No.67「X-たぬ」
(X:未知の、未知数の)


X-たぬFile1“精神干渉のたぬき”

トボトボと公園を歩く野良たぬきの足元に、丸い木の実がコロコロ転がってきました。
お腹空いてたし、ちょうどいいし。
そう思って涎を口からはみ出させながら身を屈めた野良たぬきに起こった異変は、かつてないものでした。
(そこのたぬき、取って欲しいし…)
頭の中で、響くような声が聞こえます。
───目の前には、同じようにションボリ顔をしたたぬきが立っていました。
口元はへの字で結ばれているので、このたぬきがお願いしてきた訳ではなさそうです。
でも何故か、そうしてあげた方が良いような気がして野良たぬきは木の実を拾い上げました。
(それたぬきのだし…返してし…)
脳内に響く声に従って、手に取った木の実を、目の前のたぬきに渡してあげる事にしました。
あれ…でもこのたぬき、喋ってないし───野良たぬきは、渡してあげてから違和感に気がつきました。
(ありがとうし…)
目の前のたぬきは黙ったままなのに、少しニッコリとしていました。
お礼を言ったのはこのたぬきらしいですが、訳がわからない野良たぬきはへの字口を深くし眉根を寄せて顔をしかめました。

(たぬきは今…おまえの心に語りかけているし…たぬきはそれが出来るたぬきなんだし…)
世にも珍しい、精神に直接語りかける超能力を備えたテレパスたぬきでした。
「すごいし…たぬきの思ってる事もわかっちゃうし…？」
普通の野良たぬきは、だとしたらちょっと怖いしとも思いながら疑問を投げかけます。
テレパスたぬきは黙ったまま、首を左右に振りました。
(たぬきは送信しか出来ないし…)
「あ、そうなんだし…ちょっとガッカリしたし…」
(ごめんし…ちょっとたぬきの超能力について聞いて欲しいし…)
「なんだし…興味あるし…」

───テレパスたぬきは、野良たぬきの心の中に語りかけ始めました。

たぬきには妹がいたし…。
元々同じタイミングに生まれた双子同士で、お互いの意識の送受信しかできなかったし…。
だからふたりで黙ってお喋りしたり仲間の心の中に急に話しかけて驚かせて遊んでたぐらいだったし…。

ある日、妹は他の生き物の気持ちも受信できないか頑張って特訓しだしたし…。
集中力を高めればだんだん出来るようになったらしいし…。
たぬきは面倒くさいからやらなかったし…。
そんな事出来ても、何の役に立つかわからなかったし…。

それでも妹は頑張り続けてたし…。
ついには妹が近づいてくるもどきの意識を感知して、スラムのみんなに知らせたらもどきを上手くやり過ごせてたくさん褒めてもらったし…。
ちょっと羨ましかったけど、やっぱりたぬきは特訓はしたくなかったし…。

けど、妹はだんだん感度が上がりすぎて…拾いたくない時も他の生き物の意識を受け取るようになっちゃったんだし…。

お腹がすいてないのにお腹をすかせた野良たぬきの意識を受信しすぎて空腹感に悩まされたり…果てはたぬきを見つけたもどきの意識、もどきに食われる際のたぬきの悲痛な叫びまで受信しちゃってたし…。

妹は狂ったように耳をちぎりだして、それでも受信は止まらなくて…。
脳が過負荷を受けたせいで目耳鼻口、頭のあらゆる穴から血を出して動かなくなったし…
たぬきは怖くなって受信するのをやめたし…だから一方的に送信しか出来なくなったんだし…。

───と、いうこともこのテレパス能力なら言葉を使わずとも説明できちゃうんだし…。
突然、脳内に言葉の洪水をワッと浴びせられた野良たぬきは地面に手をついてゲェゲェと吐いていました。
(あ、ごめんし…またやっちゃったし…前はこれで脳内に情報を送られすぎて処理しきれずに脳がイカれて廃たぬになっちゃった子がいたし…)
「さらっと言うなし…こわすぎるし…」
野良たぬきは顔を上げ、うっすら涙を浮かべて抗議しました。

聞くところによれば、送信は垂れ流しではない事、ある程度の指向性をもって内容も伝えたい事だけを送れるとの事でした。
ふんふんし、と頷いていた野良たぬきはぽんと手を叩いて提案しました。
「人間に飼ってほしいって声を送り続けたらどうかし…？」
安易な思いつきでしたが、先程自分がなんとなく脳内に響く声に従ってしまったことを考えれば、人間を洗脳することだって出来るかもしれません。
(なんて事考えるし…頭たぬきかし…)
「ごめんし…だってたぬきだし…」
野良たぬきは己の浅はかさを恥じました。
(とっくにやったし…人間はたぬきの声なんて気にしないから送信しても無視されたし…)
「やったんかし…じゃあお前も頭たぬきだし…」
テレパスたぬきの方がよっぽど恥知らずでした。

普通の野良たぬきは自分にはない超常的な力を持つテレパスたぬきを羨みました。
ため息をつくと、頭の中に浮かんだ精神に語りかける力の活用法が口から溢れ落ちました。
「でも…2人いればごはん取り放題だったし…」
(どういうことし…？)
「つまりこういうことだし…人間の遊びにババ抜きって言うゲームがあるし…葉っぱに描いたマークで引いちゃいけないやつを決めるし…お互い一枚ずつ引いていって最後に引いちゃいけないマークを引いた方がごはんや勲章を渡すルールにするし…片方がババ抜きしてもう片方が相手の後ろから葉っぱを盗み見するし…」
(長いし…吐きそうだし…)
「あとは心の声でやりとりすれば対戦他ぬきにはバレないし…全勝だし…」
テレパスたぬきは、わなわなと震え始めました。
超能力をそんな事に使っちゃダメだし…！と怒り出すかと思われましたが、
「妹が生きてるうちに教えて欲しかったし…！あと長いし…！たぬきには理解できないし…！」
「びっくりしたし…急に喋るなし…」
突然聞こえてきたテレパスたぬきの肉声に驚いて、普通たぬきは後ろに倒れ込んでジタバタしてしまいました。


