『梅雨のたぬきのよくある結末、及びその余波』


梅雨。
自然界で生きるたぬき達にとって、とても大変な季節。

なにせ、たぬきは尻尾が濡れるとションボリして動けなくなるのです。
その動けなさたるや、何も予定が無い休日の朝に匹敵するほどだとか。

どうして尻尾が濡れるとションボリするのか、ハッキリとは分かっていません。

その辺の野良たぬき曰く、
「尻尾が濡れたらよく分からないけどションボリするし…本能なんだと思うし…
あと単純に尻尾が濡れてると歩きづらいし…上手くバランスが取れなくなるんだし…」

賢そうな野良たぬき曰く、
「尻尾はレーダーの役割もあるし…仲間がどこにいるかなんとなくわかるし…
濡れたら全然探知できないし…ただ重いだけだし…だからションボリするんだと思うし…」

オシャレをした野良たぬき曰く、
「尻尾は美の象徴だし…飼いたぬきにも野良たぬきにも裸たぬきにも等しくあるし…
濡れたらしぼんでめっちゃみすぼらしくなるし…あんなの見てらんないし…ションボリするし…」

理由はみんなバラバラですが、尻尾が濡れたらションボリするということは同じなようです。


────

話は変わって、ここは街中にある小さなスラム。
成たぬき３匹がションボリと暮らしています。
当たり前のことですが、梅雨の影響はこのスラムにも及んでいました。

「雨が全然降り止まないし…これで何日目だし…」
「尻尾も濡れっぱなしだし…そもそも全身びちょ濡れだし…」

雨が降っていては出歩くことすら困難です。
なのでこうして雑談したり、ふて寝したりして時間を潰しています。
ですが、ずっとそうする訳にもいきません。

「ご飯が残り少ないし…せいぜい明後日までの分しかないし…」
「というか見た目がヤバくなってるし…多分腐ってるからもう無理だし…」

このスラムは雨が降り始める前にしっかりと備蓄していました。
おまけに、たぬき好きの人から恵んでもらったパンやおにぎりなんかも蓄えていました。

しかし、ことごとく湿気に弱い食べ物ばかりです。
贅沢品だからと後回しにしていた食パンなんて、カビで真っ青になっています。
プレゼントしたたぬき好きの人も、まさかこうなるとは想像してなかったことでしょう。

「とりあえず公園で木の実とか草とか拾ってくるし…」
「任せたし…自分たちは寝るし…少しでも消耗を抑えるし…」

幸いにも公園は目と鼻の先です。
具体的に言えば、スラムがある路地裏を出て道路を一つ越えれば公園に着きます。
尻尾が濡れていると、その程度の距離の移動さえ大変な労力を要するのです。


────

「やっと道路まで来たし…もう一頑張りだし…」

たぬきが道路に辿り着くまで何十分もかかっていました。
少し歩いては休憩し、少し歩いては転んで…ということを繰り返していたのです。

「車は……雨が強くて遠くが見えないし…まぁ大丈夫だと思うし…」

たぬきは左右確認をしてから道路を渡り始めました。
いつもならこれで大丈夫ですが、今は違います。

ただでさえ歩くのが遅いのに、ションボリしてるせいで更に遅くなっています。
赤ちゃんのハイハイのような、むしろそれよりも遅いスピードで歩いているのです。
おおよそ10秒で１メートル、休まず歩いても道路を渡りきるのには１分程度かかるでしょう。

「ひと休みするし…どうせ車は来ないし…こんな雨だし…」

そう言って、あろうことか道路のど真ん中で休み始めました。
この道路は普段から車通りが少ないので、つい楽観視してしまったのです。
そうして何分か休んでいた時のことでした。

「なんか後ろの方から音が聞こえるし…？」

車が来た、と瞬時に理解したものの時すでに遅し。
グチャッ！という嫌な音とともに、たぬきは一瞬で肉塊と化してしまいました。

「やっべ、何か轢いた……って、野良たぬきか…放っておいても平気だろ多分…」

そのまま、車は何事もなかったかのように走り去っていきました。


────

スラムではたぬき達が食糧集めたぬきの帰りを寝ながら待っていました。
そこに、眠りを妨げる「ｷｭｰ…ｷｭｰ…」という弱々しい鳴き声が…

「耳元でうるさいし…なんだし…」

鳴き声の方に目を向けると、そこには生まれたてのちびたぬきがいました。

「起きるし…ちびがポップしてるし…」
「どうしてこんなタイミングなんだし…素直に喜べないし…」
「とりあえずモチモチしておくし…」
「ｷｭｰ…？」

よりにもよって食糧不足という最悪のタイミングです。
いざとなったら非常食としてこいつを食べてしまおうか？
二匹が薄々そう考えていた時、ちびたぬきとモチモチしているたぬきがあることに気づきました。

「なんかちびからあいつと同じションボリとした雰囲気を感じるし…」
「あいつって……ご飯を採りに行ったあいつだし…？」
「そうだし…」

たぬき達は見た目がほとんど同じです。
そのため、たぬき毎に固有のオーラ的な何かで個体の判別をすることもあるようです。

そして、その便利な特性のせいで、受け入れがたいことを知ってしまうのでした。

「つまり……あいつが死んでリポップしてこのちびになったんだし…」
「ｷｭｰ…」

言葉の意味がわかっているのか、それとも適当に動いただけなのか、ちびがコクリと頷きます。
しばらくの間、スラムを沈黙が支配しました。

再びちびが鳴いた時、二匹は動揺しつつもどうにか事実を受け入れられました。

「過ぎたことはどうにもできないし…とりあえず今日はもう寝るし…」
「おやすみだし…明日こそは雨が止んでほしいし…」
「ちびも一緒に寝るし…起きてても何にも無いし…」
「ｷｭｰ…zzz…」


────

次の日。
快晴とはお世辞にも言えない程度ですが、久しぶりの晴れです。
食糧を集めようとしたたぬきの努力を嘲笑うかのように太陽が照りつけます。

「まだ尻尾が生乾きで気持ち悪いし…だけどご飯を拾いに行かないと死ぬし…」
「今度はみんなで行くし…見てないところで死なれたら悲しいし…」
「ｷｭｰ…」

晴れているおかげで道路まであっという間に着きました。
リポップの際に消えたのか、あるいは単に捨てられただけか、死体は無くなっていました。
ですが、地面には雨で流れきらなかった血痕がベットリと残っています。

「多分ここで死んだんだし…とりあえずやることはやっておくし…」
「まさか弔いのうどんダンスをする羽目になるとは思わなかったし…」

これが一般的な風習なのかは謎ですが、二匹は偲びながら踊り始めました。
まだ踊ることはおろか、歩くことすらできないちびは二匹をひたすら見つめます。

「「……うっ♪うっ♪……きっつっね♪たっぬっき♪……」」
「ｷｭｰ…ｷｭｰ…♪」

踊り終わったら最初から踊り、また踊り終えればもう一回…
といった調子で、二匹は疲れても延々と踊り続けました。

いつまでも、いつまでも……








































「クソっ！また何か轢いた……って、やっぱりたぬきかよ…しかも今度は親子…洗車しなきゃな…」

完