天丼たぬき3

住処でちびたぬきと共に寝ている親たぬき。どうやら悪夢を見ていたらしく、うなされながら目を覚ました。
「夢かし…前のたぬ生の記憶を見てたような気がするし…ひどい夢だったし…」
深く息を吐いた親たぬきは、脂汗まみれの額を拭い、傍らのちびたぬきへ視線を投げる。
「前のたぬ生は何も良いこと無かったし…でも今は幸せだし…おまえがいるし…」
うっとりとちびたぬきを撫でる親たぬき。ちびたぬきは特に反応することも無く、ただされるがままに撫でられている。
「ちび…今日も一緒にごはん探しに行くし…きっと今日こそごはん見つかるし…」
たぬきの親子は二匹で毎日のように餌を探しに町を練り歩いていたが、ここのところは何日も収穫が無かった。
二匹はすっかり痩せ細り、もちもちだった頬は見る影も無い。親たぬきは骨と皮しか無いようなちびたぬきを起こそうとする。
「ちび…さあ起きるし…ちび…目を開けるし…ちび…どうしたし…？ちび…」
昨晩の間に、声を上げる事も無くただ飢えに苦しみ、生まれてきたことを呪いながらちびたぬきは静かに次のリポップ先へ旅立っていた。
親たぬきはちびたぬきを揺すり続けるが、ちびたぬきが目を覚ますことは二度と無かった。
「…」
「ちび…ちび…」

早朝の町を散策する親子たぬき。通学や通勤へ向かう人々が通りを行き交っている。
「ちび…今日も一緒にごはん探すし…昨日は久々に見つかってよかったし…今日も見つかるといいし…」
「ｻｶﾞｽｼｰ！」
もちもちと並んで歩いて行くたぬきの親子。ふと、ちびたぬきが何かを踏み、ぷちっという感覚が足の裏を通して伝わる。
「ﾅﾝｶﾌﾝﾀﾞｼ…ｿﾞﾜｿﾞﾜｼ…」
ちびたぬきが鳥肌を立てて立ち止まっている間に、親たぬきがちびたぬきの片足を持ち上げて覗き込む。
「どれどれし…あー豆たぬきだし…小さいから気付かずによく踏んじゃうし…そこに居たこいつが悪いし…ちびは何も気にすること無いし…」
「ｷﾆｼﾅｲｼｰ！」
いつもの調子を取り戻したちびたぬきは行き交う人々に次々と踏まれ地面と一体化したが、気付く人間は一人もいなかった。
「ﾌﾞﾍﾞｯ！ｷﾞｭｪｯ！ｷﾞｭｸﾞｯ！ｹﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

始業時間を告げる鐘が鳴り響く小学校の校門の前で、人間の子供達がぞろぞろと大きな建物に入っていくのを眺める親子たぬき。
「あんなにたくさん人間のちび共が入っていくってことは何か良いことがあるに違いないし…ちび…行ってみるかし…」
「ｷｯﾄﾀﾉｼｲｼｰ！」
二匹の親子たぬきが子供達に続いて小学校へと向かう。登校する子供達に踏みつぶされないよう、道の隅を縮こまりながら歩いていく。
親たぬきが校門に辿り着いたところで一旦立ち止まり、辺りを見回す。
「大きな入り口だし…いつかたぬきもこんなおうちに住みたいし…ちび…行くし…ちゃんとついてくるし…」
親たぬきがトボトボと校門を超えると、ちびたぬきも同じように校門に辿り着いたところで立ち止まり、辺りを興味深そうに見回す。
「ｵｯｷｲｼｰ！ﾀﾉｼｿｳﾀﾞｼｰ！」
始めて見る校舎と、聞こえてくる人間の子供達の楽しそうな声にテンションが上がり、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねるちびたぬき。
始業を告げる鐘が鳴り終わると同時に校門が閉じられ、ちびたぬきは門の車輪に巻き込まれてレールに詰まるゴミとなった。
「ﾌﾞﾋﾞｭｷﾞｭｩｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

小学校にやってきたたぬきの親子。人間の子供達に見つからないように花壇の中をもちりもちりと進んでいく。
「ちび…ちゃんとままに付いてくるし…離れないようにするし…わっぷ…！し…全身濡れたし…雨かし…？」
突如頭上から水が降り注ぎ、たぬきの親子は揃ってずぶ濡れになってしまった。親たぬきは急に雨が降ってきたのかと思い、空を見上げる。
「おや…人間のちびだし…こいつが水をかけたのかし…」
そこにはじょうろを持った人間の子供がおり、笑顔で花壇に水をやっていた。たぬきの親子にはまだ気付いていない。
「尻尾濡れてるから見つかったら逃げられないし…ちび…葉っぱに隠れてやり過ごすし…」
「ﾅﾆｽﾙﾝﾀﾞｼ…ｱﾔﾏﾚｼ…」
親たぬきの忠告は間に合わず、ちびたぬきは抗議するため、植えられた花を揺らして人間に自分達の存在をアピールしていた。
親子のたぬきの存在に気付いた子供は即座にじょうろを叩きつけたりはせず、落ち着いた様子でじょうろを地面に置く。
親たぬきは慌ててちびたぬきを抱え子供から逃げようとするが、尻尾が濡れているためにゆったりトボトボと歩くことしか出来ない。
すぐに逃げ出すことが出来ないと知っている子供も、ゆったりとした動作で園芸用のスコップを手に取り、笑顔の消えた顔をたぬきの親子に向ける。
そしてスコップで親たぬきの頭をぺちんと叩いて転倒させると、スコップをズブズブと親たぬきの足にめり込ませていく。
「いだだし…やめるし…やめてし…歩けなくなっちゃうし…んぎぃぃぃっし…いだいじぃぃ…」
親たぬきの骨を折ることは無かったが、スコップが足から離れても親たぬきの肉は大きくへこんだままで、とても歩ける状態では無かった。
尻尾が濡れて叫ぶ気力も奪われた親たぬきはギューギュー喚くちびたぬきを抱えたまま地面に蹲り、めそめそと涙を流すだけでその場から動かない。
子供はそんな親子たぬきの体に、スコップで掬った土をドサドサとかけ始めた。
「ああ…やめてし…埋めないでし…生き埋めは苦しいし…あれはもういやだし…」
「ｷﾞｭｩｩｩ…」
少しずつ体が土に埋まっていくが、ジタバタと抵抗も出来ないたぬきの親子はお互いの体を強く抱きしめ合いながら恐怖に耐えるしかない。
やがて花壇にこんもりとした小さな土の山が出来上がり、その中の暗闇にたぬきの親子は囚われてしまった。
「うう…ちび…無事かし…」
「ﾏｯｸﾗﾀﾞｼ…ｺﾜｲｼ…ｸﾙｼｲｼ…」
ちびたぬきは親たぬきの腕の中で震えるばかりだが、親たぬきは自分に乗せられた土の圧力があまり強くないことに気が付いていた。
子供は親子たぬきの生き埋めが目的では無く、不快なものが視界に入らないようにする事が目的だったようだ。
「ちび…大丈夫だし…体の上に土が乗ってるだけだし…尻尾が乾けばままのパワーですぐに逃げ出せるし…安心するし…」
「ﾏﾏﾂﾖｲｼ…」
親たぬきの言葉に安心し、震えの止まったちびたぬきは親たぬきの胸により力強くしがみつく。親たぬきもちびたぬきを力強く抱きしめる。
そして子供が土の山にスコップの背を力強く叩きこむと、土と親たぬきに圧迫されたちびたぬきは暗闇の中でぺちゃんこに押し潰されてしまった。
「ﾌﾞｸﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ…ちびぃぃぃぃ…」

授業の始まった小学校の教室内で、一人の子供が退屈そうにしていた。
板書をするでも無くただカチカチとシャープペンシルの芯を伸ばし、セロハンテープで口や手足をグルグル巻きにしたちびたぬきに突き刺していく。
ちびたぬきのもちもちの体を黒鉛の槍がズッズッとリズミカルに貫いていくが、ある程度の長さが入り込むとポキリと折れてしまった。
刺さった芯はちびたぬきの体内に取り残され、ちびたぬきが痛みでジタバタしようともがくとその芯がポキポキと折れ、新たな痛みが体内から襲う。
テープで口や手足をグルグル巻きにされて机の横にぶら下げられている親たぬきは、頭上でちびたぬきがもがき苦しんでいることを感じ取っていた。
子供は先程とは別の場所にペンの先端を押し付け、何を考えるでも無くただカチカチと芯を伸ばしていった。
拘束されているちびたぬきは叫ぶことも出来ず、ジタバタにも満たない程度しか体を揺らせず、見開いた目から涙を流して痛みに耐えるしかない。
ガタガタと細かい揺れを感じる親たぬきも、ちびたぬきの苦しみに何もすることが出来ず、ただ机の横で涙を流しながらぶらぶらと揺れていた。
やがて全身に芯を打ち込まれたちびたぬきは、最後に一際大きくガタガタと震え出すと、見開いた目を閉じること無く動かなくなる。
そして机の横で揺れるばかりの親たぬきは、頭上から伝わる揺れが無くなったことで、自分のちびたぬきがどうなったのかをはっきりと理解した。
「ｷﾞｯ！ｷﾞｯ！…」
（ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！）