「キュウウ…クフゥゥン」
次いで聞こえてきたのは、ちびのようでいてまるで違う野太い声。
早朝から騒ぐたぬき達を見つけて、いつの間にか寄ってきていたのはたぬきもどきでした。
興奮気味に鼻を鳴らし、完全にこちらを朝ごはんとして見定めています。
(も、も、も、もどきだし…)
今生終わったし───という諦めの気持ちを送信してきたテレパスたぬきに、普通たぬきは苛立ちながら助言を行いました。
自力ではどうしようもないけれど、テレパスたぬきの力があれば何とかなると思いついたからです。
自分だけであればとっくに喰われて死んだ身と考えるからこそ覚悟が決まって、ある意味他ぬき事のように思考ができていました。
「落ち着くし…他ぬきにやったみたいに脳がイカれるぐらいの情報を送りつけるし…」
(なるほどし…やるし…)
黒い鼻をヒクヒクさせ、低い唸り声を発する口から涎を垂らしてもどきがにじり寄ってきます。
テレパスたぬきは逃げ出したい気持ちを抑えながら、目の前のもどきにのみ意識を集中させたのです。
そして、思いきり送信を始めました。


かえってし。かえってし。かえってし。
かえってし。かえってし。かえってし。
かえってし。かえってし。かえってし。
かえってし。かえってし。かえってし。
かえってし。かえってし。かえってし。


「グ、グウゥ…？」
もどきは未曾有の精神攻撃を受け、気分が悪そうに頭を振り始めます。
やがて脳への過負荷に耐えきれなくなったもどきはしっぽを垂らし、ションボリしながら首を傾げて去っていきました。
「や…やったし…すごいし…」
普通たぬきは尻餅をついたまま、自身の思いつきで無事乗り切れた事に感動しています。

(なんだか…すごくつかれたし…)
「鼻血出てるし…」
テレパスたぬきは鼻の穴から出血して、ふらふらし始めました。
立ち上がった普通たぬきが咄嗟に支えます。
お互いにそのままモチモチし合い、生の喜びを分かち合いました。
他ぬきのあたたかみに触れて落ち着きを取り戻した普通たぬきは、テレパスたぬきも同様に安心しているようだと判断しました。
どれぐらいの間モチモチしていたかはわかりませんが、テレパスたぬきの鼻血は固まって野良たぬきがゴシゴシと擦ってやれば剥がれて落ちました。
赤い粉を散らした顔で、テレパスたぬきが照れ臭そうに鼻を啜ります。
野良たぬきはふと、頭の中に浮かんだ事柄を口にしました。
「他にもこんなたぬき達、いるんじゃないかし…？」
(そうかもしれないし…探してみるし？)
2匹は頷きあい、モチモチに没頭していた手を止めて歩き始めました。




X-たぬ　File2“遠隔操作のたぬき”


(超能力を使えるたぬき探してるし…この声に気づいたら出てきて欲しいし…)
テレパスたぬきが、道ゆくたぬき達に送信能力を使って呼びかけます。
朝から餌探しでうろつくたぬき達が大勢いましたが、ほとんどのたぬきがションボリ顔のまま首を傾げ、何も答えずにトボトボと去っていきました。

太陽がだいぶ高くなった頃、2匹がお腹すいたし…とションボリしていたら。
トボトボと歩いてきた1匹のたぬきが自分にも不思議なチカラがあると名乗り出ました。

「実は手を動かさずにモノを動かせるし…念動力たぬきだし…」
(それすごいし…)
「具体的にはどんな事やるし…？」


 
「秋頃は木に生ってる実を念動力で動かして落としたし…たぬきならまず届かない高さの木の実も念じるだけで落ちてきたし…」
「なるほどし…冬はどう活用してるし…？」
(気になるし…教えて欲しいし…)
「今は…実が生ってないから何もできないし…」
ワクワクしていた2匹のたぬきは、拍子抜けして一瞬黙ってしまいました。
次にどんな言葉が飛び出すのか待ちましたが、念動力たぬきも黙ってしまったのでただの静寂が訪れてしまいました。
「……え、木の実落とすだけし…？」
「他に思いつかなかったし…」
(宝の持ち腐れだし…)


「念じるだけでモノを動かせるなら…やれる事は他にもあるはずだし…」
(きたし…ふつうたぬきが活用法を教えてくれる時間だし…)
「普通って言うなし…」
「例えばどんなし…？」
今度は念動力たぬきがワクワクした気持ちで尋ねました。
「まずはあそこのちびの手を上げるよう念じてみるし…」

普通たぬきが指した先には、
「ちびかわいいし…ウチの子がいちばんだし…」
「ｷｭー♪ｷｭー♪」
かなり親バカっぽい親たぬきと、まだ自力で立てないのか抱っこされて揺られているちびたぬきの親子が見えました。

「わかったし…やるし…じ…じじじ…ぃ…」
両の拳を握り込んで、息を吸い込んで身体を膨らませたまま、ガニ股で踏ん張った念動力たぬきが唸り始めます。

ちぱちぱと手をしゃぶっていたちびが、もう片方の手を自らの意思ではなく、念動力によってぴん！と挙げました。
「ｷｭ！？」
「どしたしちび…急に元気だし…」
自らの意に反して手が動いたことにビックリして、ちびは驚愕の声をあげました。
親たぬきもちびが脈絡なしに手を挙げたので眉根を寄せて顔をしかめました。
が、そろそろ一旦寝かせる時間だったので抱っこしたままちびをゆっくりと揺らし始めます。

「よしよし…よしよし…そろそろお昼寝のじかんだし…」
「ｷｭｳ…？」
抱っこされながら、勝手に動いた自分の手をまじまじと見つめているちびは落ち着かない様子で全然昼寝に入りません。


