たぬきにとって、生きる上で服とは必要のようで必要ではなかったりする
元々全裸でポップする個体も多く、全裸のまま育って成体まで行くことができるのだから必ずしも服が無ければいけないものではない
現に一般的なたぬきの群れであるスラムには全裸個体が多く住み、最初から服を持つような個体は"運が良い"という理由で次代の群れを担う者として優遇されるほどだ

もちろん住む場所や地方によっては服がないことで気候の変動によって体調を崩しやすく、リポップに旅立つたぬきも珍しくはない
しかし逆に言えば気候が安定した場所であれば服の有無は無頓着になりがちということである
中には冬は冬で割り切って次の季節までリポップしようと考えるたぬきだっている。これもまた独自の死生観を持つが故の考えだろう

しかしながら全裸という見た目は景観的な意味では宜しくない
もちろん人間もたぬきの全裸は珍しくないものと見ているのでそこまで気にはしない
しかし、たぬきが人間と共に働こうとしたり賃金を得るためのお手伝いをするのに全裸個体では信用を得られない事に尽きた
何せ野良で生きる上に身嗜みに無頓着なわけだからそうした個体に普通に働くたぬきからしても「なんだこいつは」という先入観が先に来てしまう

今、スラムで生活する複数のたぬきたちは一般的な全裸個体であった
元々野良生活でそこまで不自由にしてはいないが、それなりに長く生きていると趣向品というものに目覚めていく
ゴミ拾いで拾えれば上々だが、大概はそんな簡単に拾えない上に拾えても壊れていたり、食品であれば腐っているのもほとんどだ
世の不満を顔に表したかのようなションボリ顔をしているたぬきではあるが、中身はドライで切り替えの早さは生物界でも随一である

働いたことはないけどたぬきでもお手伝いできるようなところで賃金を得て、そのお金で欲しいものを買う
元々素直な性格も多いたぬきにとって、欲しいものがあるならジタバタしているより確実に手に入る方法があるならそれを使う。ただそれだけの理由で働こうとする
しかし働くには服が必要である
たぬきの服は未だに謎が多く、気づいたら毛皮のように纏っていた事がほとんどだ

スラムに住むような全裸たぬきにはどうすれば服を得られるのかがわからない
それこそ服を着ている個体から借りるか奪うぐらいしかないが、満足に服を着ているようなたぬきは周辺にほとんどいなかった
全裸で過ごせて生きられるような環境はこういったところで弊害が起きる時もある

なので、たぬきに伝わる噂や迷信に頼るしか他なかった

「きつね、たぬき、てんぷら、つきみ…」
「ちょっとズレてるし…一から踊り直すし…」

曰く、うどんダンスを複数匹で綺麗に踊ると服が生えてくるとか

「このゴミの中で過ごすし…？」
「くっさ…くっさし…」
「吐きそうだし…」

曰く、ゴミ山の中で一晩寝れば服が生えてくるとか

「尻尾も濡れたし…」
「髪の毛もべちゃべちゃだし…」
「風邪引きそうだし…」

曰く、尻尾も濡らした状態で一日過ごすと服が生えるとか

様々な迷信を試し続けるたぬきではあるが、一向に服が着れる日はやってこない
しかし全裸たぬきたちは諦めない
切り替えが早いと言ってもそれはあくまで自分にとって何も大事ではなかっただけの話だ
ポップとリポップを繰り返して自他が薄くなりがちなたぬきにとって、執着ができるほどの趣向品が産まれるのは長く生きられたたぬきの特権だ

「おーい、新しいのを持ってきたし…」
「こっちもだし…大量し…」
「ここまでのはちょっと初めてかもしれんし…いっぱいいすぎてキモいし…」

次の迷信を試すために全裸たぬきは籠いっぱいに何かをスラムに持ってきた
それは所狭しとぎゅうぎゅうに回収されたポップしたばかりであろう子たぬきであった
そのほとんどは全裸ではあるが、狭いぐらいに強制的なたぬき玉にされているため、ただでさえ子たぬきのションボリ顔はより苦しそうに見えた
しかしながら外側にいる子たぬきのほうはキューキューと煩いぐらい鳴いている
恐らくは親に該当するたぬきたちに拾われた時に鳴くような甘えるような声なのだろう
その声はたぬきにとっても微笑ましいものなのかションボリとした「への口」も少しばかり上向きになるほどだ