休み時間となった教室内で、複数の子供達が集まってなにやら話をしていた。どうも機械が上手く動かず困っているようだ。
ふと解決策を思いついた子供達は先程教室内に侵入しようとして捕らえられたたぬきの親子に、自分達に手を貸せば解放すると取引を持ちかける。
生き残るチャンスがあると知った親たぬきは二つ返事で引き受け、子供達は笑顔でちびたぬきの拘束を解く。
子供達の依頼内容は簡単なもので、穴の中にゴミか何かが詰まってしまっているのでそれをちびたぬきに取って欲しい、というものだった。
「ちび…頼んだし…ちびが頑張ればままもちびも助かるし…ちびは優秀だからやり遂げられるし…楽勝だし…」
「ｱｻﾒｼﾏｴﾀﾞｼｰ！」
親たぬきの期待に応えようとちびたぬきが電動の鉛筆削り器に笑顔で腕を突っ込むと、ちびたぬきは腕の肉を勢いよく削ぎ落とされていった。
「ｷﾞｭｨｨｨｨｨ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

「ちび…こっちだし…ここでたぬき達がたくさん寝てるし…ここなら安心だし…たぬき達も一休みするし…」
「ﾔｽﾑｼｰ！」
人間から身を隠す為に忍び込んだ薄暗い部屋の中で、たくさんの同族達が眠っている箱を見つけたたぬきの親子。
たぬきが眠れる程に安全な場所だと判断した二匹は、校舎内の探索で疲れた体を休めようとたぬきがみっちり詰まっている箱の中に入り込んでいた。
「とりあえずもちもちしとくし…ふふふ…ちび…みんなが起きたらちびを紹介してやろうし…立派なダンスを踊ってみんなを驚かせてやるし…」
「ﾐｾﾂｹﾙｼｰ！」
沈黙を続けるたぬき達に勝手にもちもちをかます親子たぬきだったが、突如騒がしい人間達の声が聞こえ、続けて入っていた箱が持ち上げられる。
「うわわっし…ちび…ままに掴まるし…もちもちし…一体何が起きてるんだし…揺らすな…」
「ﾓﾁﾓﾁｰ！」
未だ目を覚まさないたぬき達のもちもちした体に押しつぶされながら、親子のたぬきは揺れと恐怖に耐えている。
やがて揺れが収まり箱が開かれる。互いに抱き合い様子を伺う親子たぬきには分からないがそこは理科室だった。箱は教師の目の前に置かれている。
教師の指示により、子供達は箱の前に列を作り、眠るたぬきを一匹ずつむんずと掴み上げて自分の席まで運んでいく。
「な…なんだし…！みんな…！目を覚ますし…！みんな連れてかれちゃうし…！ちび…絶対に離れちゃダメだし…！みんな早く起きてし…！」
「ｱﾌﾞﾀﾞｸｼｮﾝｼｰ！」
目の前で次々とたぬき達が上空へと連れらされていく光景に、まるで状況が飲み込めず戸惑うばかりの親子たぬき。
箱の中で喚くたぬきの親子に気付いた教師は、業者の処理が甘かったと考えため息をつきながらも、子供達にまだ寝ているたぬきを選ぶよう伝える。
やがて最後の一人がぐったりと動かないたぬきを運び出すと、箱の中には状況を飲み込めずぷるぷると震える親子たぬきだけが残されていた。
子供達は教科書を参考に、プレートの上に持ってきたたぬきを大の字にして拘束していく。ジタバタと暴れることも無い為、とても簡単な作業だ。
教師は自分に向けて命乞いをしている親子のたぬきを二匹まとめて持ち上げ、プレートに上にぎゅうっと押し付ける。
注文していないちびたぬきが箱の中に混入していることに教師は少し疑問を持ったものの、教材として活用出来ると前向きに考えていた。
たぬきの親子はジタバタと激しく抵抗するが教師は慣れた手つきでまず親たぬきを、続けてちびたぬきをささっと大の字に拘束する。
子供達の手元には大の字に拘束されたままピクリとも動かないたぬき達が、教師の手元には拘束されながらもダヌダヌと騒ぐ親子のたぬきが居る。
教師は親子たぬきのプレートを持ち上げると、子供達に見せつけるようにしてたぬきの服にハサミを入れ、あっさりと二匹の裸たぬきを作り上げた。
裸の親子たぬきは大切な服を失った怒りと絶望、そして人間達が自分の裸を見つめているという自惚れによって顔を真っ赤にして喚き散らしている。
裸たぬきなど、その辺でたぬきから石を投げられたり枝で突かれたりしている姿が嫌でも目に入る為、興味を持っている子供は一人もいない。
教師による手本を参考に、子供達も一斉に手元のたぬきを裸たぬきに作り替えていく。
子供たちの手元で寝息を立てるたぬき達は、裸にされたところで喚き散らすことも無く、顔を赤く染めることも無い。
教師が再び親子たぬきに注目するように指示すると、子供達の視線は顔を真っ赤にして体をくねらせる親子たぬきに集中する。
「いやぁぁぁっし！見ないでしぃぃぃぃ！たぬきに変な感情を抱くんじゃないしぃぃぃぃ！たぬきにハレンチなことしないでしぃぃぃぃ！」
「ﾍﾝﾀｲｸﾗﾌﾞﾀﾞｼｰ！」
教師は見当違いの方向で怒っている親たぬきの喉にたぬき用のメスを差し込み、そのまま股までをささっと一気に切り開いた。
「ゴヒュッ！ガヒュゥゥゥ！ダビュゥゥゥゥ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」
親たぬきは突然全身を駆け抜けた激痛に助けを求めようとしたが、喉から血と空気が噴き出すばかりで声と呼べるような音は上げることが出来ない。
たぬきとは思えない程に目を見開きビクンビクンと痙攣する親たぬきをすぐそばで見つめるちびたぬきは、教師をキッと睨み抗議の声を上げた。
「ﾀﾞﾇｷﾞｭｯ！ﾌﾞｼﾞｭｯ！」
ちびたぬきの主張が始まるよりも先に刃先が喉に突き刺さり、親たぬきと同じように股まで切り開かれ、体を縦断する痛みにビクビクと震える。
教師は親子たぬきの分厚い脂肪を摘まみ上げ、左右に広げて固定する。親子たぬきの内臓はその機能と配置を保ったまま、子供達の視線に晒された。
教師はたぬきの内臓における成体と幼体の違いを簡単に説明し、すっかり青くなった顔の親たぬきは自分の内臓に向けられる視線を感じていた。
たぬきの内臓など、その辺でカラスに啄まれる等したたぬきが晒しながら死んでいるのが嫌でも目に入るが、ここまで配置を保っているのは珍しい。
教師による手本を参考に、子供達も一斉に手元のたぬきにメスを入れ、裸たぬきの更に隠された部分を露にしていく。
眠っていたたぬき達は突然全身を駆け抜けた激痛によって目を覚まし、誇りである服と自慢のもち肌が切り裂かれている現実を目の当たりにした。
しかしたぬきの親子とは違い、教材たぬき達は業者によって声帯を既に取り除かれている為、叫ぼうとしても空気の漏れる音だけが広がる。
子供達は教材たぬき達の内臓をピンセットで摘まみ上げたり、棒でつついたりすることで、刺激を受けた内臓がどう反応するかを確認している。
肺を無理やり押しつぶされたたぬきは勢いよく空気を吐き出し、心臓を押さえつけられたたぬきはみるみるうちに動きを止めていく。
腸をずるずると引きずり出され長さを測定されているたぬきもいれば、胃を切り開かれ体の内側を自分の胃液で焼かれるたぬきもいる。
親子たぬきは自分の心臓が激しく波打っているのを眺めながら、教材たぬき達が味わっている地獄のような光景に怯え、自分の番が来ないよう祈る。
子供達が思いつく限りの実験を終え、プレートの上がたぬきの血と涙で溢れると、教師が再び親子たぬきの中身に注目させる。
教師はたぬきの内臓までもがもちもちであることを示すため、ピンセットで親子たぬきの胃を掴み、ゆっくりと上に持ち上げた。
内臓が体外に持ち去られる苦しみ、そして限界まで引き延ばされる苦しみという想像も出来ない責め苦を味わう親子たぬき。
ちびたぬきの胃が先に限界まで伸び、ピンセットで支えきれなくなった胃はちびたぬきの体内に凄まじい勢いで引き戻され他の内臓を叩き潰した。
「ﾀﾞﾋﾞｭｯ！」
「グジィィィィ！グジィィィィ！」

大量の氷の上に置かれた金属製の器の中でぷるぷると震えるたぬきの親子。捕らえられた際に器の中で大人しくしていろと命じられていた。
「ちちちびび…ままままとくくくっつくし…こここんなの凍ったいいい池に落ちた時と比べたらたたた大したことないししししし…」
「ﾏﾏﾏﾏﾏ…」
歯をガチガチと鳴らせながら、たぬきの親子は少しでも暖かくしようともちりとくっつき合う。
二匹とも器と接している部分の感覚は既に無く、辛うじて互いが触れあっている箇所だけが熱を保ち、互いの存在を感じられている。
親たぬきは過去のたぬ生でスラム生活を送っていた時、越冬に失敗し仲間のたぬき達と共に雪に埋もれていった記憶を思い出す。
「まままままはゆゆゆ雪の中にううう埋もれてたここともあるししし…ああああの時ととと同じだし…がが我慢しししてればだ大丈夫だだし…」
「ｷｭｷｭｷｭｷｭ…」
雪に埋もれたまま仲間達と共にリポップする羽目になったことは覚えておらず、親たぬきはガタガタと震えながらちびたぬきを抱きしめ続ける。
しかし今回は全身氷漬けにされているわけでは無く、あくまで器が氷の冷たさを伝えているだけの為、凍傷で手足を失う程度で済むだろう。
実際に体の成長しきっていないちびたぬきもまだ震える元気を残している。親たぬきはちびたぬきを少しでも冷たさから守ろうと力強く抱き寄せた。
ちびたぬきはそんな親たぬきの温かさに胸がいっぱいになり、ぶるぶると震えながらも親たぬきへ思いを伝えようと口を開く。
そこへ氷に塩がまかれて温度が急速に下がると、ちびたぬきは震えることも出来なくなり、抵抗する間も無くパキパキと全身が凍り付いていった。
「ﾏ…ｷﾞｭｯ…ｶｯ…」
「ちちちびぃぃぃぃ！ちびびびぃぃぃぃ！」