遠くからその様子を見ていたたぬき達は、目論見が成功した事で両手を挙げました。
(おお…すごいし…！)
「これを応用すればもどきだってやっつけられるかもしれないし…」
「そんなこと、たぬきに出来るかし…？」
「足を曲げてこけさせるだけでも、その間に逃げられるかもしれないし…」
(なるほどし…)

「次は大人のたぬきでやってみるし…」
(手っ取り早くあの親たぬきの手を上げるし…)
たぬき達の理想を現実に近づけるため、実験を次の段階に移す事にします。
「やってみるし…じじ…じぃぃい…」
再び、念動力たぬきは両手を握り込んでガニ股でチカラを送り始めました。

「なんだし…手が勝手に動くし…？気持ち悪いし…」
親たぬきの腕が震え始め、モチモチの肌がプルプルと波打ちを始めました。
しかしちびを抱っこするのに両手を使っているので、親たぬきはちびを落とさない為にこらえ始めました。
「て、抵抗されるし…」
念力をさらに増幅させ、なんとか親たぬきの腕を上げさせようとしましたが───。
結局、諦めて折れたのは念動力たぬきが先でした。
頭が痛くなってしまったので、力を送るのは断念してしまいました。

「はぁ…はぁ…じ…無理だったし…」
「大人のたぬきは無理かし…」
(ってことはもどきの足挫くなんて絶対むりだし…)
たぬきの力でもどきを撃退する夢が潰えてしまい、3匹のたぬき達はションボリを深めました。

「じゃあ最後にもう一回ちびの腕動かしてみるし…」
(やってし…見たいし…)
「じ…じじじ…じ…！」
念動力たぬきがきつく握りしめた拳はプルプルと震え、鼻の穴の片方から赤い液体がつうっと垂れ始めました。


「ｷﾞｭｳ！？」
またもや身体に違和感が走り、腕が無理やりに上がろうとし始めたのを見て、ちびは今度はイヤイヤと首を振り、親と同じように抵抗を始めました。
ちびが自力で腕を下ろそうとする力と、腕を上げようとする念動力が拮抗しあい───耐えきれなかったのは、野良生活で栄養が足りていないちびのスカスカな骨でした。
「……ｷﾞｯ！？」
ぽきん、と軽い音を立ててちびの腕は途中で折れてしまいました。
生まれて初めての衝撃的な痛みに、ちびたぬきは天を衝くかのような泣き声をあげます。
「ﾁﾞ…ﾁﾞ…ﾁﾞﾔｧｧｧｧ！」
「え！？ちび！？」
生まれてこの方、可愛がる事しかしていないはずの愛する我が子が大声で泣き始めた事にビックリして親たぬきが素っ頓狂な声を出しました。

「ｷﾞｭｳｳｳｳｳ！ｷﾞｭｳｳーーーー！」
「ど、どうしたんだし…！？」
困惑しながらも、腕の中で急にジタバタしながら泣き出した我が子の右腕が、プランプランとぶら下がっている事に気がつきました。
「あぁっ…！？ちびの腕、折れてるし！？」


「どうしてだし…？どうしたらいいし…？！」
「ｷｭﾜｧｧｧｱﾝ！ｷｭｱｱｱｱｱｱｱ！」
オロオロするばかりで、親たぬきは泣き叫ぶちびたぬきをあやす事しかできません。
それで骨の折れた痛みがどうにかなるはずもなく、まだ言葉も話せないちびはただただ喚くしかありませんでした。



「……見なかったことにするし」
念動力たぬきがそう言って、残り2匹も気まずい空気の中、頷きました。
「どうせ説明しても信じてもらえないし…」
(お医者さんにかかるのは野良じゃ無理だし…あのちびずっと腕折れたままだし…)
「いつかはくっつくし…でもくっついても固定してなきゃ変な方向にくっつくと思うし…」
普通たぬきの説明に、実行犯である念動力たぬきは暗い表情のまま黙って頷きました。
生まれて間もないちびのたぬ生をダメにしてしまった罪悪感をごまかすように、3匹はその場を後にしました。




「なんか…すごいつかれたし…」
念動力たぬきが、げっそりとした表情で呟きました。
心なしか、やつれて見えます。
(普段使ってない能力をたくさん使ったからだし…)
「でもでもし…これからトレーニングすればもどきだって動かせるようになるかもしれないし…」
普通たぬきはたぬきの可能性に心をときめかせて、鼻息を荒くしながら思いをあらわにしました。
「確かにそうだし…冬を生き抜くまでこのチカラを使うことないと思ってたけどやる気出たし…」
(おまえそれ越冬失敗したら超能力たぬきが消えてるところだったし…)
「今日の出会いに感謝するし…とりあえず横になるし…ちょっとしたら起こしてし…」
「わかったし…休憩したらまたトレーニングするし…」
(おやすみし…)
「……し…」
横になった念動力たぬきは、それから二度と目を覚ますことはありませんでした。

少し待ってみましたが、ションボリ顔のまま動きません。
揺り起こそうと試みていたテレパスたぬきが左右に首を振りました。
(うーん…あのたぬき目を覚さないし…)
「仕方ないし…次いくし…」
2匹は疲れて眠ってしまったらしい念動力たぬきはまた起こしに来ようと決めて、次なる超能力たぬきを探す事にしました。

X-たぬFile3“空間移動のたぬき”

「実はたぬき、テレポートできるし…」
テレパスたぬきの送信に感応し、自発的に名乗り出てきた超能力たぬきは、聞きなれない単語でアピールしてきました。
(テレポートってなんだし…？)
「空間移動だし…歩かなくても、目的の場所に着くんだし…」
テレポートたぬきの説明に、2匹は沸き立ちました。
「すごいし…！」
(もどきから逃げる時に川を渡れたらすごそうだし…！)
「もっと他にもあるだろし…人間の家に侵入して、ごはんだけ持ってテレポートするとかし…」
「え…悪いし…そんなコトしちゃだめだし…」
テレポートたぬきが、若干顔をひきつらせて答えました。
能力の使い方の是非はさて置いて。


