　ダヌッ！」ﾌﾞﾁｭﾁｭﾁｭ…「…出ちゃったじぃ…」

親たぬきが気づいた時にはもう遅く、パンツを脱ぐ間もなく下痢便が尻穴から噴き出した
当然せっかく洗ったパンツは下痢便まみれの汚物と成り果てた

「ぐじぃぃぃ…おえっ！　おええええぇぇぇっ！！！　ぐじぃ、ぐるじい…じぃ…！」

それでも腹のゴロゴロと下痢便は止まらず、さらに胃液だけになっても嘔吐が止むことはなかった
親たぬきが苦しんでいる間にも当然、ちびたぬきたちも苦しみの坩堝にいた

「ｷﾞｭｼﾞｨｨｨ…ｴﾚｴﾚｴﾚ…ｼﾞｨ…ｼﾞﾝ､ｼﾞｬｳ､ﾁﾞｨ…!」ﾌﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞ…
「ｷﾞｭｧｧｧ…ｵﾛﾛｯ! ｹﾞﾎﾞﾎﾞｯ! ｷﾞｨｨｨ…!」ﾌﾞﾘﾘﾘｯ
「ﾀﾞﾆｭｩｩｩ! ﾀﾞﾇｯ! ｵｴｴｯ! ｴﾛｴﾛｴﾛｯ!」ﾌﾞﾋﾞｭﾋﾞｭﾋﾞｭﾋﾞｭ

ちびたちも嘔吐と下痢に苦しんでおり、さらに痙攣も発症している
親たぬきより重症なのは明らかであった

「おええっ…ぢ、ぢびぃぃぃ…じっかり…ずるしぃぃぃ…」

吐瀉物と下痢便にまれながらも、親たぬきは必死で這いずってちびたちの元へと向かう
しかしちびたぬきたちの痙攣はますます激しくなり、目を見開いて歯を食いしばり、皺だらけの悪鬼のごとき形相で苦痛を訴える

「ﾏ゛…ﾏ゛…ﾀｽ…ｹﾃ…ﾁﾞ…ｨ…」
「しっかり…しろ…し…今、モチモチしてやるし…」

ちびたぬきの1匹を抱えて、お互い吐瀉物まみれの顔に構わず皮膚接触を行う
どんな状況であろうともたぬきが最も安らげる行為だ
―――しかし

「ﾏ゛ﾏ゛…? ﾅﾆ､ﾓ…ｶﾝｼﾞ…ﾅｲ…ﾁ…?」
「た、たぬー…！？　どういうことだし…！？」
「ﾔﾀﾞﾁ…ﾏﾏ…ﾓﾁﾓﾁ､ｼﾃﾁｨ…!」
「してるし…！　ちび！　しっかりしろし…！」

ちびたぬきからは皮膚感覚が失われていた
慌てて他のちびたぬきにもモチモチを試みるが、全員安らぐどころかモチモチの感触を知覚することができず、不安を訴え続けるだけだ

「ｷﾞｭｰ…ｷﾞｭｰ…ｷﾞｭｯ!? ｷﾞｭｴｪｪｪ…ｷﾞｯﾋｨ…!」
「ﾀﾆｭｰ…? ﾀﾇｯ! ﾀﾇｩｩｩｩ…ﾀﾞﾇｪ…!」

にわかにちびたちの様子が変わった
苦しみ悶えているのは先ほどから変わらないが、喉を押さえて口をパクパクさせながら顔がみるみる内に紫に変色していく
呼吸困難によるチアノーゼに違いなかった

「ちび！　ちびっ！　ちびぃ！　誰か…誰でもいいし…ちびを助けてくださいしぃぃぃ…！！！」

親たぬきの何の意味もない懇願が巣穴の中に響く
窒息による極限の苦しみにジタバタと悶えるちびたちを、せめて慰めようと何度もモチモチするが、今のちびたぬきには既に苦痛以外の感覚が失われていた

「ｸﾞﾙﾁﾞ…ﾏ…ﾏ…ｵﾈﾁｬ…ﾀﾞｽｹ…ﾁ…ｳｯ!」
「ｷﾞｭｨｨ…ｷﾞｭｪｪ…ﾁﾞﾆﾀｸﾞ…ﾅ…ｳｯ!」
「ﾀﾞﾇｩ…ﾀﾞﾇｩｩ…ﾀﾞｯ…ﾀﾇｽ!」

そして最期に一際大きな痙攣をすると、だらん、とちびたぬきたちの表情と肉体が弛緩した
目を見開いたまま涙と涎を垂らし、ゲロと下痢にまみれた汚らしい『たぬきだった物』に変わった
究極の苦痛の果てに、3匹はその短いたぬ生を終えたのだ

「あ…あぁ…あぁぁ…ちび…ちびぃぃぃ…！！！」

親たぬきは涙を滝のように流しながら慟哭する
かつて冬ごもりの際に3匹のちびの亡骸を食料にした時のようなドライさはすっかり失われていた
暖かな気候、豊富な食料、そして冬をも生き延びた自分という優秀なたぬき
何処にちびたちが死ななければならない要素があったというのだ？
理不尽な悲しみに打ちひしがれて、はっ、と気づいた