ちびたぬきが透明な容器の中に閉じ込められていた。容器は密閉され、蓋には大きな注射器のような装置が繋がっている。
「ﾀﾞｼﾃｰ！」
容器の壁を両手でもちもちと叩き、目の前にいる親たぬきへ助けを求めるちびたぬき。閉じ込められた恐怖から顔を涙と鼻水で滅茶苦茶にしている。
親たぬきも外から容器の壁を喚きながら両手でもちもちと叩いているが、たぬきの力では当然びくともしない。
逃げることも出来ず、逃がすことも出来ず、ただ涙を流しながら透明な壁越しに互いを見つめ合うたぬきの親子。
注射器のピストンが引かれると容器内の気圧が急激に減少し、ちびたぬきはそのもち肌の限界まで膨張する。
倍以上に膨らんだちびたぬきは、肉が引き千切れる痛みと全身の水分が沸騰する苦痛を感じながら親たぬきの目の前で容器内に赤い雲を作り出した。
「ﾋﾞｭｨｨｨ…ｳﾋﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

子供達の前には先端に蓋をされた三本の大きな注射器が用意され、それぞれ空気、水、ちびたぬきが入れられていた。
注射器内にギチギチに詰め込まれているちびたぬきは暴れることも出来ず、頬も両側から押しつぶされうまく喋ることも出来ない。
「ｾ…ﾏ…ｸﾙｼ…」
親たぬきは注射器を抱きかかえ、中に詰まっているちびたぬきを励ましながら、どうにか取り出せないかともちもちの手で注射器をぺちぺちと叩く。
子供達はまず空気が入った注射器を、次に水が入った注射器のピストンを押し込み、圧縮率の違いを学んでいた。
そして親たぬきの腕から涙と鼻水が付着した注射器と取り上げると、先程と同じように注射器のピストンを押し込む。
「ｳｷﾞｯ…！ｶﾞｯ…ｷﾞｭｯ…ｷﾞｭｩｩｩｩ！」
ピストンに直接押し込まれる前にまず圧縮された空気に全身を押し潰され、ちびたぬきは醜い表情で汚い声を上げる。
「ああっ…！ちびが潰れていくし…！やめてし…！これ以上やったらちびが豆になっちゃうし…！返してし…！」
親たぬきは頭上の注射器に向かって両手を上げ、ちびたぬきを取り返そうとぴょんぴょんとほんの少しだけ地面から飛び跳ねていた。
子供達は先程水の入った注射器を押し込んでおり、簡単に圧縮出来るちびたぬきであっても先程と同じく全力で押し込んでしまう。
固定の甘かった先端の蓋が外れると同時にピストンが最後まで押し込まれ、親たぬきはちびたぬきだった赤い肉片をびちゃびちゃと全身に浴びた。
「ｳｷﾞｭﾌﾞｩｩｩｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

机の上に仰向けに寝かされたちびたぬき。その口には豆電球が咥えさせられており、ちびたぬきは飲み込めも吐き出せもせずただ何かを叫んでいる。
そんなちびたぬきの足先と頭頂部に触れている銅線は、ぐるっと円を描くようにして一つの乾電池の両極へと繋がれていた。
「ﾓｷﾞｭｰｯ！ﾓｺﾞｫｰｯ！」
「人間のちび共…あれは金属で出来てるから食べ物じゃないし…たぬきのちびに変な物食べさせないで欲しいし…お腹壊したらどうするし…」
子供達がちびたぬきに餌を与えていると考える親たぬきは、その心掛けは認めながらも食べ物とそうで無い物の区別が付かないことに呆れている。
未成熟なちびたぬきとは言えそのもち肌にはきちんと電気抵抗が備わっており、乾電池を一つ繋げた程度では電流が流れないようだ。
新しい餌をまだかまだかと待ち続けるたぬきの親子をよそに、子供達は複数の乾電池を直列に繋げ、銅線をちびたぬきの足と額に突き刺した。
「ﾓｷﾞｯ！」
体の上下に異物を挿入されたちびたぬきは、その痛みで悲鳴を上げようとしたが、口に挿入された異物によりそれもままならない。
そして次の瞬間には電流がちびたぬきの体を縦断しながらその通り道を黒焦げにしていき、咥えていた豆電球がパッと明るく輝きだした。
「ﾋﾞﾋﾞｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞｨ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

机の上には大量の音叉が円状に並べられており、その中心にはやはり拘束されたたぬきの親子が設置されていた。
子供が手に持った音叉を叩くと、細かく震えながら高音を響かせる。
「うおぅし…うるさいし…たぬきのダンスと比べて何の味も無い音だし…早く止めてし…お耳痛いし…」
「ｷﾝｷﾝｽﾙｼｰ！」
子供は震えたままの音叉を机の上に置くと、たぬきの親子を取り囲む音叉が共鳴し、一斉に高音を轟かせる。
「あああうるさいしぃぃぃ！止めてし！止めてしぃぃぃ！頭が割れちゃうしぃぃぃ！」
耳を塞ぐことも出来ない親たぬきは周囲の音に負けじと大声を上げるが、たぬきの声量ではたかが知れている。
小さいちびたぬきは周囲の音叉と共鳴してしまい、凄まじい勢いで全身が細かく震え、脳や他の内臓を揺さぶられた影響で不快な声を響かせていた。
「ｹﾞｹﾞｹﾞｹﾞｹﾞｹﾞｹﾞ」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

侵入した教室で捕らえられ、死を覚悟するたぬきの親子だったが、ちびたぬきが大きな瓶の中にある黒っぽい綿のような塊の上に乗せられた。
「おお…ちび用のベッドかし…助かるし…ふかふかで気持ちよさそうだし…」
「ﾁｮｯﾄｺﾞﾜｺﾞﾜｼｰ！」
スチールウールの上で寝転ぶちびたぬきは少しばかり硬いことに不満を持っていたが、嬉しそうにごろごろと寝返りを打って塊の中に埋もれていく。
「ｽｰｽｰｼ…ﾎﾟｺｰｼ…」
「ふふふ…ちび寝ちゃったし…よっぽどこのふわふわベッドが気持ちよかったんだろうし…後でたぬきサイズのも持って来てし…たぬきも寝るし…」
これまで固く冷たい床でしか寝たことの無かったちびたぬきは、親たぬきとも違う柔らかさに包まれて幸せそうに涎を垂らしながら眠っている。
そんなちびたぬきを親たぬきが微笑みながら見つめ、自分とちびたぬきが共にベッドでスヤスヤと眠る空想に浸っていく。
そしてスチールウールに火が点けられると、炎は瞬く間にちびたぬきの全身を包み込み、ちびたぬきを夢の世界から突然業火の中へと叩き込む。
ちびたぬきは全身に絡みついた燃え盛るスチールにこんがりと焼かれ、パチパチと爆ぜるスチールに全身を切り裂かれていった。
「ｱﾂﾞｷﾞｨｨｨｨ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

休み時間となった教室で、子供達がなにやら道具を片手にワイワイと騒いでいた。
子供達は先程図工の授業で使った彫刻刀を手に、先程捕まえたたぬきの親子に装飾を施している。
親たぬきの皮膚に刃が刺さるたびに短い悲鳴が上がり、刃が表面の肉を抉り取っていく度に汚い悲鳴が辺りに響く。
「やめてしぃぃぃぃ！もう削らないでしぃぃぃぃ！ﾀﾞﾇｩ！もうやだしぃぃぃぃ！ギェガアアアアア！」
「ﾏﾏｦｲｼﾞﾒﾙﾅｼｰ！ﾓｳﾕﾙｻﾅｲｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきを助けようと小さな体で威嚇をするが、子供達は気にも止めず親たぬきに文字や絵を彫っていく。
子供達は彫る内容を特に深く考えなかった為、「バカ」だとか排泄物の名称など、たぬきを表す言葉で全身を埋め尽くされる親たぬき。
やがて親たぬきの表面に空きスペースが無くなるが、まだ彫り足りない子供達はちびたぬきを押さえつけ、彫刻刀をその小さな体に当てる。
「ﾔﾀﾞｼｨｨｨｨ！」
「ああっ…ちびが削られちゃうし…！やめてし…！ちびを傷物にしないでし…！」
子供は親たぬきと同じ肉厚を想定して力を込めた為、刃先はちびたぬきの肉を越えぶっすりと胸から背中まで貫通してしまった。
「ｷﾞｭｪｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

休み時間に子供達に彫刻刀で文字や絵を刻み込まれるたぬきの親子。
既に親たぬきは全身びっしりとたぬきの同義語を書き込まれ、今はちびたぬきが彫刻刀で一生消えない刻印を刻み込まれている。
「ｷﾞｨｨｨｨ！ｲﾔｧｧｧｧ！」
ちびたぬきの肉を貫通しないよう、絶妙な力加減で子供達は刃先を動かしていくが、教師が教室に入ってくると子供達は突然慌て始める。
大人の見ていないところで彫刻刀を使ってはいけないと定められている為、子供達は証拠隠滅の為にたぬきの親子を窓から放り投げた。
「ぐえっし！」
「ｷﾞｭｯ！」
地面にぶつかり、ぼよんぼよんと鈍く弾みながら転がるたぬきの親子。傷口を泥まみれにした親たぬきが震える手で体を起こす。
「ダヌ…ダヌ…体中痛いし…なんとか生き延びたし…でもこれじゃ一生笑いものだし…もう外歩けないし…ちび…お前は大丈夫かし…」
親たぬきが真横に目をやると、落下の衝撃で彫られた傷口が裂け、あちこちから中身の飛び出したちびたぬきの姿があった。
「ｼﾞ…ｸﾞｼﾞ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

