「朝だし……起きるし……」
「……うぁ」
ペチペチと頼りない音とともに目が覚めた。
「もう6時だし……２冠起こしてくるし」
「お願い」
このたぬきみたいな珍生物がこの部屋に来てから1月経った。
頭でっかちのユルいフォルムに覇気のない面。威厳だの風格だのとは程遠いソイツは、何の因果かあのシンボリルドルフにソックリだった。

出会ったのはトレーニングの帰り道。
我が愛バであるサイレンススズカが、道端でジタバタしていたコイツを見つけてきたのだ。
なんでかスズカに懐いたコイツはスズカについていこうとしたものの、生憎寮はペット禁止。保健所に連れて行くのは流石に忍びないと思ったのでまたもジタバタしだしたコイツをウチに連れてきたのが馴れ初めだ。
最初は「さわるな……」とか「やめろ……」とか言っていたコイツもメシと風呂と服を用意してやったら何も言わなくなった。衣食足りて礼節を知るとはたぬきにも通用するらしい。

そうして1週間。新たな隣人が増えた。
あのトウカイテイオーそっくりなたぬきが、買い物の帰りに何時の間にかたぬきのしっぽを掴んでいたのだ。
「ｶｲﾁｮｰ･･････｣
「引っ張るなし……そもそもお前は私のなんだし……？」
「……トレーナーさん、この子だぬきちゃん、なんとかなりませんか？」
「いや何とかって……えー」
「ｶｲﾁｮｰ･･････」
「トレーナーさん……」
「なんとかしてくれし……」
オロオロするたぬきとグスグス泣いている子だぬき、ひたすら困惑する俺に何か縋るような眼で俺を見るスズカというカオスな状況の中、俺は二人目の家族を迎える決断をしたのだった。

それから、学園のあちこちでコイツらが現れた。
揃いも揃って不景気なツラをしているたぬきたちは、何でか学園に所属しているウマ娘達とソックリだった。
コイツらの存在は学園に大きな衝撃を与えたが、俺とたぬきの尽力と理事長の懐の広さとたづなさんのため息を以て無事、受け入れられることとなった。

「いただきます」
「いただくし……」
「ｲﾀﾀﾞｷﾏｽ･･････」
三人分の食事を作るのにももう慣れた。
「ｶｲﾁｮｰ､ｼｮｳﾕﾄｯﾃ」
「口にご飯粒ついてるし……今取ってやるし」
最初は無為に過ごすだけだったたぬきも、子だぬきが来てからは年長者としての自覚が芽生えたのか率先して世話をするようになった。
他のたぬき達にも同様で、曰く「全てのたぬきの幸福を目指すし……」だそうだ。本物みたいなことを言う。

「ほら、ネクタイだし」
「ﾊﾝｶﾁﾜｽﾚﾃﾙﾖｰ」
「ああ、ありがとな」
二人が色々と手伝ってくれるおかげで、日常生活がだいぶ楽になった。
寝坊も無くなったし、忘れ物も靴下を裏表にするのも冷蔵庫が空っぽになることも無くなった。最初はペットを飼っているつもりだったが、今では小さなお手伝いさんが出来た気分だ。

～?～

「フン、覇気の無いツラだ。シャキッとせんかたわけ」
「たわけ……」

「おはようブライアン。それに小さい私も」
「おおきいわたし……おはよう」
「おはよう姉貴。小さい私は？」
「ちょっと待っててくれ、髪の中に……ああ、やっぱり恥ずかしいみたいだ。ふふ、小さい頃を思い出すな」
「クッ……！」
「くらしあん……どこだ……？」

「「(もっもっもっもっもっもっ)」」
「あー！だから歩きながら食うのやめい行儀悪い！」
「でもお腹が空いて仕方ないんだタマ」
「おいしいぞたま」
「ふふ、やっぱりそっくりですねえ二人とも。ねえタマちゃん？」
「ばぶ……ばぶ……」
「クリーク……流石にやめたってくれんか？まだ朝やで？」

二人を連れて学園に行く。当初は奇異の視線で見られたが、今となってはたぬき達は日常の一部となってしまった。
「おはようだしスズキ」
「ｵﾊﾖｰｽｽﾞｷ」
「おはようスズカ」
「はい、おはようございますトレーナーさん。たぬきちゃんたちも」
「ｷｮｳﾊﾊﾔｵｷｼﾀﾝﾀﾞﾖ」
「起こしたのは私だし……二人とも寝坊助で困るし」
「あらあら偉いわね二人とも。トレーナーさんもしっかりしなきゃダメですよ？」
「……はい」
「ふふ、仲が良さそうで何よりだ」
「仲いいのかな……ってシンボリルドルフ！？」
「ｶｲﾁｮ-!」
「あら、会長さんですか？おはようございます」
「うわああああああああ七冠だしいいいいいいいいいい！？」
日頃のトボトボした歩きはどこへやら、脱兎のごとく逃走するたぬき。たぬきが本物に強い敵愾心を見せるのはよくあるケースだが、こいつはよっぽど本物のことがニガテらしい。
「やはり私には懐いてくれないのか……？」
「ｶｲﾁｮ-……」
「ああ、テイオーは優しいなあ……」
「……すげえなアイツ。ウマ娘と戦えるんじゃないか？」
「はい、負けていられませんね」
「いや対抗しなくていいから。って今から走ろうとすんな授業だぞ！？」
「生徒会長の前でサボりは困るぞ？」
「ふふ、冗談です。二人をよろしくお願いしますねトレーナーさん」
「ああ、じゃあな二人とも」
「ｼﾞｬｱﾈ-」
疲れてジタバタしているたぬきを捕まえて、トレーナー室へ向かうのだった。