「子たぬ…そうだ！　子たぬは無事かし…！？」

親たぬきはちびたぬきたちの見開いた目を閉じてやると、子たぬきの安否を確認した
見れば巣穴の隅でしっぽを抱えてうずくまっていた
自分たちのように嘔吐や下痢で苦しんだ様子はない
少しだけホッとすると、子たぬきに近寄って抱きしめてやった

「よかったし…お前だけは無事だったかし…」

モチモチをしているのに、子たぬきから反応がない
不審に思った親たぬきは子たぬきの顔を覗き込むと―――

「ダヌゥゥゥゥゥ！！！　もどきだしぃぃぃぃぃぃぃ！！！」

親たぬきの顔を見た子たぬきは一瞬で恐怖の表情になり、親たぬきを突き飛ばして巣穴から飛び出した
たぬきとは思えないスピードで、両手も使って獣のように走り狂った

「こわいしぃぃぃぃぃ！！！　どこまでもおいかけてくるしぃぃぃぃぃ！！！　もどきぃぃぃぃぃ！！！　ダヌゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ！！！」

子たぬきは狂乱の形相のまま四本足で駆け回り、深夜の森の中へと消えていった

「どうしちゃったんだし…もどきなんて何処にも居ないし…うっ！」

唖然としながらも子たぬきを連れ戻すべく巣穴を出ようとして、再び親たぬきを強烈な嘔吐感と腹下しが襲った

「げろげろげろげろっ！」ﾌﾞｼﾞｭｼﾞｭｼﾞｭ!「もう…みずしかでないじぃぃぃ…ぐるしいじぃぃぃ…いっそ、ころしてじぃぃぃ…！」ﾌﾞﾘｭﾘｭﾘｭﾘｭ…




翌朝
吐瀉物と下痢便とちびたぬきの死臭が充満する巣穴の中で、親たぬきはよろけながらも立ち上がった
あれから何度吐いて腹を下したか、何度死を願ったか
パリパリだった服はゲロと下痢便で染まり、悪臭も染みついていた
髪や自慢のしっぽの毛も同様だ
肌からモチモチさは失われ、脱水症状によってカサカサの皮膚へと変貌した
何よりその顔は極限の苦しみと悲しみにより、『ションボリ』などという生易しい表情ではなくなっていた
とはいえようやく症状は治まり、錯乱して逃げ出した子たぬきを探しにフラフラとした足取りで巣穴から出た

「子たぬ…子たぬは…どこ行ったし…？」

いくら自分と共に冬を越したしたたかな子たぬきであろうと、一人で夜の森に飛び出して無事だろうか？
一刻も早く保護してやらねば、そしてちびたちの遺体を埋葬してやらねば
使命感に突き動かされるまま、親たぬきは森の中を彷徨う
そして程なく地面に突っ伏す子たぬきの姿を発見した

「子たぬ…？　もう、心配させるなし…ちびたちは死んじゃったけどお前さえ無事なら…」

子たぬきの体を仰向けにひっくり返して、親たぬきの表情は凍り付いた
凄まじい恐怖と絶望に歪んだ狂貌のまま、子たぬきは事切れていたのだ
死の瞬間まで狂ったように走り続けていたらしい
服のみならず全身の皮膚が当たった草木でズタズタに擦り切れていた
ソックスは完全に破け、腕と素足は砂利や落ちていたガラス片が刺さってもなお走り続けた結果、真っ黒に変色していた

「子たぬ…ちび…あぁ…うあぁぁ…そんな…そんな…」

ダッッッッッヌウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァ！！！！！

親たぬきの絶叫が、森の中に轟いた




「1匹も捕まらなかったか…でも野菜は荒らされてないな…なんでだろ？」

例の畑で農家の男が独りごちていた
ハイクトラップ、たぬバサミ、ワイヤートラップ、Co2ハンマー
あらゆるたぬき捕獲・捕殺器具で周到に準備していたにも関わらず、戦果はゼロであった
トラップを見破る悪賢いたぬきなのかとも思ったが、野菜が全く荒らされていないのは不思議でならなかった

「まぁ、野菜に悪ささえされなければ何でもいいけど…」

だから男は気づかなかった
以前、園芸用にと適当に畑の隅に植えた『スイセン』と『イヌサフラン』が持ち去られていたことに
ましてや『ハシリドコロ』の存在にも

畑の隅をとぼとぼ、と幽鬼のようにおぼつかない足取りで進む影があった
ボサボサで傷んだ髪、汚れて悪臭を放つ服、シワシワで見すぼらしい体
そして深い、あまりにも深いションボリが刻み込まれた顔
全てを失ってもなお蛹化しなかったのは、最後の使命があったからだ