(まずはどんなものか見せて欲しいし…)
「テレポート見たいし…」
「みててし…」
テレポートたぬきは5メートルほど離れた先の砂の地面の上に石で円を描いて、また戻ってきました。
「じゃあ、あそこのまるのところまで移動するし…」
(ワクワクし…)
「ドキドキし…」


「じぃ〜…じぃ〜…じぃぃぃ…」
「なんか、危ない声上げてるし…」
次第にぼやぁ…とテレポートたぬきの体が波打ち、薄れ、消えていきます。
目の前のたぬきの存在が消えたと思ってキョロキョロ見回してみると、テレポートたぬきの体は先程描いた円の中に収まっていました。
ションボリ顔で、やや頬を紅潮させながら肩で息をしています。
テレパスたぬきは感激してモチンモチンと拍手をし、普通たぬきは口元に手を当てて何事か考えていました。
(すごいし…確かに歩かずにまるの中に移動したし…)
「だけど…もう一回やってみて欲しいし…」

「え…つかれるし…」
テレポートでの移動にはかなり体力と集中力を使うらしく、テレポートたぬきは露骨にイヤそうな顔で答えました。
「検証したいコトがあるし…」
(このたぬきの言う通りにしてみた方がいいし…きっといい使い方を考えてくれるし…)
「わかったし…もう一回だけ…やってみるし…」

「じぃ〜…じぃぃ〜…じぃぃいい…じぃぃ…」
力を込めて顔を赤くさせながら、危なげな声を漏らしてテレポートたぬきの身体が再び波打ち、薄れ始めました。
けれども、まだその場に存在しています。

「テレパスたぬき、ちょっとまるの横まで歩いてみて欲しいし…」
(え…？わかったし…)
テレパスたぬきは言われるがまま、まるに向かってトボトボと歩き始めました。
歩いて地面の上のまるの横に到達した頃、鼻血を垂らしたテレポートたぬきがテレポートを完了させました。
何ならテレポートする方がちょっと遅れてさえいました。

「普通に歩いた方が早かったし…」
(これ何の意味がある能力だし…？)
自慢の能力を馬鹿にされたように感じたテレポートたぬきはムッとして、本来想定される運用法を説明し始めました。
「ほんとは記憶に残ってる場所とかに移動できるはずだし…でもたぬきの頭だと目に見えてるところしか正確にイメージできないし…」
(それじゃ…何の意味もなくないかし…？)
「ひどいし…でも実際その通りだと思うし…」

「もしワープした先に何かいたら…テレポートたぬきどうなるし…？」
「めっちゃこわいこと言うなし…考えた事ないし…」
テレポートたぬきは普通たぬきの想像力の逞しさに青ざめました。
ふと、自分の鼻の濡れた違和感に気がつき拭うと、手が真っ赤になってションボリ顔のままぴょんと跳ねました。
大して浮いていません。

(さっき言ったみたいに橋のない川を渡るのは便利そうだし…)
「でも、もどきに追いかけられてる最中にあんなにじっとしてたら食べられちゃうし…足を食べられてる間に上半身だけテレポートするし…」
「だから怖いこと言うなし…！」
テレポートたぬきは自分ではこれまで思いつかなかったような恐ろしい想像に、ついにジタバタし始めました。


「すごい、つかれたし…」
冬場の分厚い雲から注ぐ弱い陽を受けながら、テレパスたぬき達にションボリと見つめられていたテレポートたぬきは散々ジタバタし終えると、むくりと起き上がって呟きました。
余計にしょぼくれた様子で、テレポートたぬきはよろよろと巣に戻ろうとします。
「ちょっと横になるし…少ししたら起こしてし…」
「なんかヤな予感するし…」
「でも、もう寝ちゃったし…」
 2匹を置いて横になったテレポートたぬきがそのまま目を覚ますことはありませんでした。


(念動力たぬきもテレポートたぬきも、起きてこないし…)
「息してないし…」
テレポートたぬきの口元に手を当てた普通たぬきは、吐息が伝わってこない事を無念そうに首を振りました。
脳への負担をかけすぎた結果、何本もの血管が切れて血流が滞った事が原因でしたが、たぬき達がその理由を知ることはできません。
───2匹は諦めて他の超能力たぬきを探し続ける事にしました。


X-たぬFile4“未来が見えるたぬき”

(あのたぬき…何かありそうだし)
「行ってみるかし…」
テレパスたぬきと普通たぬきは、テレパスたぬきがあちこちのたぬきに無視されていた送信に頷き、公園の道の真ん中でえへんと胸を張って立つたぬきを見つけて近寄りました。
「たぬきは実は自分の未来が見えるし…」
(えっ…すごいし…それ、すごいし…)
「お前達が来るのはわかっていたし…」
「そりゃそうだし…何もない道を歩いてきてるんだから丸見えだし…」
疑り深い普通たぬきは突っ込みを忘れません。
未来予知たぬきはさも、それもわかっていたという風に黙り込んでいます。
実際には表情に出さないだけで、冷や汗が背中を流れていました。

「でもちょっと先しかわからないし…10数えた先ぐらいだし…」
「10秒先ってことかし…」
「そういうことになるし…たぶん…大体10秒数えた先の未来の内容を理解するのに時間がかかるし…普通に10秒過ぎるし…」
(早くもだめな予感がしてきたし…たぬきにも未来見える気がするし…)

「じゃあ10秒先を教えて欲しいし…」
「わかったし…う…う…う…！」
普通たぬきに促された自称未来予知たぬきは頷くと、頭を前に倒して両手でこめかみをぐりぐりし始めたあと、心ここに在らずといった様子で虚空を見つめ始めました。
「見えるし…3匹のたぬきが見えるし…」
「何かしてるし…？」
「してないし…ただションボリしてるし…」
わずかな間、静寂が訪れました。
冷たい風が吹き抜け、3匹はぶるっと身を震わせました。

