
「まつり」


真夏の夜の、不思議な出来事だった。
平日だというのに飲みすぎて終電も逃し、深夜にさしかかろうという時間帯に、道に迷ってしまった。
果たして今自分が何処を歩いているのかも判然としない。
ひとまず高い場所に移動しようと石段を上り、辿り着いたのはどこかの広場のようだが、見覚えがなかった。
軽快だが、どこかズレて間抜けな祭囃子が聞こえてくる。
こんな時間に祭りなんてやっているものなのか？

「ｷｭｰ?まま、こんなおそくまで、おきてていいし？」
「今日はいいし…とくべつだし…」
「楽しみだし…いちねん待ったし…」
いつの間にか、大中小様々なたぬきの群れに囲まれていた。
広場には提灯が掲げられ、あちこちがぼんやりと照らされている。
俺は今、たぬきに化かされているのか？

「いっぱいお昼寝してきたし…」
「たぬきもいっぱいお腹すかせてき…た…し…？」
「なんか…人間いないかし…？」
浮かれ気味のたぬき達は居るはずのない闖入者の存在にぽかんとしていたが、次第にだらだらと汗をかき始める。
気がついた1匹が騒ぎだし、堰を切ったように叫び声が上がった。
「うわぁああ人間だしぃぃぃ！」
「なんでここにいるしぃぃぃ！」
「いじめられるしぃぃ！？」
「落ち着くし！みんな慌てずジタバタするしぃぃ！」
ある者は両手をジタバタさせて逃げ、またある者はその場で仰向けになりジタバタする。
騒乱の中、逃げていくたぬきが落とした勲章らしきものを見つけて拾う。
まだ酔って熱くなっている頭で事態が飲み込めず、それを眺めていると、声をかけられる。


「そこのお兄さん…人間でありながら此処に迷い込むとは、相当ションボリしてるし…」
ションボリ…？まあ、確かにそうかもしれない。
「ここはたぬき達のお祭り会場だし…たくさんの勲章が得られる、実りあるたぬ生をお願いするための場所だし…」
何を祀ってるんだ？
「人間は居てはいけない場所だし…さっさと帰る方が身のためだし…」
答えになっていないが、そういうものだというのは先程のたぬき達の慌てぶりから何となくわかる。
俺はここでも、爪弾きにされるわけだ。
「でもこれも何かの縁だし…伝統工芸だし…お土産にするし…」
渡されたのは、たぬきのお面だった。
触り心地こそ軽く薄っぺらいプラのようだが、ションボリ具合もシッカリ再現され、たぬきの顔をそのまま写しとったかのような、精巧な出来映えだった。
これたぬきの顔剥いだとかじゃないだろうな…我ながら気持ち悪い想像をしつつ裏側をこちらに向けても普通のお面だわ本当によかった。
「こんなに良くできてるのに全然売れんし…」
売れるわけないだろここにいるの全員たぬきなんだから…。


「さあ人間…二度とここには来るなし…」
お面屋のたぬきに、来た道を指され帰るよう促されたが。
どうもこのまま帰るのも味気ない。捨て鉢な気分から沸いた悪戯心は抑えるつもりになれなかった。
あまりにもたぬきお面の再現度が凄いので、被って誤魔化してみたらどうか。
意外とバレないんじゃないだろうか？
と、ゴム紐をかけてお面をつけた所で。
さっそく他のたぬきに見咎められてしまった。
もっちりとした眉間に皺を寄せながら、たぬきがめちゃめちゃ見上げてくる。
「おまえ…！」
バレるよな、流石に。
やっぱり部外者はとっとと去った方が良さそうだ。
「しっぽがないし…！」
「たいへんだし！痛くないし…？」
「病院いくし…？」
「いっしょにションボリするし…」
先程の混乱は何だったのかというぐらい、たぬきがわらわらと集まってきて心配して話しかけてくる。
お面をつけただけで仲間認定するとかこいつらの判定基準どうなってんだよ。
何ならお面屋のたぬきまで小難しい顔してるけどお前は気づいとけよ。