廊下に生徒達が集まり、なにやら教師から説明を受けている。金属製防火扉の役割と危険性を説明しているようだ。
教師は防火扉が重く、挟まれると危険であること、子供の力では押さえるのが難しいことを説明する。
言葉の説明が終わると、先程捕らえたちびたぬきを摘まみ上げ、開いた防火扉とドア枠の隙間に挟み込んだ。
防火扉が徐々に閉まっていくと、ちびたぬきの体は扉と枠に押しつぶされ、圧迫されながら悲鳴を上げる。
下の方では、どうにか扉が閉まるのを防ごうと、親たぬきが全力で扉を押さえていた。
「ふぐぉぉぉっ…！ちびぃ…！ままが助けるしぃぃぃ…！んぐぐぐぐっしぃ…！」
しかし重い扉は非力なたぬきの力では止められず、ゆっくり、ゆっくりと閉じ続けていく。
「ｳｯｷﾞｭｩｩｩｯ…！」
「ちび…！しっかりするし…！絶対に助けるし…！うおおぉっし…！」
親たぬきは気合の雄叫びを上げるが、特に扉が閉じるスピードが変わったりはしなかった。
教師と子供達はたぬきの親子が繰り広げる茶番劇をただ見つめている。
「あああっ…！ちびが潰れちゃうしぃ…！お前らも見てないで助けろしぃぃぃ…！」
親たぬきは周りを囲む人間達へ助けを求めるが、誰一人として動かない。
「ｷﾞｭｯ…ｳﾋﾞｭｯ…！」
「ううっ…もう限界だし…！お願いだし…！誰か手伝ってし…！ちびが…！ちびが…！お願いだし…！」
頭上のちびたぬきが穴という穴から血を垂れ流し始める中、もちもちの腕を扉に押し付けながら人間達に懇願する親たぬき。
「このようにもしも皆さんの指などが挟まれてしまった場合、大怪我をしてしまいますので、防火扉の周りで遊ばないようにしましょう。」
「はーい」
親たぬきの言葉は誰も聞いておらず、教師の言葉に元気よく返事をしていた。
「たぬきの話を聞いてしぃぃぃ！」
そうこうしているうちに扉は完全に閉まり、胴体が完全に押しつぶされたちびたぬきが頭部だけを親たぬきの目の前へ落下させた。
「ｸﾞﾋﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

「はい、皆さんが静かになるまでに元気だったちびたぬきが物言わぬ骸になりました。」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

校舎の周りを探索しているたぬきの親子。そこへ一匹の毛むくじゃらな生き物が近寄ってくる。
「ひぇっし…！びっくりしたし…もどきかと思ったし…」
「ﾜﾝﾜﾝｼｰ！」
親子たぬきの下へトコトコとやって来たのは、一匹の可愛らしい子犬だった。校舎内に迷い込んでしまったらしい。
「ふふ…犬の大人は怖いけど犬のちびは可愛いし…ちび…お友達になってあげるといいし…」
「ｺﾝﾆﾁﾜﾀﾞｼｰ！ﾅﾃﾞﾅﾃﾞｽﾙｼｰ！」
子犬の可愛らしさにちびたぬきは無邪気にはしゃぎだし、尻尾をピコピコと動かしながら駆け寄っていく。
子犬はパクリとちびたぬきの頭を咥え、あぐあぐとその小さな頭に牙を突き立てた。
「ﾍﾞｷﾞｭｯ！ｵｷﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！」
親たぬきは慌てて子犬のそばへ駆け寄り、ちびたぬきを取り戻そうと子犬の口からはみ出している胴体部分を掴んで全力で引っ張る。
「んぎぎし…！ちびを返すし…！ちびなんかにちびは渡さないし…！」
子犬もおもちゃを渡すまいと咥えた頭を引っ張り、親たぬきはズズズと引きずられ、ちびたぬきは伸ばされていく。
「ﾌｷﾞｨｨｨ！ｲｷﾞｨｨｨ！」
ちびたぬきが頭に突き刺さった牙と引き延ばされる痛みに悲鳴を上げながらジタバタを繰り出し、親たぬきの掴んでいた腕が振りほどかれる。
「ああっ…！ちび…！このままじゃちびが殺されちゃうし…！」
子犬の口からはみ出す胴体がぶるんぶるんと暴れ回っているのを見て、親たぬきはちびたぬきが苦痛に藻掻いていることを理解する。
自分の力ではこの凶暴な獣に打ち勝つことが出来ないと判断した親たぬきは辺りを見回し、人間の子供達の姿を見つけると大きく口を開いた。
「そこの人間のちび共…！助けてし…！たぬきのちびが犬のちびに食べられてるし…！ちび共でちびをちびから助け出してし…！」
喚くたぬきを発見した子供達は慌てた様子で駆け出すと、ジタバタと暴れるちびたぬきを咥える子犬を取り囲んだ。
「タフフ…ちびを虐めるちびなんてちび共の手で一ひねりだし…」
子供達は可愛い可愛いと口にしながら子犬を撫でまわし、子犬はにっこりと子供達に甘えながら口の中のおもちゃをくちゃくちゃと噛み続けている。
ちびたぬきはしばらく自由に動かせる胴体で苦痛を表現していたが、やがてただぶらぶらと垂れ下がるだけとなった。
「ﾌﾞｷﾞｷﾞ…ｷﾞｷﾞ…ｷﾞｭ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

校舎の外側を散策していたたぬきの親子は、同族のたぬき達が教室の窓ガラスに顔を貼り付かせて中の様子を必死に伺っている光景が目に入った。
窓に貼り付くたぬき達は涎を垂らしていたり、どうにか中に入れないかとガラスをもちもち叩いていたりしているが、親たぬきは理由が分からない。
「むむっ…あいつらは一体何をしているんだし…気になるし…ちび…ままも見てみるからここでいい子に待ってるし…」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！」
親たぬきはちびたぬきをその場に待たせ、他のたぬき達と同じように窓枠によじ登り、賑やかな教室の中をガラス越しに覗き込む。
「あっ…！人間のちび共がごはん食べてるし…！美味しそうだし…！しかも全員があんなにたくさん貰えてるし…！なんて豪華なスラムだし…！」
教室では給食の時間となっており、子供達は笑顔で机の上に配膳された料理を食べ進めている。
そんな光景を目の当たりにした親たぬきは窓ガラスに顔を貼りつけ、溢れ出る涎がガラスを伝って足元へ流れ落ちていく。
「みんな嬉しそうだしぃ…毎日頑張ってるたぬきだってあんなに食べられたこと無いしぃ…そんなにあるならたぬきにも分けてしぃ…」
親たぬきは腹の虫を鳴り響かせ、腹の空かせたたぬきがすぐそばに居ることをアピールしようと窓ガラスをもちもちと叩く。
しかし友人達とのおしゃべりに夢中な子供達は親たぬきの必死のアピールなど気にも留めず、次々と食事を口に運んでいく。
「うぅ…！気付いてし…！たぬきの分を残しておいてし…！たぬきもちびもお腹空いてるんだし…！」
親たぬきは必死になり、涎をまき散らしながら全力で窓ガラスをドンドンと叩く。そしてようやく子供が一人立ち上がり、親たぬきへ近づいて来た。
「ようやく気付いたし…！ちび…今日のごはんは豪勢にいくし…！人間のちびがたぬきにごはん持ってきたし…！」
「ｵﾅｶﾍﾟｺﾍﾟｺｼｰ！ｼｯｼｯｼｰ！」
親たぬきが少し離れた場所でこちらを見上げているちびたぬきに呼びかけると、ちびたぬきは喜びながら窓枠のすぐそばまで駆け寄ってくる。
子供は窓ガラスを少しだけ開けると、鬱陶しい親たぬきの腹を先割れスプーンで思い切り突いた。
「うげっし！」
腹に先割れスプーンの突き刺さった親たぬきは後方へ吹き飛びながら落下し、地面にいたちびたぬきを自身の背中で粉砕した。
「ｼﾞｯ」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

教室の窓ガラスに貼り付き、涎を垂らすたぬき達を見上げるたぬきの親子。教室内は給食の時間のようだ。
「タフフ…ガラスに貼り付いてたってごはんは貰えないし…賢いたぬきは地面で待つし…たぬきは知ってるんだし…」
「ｶｼｺｲｼｰ！ｼｼｼ…！」
たぬきの親子はクスクスと笑いながら、頭上で空腹に耐えきれなくなった同族のたぬきが窓ガラスを叩き出すのを眺めていた。
ここで待っていれば、そのうちたぬきを追い払う為に人間が窓を開けるだろう。そうすれば叩かなくともたぬきの声が人間に届くようになる。
他のたぬきが制裁を食らっている隙に、その隙間から人間に呼びかければたぬきの思いは簡単に通じる。たぬきの親子はそう目論んでいた。
やがて目論見通り窓が開かれた。貼り付いていたたぬき達は棒で勢い良く突かれ、落下地点にいたちびたぬきを粉砕した。
「ｼﾞｯ」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