「それじゃ始めるし…こいつらは全部何も食べてないチビだし…？」
「あー…どうだろうし…中にはたぬ木産まれもいるかもしれんし…」
「そんときはそんときだし…使わなきゃいいだけだし…」

各々のたぬきが子たぬきを手に取り、まだ産まれたばかりのもちもち肌は成体のもちもち肌と触れ合う事で温かく感じる
その温かさを感じたのだろう子たぬきは喜ばしい鳴き声を挙げながらより甘えるように成体たぬきたちにすりすりと身を寄せ合った
それが、子たぬきの最後の幸せだと知らずに

「そぉいし…」ﾌﾞﾁﾌﾞﾁﾌﾞﾁ
「お、さすがチビの毛なら引き抜きやすいし…」ﾌﾞﾁﾌﾞﾁ
「尻尾も簡単に抜けたし…」ﾌﾞｯﾁｨ

たぬきたちは流れるように、子たぬきたちの髪の毛を、尻尾の毛を、尻尾そのものを引き抜き始めたのだ
唐突かつ無造作に引き抜かれたそれに子たぬきたちはほんの数秒だけ微動だにせずに止まり、何も理解できない顔をしている
自分より大きなたぬきに抱かれたまま、子たぬきたちは互いの姿を見つめ直せばハゲたような頭が、毛を失った尻尾が、ありありと見て取れる
そして次に来るのは痛みであった
まだポップしたばかりの子たぬきにとって初めて味わうそれは、柔い肌ごと毛を抜かれて痛々しい赤色に染められた事への絶叫を引き起こした

「ｷﾞｭﾋﾞｱｱｱｱ!!!」
「ｷﾞｭｩｩｩｷﾞｭｳｳｳｳ!?!?」

痛みに悶え、先ほどまで少しばかりニッコリ顔になりかけた顔は苦悶に満ちた歯軋りを重ね、苦しみから逃れるようにジタバタを繰り返す
そんな状態になってもたぬきたちは気にせずにひたすら毛を、尻尾を、引き抜き続ける
引き抜くことに加減はせず、ただ力任せに引き抜けば頭皮ごと抜かれることは珍しいことではない
しかしそれを気にせずにただ一心不乱に毛を抜き続ける光景は狂気的ですらあった

「ｷﾞｭｶﾞ…ｷﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞｨｨ…」
「ﾀﾞﾇｰ……ﾀﾞﾇｰ………」

見事なハゲ頭と化し、尻尾も無くした哀れな子たぬきはポイと捨てられてしまう
もはや尻尾を無くしたことでまともに歩く事も成長もできず、髪の毛も失って野良として群れの中で生きるのも難しいだろう
そんな苦悶から来る、成体顔負けのションボリ顔に変えながらも次々とそのような子たぬきが重なっていく

「お、こいつ最初から服持ちだし…」ｷｭｰ!ｷｭｩｩｩ!!
「関係ないし…でも服は毛と違ってたぬきじゃ千切りづらいからこれ使うし…」
「ありがたし…サクサク切れるし…」ｷﾞｭｩｩｩ!?

たまに最初から服を持つ個体もいたようだが、たぬきたちは気にせずにそれすらも剥ぎ取った
たぬきのもちもちの手ではさすがに子たぬきの服でも無造作に千切るのは難しいため、鋭利的な石を用いて切り取り始める
しかしながら綺麗に服だけを切れずに子たぬきの体ごと傷つけてしまい、服は赤く染まってしまった

「…うーんし…これどうしようかし…」
「もったいないけど捨てるし…綺麗な毛だけを残すし…」
「あっ…こいつウンチしてるし…尻尾も汚いし…捨てるし…」

せっかくの服持ちの服を綺麗に剥がせずにガックリとするたぬきではあるが、すぐに切り替えてすでに虫の息になっている子たぬきの髪の毛と尻尾を引き抜いていく
途中でたぬ木の実から産まれたのであろう、子たぬきは恐怖と痛みの中で失禁と脱糞を行い、汚くなった使えない尻尾にションボリすることもあった
そうこうしているうちに籠沢山の子たぬきは空となり、代わりに積み重なるように子たぬきの毛と尻尾が集まった
その横には痛みと喪失した尻尾で身動き一つできない子たぬきたちが蠢いている

