お日様もションボリする冬。山の生き物達のションボリを吸い上げて、たぬ木は丸々とした青い実を付けます。
この時期の実は硬く、とても食べられた物ではありません。果物が大好きなスズキスズメですら、寄り付かないほどです。
時は流れて、お日様がぽかぽか元気になる春。たぬ木の実は熟し、間もなくして地面に落ちます。
落果した実は弾け、とろけた果肉の中からちいさなちいさな赤ちゃんたぬきが顔を出します。
くうくう。生まれたばかりの赤ちゃんたぬきは腹ペコで、辺りに散らばった果肉に近寄ると、ぽふんと全身を預けてかぶりつきます。
もにゅもにゅくちゅくちゅ。果肉は甘く柔らかく、赤ちゃんたぬきもご満悦。
けれどその実は大きすぎて、
「けふ…」
半分も食べないうちにぽんぽこ満腹になってしまいます。
そこに現れたのは──
「ｳｿﾃﾞｼｮ！ｳｿﾃﾞｼｮ！」
一羽のスズキスズメ。勢いよく翼を広げて降り立つ彼女に圧されて、赤ちゃんたぬきはころころひっくり返ってしまいます。
自分より大きく、それでいて遥かに素早く頭を動かす生き物を見て、赤ちゃんたぬきは震えが止まりません。

そんな赤ちゃんたぬきの前に、スズキスズメはそっと勲章を落とします。
勲章…なんて難しい名前は知りませんが、お日様の光を受けてピカピカに光るそれに、赤ちゃんたぬきはすっかり恐怖を忘れ、虜になってしまいました。
スズキスズメはお代を払った後、赤ちゃんたぬきが残した果肉をついばみ始めます。
たぬ木の実はスズキスズメにとっても春にしか食べられないご馳走だったのです。
「ｳｿﾃﾞｼｮ！ｳｿﾃﾞｼｮ！」
あっという間に食事を終えたスズキスズメが別れを告げて飛び立っても、赤ちゃんたぬきはあいかわらず勲章に夢中でした。
ちいさな体をいっぱいに使って勲章を持ち上げ、色んな角度から光を当ててピカピカを楽しんでいます。
すると次にがさがさ、がさがさ…ぬっと現れたのは

「ししし…やっと邪魔者が居なくなったし…」
ションボリルドルフ──大人のたぬきです。
大人たぬきは赤ちゃんたぬきの前で膝を折ると、まあるい手で勲章を取り上げてしまいます。
その瞬間、赤ちゃんたぬきはお腹の底にぐつぐつ煮え立つ何かを感じました。
そして、頭のてっぺんまで駆け上る何かに従い、背中を地面に投げ出すと、手足をめちゃくちゃに振り回します。
生まれて初めてのジタバタでした。
「暴れるなし…落ち着けし…」
もちり。大人たぬきのまあるい手が赤ちゃんたぬきに触れて、マシュマロのように軽い体を抱き上げます。
「お前はこれから私が責任をもって育てるし…勲章はその対価だし…」
ぽんぽん。慣れた手付きで赤ちゃんたぬきの背中を叩き、ゆさゆさ。軽く肩を揺らすと赤ちゃんたぬきはすぐに寝付いてしまいます。
「まずは言葉からだし…その前にスズキに寝床を作ってもらうし…」
こうして、常日頃からスズキスズメに奪われている勲章は、少しずつ大人たぬきの元へ戻っていくのでした。
おしまい