原理が理解できないが、このお面を被っている状態だと
『ちょっと手足が長くて尻尾がないたぬき』程度に思われているらしい。
先程と比べ、そこまで大騒ぎにならないということは、
もしかしたらそんなたぬきが実在するのか。
考えたくない。


たぬきの反応を確かめるため、お面を外してみる。
こちらを見上げるたぬきと目が合う。
「うわぁぁあああ！人間がいるしぃぃぃ！」

お面をかぶる。
「なんだ…見まちがいかし…」

お面を外す。
「うわぁぁあああ！人間がいるしぃぃぃ！」

お面をかぶる。
「あれ…人間どこいったし…おまえ見てないし？」

黙って首を横に振ると、騙されたぬきは首を傾げながらトボトボと去っていった。
いい加減にしろよ…と思いつつ、
ロバート秋山の身体モノマネみたいなことをしている自分にうんざりしていたのも確かだった。
気分を変えよう。
どうせなら、これを使ってたぬき目線で、たぬきだけのお祭りを楽しませてもらうとするか。


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ざっと見て回ったところ、会場の中では本当にたぬきしか見かけない。
居並ぶ様々な屋台は、人間の真似事をしているらしかった。
揚げたぬき屋…たぬきうどん…たぬきあめ…色々焼いたり揚げたり、遊びの屋台もあった。
材料はたぬき。景品もたぬき。
客も店主もたぬき。
そして金銭の代わりに、全てを勲章でやりとりする。
各々が楽しそうに過ごしているようだが
そのせいで同種が悲惨な目に遭っているのはいいのだろうか？
もう少し、各屋台を詳しく見て回って見ることにした。


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賑やかなお祭り会場の中で一際列が目立つ屋台は、ちびたぬき焼き屋だった。
看板はヘッタクソな字で“ちひ゛たぬキかき”と書かれている。そうとしか読めないヘッタクソな字だった。
“しおあじ”
“タレあじ”
の札が、屋台の正面にかけられている。
じゅうじゅうと煙を立てて、店主たぬきが汗を流しながら炭火を仕込んだ焼き器の上で、串に刺したちびたぬきをひっくり返している。
首にかけているタオルで時々汗を拭う。
拭いきれずぽたぽたと垂れているが、“しおあじ”ってそれじゃあないだろうな。

「らっしゃいらっしゃいし〜うまいようまいよし〜…」
「ごくり…だし…」
「今日のためにいっぱい勲章あつめてきたし…」

屋台の裏では他のたぬきが仕込みを同時進行しているらしく、
クーラーボックスから冷やして全身青くなって動かないちびたぬきを取り出し、串に刺したり、
匂いにつられてやってきた新鮮なちびたぬきを捕まえて、串に刺して焼いている。

「いい子いい子し…撫でるし…」
「ｷｭｳ~ﾝ♪ｷｭｷｭ…♪」
「どんどん刺すし…」
「ｷｭ…？ｸﾞｴｯ…ｱｶﾞｶﾞ…」

冷たいちびたぬきは動かないので簡単そうだったが、動いているのは優しくして油断させて一気に貫くのでコツがいりそうだった。あれもプロのなせる技か。　

「足りないし…どんどんちび持ってくるし…！」
「大丈夫だし…今日はお祭りだからいっぱいいるし…」

たぬきの考え方はモチモチというか柔軟すぎてついていけない。

足の間から脳天まで串を刺されているのに焼かれるまでは弱々しく両手両足を振り回していたちびたぬきが、
焼き器に並べられてじゅうううう！と、鳴き声なのか焼ける音なのか判別がつかない音を立てる。
ハケでタレを塗りたくられ、香ばしい匂いが広がっていた。
焼かれたちびたぬきは、見た目こそ黒っぽく焼けているが、｢ｷｭ…ｷﾞｭｷﾞｭ…」と小刻みに震え鳴いているので、中身まで火が通っているか怪しい。
たぬき達は手に持った勲章と交換し、思い思いに頭からかぶりついている。

「がつがつし…もぐもぐし…！」
「やっぱこれだし…塩がいいし…」
「タレの方が好きだし…」
「両方食べるし…今夜はごーゆーだし…！」

並んでいるのが食材なのか客なのかもはや誰にもわからない。
案の定、子供を間違えて連れて行かれ、仕込みたぬきと揉めている親たぬきもいた。
こいつらの倫理観理解できねえ。