給食の時間となった教室内を窓ガラスにもっちりと貼り付いて眺めるたぬき達。そんな同族達を少しだけ離れて見上げるたぬきの親子。
「タフフ…ガラスに貼り付いてたってごはんは貰えないし…賢いたぬきはちょっと離れた地面で待つし…たぬきは知ってるんだし…」
「ﾔｯﾊﾟﾘｶｼｺｲｼｰ！ｼｼｼ…！」
たぬきの親子がクスクスと笑っていると、子供達の反感を買ったたぬき達が次々と窓枠から突き落とされ、地面に叩きつけられていく。
頭を打ち泡を吹いて動かなくなったたぬきや、背中を打ち付け激痛にジタバタと悶えるたぬき達を尻目に、開かれた窓に向かって親たぬきは叫ぶ。
「あのっ…！たぬきもちびもお腹空いてますし…！なので…」
食料を寄こせと親たぬきが言う前に、ピシャリと窓は閉じられてしまった。
「あれ…聞こえなかったのかし…？もう少し近づかないとダメかし…」
トボトボとたぬきの親子が窓に向かって進むと、ガラスに貼り付くたぬきも居ないのに窓が開かれ、ここぞとばかりに親たぬきは声を張り上げた。
「あのっ…！たぬきもちびもお腹ペコペコなんだし…！だから…」
食料を寄こせと親たぬきが言う前に緑色の何かが放り投げられた後、ピシャリと窓は閉じられてしまった。
たぬきの親子は人間の態度に困惑しながらも、地面に落ちた緑色の物体に目をやる。それは苦いから、とどさくさに紛れて捨てられたパセリだった。
親子たぬきはそれが食べ物だと認識するとすぐさま駆け寄り、砂の付着したパセリを拾い上げ口に運ぶ。
「ちゃんとごはん貰えてたし…たぬきの言うこと聞いてたし…もしゃもしゃし……にっがいし…」
「ﾆｶﾞｲｼ…ﾊｸｼ…」
口の中のじゃりじゃりとした食感は慣れたものだったが、ちびたぬきにとってパセリの苦みは中々に受け入れがたい味のようだった。
「ちび…どんなに美味しくなくても食べ物を粗末にしちゃダメだし…ちゃんと食べるし…そのうちうどんとかを投げてくるし…もしゃもしゃし…」
「ﾑｸﾞｸﾞ…」
パセリを吐き出そうとするちびたぬきの口を、モシャモシャとパセリを咀嚼する親たぬきが押さえ、無理やり飲み込ませようとする。
「どんなに美味しくなくても次はいつ食べられるか分からないし…ちゃんと出された食事はすべていただくし…最低限のマナーだし…」
「ﾑﾇｰ！ﾑﾇｰ！」
苦さと息苦しさからジタバタと抵抗するちびたぬきの口を無理やり押さえ続ける親たぬき。
親たぬきは暴れる体を押さえつけるのに必死で、口に砂とパセリを詰め込まれたちびたぬきが窒息しつつあることに気付かない。
そんな親子たぬきの頭上で窓が開かれ、隙間から伸ばされた腕がお椀をひっくり返すと熱々の野菜スープが流れ落ち親たぬきに直撃した。
「アヅゥゥゥゥしぃぃぃぃ！」
「ﾑﾑｰ！ﾑﾑｰ！」

掃除の時間となり、校舎内では子供達がそれぞれの持ち場で清掃を行っていた。もちろんその中にはトイレも含まれている。
トイレの中では、数人の子供達が掃除用具も持たずに並ぶ便器を眺めるように立っていた。掃除をしているようには見えない。
そしてその視線の先にある便器では、たぬき達がもちりもちりと蠢いている。子供達の代わりに掃除をさせられているのだ。
たぬき達は脱いだ服を雑巾代わりに、引き抜かれた尻尾や髪の毛をモップ替わりにして、便器や床を掃除することを強制されている。
集められたたぬき達は大抵自身の命と引き換えに命令に従っているが、ちびたぬきをたぬ質に取られた為に命令に従っている親たぬきも居た。
「ごしごし…ちび…まま頑張るし…ちびを必ず助けるし…おえっし…臭いし…ごしごし…」
「ﾏﾏｰ！ｷﾀﾅｲｼｰ！ｿﾝﾅｺﾄｼﾅｸﾃｲｲｼｰ！」
親たぬきは裸になり便器の内部を自身の服で懸命に擦っている。命じられた時に一度拒否した為、激しく殴打された顔は酷く腫れあがっていた。
ちびたぬきはビニール袋に包まれて子供達の足元に置かれ、たぬき達が誇りとしている服を汚していく顔がパンパンの親たぬきを心配していた。
たぬきの服など元から汚れているが、それでも汚物を自分の手で擦り付けていくのはたぬき達の精神をすり減らしていく。
これ以上殴られないように、あるいは大事になちびが踏み潰されないように、たぬき達はそうやって自分達に言い聞かせる。
親たぬきの周りのたぬき達は涙を流し震えながら自身の誇りを自身の手で汚物と一体化させていく。
トイレの中はたぬき達の耳障りな慟哭やえずく声で満たされているが、親たぬきだけは涙を流さず、脇目も振らずに便器を擦り続けていた。
手を止めては殴られ、もたもたと掃除を続ける他のたぬきとは違い、ちびたぬきの為に休むこと無く掃除を続ける親たぬき。
他のたぬき達は次第に体力的にも精神的にも耐え切れなくなり、逃げ出そうとして踏み潰されたり自ら便器内に飛び込み溺死を選ぶ個体まで現れる。
そうして減った労働力はまだ残っているたぬきが補わなければならない。辛うじて耐えていたたぬき達も、追加の作業に次々と心を折られていく。
親たぬきは腫れた顔に便器の水が染みても、隣で作業していたたぬきが発狂して自分の耳を引き千切ろうとも、決して掃除を止めようとはしない。
そして最後の一匹となった親たぬきは体と心をボロボロにしながらもなんとか掃除をやり遂げ、子供達に掃除が終わったことを報告した。
「お…終わったし…全部キレイになったし…これで解放されるし…早くちびを返してし…ちびはまだ綺麗なんだし…」
「ﾏﾏ…ｴﾗｲｼ…」
親たぬきの服は着用出来ない程に汚れと損傷が酷く、今後は裸たぬきとしてのたぬ生が待っているのだろうが今はちびたぬきの事しか考えられない。
親たぬきは床に転がるちびたぬきの下へよろよろと歩み寄り、子供達はたぬきがきちんと役目を果たしたのかを確認する。
所詮はたぬきなりの清潔感なので子供達の追加作業が必要だが、少なくとも目に入れたくないような汚れは無くなっている。
子供達は親たぬきに役目は終わったことを告げ、用の無くなったちびたぬきをビニール袋から取り出し、和式便器に放り込んで水を流した。
「ｷﾞｭﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

掃除の時間となった小学校では、廊下を複数人の生徒が掃除していた。
壁際には土足で校舎内を歩き回り、そこら中に汚い足跡を残したたぬきの親子が拘束されている。
子供達は雑巾で床を磨いたり、箒でゴミや塵を集めたりと熱心に働いていた。一通りゴミを集めた後、ちりとりの中にそれらを移していく。
そして親たぬきの垂れ下がっている片耳を掴んで持ち上げ、露になった耳穴にちりとりの中にある塵や埃をザラザラと流し込んでいった。
「うっ！うっ！う˝っ！う˝っ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

小学校は昼休みとなり、校庭では大勢の子供達が様々なスポーツや遊びを楽しんでいる。
そんな校庭では、一匹の親たぬきが地面に書かれた円の中心で身構えていた。親たぬきの肘や膝は擦り剝けて血が流れ、胸や腹には痣が出来ている。
親たぬきが参加しているのは「たぬボール」と呼ばれる球技で、円の中にいるたぬきにボールをぶつけて得点を競うシンプルなルールだ。
たぬボールは、どこにでも居るたぬきとボールさえあれば簡単に遊べる為、世界中で親しまれている。
しかし小学校の敷地内という限られた空間では、たぬきの数に対してボールの数が圧倒的に不足していた。
その為、たぬきを捕まえるよりも難しいボールの確保に失敗した子供達はボールの代わりに別のたぬきを投げつけることを余儀なくされるのである。
この子供達もやはりボールの奪い合いに敗れ、仕方なくその辺で捕まえた親たぬきと、それにくっついていたちびたぬきを投げつけている。
しかし本来ならばもちもちと緩慢な動作で必死に避けようとする的たぬきが、今回は自分からボール代わりのちびたぬきにぶつかろうとするのだ。
普段は互いに関わりの無い野良たぬき同士をぶつけ合っているため、ボールにしては大きく持ち辛く、ジタバタと暴れて投げ辛く、
互いを罵り合う声でうるさく、ぶつかった後どちらが的だかボールだかわからなくなるなど不満点が多い。
しかし今回はそのような不満は感じられない。子供達は新鮮なプレイ感覚に喜び、続々と的である親たぬき目掛けてちびたぬきを全力で投げる。
「ｷﾞｭｩｰ！」
「また来たし…！ちびはままが守るし…！どこに飛んできてもままのもちもちで必ず受け止めるし…！」
親たぬきには飛んでくるちびたぬきに反応し落下点に移動出来る程の素早さは無いが、自身目掛けて投擲されている為なんとか受け止められている。
今回も腕を広げた親たぬきの胸に勢いよくちびたぬきがめり込む。互いにもちもちの体を持っているが、内臓を揺さぶられるダメージは蓄積してく。
「うぐぅ…ちび…捕まえたし…ぐふっし…今度こそ離さないし…ままはずっとちびのそばにいるし…ゴフッし…」
「ｷｭｩｰ…」
ぶつかった勢いで後ろに倒れ込み、背中に傷を付ける親たぬきは血を吐きながら、既に何十回も放った言葉を再び口にしてちびたぬきを抱きしめる。
ちびたぬきは投げられる際の圧力と、親たぬきに衝突する際の衝撃で虫の息となっていた。
親たぬきはそんなちびたぬきの頭を撫でようとするが、ちびたぬきを鷲掴みした子供の手に防がれてしまう。
「ダメだし…！これ以上ちびを投げたらしんじゃうし…！ちびを持って行っちゃダメだし…！ちびは絶対に渡さないし…！」
親たぬきは既に何十回も放った言葉で子供達に抗議すると、ちびたぬきを庇うように全力で子供の手をぎゅっと押さえ込んだ。
そして何十回と繰り返した通り、親たぬきの腕からちびたぬきが抵抗も無くスポンと抜け、子供はちびたぬきを乱暴に振り回しながら配置についた。
「やめてし…！これ以上ちびを投げないでし…！これ以上は本当にちびが耐えられないし…！」
「ｷﾞｭ…ﾏ…ﾏ…」
何十回と聞いた親たぬきの懇願には耳を貸さず、子供はちびたぬきを投げようと大きく振りかぶる。
「また来たし…！ちびはままが守るし…！こうなったらままのもちもちで受け止めるしかないし…！」
親たぬきは腕を広げ、痣だらけの体を大きく開いてちびたぬきをなんとしてでも受け止めようと身構える。
子供も全力でちびたぬきを放り投げたが力み過ぎて大暴投となり、ちびたぬきは地面に真っすぐ叩きつけられて水風船のように破裂した。
「ﾌﾞﾋﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