「ふー…これで終わりだし…」
「結構数があったから疲れたし…これで準備完了だし…」
「あとはこのチビの毛を布団代わりにして寝ればいいし…」

たぬきたちの試そうとする迷信
それはたぬきの毛の包まれて一晩眠れば服を着ている状態で朝を迎えるというもの
しかしながら大量のたぬきの毛をどうすれば集めればいいのか
最初はスラムの仲間の尻尾や髪の毛に抱き着く形で寝ても効果は得られず、こうなったら町中の子たぬきを集めてその毛を拝借しようと考えたのである
元より拾っただけで育てることもない子たぬきには何も情はない。そうした行いができるのもまたたぬきのドライさである

「残ったチビたちどうするし…？」
「……せっかくだし…食べて消費するし…」
「まぁそれしかないし…」

すでにハゲ頭で尻尾もない子たぬきにはただでさえ低い生存能力は皆無に等しい
捨てればそれまでだが、それでもたぬきにとって同族ですら食える肉でもあるのだから、ここまで拾って毛を頂いた以上は食べて礼を尽くすべきだろう
すでに意識も朦朧としている子たぬきは自身が掴まれてもろくに反応はせず、大きな成体たぬきが自身の頭を噛み砕かれても大きな反応はなかった
ただ残った胴体だけはピコピコジタバタと動き始めるが、それすらも小さな肉の塊として一飲みで口の中に入れられ、丁寧に噛み砕いていく
まだ意識はある子たぬきたちは震えあがり、最後に残った力を振り絞って声を出す
助けて、助けてママ、と

「ｷｭｳｩｩ!ｷｭｷｷｭｰ!!」
「ｷﾞｭｩｩ!ﾔｧｧ……ﾔｧｧｼｨ……ﾀﾍﾞ…ﾅｲ……ﾃﾞ……ｷﾞｭﾎﾞ!?」
「ｷﾞｭﾋﾞﾋﾞｶﾞｱｱ!!ｧｧｧｧｱｱ!!!?」

しかし子たぬきたちを救うようなたぬきなど一匹もいない
ここにいるのはすでに未来のないハゲ子たぬきでしかなく、そうなったたぬきはもはやただの餌でしかないのだから

「うっぷ……もう…食えんし…」
「さすがに多すぎるし…お腹ぽんぽんし…」

しかしいくらたぬきと言えども大量の子たぬきを食えるだけの容量があるわけではない
食べた分だけ糞にできるもどきならともかく、普通のたぬきは子たぬき数匹でも満足できるのだ
まだまだ大量に残り、力を振り絞って毛のないたぬき玉を作り、子たぬきたちは早く悪夢が去るように震えている

「じゃ、残りは潰して肉団子にしたらスラムのみんなに上げるし…」
「やること多いし…」

そうしてたぬきたちは残り始末もキッチリ行い、ようやく寝れる頃には深夜を回っていた
ポップしたばかりで肌触りも良質な子たぬきの毛布団に身を寄せ、たぬきたちはぐっすりと夢の中に旅立っていった

「……あれ…？」

朝日に目をしょぼしょぼとしながら一匹のたぬきが起き上がる
体がごわごわとする違和感を持ち、そういえば毛布団で寝ていたから体に毛が付いたのか？そう思いながら自らの体を見下ろしていく

「やった…やったし…！服を着れたし…！！」
「ううーん…？」
「うっさ…朝からやかましいし…」

他のたぬきも眠りから目覚めて起き上がると彼らもまた、同じような服を着ていた
ただ同じに見える、よく見るたぬきの服ではなさそうだった

「あれ…？お前の服なんかおかしくないかし…？」
「スカートと一緒になってるワンピースって奴だし…この前人間のチビが着ていたのを見たし…」
「これ…ちょっと硬いけどパンツだし…？」
「それズボンだし…動きやすそうだし…」

どうやら服を着れた事には着れたようだがたぬきが慣れ親しんだようなものではないようだった
若干ションボリ顔を深めながらも服は服
これでようやく賃金を稼ぎに行ける準備も整い、たぬきたちはさっそくスラムから外へと繰り出していく
たぬきの服は何処から来て、どのように着れるのかはよくわかっていない
偶然か、迷信か、それとも噂話か
手を出し続けなければ手に入らないというのは確かなようである




たぬき余談話

後日、スラムたぬきたちは無事賃金を稼げるお手伝いに参加できた
しかしちゃんとした服じゃなくても布を巻くなりして身綺麗にしておけば手伝いたぬき用の服は貸出される事を知って暫くションボリ顔は深まり続けたという