次に目がいった、“たぬきカステラ”と読めなくもない、きったない字の屋台もかなりの人気だった。
甘い香りに誘われて、ずらっと並ぶたぬき達は横入りもせず、だし…だし…とざわつきながらもきちんと並んでいた。
先頭のたぬきは勲章を渡して紙袋に入った何かを受け取り、茶色くて甘い香りをさせる何かを口に運び、ジタバタとはしゃいでいる。
ちびたぬきが親に食べさせてもらい、両手をあげてぴょんぴょん飛び跳ねていた。
屋台の後ろを見ると、複数のたぬきが、ションボリ顔で頬をちぎり、乳液の入ったボウルの中に放り込んでいく。ちぎったそばから“もにゅ…”と頬が膨らみ、それをまたちぎっていくのがシュールだった。
無限ではないらしく、頬をこけさせているたぬきが椅子に座って一休みし、マシュマロなどの柔らかそうなモノを食べていた。
よくわからないが、後でこの列が解消していたら食べてみたいと思った。次の屋台を見に行こう。


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“ちびたぬきすくい”の屋台は、大きな桶の中に一見プールかと思うぐらいちびたぬき達が水を跳ねさせてはしゃいでいた。
いや違う。足がつかない高さに水が張られ、ジタバタと溺れているのだ。

「ふむし…活きがいいちびたちだし…」
「しばらく待つし…」

客たぬき達は助けようともせず、ちびたぬきがジタバタする体力がなくなり次第に沈んでいくのを待つ地獄絵図だった。
うつ伏せでぷかぷか浮かんでるのは絶対死んでるじゃん…。

「ｷｭｷｭ〜まま、これかってし〜」
「ちゃんと育てられるし…？ままだって、おまえを育てるの大変だし…」
「だいじょぶしー！エサの虫もちゃんと取るしー！」

なんか凄いこと言ってるけど多分たぬきの世界ではこれが普通で俺がおかしいんだろう。まだ酔った頭でそう思い込むことにした。
なんとか掬われたちびたぬきは、全身を濡らしてジタバタしながらもまだ生きているようだった。
こんな所に放り込まれて死にそうになりながらも、運が良ければ大人たぬきの庇護を受けられるとなれば、
ちびたぬきにとっては“救い”でもあるのだろうか。
「よしよし…じゃ、ついてくるし」
その後も何匹か掬われたちびたぬき達が大きいたぬきに連れられ、ちびたぬき焼きの列に並ぶ。
絶対仕入れじゃん、あれ…。

案の定、差し出されたちびたぬき達は「ｷｭｰｰｯ!?」と悲鳴をあげ、何でし！？と言いたげに掬い上げた大人たぬきに信じられないといった顔を向け、ジタバタしながら串に刺され、焼かれながら大人しくなっていった。
「やったし…出来たてだし…」
「ラッキーだし…」
並ぶたぬきが涎を垂らして喜んでいた。
相変わらず列がとぎれる様子はない。次へ行こう。


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たぬきガチャ、と書かれた看板が置かれたそこも、たぬき達で賑わっていた。
カプセルの中に色々なちびたぬきが入っているらしい。
並んでいるたぬきが、筐体の横に立つたぬきに勲章を一個差し出し、筐体のレバーをもっちりと回す。
ガコン、コロコロ…とカプセルが転がって出てくる。
これ地味にどうなってんだ？
たぬき達はモチっとした両手でカプセルを掴み、器用に開ける。

「ｷｭｷｭ…たすかったし…ありがとし…」
「喋れるやつだし！レアだし！」
「あっいいなし…たぬきも回そうかなし…」
「がんばって育てて“子育て勲章”ねらうし…！」
「ｷﾞｭｷﾞｭﾜｧｰ…ｷｭｯｷｭｳ♪」
「ハズレだし！こいつ下はいてないし！」