たぬボールの的となっている親たぬきの腹に、ボール代わりにされているちびたぬきがめり込む。
「ハアハアし…ちび…頑張るし…ままが…必ずちびを助けるし…もうちょっとだけ我慢するし…オゲッし…」
「ﾄﾌﾞﾉｺﾜｲｼｰ…！」
親たぬきは飛んでくるちびたぬきを出来るだけもちもちの腹で受け止め、ちびたぬきへの負担を少しでも軽減しようと奮闘していた。
しかし腹で受け止める度にボディーブローを食らっているような衝撃が親たぬきの内臓を襲い、ちびたぬき以上に傷付き弱っていく。
親たぬきはもはや子供達に抗議する余裕も無く、ぐっとちびたぬきを抱きしめて抵抗の意を示している。
子供達はそんな親たぬきの状態に関心を払うことも無く、これまでと同じようにちびたぬきを容易く掴み上げて配置につく。
親たぬきもこれまでと同じように、吐血しながらちびたぬきを受け止めようと身構える。そこへ大きな鐘の音が鳴り響いた。
たぬきの親子にはその音が何を意味するのか分からなかったが、子供達は昼休みがもうすぐ終わることを理解する。
そして子供達が行った次で最後にしようという会話は、たぬきの親子にも理解が出来た。
「フゥフゥし…あと一回だし…！これを耐えれば自由だし…！ちび…！あと一回だけ頑張るし…！」
「ｶﾞﾝﾊﾞﾙｼ…！」
子供はちびたぬきを投げようと大きく振りかぶる。親たぬきは腕を広げて待ち構え、ちびたぬきは子供の手の中でぎゅっと目を閉じ耐えている。
ちびたぬきが投げられる前に、別のコートでボール代わりになっていた別のたぬきが暴投により勢いよく飛んできて親たぬきの顔面にめり込んだ。
「ぶげぇっし！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

たぬきの親子を使ってたぬボールを楽しんでいた子供達だったが、昼休みも終わりに近づいたために最後の投擲を行おうとしていた。
親たぬきは何度も顔にちびたぬきの直撃を受けており、口や鼻から血を垂れ流し目の上に青あざを作りながらも、ちびの為に体を大きく広げる。
死にかけのちびたぬきを握る子供は友人達から期待の視線を受けながら、しっかりと的へぶつけるために大きく振りかぶった。
親たぬきもこれが最後であると理解しており、子供の手からちびたぬきが離れると、親たぬきは気合を入れる為口を大きく開いて叫び出した。
「来るなら来いし…！ちびは必ずままが守るし…！うおおおおおおっし…！」
ちびたぬきは親たぬきの顔面目掛けて放り投げられた為、親たぬきの開かれた口にすっぽりと入り込み、喉に挟まったまま息絶えた。
「ﾌﾞﾑｯ…！」
「ちいぃぃぃぃ！ちいぃぃぃぃ！」

たぬボールを切り上げて教室へ戻ろうとする子供が、既に虫の息となっているちびたぬきを全身の擦り傷から血を流す親たぬき目掛けて放り投げた。
親たぬきは叫び声も上げないちびたぬきを胸で受け、ぶつかった衝撃に呻き声をあげる。子供達はたぬきの親子にはもう見向きもせず戻っていった。
「うぎぎ…た…耐えたし…たぬきはちびを守り切ったし…ちび…もう大丈夫だし…」
「ｷｭﾔｰ…」
胸に貼り付くちびたぬきはぐったりとして動かないが、少なくともまだ生きている。親たぬきはその事実に感謝し、そっと抱き上げた。
しかし親たぬきの全身から流れ出ている血がぬるりと摩擦を奪い、ちびたぬきは親たぬきの腕からすり抜けて地面にぺちゃりと落下した。
「あ…落としちゃったし…ちびごめんし…」
親たぬきが慌てて抱き直そうとちびたぬきに視線を向けるが、辛うじて命を繋いでいたちびたぬきは僅かな落下の衝撃で限界を迎えてしまった。
親たぬきに地面に叩きつけられたと思ったちびたぬきは、内臓が潰れた苦しみの中、血の混じった泡と親たぬきへの思いを吐き出しながら息絶えた。
「ｸﾞ…ｷﾞｭ…ｹﾞｯ…ﾏﾏ…ｼ…ﾈ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

校庭に、拘束された親たぬきが正座をさせられている。親たぬきの足元から伸びるように、二本の線が真っすぐ地面に描かれている。
そしてその正面、数メートル離れた位置ではちびたぬきが泥の中を懸命に藻掻いて進んでいた。
ちびたぬきがコースを進み、ゴールとなる親たぬきの下に辿り着ければ二匹とも解放するというゲームに参加しているようだった。
「ﾀﾇｯ！ﾀﾇｯ！ﾏｹﾅｲｼ…！」
「ちび…！頑張れし…！ちびならこんなコース楽勝だし…！」
親たぬきはちびたぬきを真っすぐ見つめ、ちびたぬきも親たぬきを真っすぐ見つめながら距離を縮めていく。
スタート地点では尖った小石の上を這って全身を傷付けながら進み、今は泥を飲み込みながらも必死に親たぬきへ近づいていくちびたぬき。
ようやく泥の沼を越えたちびたぬきの目の前では、不自然に葉っぱで覆われた空間がコースの真ん中を塞いでいる。
一刻も早く親たぬきの下へ駆け付けたいちびたぬきはそれが罠であるとも考えず、真っすぐに葉っぱの上へ踏み込んでいく。
「ﾀﾞﾚﾆﾓﾄﾒﾗﾚﾅｲｼ…！」
「うちのちびはなんて立派だし…！どんな障害も突き進んでいくし…！」
案の定葉っぱの下に隠されていた新聞紙が破け、ちびたぬきは落とし穴に頭から落下して頭蓋骨を粉々にした。
「ｷﾞﾌﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

親たぬきを救うべく、ゴールを目指して障害物だらけのコースを進んでいくちびたぬき。
なんとか泥の沼を越えると、ちびたぬきの目の前には葉っぱで隠された落とし穴が待っていた。
「ちび…！その葉っぱの中に入っちゃダメだし…！きっと穴があるし…！横に避けてこっちに来るし…！」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！ﾐｴﾐｴﾀﾞｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきの指示に従い、ニヤニヤと笑いながら落とし穴の右側に周り込む。
そこには新聞紙の上に土を盛って巧妙に穴が隠されており、ちびたぬきは硫酸の溜まった落とし穴に落下して足から全身を溶かされていった。
「ﾋｷﾞｭｧｧｧｧ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

親たぬきを救うべく、ゴールを目指して障害物だらけのコースを進んでいくちびたぬき。
とりあえず泥の沼を越えると、ちびたぬきの目の前には葉っぱで隠された落とし穴が待っていた。
「ちび…！その葉っぱの中に入っちゃダメだし…！絶対穴があるし…！きっと左にも穴があるし…！右に避けてこっちに来るし…！」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！ﾐｷﾞﾀﾞｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきの指示に従い、ニヤニヤと笑いながら落とし穴の右側に周り込む。
「ままから見て右だしぃぃぃぃ！」
土で隠された新聞紙が破け、ちびたぬきは硫酸の溜まった落とし穴に落下して足から全身を溶かされていった。
「ｳｿﾂｷﾞｨｨｨｨ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