(それ、今と同じでたぬき達が立ってるだけだし…そりゃそうだし…)
「ほんとに未来見えてるし…？」
「何もしてないからだし…何かが起こればわかるし…たぬきは基本ションボリしてるから変化わかりづらいし…」
(でも10数えられるだけですごいし…たぬき6か7でわかんなくなっちゃうし…)
「数を数えるのは超能力関係ないだろし…」
超能力たぬき達は超常の力をもつ代わりに脳が弱いのかもしれないし、と普通たぬきは思い始めました。


「あ、あ、あああし…」
未来予知たぬきが急にうろたえ始めました。
脂汗が額に浮かび、ガクガクと肩を震わせています。
(ど、どしたし…)
「何が見えたし…！？」
詰め寄った2匹の斜め後ろの茂みを、未来予知たぬきが丸い手で指しました。
「もどき…」


がさがさ、と近くの茂みから姿を表したのは、まごう事なきたぬきもどきでした。
普通たぬきとテレパスたぬきは互いの顔を見合わせて、急いで距離を取ります。
この近さで、もどきから逃げられる算段はないため、テレパスたぬきが先程行なった“脳内かえってし連発”しか頼れる自衛手段はありません。

「こっち…し…」
未来予知たぬきは自らが喰われる未来が見えたらしく、涙を浮かべて今度は自分を指し示しています。
もどきは手近な所に突っ立っていたお肉にかぶりつき、それはやはり未来予知たぬきでした。
テレパスたぬき渾身の“脳内かえってし連発”は、すでに未来予知たぬきの喉笛に喰らいついたもどきには通じません。
目の前のあたたかなお肉の味わいに夢中で、たぬきのションボリした声が脳内に響こうと気にも留めませんでした。

残念ですが実力行使で助けられる程の力は持っていないので、普通たぬき達は未来予知たぬきが食べられている間に必死でその場から離れました。

「ふぅ、ふぅ、し…やばかったし…」
(未来予知たぬき…あの時…たぬき達みたいに諦めず逃げたら助かったんじゃないかし…？)
「きっと見えた未来に絶望して足を止めたから死んだんだし…」

未来予知たぬきは喉笛を食いちぎられながらも涙を流し、への字の口元を噛み締めるように強く結んで絶望した顔でこちらを見続けていました。

「でもあいつが喰われてくれたからたぬき達助かったし…尊い犠牲だし…」
(確かにし…安らかに眠って欲しいし…)
2匹は手を合わせてむにむにしながら、未来予知たぬきの冥福を祈りました。
もしかしてあの絶望に固まった表情は、普通たぬき達が自分を置いて去る10秒先の未来を見たからかもしれないなど、全く考えていませんでした。


　　❇︎       ❇︎       ❇︎



狭い地域内でこれ程の数の超能力たぬきが現れたことは天文学的な確率でしたが、たぬき達は頭がたぬきだったので気にせず、割と探せばいるもんなんだしと気楽に結論づけました。

空が暗くなり始めた頃になると、そろそろ皆寝床に帰る時間なので歩いている野良たぬきも少なくなってきました。
思うところがあるらしい普通たぬきがふとしゃがみ込み、自らの影に沈み込んでため息をつきました。
(どしたし…？つかれたし…？)
「みんなすごいし…どうしてたぬきは…普通のたぬきなんだし…」
ついには自分が何の変哲もない普通のたぬきである事を嫌悪し始め、拗ねてしまいました。

(でもふつうたぬきは頭いいし…)
「そんなことないし…超能力たぬき達の頭がよくないだけだし…あと普通って言うのやめろ…」
(え…色々ひどいし…)

「たぬきもなにか特殊なチカラほしかったし…手から火を出すとかケガを治すとか…」
(今までの前例を考えると自分の火が燃え移って死ぬとか大したことないケガを治す代わりにものすごく体力を使って死んじゃうとかありそうだし…)
「わかるし…それはそれとして一気に情報詰め込むな…吐くし…」
(ごめんし…)

(けっきょく…ふつうがいちばんだし…)
超能力があっても使いこなせなかったり、それが元で死んでしまう事を考えると、テレパスたぬきは複雑な気持ちでした。
それでも、特に取り柄もなく生きてきた普通たぬきは羨望の眼差しをやめられません。
「やだし…ふつうのたぬきやだし…」
倒れ込むほどでもなく、その場で手足を動かしてジタバタしながら静かに訴えます。
テレパスたぬきはどうすることもできず、その様子を見つめて立ち尽くしていました。

     ❇︎     ❇︎    ❇︎

(でもふつうたぬきと一緒にいてわかったことあるし…超能力たぬきはチカラを使いこなせてないし…たぬきもそうだし…)
一度送信を区切り、テレパスたぬきはじっと普通たぬきに視線を送ります。
普通たぬきは無言で頷いて肯定しました。
(だから…ふつうたぬきみたいに超能力たぬきが思いつかないコトを教えてくれるたぬきって、貴重なんだし…)
テレパスたぬきなりに、自分の価値を見出して気遣ってくれている───。
普通たぬきは胸にあたたかいものが灯るのを感じました。


(こんなに他ぬきと過ごしたのは久しぶりだったし…たのしかったし…)
妹が死んで以来、他ぬきに気味悪がられて避けられていた記憶を思い返し、しかしそれは伝えずにテレパスたぬきはションボリ顔をわずかにゆるませました。
完全に陽が落ちてしまったので、それぞれの寝ぐらに戻る時間になって。
ふと、普通たぬきはテレパスたぬきの体調が心配になりました。
他の超能力たぬきのように、2度と目を覚まさないのではないかと、不安になってしまったのです。
「テレパスたぬきは大丈夫だし…？」
(もどきを追い払った時はつらかったけど今はもう大丈夫だし…ちょっとでも日常的に能力使ってたから影響少ないんだし…)
「それは良かったし…なら鍛え方次第だし…また明日、他の超能力たぬき探すし…」
(探し出してどうするんだし…？)
「いつかは人間に…勝てるかもしれないし…」
(それはすごいし…)
思いもしなかった展望を語る普通たぬきに、テレパスたぬきは頼もしさすら覚えていました。
きっとこの普通たぬきと共に超能力を持った仲間を集められれば、決して無理ではないように思えてきました。