ガチャを引いて出てきたちびたぬき達は、大人たぬきにモチモチと抱きしめられた後、仲良く手を繋いで歩いて行ったり、
ハズレ扱いはそのまま頭から食べられたりしていた。格差がひどい。
大事に育てられるか、雑に扱われるかも含めてガチャなんだな。
いや、中身の運命の話になってるじゃん。ガチャってそういうのじゃないじゃん。

トボトボと歩いてきた1匹のたぬきが、
次々と勲章を差し出し、しゃがみ込んだまま鬼回しを始めた。
あのたぬき大人買いしてる…。
カプセルを開けて出てきたちびたぬきが大きいたぬきに連れられ、ちびたぬき焼きの列に並ぶ。
絶対仕入れじゃん、あれ…。


　　❇︎      ❇︎      ❇︎


“カラーちびたぬき”と書かれた看板を見つけ、近づいてみる。
赤や青、黄色など色とりどりのちびたぬきが
箱の中に敷き詰められ、ｷｭｰｷｭｰｷｭｰと蠢いている。
「世にも珍しい色のちびたぬきですし…他のたぬきとは、ひと味違うし…」
屋台の後ろではちびたぬきがスプレーをぶっかけられ、強引に色を変えられていた。
手足を縛られてジタバタを封じられた格好で蹴られながら向きを変えられて、またスプレーを吹き付けられる。
　
「寿命が短いから気軽に育てられるし…おひとついかがですし…」
そりゃそうだろうな。いっぱいシンナー吸ってクラクラしてるやつばっかりだもん。
マスクなしで黙々と作業をしているたぬきも寿命短そうだが大丈夫か？ 


うさんくさいのであまり売れている様子はないが、たまたま目の前のたぬきが1匹を指差して勲章と交換していた。
ちびたぬき焼きの仕入れかな？

「赤いのくださいし…」
「まいどし…こいつはちょっとおばかだけどいいし…？」
「いいし…それがちょうどいいし…」
「ｷｭｷｭｰ♪ｷｭｯｷｭｳ♪」

他の色付きちびから羨望の眼差しを受け、
狭い箱の中から脱出できたことを喜ぶ赤ちびたぬきだったが、
「いいかし…お前はこれからウチの子達の世話係だし…何があっても逆らっちゃダメだし…」
我が子を育てる時に使い潰す召使いを買っただけのようだ。
「ｷｭｳ~ｷｭ？」
まだわかっていない様子で口元に手を当て、身体全体を傾ける赤ちびたぬきだが、

「ﾌﾟﾌﾟ…ﾌﾟﾌﾟﾌﾟｼ…」
「ｷｭｷｭｷｭ！おまえ変だし…」
「あそんでやるし…こっちこいし…ﾌﾟｸｸｯ」

あからさまに笑われたり、さっそく髪の毛を掴まれて手足をジタバタさせても、
「ｷｭ…？ｷｭｷｭｳｳｰ！」
「こら、逆らうなし…！言う通りにするし！」
親というか、飼い主たぬきには突き放されている。
赤ちびたぬきからすれば、

“まま…どうして助けてくれないし…”
“おねえちゃん…どうしていじわるするし…”

って、ところだろうか。
お面のおかげか、何となく言いたい事がわかる気がした。
気のせいかもしれないが。
色で区別した個体を使い、子供達のヘイトコントロールを行なって喧嘩や反抗を防ごうという狙いだろうか。
あの赤いの、色んな意味で長くはなさそうだ。
ちょいちょい謎の屋台が出てくるな…何が目的なんだ…。


「もっと洗わなきゃ…とれないし…まだだし…？」
不可逆の姿にされてから逃げ出したらしい1匹のちびたぬきが、泣きながら桶の中から水を掬い、モチモチと身体を擦るがまるで変化は見られない。
色は紫だった。
「ｷｭｳｷｭｳ…おちないし…おちないし…やだしぃ…」
あいつ一生あのままなのか…あいつもロクな末路じゃあなさそうだ。


　　❇︎      ❇︎      ❇︎

　