(あの場所の野菜は安全だと思っていたのに…きっと人間が毒の野菜を植えたんだし…たぬきたちを殺して野菜を独り占めするために…！)

度重なる嘔吐と下痢による脱水症状、そしてちびたぬきと子たぬきを失ったことによる絶望感
それらによって正常な判断力を失った親たぬきの思考が、そう結論付けた

「許さないし…絶対に許さないし…！」

ガラス片を強く握りしめ、手が切れて血が滲むが親たぬきは動じない
歪んだ復讐心に突き動かされるまま、親たぬきは歩き続ける
そして眩暈でふらつく親たぬきの視界の端に、人間の姿を捉えた
向こうを向いており、こちらの存在には気づいていない―――チャンスだ

「ちび…子たぬの仇…しね、し…！」

速足で近づき、一気にガラス片で襲いかかろうとしたが、それがいけなかった
ただでさえ体力の限界でふらついていた親たぬきの足はもつれ、フラフラと見当違いの方向へと彷徨う
そして五感が著しく鈍っていた親たぬきが存在に気付いていなかった―――肥溜めへと転落した

「ダヌッ！？」　

頭から突っ込み、糞尿のプールに溺れる親たぬき
たぬきの糞とは比較にならない悪臭と、発酵熱が親たぬきを襲う

(くっさ！！！　あっつ！！！　あちぃ！！！　ダヌゥ！　口に入っちゃったしぃぃぃ…！！！)

このままでは糞の海の中で溺れ死にしてしまう
ジタバタでもがきながら顔だけを外に出して、必死に呼吸する
そうすると何とか底に足を付けることができた
溺れる危機は去ったが、頭を上げてようやく鼻呼吸できるギリギリの深さだ
肥溜めの縁には手が届かず、自力での脱出は不可能であった
さらに声を出そうと口を開けると即座に糞が口内に流れ込んでくるため、声を上げて助けを呼ぶこともできない
まさしく『詰み』であった

(なんでだしぃぃぃ…たぬきには仇を討つこともできないのかし…？)
(許さないし…たぬき殺し…目には目を、しっぽにはしっぽをし…)
(この世界はたぬきにばかり厳しいし…不公平だし…)

その日は1日中、男への怨嗟と理不尽な世界への嘆きを心の中で吐き出し続けていた




翌日
もはや悪臭も不快感も慣れた、というよりは感覚が麻痺していた
糞風呂に浸かり、身動きの取れないまま、親たぬきの思考は別のことを考え出した

(ちび…子たぬ…生きていれば立派なたぬきになったはずなのに…)
(勲章欲しかったし…タヌッ！？　これじゃまるで勲章目当てで育てていたみたいだし…)
(そういえば結局前のちびも死なせたし…たぬきは本当にいい親たぬきだったかし…？)

たぬきの心の中に、迷いが生じていた




翌々日　
思考だけが今の親たぬきに許された唯一の文化的行為だ
立った状態のまま眠ることすら許されず、灼熱に苛まれながら、何度も何度も熟考し、極限状態の中でたぬきの思考は遂に『反省』を導き出した

(考えてみたら、こんな汚くて臭いうんちがごはんになるはずないし…きっと野菜たちが怒って毒になってたぬきたちに復讐したんだし…)
(人間だってうんちまみれの野菜なんて食べたくないはずだし…)
(ごめんなさいし…たぬきが間違っていましたし…)

親たぬきの目から、既に枯れたと思っていた涙が零れ落ちる




翌々々日
肥溜めという煉獄の中で喋る代わりに思考し、謝罪の代わりに涙を流しながら、たぬきはひたすらに懺悔を続けた

(ちび…ごめんし…子たぬ…ごめんし…悪いママでごめんなさいし…)
(お母さん…もどきからたぬきを守って、代わりに食べられちゃったお母さん…ごめんなさいし…)
(やっとわかったし…たぬきは最初から全部間違えていたんだし…)

親たぬきが望むものは、もうたった一つだ




翌々々々日
驚異的な生命力でここまで生命活動を続けてきた親たぬきであったが、遂に限界がやって来た
何もかもが穢れに満ちた空間の中で唯一、両目から溢れる涙だけが清廉な物質であった

(ごめんなさいし…ごめんなさいし…たぬきはとっても悪いたぬきでしたし…)
(謝っても済まないのはわかってるし…許してくれなくてもいいし…)
(生きててごめんなさいし…生まれてきてごめんなさいし…だから)




―――もう二度と、生まれてきませんし




そして親たぬきは死んだ
肉体と服はすぐに分解され、肥溜めの一部となった
やがて今度こそ本当に野菜の栄養となるだろう

親たぬきが最期に何を願おうと、たぬきはリポップし続ける
たぬき如きの想いで、この世の摂理は変わらない
冬に枯れた草花が、春にまた芽吹くように

「ｷｭｩｩｩｩﾝ! ﾀﾆｭｩｩｩｩﾝ!」
「おっ…ちびだし…よしよし、ウチのちびになれし…」

春はまだまだ始まったばかりだ