親たぬきを救うべく、ゴールを目指して障害物だらけのコースを進み、落とし穴の前まで辿り着いたちびたぬき。
「ちび…！葉っぱのとこにもその左にも穴があるし…！右に避けてこっちに来るし…！ええと…ままの耳飾りがついてる方だし…！」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！ｺｯﾁﾀﾞｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきの指示に従い、ぽてぽてとちびたぬきなりの駆け足で落とし穴の左側に周り込む。
やはり土で隠された新聞紙が破け、ちびたぬきは悲鳴を上げる間も無く落とし穴に落ちて姿を消してしまった。
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」
親たぬきが姿を消したちびたぬきに向かって必死に呼びかけると、穴の中からちびたぬきの元気な鳴き声がキューキューと聞こえて来た。
「ちび…！無事なのかし…！大丈夫なのかし…！」
「ﾊｯﾊﾟｶﾞｲｯﾊﾟｲﾀﾞｼｰ！ｸｯｼｮﾝﾀﾞｼｰ！」
穴の底では、ちびたぬきが大量の葉っぱに埋もれていた。底に敷き詰められた葉っぱがクッション代わりとなり、転落死を免れたようだ。
「ふう…良かったし…ちび…上がって来れそうかし…？」
親たぬきはちびたぬきに呼びかけるが、返事は無い。代わりに聞こえてきたのは、耳を塞ぎたくなるようなちびたぬきの悲鳴だった。
「ｷﾞｭｨｨｨｨｨｨ！ｷﾞｨｨｨｨ！ｳｷﾞｷﾞｨｨｨｨ！」
「ちび…！ちび…！どうしたんだし…！お腹痛いのかし…！」
姿の見えないちびたぬきが突然苦しみ出しても、親たぬきには理由が分からない。中にもどきでも居たのか、実は病気持ちのちびだったのか。
しかしちびたぬきの姿が見えていたとしても、親たぬきにはちびたぬきの苦痛が何によってもたらされているのか理解出来なかっただろう。
ちびたぬきを転落死から救った何の変哲もないその葉は、絶対に触れてはならない魔物だった。
触れたものに耐えがたい激痛を与え、その苦しみを数年は持続させる悪魔の植物。
オーストラリア原産「ギンピ・ギンピ」。それが穴の底に敷き詰められていた怪物の名前である。
ちびたぬきは穴の底から叫び声を轟かせ続け、穴の中でのたうち回り、ギンピギンピの葉を全身にこすり付けていく。
「ｷﾞｨｯ！ｷﾞｨｨｨｨ！ｷﾞｭｩｩｩｩ！」
「ちび…！しっかりするし…！何があったんだし…！」
どれだけジタバタをしようとも、全身を包む激痛は引くどころかその苛烈さを増していく。そしてまたジタバタを繰り出し葉の山に埋もれていく。
穴の中からの絶叫と葉が擦れる音は次第に小さくなり、痛みに耐えかねたちびたぬきの脳は自らその機能を停止し、やがて穴の中は静寂に包まれた。
「ｳﾋﾞｨｨ…ｷﾞｭ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

親たぬきを救うべく、ゴールを目指してコースを進み、落とし穴の前まで辿り着いたちびたぬき。
「ちび…こっそりコースを外れて迂回するし…ちょっとぐらい平気だし…」
「ｼｼｼ…ﾜｶｯﾀｼ…」
ちびたぬきは親たぬきの指示に従い、地面に書かれたラインを越えた瞬間見ていた子供に踏みつぶされた。
「ﾋﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

親たぬきを救うべくコースを進み、落とし穴の前まで辿り着いたちびたぬき。
「ちび…！そのあたりには多分穴がたくさんあるし…！穴と穴の隙間を慎重に歩くし…！」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！ﾀﾀｲﾃﾜﾀﾙｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきの指示に従い、四つん這いになり腕で地面の感覚を確かめながら少しずつ進んでいく。
「ｶﾀｲｼ…ｶﾀｲｼ…」
「そうだし…柔らかい地面があったらきっとそこは穴だし…」
そうしているうちに、これまでとは違い叩いた腕が沈み込む場所に辿り着いたちびたぬき。嬉しそうに親たぬきへ穴を見つけたことを報告する。
「ｺｺﾔﾜﾗｶｲｼ…！ｵｽﾄﾍｺﾑｼ…！」
無駄に大きい頭のせいでたぬきの重心は頭部にある為、前方に沈み込んだ体を起こすことは出来ず、腕が新聞紙を突き破ってしまった。
ちびたぬきはそのままバランスを崩し、落とし穴に頭から落下して頭蓋骨を粉々にした。
「ｷﾞﾌﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

コースを進み、落とし穴の前まで辿り着いたちびたぬき。
「ちび…！もうジャンプして避けろし…！」
「ﾄﾌﾞｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきの指示に従い、助走をつけて飛び上がろうとしたが付着していた泥で足を滑らせ全力でギンピギンピの束に飛び込んでいった。
「ｸﾞﾋﾞｬｧｧｧｧ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

落とし穴の前まで辿り着いたちびたぬき。
「ちび…！ジャンプして穴を越えるし…！ちゃんと泥は落としてから飛ぶし…！」
「ﾄﾌﾞｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきの指示に従い、足に付いた泥をしっかりと落としてから、ぽよんと飛び上がって葉っぱで覆われた空間を飛び越える。
穴の向こう側には地面の上に画鋲が敷き詰められており、着地したちびたぬきに深々と突き刺さった。
「ﾝｷﾞｨｨｨｨ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

落とし穴の上を飛び越えようとするちびたぬき。
「ちび…！足になんか刺さっても耐えるし…！ちびなら出来るし…！」
「ｷﾞｭｯ！？」
ちびたぬきは親たぬきの指示に戸惑いながらも、ぴょいんと飛び上がって葉っぱで覆われた空間を飛び越える。
そして着地した足に画鋲が深々と突き刺さるが、体をぷるぷると震わせ、目に涙を貯めながらも必死に痛みに耐えている。
「ｷﾞｭｩｯ…！ｷﾞｭｩｯ…！」
「ちび…！偉いし…！そのままこっちに来るし…！」
ちびたぬきは足に突き刺さった画鋲を抜くことも出来ず、すり足でもちりもちりと歩き始めた。
「ちび…！こっちだし…！そのまま進むし…！さあ…！はやく来るし…！」
「ｲﾀｲｼ…ｲﾀｲｼｨ…」
動かす度に、そして足に刺さる画鋲が他の画鋲に触れて振動が伝わる度に激痛が襲うが、ちびたぬきは泣きながら親たぬきへ向かって進み続ける。
そこへたぬボールで使われていた別のちびたぬきが飛んできてちびたぬきに直撃し、二匹揃って地面に敷き詰められた画鋲で全身串刺しになった。
「「ｷﾞｭｱｱｱｱ！」」
「「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」」

落とし穴を飛び越えたちびたぬき。着地の際に画鋲が両足へ突き刺さったが、ちびたぬきは痛みを堪えて泣きながらじりじりと進み続ける。
「ﾋｸﾞｯ…ｲｷﾞｨ…」
ちびたぬきが進んだ後には二本の赤い線が引かれていく。その線は少しずつ伸びていき、とうとう画鋲だらけのエリアを越える。
ちびたぬきは両足の痛みから前へ倒れ込み四つん這いの状態となるが、その手に触れるのは土のみで、既に画鋲は無い。
少しの間土を眺めていたちびたぬきは顔を上げ、今度は何もない平坦な地面を眺め、更に顔を上げてその先に居る親たぬきの顔を見つめる。
たぬきの親子の間には何の障害物も無く、お互いの顔をはっきりと見ることが出来た。
「ちび…！ちび…！やったし…！クリアだし…！たぬき達の勝ちだし…あとはままを解放するだけだし…！流石ちびだし…！」
「ｸ…ｸﾘｱｶｼ…？」
親たぬきは死の恐怖から解放された安堵と、自分のちびたぬきが立派にやり遂げた感動から、目に嬉し涙を浮かべて喜んでいる。
そんな親たぬきを見たちびたぬきも胸を熱くし、ぽたぽたと涙を土に垂らしながらゆっくりと立ち上がった。
「ﾗｸｼｮｳﾀﾞｯﾀｼｰ！」
両足の痛みも忘れ、画鋲が刺さったままの二本足で立ったちびたぬきは涙を拭い、笑顔で親たぬきの下へぽてぽてと駆けていく。
親たぬきは拘束されていて動けないが、両手を広げて向かってくるちびたぬきを受け入れようと笑顔で待ち受ける。
「ﾏﾏｯ…！ﾏﾏｰｯ！」
「ちびっ…！ちびーっ！」
駆けるちびたぬきは最後の障害として用意されていた落とし穴を踏み抜き、穴の底に設置された粉砕機によって直接大地の肥やしとなってしまった。
「ｼﾞｨｨｨｨ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

小石の山を越え、泥の沼を越えて葉っぱで出来た森の前に辿り着いたちびたぬき。
ちびたぬきは拘束されている親たぬきの激励や助言に従いここまでやって来たが、落とし穴を前にして立ち止まってしまった。
親たぬきはこれまでと同じように、「我慢して進め」だとか、「一生懸命進め」といった指示をちびたぬきに伝える。
しかしちびたぬきは目の前の葉っぱに対し前世の記憶か、本能で何か感じるのか、目に涙を貯めてイヤイヤと首を振り、前へ進むことを拒んでいた。
「ちび…！このままじゃままもちびも駆除されちゃうし…！一か八か進むしか無いし…！」
「ﾔﾀﾞｼ…！ﾔﾀﾞｼ…！」
障害を越える方法も分からず、かと言って迂回も出来ず、八方ふさがりとなったたぬきの親子。もはやこれまで、と親たぬきは子供達に懇願した。
「ちびも頑張ったし…ちびの頑張りに免じてゴールしたことにしてやって欲しいし…完走した勲章をもらうに値するし…」
親たぬきの予想とは裏腹に子供達はたぬきの提案を拒否し、子供達は進まないちびたぬきを叩く為、棒を振り上げた。
自身の体では受け止めきれない暴力が降りかかると分かっていても、ちびたぬきの両足はぷるぷると震えるばかりで、進むことも逃げることも無い。
「ｲﾔｧｧｧｧ…！」
「ちびぃぃぃぃ！」
短い腕で必死に頭を抱え、どうにかして衝撃に耐えようとするちびたぬきだったが、ちびたぬきの命を奪おうとした棒は見当違いの場所に落下する。
たぬきの親子には状況が理解出来なかったが、予鈴を聞いた子供達が棒を放り投げ、たぬきを放置したまま急いで教室へ戻っていったのだ。
「た…助かったのかし…？たぬきの説得が届いたんだし…！ちび…！もう大丈夫だし…！早くこっちに来るし…！」
「ｺﾜｲﾓﾝﾅｼﾀﾞｼｰ！」
恐怖から解放され頭の中を喜びだけで満たしたちびたぬきは真っすぐ目の前の葉っぱに突入し、落とし穴に頭から落下して頭蓋骨を粉々にした。
「ｷﾞﾌﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