“しャてき”と書かれた看板を見つけ、参加してみるかと覗いてみる。
台の上にションボリと立つたぬき目掛け、割り箸で作った輪ゴム鉄砲で撃つ屋台らしかった。
台の上のたぬきが倒れれば、その後ろの景品がもらえるらしい。
撃たれても踏ん張ってなかなか倒れないのかと思いきや、当たりさえすれば、わりとすぐ倒れてジタバタするようだ。
だが肝心の客たぬきがみんなヘタクソなので輪ゴムはみょーんと明後日の方向に飛んでいき、店主のたぬきはほっとしている様子だった。
どれ、ひと稼ぎしていくか。
拾った勲章で割り箸銃と弾の輪ゴムを受け取り、狙い撃つ。
普段ゲームで鍛えているので、こういうのは得意だった。
正確に撃ち抜かれてびっくりした的たぬきだけでなく、
台の上のすべての的たぬきがジタバタし始め、ジタバタはやがて客たぬきにも連鎖する。
店主たぬきもひとしきりジタバタした後、
「お客さんやりすぎだし…もう店じまいするし…」
的たぬきが台を降り、バイト代の勲章を受け取ってあちこちの屋台へと、はけて行く。
景品のお菓子や射的勲章を山ほど受け取ると、モチ、モチ、モチ…と周りのたぬきの拍手に包まれた。
「すごいし…富豪だし…」
「それくれし…」
とねだられるのを無視して次の屋台へ向かう。


お次は、わなげの屋台だ。
射的と同じように、ションボリと立つたぬきに輪っかを通す───と思ったら気をつけの姿勢のまま磔にされている。ゴルゴダ星か？ここは。
同種に対してえぐすぎるだろ…。

「やだし…たぬきも遊びたいし…」
「もう勲章盗まないから許してし…」
「せめてジタバタさせてし…」
「わっか降ってくるのこわいし…！」

輪っかがガバガバ過ぎてあっという間に豪遊できるほどの勲章が溜まった。
「お客さんやりすぎだし…もう店じまいするし…」
店主たぬきがションボリしながら看板を下ろして他の屋台へと歩いていく。
それはいいけど磔にされた仲間は解放しないのかよ。
さっきの射的と待遇が違いすぎる。


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勲章もたんまり手に入った事だし、こちらも豪遊することにした。
小腹がすいたので立ち寄った揚げたぬき屋では、プールの飛び込み台のようにしなる板の上に、わけのわかっていないちびたぬきが立たされている。
板の先端は、煮えたぎる油の海の上に位置していた。
下味をつけられ、べちょべちょになっているが、ちびが気にせず手を舐めていると衣がなくなってしまうので、
手早く勲章を釣り糸でぶら下げたものを見せて誘導するようだった。
勲章に追いつこうと走り出したちびたぬきが道が途切れていることに気づかず、自ら油にドボン！と飛び込み、ジタバタしながら揚がっていくのをたぬき皆で見守ると言う、これまた異様な光景だった。
「んまそだし…じゅるりし…」
「ほらちび見るし…ままの言うこと聞かない悪い子は、みんなああなっちゃうし…」
「ｷｭ…ｷｭｷｭｰ…」
普通に食欲を刺激されているのもいれば、子への戒めに使っているのもいる。

この、直前まで幸せな気分のやつを揚げるのが味の秘訣なんだし…と何処かのたぬきが言っていた。
それとは別に、次々と粉や乳液で満たしたバットの上で転がされｷｭｯｷｭｷｭｷｭと喜んでいるちび達を無慈悲に油にぶち込んでいくスピード重視の店もある。
先程のは1匹につき勲章1個だがこちらは2匹で勲章1個だ。
せっかくなら良いやつを食べよう。
射的勲章1つを手渡すと、店主たぬきが年季の入ったラジカセのスイッチを入れる。
「きっつっねっ♪ たっぬっきっ♪…」
独特の歌声と軽快な曲を聴き、まわりのたぬきが踊り出す。
それに呼応するかのように、衣を纏ったちびたぬきも“みてみて！自分も踊れるし！”と言いたげに踊りながら飛び込み台を進んでいく。
うっ♪うっ♪と曲が終わり、尻を突き出してやりきった表情のまま、ちびたぬきはバランスを崩して油の中へ落下した。
揚がる音が悲鳴かわからないものが一面に響き渡る。
しかし飛び込む前の、あの充実感に満ちた様子───さぞかし味は良くなっているだろう。