(またね…し)
「ばいばいし…」
1匹は無言で、1匹は別れの言葉を口にして手を振って別れます。
傍から見ても、まるでお互いにわかり合っているかのように穏やかな表情でした。
こうしてテレパスたぬきは寝床に戻り、良き理解たぬと出会えた記念にゴミ捨て場で拾ったとっておきのお肉を食べ、生水を飲んで食中毒で死にました。
今際の際に苦しい気持ちをあちこちに送信して撒き散らし、受信して発狂した近所たぬきやちびが血を吐いて死んだり寝床から飛び出して車に轢かれるなどの二次災害が起こりましたが、どのたぬきにも原因はわかりませんでした。


普通たぬきは出会った翌日に事切れていたテレパスたぬきの死を悲しみながらも、普通のたぬ生を全うするためにちびを育て始めました。
しかしたぬきが人間を超える事を諦めきれず、心のどこかで我が子が超能力を持つ事を期待した普通たぬきは厳しい教育を施し、脳に強い負荷をかけたり危機的状況にちびを度々追いやるなどして能力の覚醒を促しました。
どのちびも過酷な生育環境に耐えられず、普通たぬきを恨みながら死んでいきました。
結局のところ普通たぬきはちびを育てることにことごとく失敗し、こんなはずじゃなかったし…と後悔しながら孤独なままにたぬ生を終えました。

またテレパスたぬきやちびを失ったショックから超能力たぬきのことは誰にも話しませんでしたので、
こんなすごいたぬき達がいたという事も記録できず、歴史を持たないたぬき達は結局誰も覚えていられず。
超能力たぬき達は、闇に埋もれてしまったのでした。

オワリ

おまけ
使い道の思いつかなかったボツたぬき

X-たぬFile EX“分身たぬき”

「たぬきにも聞こえたし…たぬきも仲間に入れて欲しいし…」
「ほう…自ら名乗り出るとは頼もしいし…」
(それでおまえは何が出来るんだし…？)
「見ててし……イ゛ッ…！」
名乗り出たぬきは、自らのしっぽの毛をちぎり出します。
テレパスたぬきと普通たぬきは突然の奇行に、眉をひそめました。
「自傷癖のある変態たぬきかし…？」
「違うし…見ててし…」
名乗り出たぬきがちぎったしっぽの毛をフッと吹くと、風に舞ったしっぽの毛が小さなたぬきへと変化していきました。 

「ｷｭーｷｭｳー」
「ｷｭｯｷｭｳ！」
「ｷｭｳｳｳ！」
「ｷｭｱｱ…ｷｭｳﾝ…」
「ｷｭｳ、ｷｭ…」

風に乗ってふわりと落下し、頭を打った毛たぬきがジタバタし始めました。
いち早く立ち上がり、慰めている個体もいます。
(おお…すごいし…！)
「毛たぬきの分身かし…！」


普通たぬきは小さな毛たぬき達の1匹を手に取ってつぶやきました。
毛たぬきは普通たぬきのモチモチとした掌に、懸命に身体を擦り付けてきます。
「これはすごいし…情報収集したり食糧集めたり活躍できそうだし…！」
「たぬきも最初そう思ったし…でも言うこと聞かないしごはん欲しがるし甘えてくるしすぐ死ぬし…」

「ﾌﾞﾙﾌﾞﾙｼ…ﾌﾞﾙﾌﾞﾙｼ…！」
「ﾁﾞ…ﾁﾞｨｨ…」
「ｷﾞｭ…ｷﾞｭｷﾞｭ…」
「ｼﾞ…ｼﾞｼﾞ…」

(あっよく見たら服着てないし…)
「寒さですぐ死んだし…」
毛たぬき達はたぬき玉を作ろうと身を寄せ合っているうちに動かなくなってしまいました。
普通たぬきの掌の中の毛たぬきもぐったりしてすぐに動かなくなり、儚いたぬ生を終えました。
「役に立たない毛たぬきどもだし…」
ションボリする分身たぬきの後ろには、同じように動かない毛たぬきが山積みになっています。

「よく見たら後ろに毛たぬきの死体の山があるし…」
「なんとなくちぎっては吹いてたら多すぎて養いきれなかったし…わらわら寄ってきて気持ち悪かったし…」
(分身とはいえイタズラに生み出されてすぐ死んでかわいそだし…)
「それでも無限にたぬきを生み出せるなら…う〜ん…し…」
普通たぬきは活用法を導き出そうと、こめかみに手を当てて悩みました。
「残念ながら抜いたらなかなか次の毛生えてこないし…やだし…」
「無限じゃなかったかし…」
(ほんとだし…よく見たらところどころしっぽハゲてるし…)
栄養状態がよくないので、しっぽだけでなく分身たぬき自身の髪の毛もぼろぼろでした。
「おそらくだけど本体の毛の状態によって毛たぬきが元気だったり服を着ていると予想されるし…」
(じゃあ本体が元気じゃないとごくつぶし量産機だし…)

「たとえば毛だと食べられないけどたぬきに変化させれば食べれるし…非常食かし…？」
(それあんまりじゃないかし…？)
「やったし…味しないしお腹も満たされなかったし…」
(やってたし…こわいし…)
「あとは…もどきに襲われた時に毛たぬきをいっぱい撒いてオトリにするとかだし…」
「なるほどし…今度やってみるし…」
(今更気づいたけどふつうたぬきの発想邪悪だし…)

「ガフガフ…ギュウ！」
山積みになった毛たぬきの死体を、匂いに釣られたのかいつの間にかやってきていたらしいたぬきもどきが貪っていました。
味も量もないので、不満そうに鳴き声をあげます。