たぬきなのに踊らないのは不自然かと思ったが、揚げちびたぬきにがっついていたり、その様子を涎を垂らして横目で見るたぬき───要は曲が頭に入って行かないたぬきは踊っていないので、幸い浮くことはなかった。
仕上げにパッパッと塩を振って包み紙に入れて渡してくれた。
さっそく、出来たてアツアツをいただく。
先程まで高揚の中にいたちびたぬきが、今は幸せな気持ちごと高温で揚げられ衣に包まれている。
サクッとした衣を食い破ると、モチっとした肉の感触が旨味と共に口の中に広がる。
肉の味は淡白だが、衣自体の味がしっかりしているのでソースなどは無くても大丈夫そうだ。


その後食べたのは、手打ちをウリにしているがたぬきのモチモチとした手で打っているので妙にふにゃふにゃした“たぬきうどん”だった。
どこかで味わったことのあるスープが合わされ、スープと一緒に茹でて動かなくなったちびたぬきが添えられている。
「ほらちび達…お風呂だし…綺麗にしていれば優しい“まま”に迎えに来てもらえるし…」
「そうだし…この出汁スープの中で大人しくしてればうどんダンスがいっぱい上手になるんだし…」
なるほどこちらはお風呂で幸福感を演出しているのか。
長湯をしすぎて蕩けた表情のちびたぬきもいるっていうか実際とろけてないか？
まあ、美味しかったからいいけど。


股に棒を突っ込まれてもじもじするちびを、砂糖水と食紅の入った鍋の中に頭から漬け込み、固めたものを提供する“ちびたぬきあめ。”
なるほど、全体的にピンクなのは見た目だけじゃ無いってことか。
あめの中で固められたちびたぬきは恍惚の表情だったり、ションボリしていたりバリエーションが様々だ。
焼きや揚げと違って見た目も楽しめるということらしい。
「ぺろぺろし…ぺろぺろし…ぺろぺろし！」
「ぎやぁぁああ…し！！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「がりがりし…！がりがりし…！」
大人しく舐めているたぬきもいれば、噛み砕こうとして自らの歯を砕かれるたぬき、
しかしあめごと中身を噛み砕くことに成功する剛のたぬきもいた。
でもこちらは、蜜なのか愛液なのか知らないが気持ち悪いので、外側を舐め終えると中身は他のたぬきにあげた。


「ありがとし…お礼にちょっとすごいもの見ていくし…」
あめの中身を渡したことで案内された先は、屋台からは少し離れていた。
棒に挿したちびを齧りながら案内された先では御座のようなものが敷かれた上でたぬき達が集まって、何やらモチモチと作業をしている。
きゅうりを手に持って、割り箸を刺そうとしているらしい。
冷やしきゅうりの屋台も珍しくはないが、ここは屋台ではないらしかった。
しかし、たぬきのモチモチとした腕では割り箸を刺す作業は難しいようだ。
「ちゃんと立たせて二足にしないとだめだし…」
「四足だともどきになっちゃうし…！」
「うわーーーーっし！手に刺さったしぃぃい！」
と何やら騒いでいるが、貫いておらず、ポヨン、と割り箸が戻ってくる。
何をしているのか、上手に作業をこなすたぬきに聞いてみると、
「若いやつかし…？ものを知らんたぬきだし…」
やれやれと肩をすくめ、説明してくれた。
あのきゅうりに手足代わりの割り箸を刺したやつは九冠バと呼ばれ、
死んでいったたぬき達を模しているらしい。
お盆の時期に帰ってくるたぬき達を迎え、
一緒にお祭りを楽しむのだそうだ。
ちなみに何故八冠を飛ばして九冠バなのかはたぬき達もよくわかっていないらしい。
二階級特進だし…と言っていた。

出来上がった九冠バを台に飾り、たぬき達がモチモチと手を合わせていたのでこちらも手を合わせておいた。
どうか、この不思議な空間をもっと楽しめますように。


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しかし回りくどい仕込みをしなくても、シンプルに美味しい“ちびたぬき焼き”は、やっぱりたぬきは焼くのが一番の調理法ということだろうか。
やっと買えたちびたぬき焼きをかじり終えると、1匹のたぬきが瓶を片手に佇んでいた。
「よく冷えたラムネおいしいし…ヴ〜ッフ…」
うわ音汚ねえ。
でも喉渇いたしラムネ欲しいな。
勲章と交換して飲むことにする。
…これは普通のラムネか。
安心したような、ガッカリしたような不思議な気分になる。
ヴッ〜フ…あ、こっちもゲップ出ちゃった。
───と、どこかに集まっていくたぬきの流れを見ていると何やら広場の中央が賑やかになってきた。
やぐらが設置され、和太鼓が置かれていた。
やぐらの上に立つたぬき達は、普通の服の上に法被を重ね着している。
　

「たぬき音頭の時間だし〜ぃ！」
どんどんどん。どんどんどどん。
たっぬっき♪きっつっねっ♪と先ほどから幾度となく聴いたフレーズが打楽器により迫力を増していた。
拍子のズレた太鼓はともかくなんでトライアングルなんて鳴らしてんだよ…。

みんな思い思いに動いているように見えるが、結構リズムが合っていてなかなかに壮観だ。
普通のたぬきも、ちびたぬきも、豆たぬきも、みんな踊っている。
あ、直立不動のまま、揺れるだけのいる。
あ、違うわ。あれは串に刺されたままのちびたぬき焼きだわ。
食べ物持って踊るなよ。

他にも色々踊り終える頃になると、少しずつ周りが静かになっていた。
「お疲れさまだし〜ぃ！」
やぐらのたぬき達が一礼し、下のたぬき達はやりきった様子で解散していく。
屋台もほぼ売り切れで、ゴミ拾いをしているたぬき達もいる。
そろそろお祭りも終わりらしかった。

「今年も楽しかったし…だいせいこうだし…」
「これでみんな、いいたぬ生が送れるし…」

片付けを始めている屋台たぬき以外は、
ぞろぞろと帰路につき始める。
提灯の火が消された広場の奥は暗くて、よく見えず何処に繋がっているのかも見当がつかない。
あの先は、たぬき達の住処が広がっているのか。
俺がやってきた入り口側には、誰もいなかった。
あちらに引き返せば、元の生活に戻れるけれど。


なんだか、帰りたくなくなってしまっていた。
妙に寂しい気分なのは、楽しい祭りが終わるせいだけではない。
そう。実生活では俺もたぬきと似たようなものだった。
猫背のまま、日がなションボリと過ごしている。
だが、たぬき達とは決定的に違うところがあった。
俺には一緒に祭りに行くような友達もおらず、
生きていくための仕事も、やり甲斐を感じているわけではない。
人生そのものがうまくいかず、死にたいと思って沈んだ気分を紛らわすために平日から酒に逃げた。
けれど死にたい気持ちの先に、生まれ変わってやり直したいという気持ちがあったんだ。
死んでリポップするたぬきも、そんな気持ちなのだろうか。
俺はたぬきじゃないから、わからない。
だけどもし、たぬきになれるなら───。


いつの間にか、お面が外れなくなっていても。
手が、こんなにまあるく、短くなっていても、恐怖は感じなかった。
だって。
自分で選んだんだし…。


「おうい。一緒に帰るし」
「おまえ、何処のたぬきだし？見かけない顔だし」
「仲間が増えるのは良いことだし…歓迎するし…」
「いい気分だし…いっしょにモチモチして寝るし…」
あたたかい言葉をかけてくれる“仲間たち”に誘われ、何も答えず頷くと。
身も心もたぬきになってしまった元人間のたぬきは、一度だけこちらにションボリした顔を向けて。
じっとこちらを見ていたが、やがて、トボトボと去っていく。
道ゆくたぬき達にまぎれ、その姿は判別が付かなくなっていった。
すっかり片付けられた祭りの後には、たぬき達がいた痕跡はまるで残らない。
真夏の夜の、不思議な出来事だった。


オワリ