「も、も、も、もどきだしぃぃ！」
(やばやば、やばいし！)
「落ち着くし！分身たぬき、頼むし！」
「…し、しっ！」
引き抜いたしっぽの毛を投げつけ、もどきの目の前に毛たぬきが何匹か誕生しました。
もどきは無視して本体のたぬきに狙いを定めて襲い掛かります。
結局、腹をすかせたもどきの前には毛たぬきなど小さすぎてオトリにもなれませんでした。
「ｷﾞｭﾌﾞ」
「ｸﾞｴ…」
「ﾁﾞｨｯ」
「ｼﾞｧｯ…」
慌てているせいで狙いもつけられず、ただ勢いよく放たれた毛たぬき達はそのまま着地に失敗し、頭を潰したり首を折ったりして死んでいきます。
「…しぃぃい！？」
本体のたぬきは慌てて毛を更に何本か引き抜こうとして、勢い余ってしっぽを丸ごと抜いてしまいました。
「ガブァ！」
「じ、じぃいいい！」
本体のたぬきが首元に噛みつかれジタバタしている間に、分離したしっぽが丸ごとたぬきの形へと変化していきます。
「あれは…！し…！」
(しっぽそのものが分身になっていくし…！)
いち早く茂みの中に避難した2匹は安全地帯から経緯を見守ることにしました。
「ｷｭﾜ…？ｷｭ､ｷｭー…」
弱々しくジタバタしていますが、本体が貪り喰われているうちに立ち上がれば逃げられそうです。
「これは…もしかしてしっぽをちぎれば無限に分身を作って生存できるし…？」
(しっぽたぬきの意識がどうなってるかによるし……あ、でも見るし…)
ジタバタするしっぽたぬきには、しっぽがありませんでした。
その場でいつまでもジタバタしているのは怯えているだけでなく、立ち上がれないからだったようです。
(よく見たら大きさもしっぽ程度しかないし…中ぐらいのちびだし…)
「打ち止めだし…逃げるし…」
本体がほぼ食い尽くされ、口元を真っ赤に染めたもどきがしっぽのないたぬきへと向かったところで、2匹はその場を後にしました。


X-たぬEX“透明化のたぬき”

「不思議なチカラを持つたぬきはもういないかし…」
(わかんないし…そろそろお腹すいてきたし…)
普通たぬき達は木の下で仰向けに寝転がって、大の字になりながら枝から垂れてくる昨夜の雨水の残滓を舌で受け止めて小休止していました。
テレパスたぬきに至っては、どこで拾ったのか泥まみれの野菜を咀嚼していました。
分けてあげるしと勧められましたが、普通たぬきは遠慮しました。
ひんやりとした大地を背にまったりし始めたテレパスたぬき達の耳に、第3たぬの声が聞こえてきました。
「そこのたぬき達…たぬきの声が聞こえたら手をあげて欲しいし…」
謎の呼びかけに反応し、普通たぬきとテレパスたぬきは寝転がったままそれぞれ手を挙げました。
しかし起き上がって周囲を見渡しても、声の主は見当たりません。
「……どこだし？テレパスたぬき2号かし…？」
「ちがうし…たぬきはここにいるし…」
(声はすれども姿は見えないし…)
ちなみに、テレパスたぬきは送信対象が把握できていなければ送る事は出来ないので普通たぬきにしか戸惑う声は聞こえていません。

「不思議なチカラを持つたぬきを探してるって聞いたし…だからたぬき来たし…」
いつの間にか、見知らぬたぬきがションボリ顔で立っていました。

(え…いつからそこに居たし…)
「うわ…頭の中にヘンな声するし…気持ち悪いし…」
(ひどいし…)
見知らぬたぬきに変な声呼ばわりされたテレパスたぬきは、余計ションボリを深めました。
「たぬきは…透明になれるんだし…」

呟きと共に、見知らぬたぬきの姿から色素が抜けるように薄くなり、そのまま消えてしまいました。
何の予備動作も無くその場から消えた事に驚いて、2匹はぴょんと跳ねました。
大して浮いていません。
「いなくなったし…どこだし…！？」
(テレポートとは違うんだし…？)
困惑する2匹は周囲を見渡しますが、遠くにもたぬきの姿は見当たらないので揃って首を傾げました。
「たぬきはここにいるし…」
「声がするし…透明たぬきそこにいるし…？」
「実は一歩も動いてないし…」
何も無いように見えた空間から、見知らぬたぬきがトボトボ歩いてきました。
立ち止まり、への字口のむくれ顔をこちらに振り向けたかと思うと、その姿は再びみるみるうちに消えていきます。
(消えたし…)
「どうなってるし…？」

「一歩でもその場から動くとこうなるし…」
何もない空間が急に色づき、一歩を踏み出した透明化たぬきが姿を現して───石を踏んだ痛みでのけ反って後方に倒れ込みました。
みっともなく、ジタバタと手足を動かしています。
(でたし…)
「急にジタバタしてるたぬきが出てくるのこわいし…」

「いててし…こけちゃったし…こんな所に落ちてるなし…石め…」
立ち上がって足元の石を蹴り、土に埋まって動かないそれがいい角度で足にめり込んだ痛みでぴょんぴょんと跳ねた透明化たぬきは、涙目のまま懐に手を突っ込みました。
「ちょっとお水飲むし…ごくごくし…ふう…落ち着いたし…」
透明化たぬきは珍しく、何処で拾ったのか250mlのペットボトルにお水を入れて持ち歩いていたので器用に蓋を開けるとごくごくと水分を補給していきます。
すると、再び透明化たぬきの姿がたちまち消えていくではありませんか。
(消えたし…)


「結局のところ、その超能力は何なんだし…？謎だし…」
「たぬきの身体だと認識しているものは皆消えるし…ちびをしがみつかせて消えてみたらちびは消えなかったし…仲間から見たらちびが宙に浮いて見えたらしいし…慌てたちびが手を離したら頭から落ちて死んじゃったし…」
(事故死…)
「逆に透明化たぬきの身体の一部でも、身体を離れたら透明化がとけるし…？」
「そうだし…たぬきがトイレ間に合わずにおしっこもらしたら…空中からおしっこが現れて、驚いたたぬき達がまたもらしてたし…」
(それやだし…ちょっとした地獄だし…)

「ちなみに夜は使えないし…なんでかはわかんないけどし…」
「もしかしたら光をたくさん受けてないと透明になれないのかもしれないし…太陽が落ちたら光が弱くなるし…」
(ふーんし………よくわかんないし…)
3匹は自分達顎をモチモチ撫でながらああでもないこうでもないと透明化の考察に興じました。

「動かなければずっと透明だし…一歩でも動くと透明じゃなくなるし…」
普通たぬきがクンクンしと嗅いでみると、野良たぬき特有の獣臭と生ゴミや泥など色々混じったイヤな匂いが透明化たぬきの存在を教えてくれました。
「ニオイはそのままだからもどきにはバレると思うし…」
「スラムが襲われた時に使ったけど仲間が喰われてくれたからもどきにはバレなかったし…代わりに仲間が喰われるのを立ったままずっと見てたし…」
(道理で尋常じゃないションボリ顔してるし…)
「わりとどうしようもない超能力だし…」
「ひどいし…たぬきの特別なチカラ…ばかにしないでほしいし…」


テレパスたぬきは何とかしてこの超能力が役に立てないか思案しましたが、あまり頭がよくないのですぐに普通たぬきに投げてしまいました。
(ふつうたぬき…このチカラはどうすれば良さそうだし？)
「ぜひ教えて欲しいし…ふつうたぬき…」
「普通って言うなし…うーんし…ずっと透明でいるようにすればそのうち透明でいられる時間が長くなるかもだし…もしかしたら動いても透明化が続くかもだし…」
「それいいし…出来れば動いても透明でいたいし…そしたら嫌いなたぬきの寝床にうんちしてやるし…急に出てきたうんちにジタバタするの見たいし…」
(透明化できるのにすごい腹黒たぬきだったし…)


「でもちょっと思ったんだけどし……もし気絶して動かないままだったら…透明化とけないかもしれないし…」
(そしたら消えたまま誰にも気づいてもらえないし…？)
「怖すぎる事言わないでほしいし…」
透明な涙をほっぺに伝わせ、透明化たぬきは静かに抗議しました。

「たぬきやってみるし…」
ボンヤリと消えたまま、透明化たぬきは頑張りを表明するも、姿が確認できないので不安になって、普通たぬきは度々尋ねました。
「…いるし？」
「いるし…ちょっとフラフラしてきたし…」
何もないところから返事をして、透明化たぬきは自分との戦いを始めました。

それからしばらく特訓に付き合いましたが、普通たぬきが時々呼びかけるだけでテレパスたぬきは特にやることがありません。
そのうち、お腹のたぬきがゴロゴロと唸り始めました。
(たぬきちょっとお腹いたいし…うんちしてくるし…)
「拾い食いばっかりするからだし…」
「いってらっしゃいし…」
虚空から見送りの言葉を受けて、今ひとつ緊張感に欠けるテレパスたぬきは茂みの奥へと消えていきました。


＊    ＊    ＊


(あり…まだ透明化たぬき消えたままだし？)
しっぽから異臭を漂わせながら、毛とは違う茶色をしっぽの根元に付着させたテレパスたぬきが戻ってきました。
普通たぬきは顔をしかめて、鼻をつまみながら無言で頷きました。

さらにある程度の時間が経過して。
ぼたた、と赤い液体が地面に現れたかと思うと───。
どさっ、と何かが地面に倒れる音がしました。
「透明たぬき…？」
(返事がないし…どこかへ行ったし…？)
しばらくの間、寒気のするような静けさが訪れました。

「……たぬき達は忙しいし…からかうのやめて欲しいし…」
(もしかしたらどっか行っちゃったかもしれないし…)
と、いう事にして何だか空恐ろしい気分になった2匹はその場を後にしました。
その辺りをまさぐれば何かわかるかもしれませんが、わかる必要は無いと思いました。
　

　　❇︎     ❇︎     ❇︎


テレパスたぬき達がトボトボと去った後、親に先んじてトテトテと走っていたちびたぬきが見えない何かに激突し、後頭部を激しく打ちつけて泣き喚きました。
元々好奇心いっぱいで元気な仔でしたので、それはもうビックリして大いに騒ぎます。
「ｷｭｯ…！？ｷｭ……ｷｭ、ｷｭｯ…ｷﾞｭｳｳｳｳﾝ！」
「ほらほらちび…ママから離れたらめっ、だし…」
「ｷｭｷｭｳー…」
はしゃいで転んだらしい我が子を起こした際、見えないモチモチした何かが触れる感触を不思議に思った親たぬきはしばらく考え込みました。
「なんだし…？これ、なんだし…？」
「ﾁﾞｪｯ」
はやくいこうし、とでも言いたげに親たぬきのしっぽをクイクイ引っ張って遊んでいたちびが、妙な声を上げました。
振り向くと、ちびたぬきの姿はありませんでした。
ぶらぶらと手や首を力無く揺らしている人形のようなちびたぬきが、口から血を流してたぬきもどきに咀嚼されています。
見覚えのあるその顔が、ぐちゃぐちゃと音を立てて飲み込まれていくのを見届けて、硬直した親たぬきもそのまま喰われました。
悲鳴をあげる間もなく押し倒され、涙の流れるほっぺたもすぐに食い破られてしまいます。
その時、モチモチした何かに再び当たる感触が親たぬきの背中を掠めましたが、牙を突き立てられる痛みの前では些細な事でした。
たぬきもどきはがつがつ、むしゃむしゃと柔らかな肉を噛み砕く感触に夢中になって、辺りの土を真っ赤に染め上げました。
どうしてかやけに食いでがあったたぬき親子に、たぬきもどきは満足そうにゲップを鳴らします。
3匹分のお肉をお腹に収め、たぬきもどきは揚々と鼻を鳴らしながら去っていきました。


(未来予知たぬきの後にモドル)