子供達はちびたぬきに障害だらけのコースを進ませていたが、昼休みももうすぐ終わるため、たぬきの親子を放置して退散してしまった。
「た…助かったのかし…？たぬきの祈りが届いたんだし…！ちび…！そこの葉っぱなんか避けてこっちに来るし…！」
「ﾑｸﾜﾚﾀｼｰ！」
ちびたぬきは恐怖の涙を喜びの涙に変え、コース外に出てよろけながらも親たぬきの下へ駆ける。
「ああっ…やっとだし…！たぬき達は助かったんだし…！またちびをもちもち出来るし…！ちび…！よく頑張ったし…！ままの誇りだし…！」
「ﾏﾏｰ！」
傷だらけになりながらも自分を助けるために進み続けたちびたぬきがこちらへ駆けてくるのを見て、親たぬきも暖かい涙を浮かべる。
そこへちびたぬきの全身から流れ出る血の匂いを嗅ぎつけたもどきが、人間が居なくなったことで待ってましたとばかりに駆けて来た。
そして拘束され動けない親たぬきのすぐ目の前でちびたぬきの腹を食い破り、まるで見せつけるかのように内臓を引きずり出して笑顔で咀嚼した。
「ｸﾞｼﾞｨｨｨｨ！ﾔﾒﾃﾞｪ！ﾔﾒﾃﾞｪｪｪｪ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

校庭の砂場で小さな人影が何やらせわしなく動いていた。既に昼休みは終わっており、校庭には他に遊んでいる子供の姿は見えない。
砂場に居るのは一匹の親たぬきで、砂の上に膝を付き、両腕で必死に穴を掘り続けている。
指も手の平も無い真ん丸なたぬきの腕ではまともに掘ることなど出来ず、どれだけ肌が擦り剝けようとも穴はまるで深くならない。
それでも親たぬきはこの砂の中に埋まっているちびたぬきを助けるため、ひたすら砂を両腕で払っていく。
「ちび…！待ってるし…！もうすぐ外に出られるし…！ちび…！ままはここにいるし…！ちび…！」
親たぬきはちびたぬきに呼びかけ続け、両腕を傷付け続けるが、既にちびたぬきからの返事が無いことには気付いていなかった。
「…」
「ちび…！ちび…！」

ある晴れた日、校庭で理科の授業を受けている子供達。
黒い程熱を良く吸収すると聞いた子供達は、さっそく黒い紙やちびたぬきの黒い瞼に向けて日光を虫メガネで収束させ、煙を立ち昇らせた。
「ｼﾞｭｧｧｧｧ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

校庭で理科の授業を受けている子供達。なにやら楽しそうにポンプを漕ぎ、容器内の水をボコボコと泡立たせている。
ポンプに繋げられているのはペットボトルロケットで、先端に敷地内をうろついていたちびたぬきが子供たちの気まぐれで貼りつけられていた。
「ﾎﾞｺﾎﾞｺｷｺｴﾙｼｰ！ｺﾜｲｼｰ！」
「やめるし…！ちびが怖がってるし…！これ以上泡立てるのはやめてちびを解放するし…！たぬきのパンチを食らってもいいのかし…！」
ペットボトルロケットを知らない親たぬきは、まさかちびたぬきがすっ飛んでいくとも思わず、ちびたぬきを怖がらせていることに抗議している。
親たぬきはちびたぬきを励ましたり、子供達にもちもちパンチを食らわせようとして蹴り飛ばされたりと、ロケットと子供達の間を行き来していた。
やがて容器内の圧力が限界を迎えると、ペットボトルロケットは勢いよく水と空気を噴射し、ちびたぬきを連れて空へ向かって飛び出していく。
「ええっ！？と…飛んだし…！ちび…！遠くへ行っちゃダメだしぃぃぃぃ…！」
「ｸﾞｷﾞｭｪｪｯ！」
突如発射された容器に驚き、噴射された水に全身を殴りつけられながらも、凄まじいＧを受けて苦しむちびたぬきを心配する親たぬき。
ちびたぬきは体が変形するほどの勢いに耐えていたが、固定が甘くすぐにロケットの先端から弾き飛ばされ地面に叩きつけられてしまった。
「ﾌﾞｹﾞｪｯ！」
「ちび…！良かったし…どこかに飛んで行っちゃうんじゃないかと心配したし…すぐにままがもちもちしてやるし…」
地面の上でピクピクと痙攣するばかりのちびたぬきの下へ、親たぬきが両手を前に出しながらのたのたと駆け寄っていく。
そこへ空中でぐるっと方向を変えたペットボトルロケットが飛んできて先端を親たぬきの顔面にめり込ませた。
「ぶげぇっし！」
「ﾏ…ﾏ…」

職員室で黙々と事務処理をしている教師。そんな人間の足元へたぬきの親子が歩み寄っていく。
「あの…どこでごはん貰えるのか教えて欲しいですし…人間のちび共と同じごはんでいいですし…案内して欲しいですし…」
「ｵﾅｶｽｲﾀｼｰ」
仕事を続けたい教師は集中を切らさないように、うるさい親子たぬきの口をバチンバチンとホチキスで素早く打ち込み塞いでしまった。
「…！…！」
「…！…！」

大きな水槽に放り込まれたちびたぬき。中には水では無く柔らかな土が敷き詰められており、いくつかの木片も置かれている。
親たぬきはちびたぬきを外に出そうとするが、土の入った水槽は重く、親たぬきの力ではひっくり返すことはおろか揺らすことすら出来なかった。
「ちび…ちび…必ずままが助けるし…ちびだけこんなとこに置いて行ったりはしないし…なんとしてでも外に出るし…」
「ｷｭｰ…」
水槽の壁をもちもちと撫でる親たぬき。ちびたぬきは尻尾を抱えたまま、不安そうに親たぬきを見つめている。
そんな親子たぬきの下へ、人間の子供が一人やってきた。
「ちょうどいいとこに来たし…そこの人間のちび…たぬきのちびが中に閉じ込められてるし…早く助けてあげてし…」
子供は真っすぐ水槽へ向かい、水槽に貼り付く親たぬきを定規で押しのけると、水槽の中に赤く半透明なゼリーを設置して帰っていった。
「あれは…たぬきのおやつかし…？おやつを貰えるってことはまさかちびが飼いたぬきになったのかし…？」
「ｶﾝﾐﾀﾞｼｰ！」
ちびたぬきはそのゼリーから漂う甘い香りに反応し、親たぬきに背を向け、すぐさま笑顔でゼリーに駆け寄っていく。
「ちびだけ飼いたぬきになるなんてずるいし…たぬきも飼ってし…ちび…ままも入れてし…」
親たぬきは中に入れないかと水槽の壁をもちもちと撫でまわしたり、入り口が無いかと水槽の周りをトボトボと回りだす。
「ｲﾀﾀﾞｷﾏｽｼｰ！」
「ああっ…ちびだめだし…ちゃんとままの分を残しておくし…」
赤い塊を目の前にしたちびたぬきは、溢れる涎を拭うことも無くゼリーに飛びつこうとする。
そんなちびたぬきのすぐそばで、木片の影から一匹の茶色い塊がもぞもぞと這い出してきた。
「ｷｭ…ﾅｶﾏｶｼ…？」
ちびたぬきは同居人に挨拶代わりのもちもちをしようと近付いたが、当然相手はたぬきでは無かった。
6本の足でのそのそとゼリーへと向かって歩いていくその昆虫は、日本原産「カブトムシ」。言わずと知れた昆虫の王様である。
「ｶｯｺｲｲｼｰ！ｷｮｳｶﾗﾖﾛｼｸｼｰ！」
カブトムシはちびたぬきが発した挨拶の言葉を無視し、水槽の周りをうろうろと歩き回る親たぬきも無視してゼリーを食べ始めた。
「うげっし…虫がたぬき達のおやつ食べちゃったし…ちび…はやく追い払うし…汚いしもったいないし…」
「ｿﾚﾊﾀﾇｷﾉﾀﾞｼｰ！」
カブトムシの餌を奪おうと、ちびたぬきがカブトムシに飛び掛かる。
例えちびたぬきがカブトムシに掴みかかったところで何が出来るわけでも無いが、ちびたぬきの体はカブトムシの体よりかなり手前で制止した。
「ﾀﾞﾇｯ…！」
カブトムシがその大きな角をちびたぬきの腹に真っすぐ食い込ませ、食料を奪おうとする不届き者を完全に押さえ込んでいた。
カブトムシが勢いよく食い込んだ角を持ち上げると、ちびたぬきの体は宙に浮き、水槽の端まで放り投げられる。
土の上をごろごろと転がるちびたぬきは、角が食い込んだ箇所と打ち付けた箇所が痛む程度で、命に別状は無い。
カブトムシは生半可な攻撃を受け付けない堅い甲殻と、自重の100倍を投げ飛ばす程の力と角を駆使し、餌場に群がる他の虫達を圧倒する。
そんな昆虫の王者だが、攻撃方法は自慢の角を用いて投げ飛ばすだけ。歯で切り刻んだり、そのパワーで圧し潰したりはしない。
縄張りに侵入した相手であっても、餌の確保であっても、繁殖相手の奪い合いであっても、ただ相手を持ち上げて追い払うのみ。
性格も好戦的とは言えず、同種の場合は角の長さや体格などから事前に優劣を決め、無益な戦いを回避する傾向がある。
弱肉強食な自然界において、圧倒的な力を持ちながらも相手の命を奪うことを回避する、"不殺の王者"なのである。
邪魔者を追い払ったカブトムシはちびたぬきに対して止めを刺すことはせず、ただのんびりとゼリーを食べ進めている。
軽くあしらわれたちびたぬき自身はそんなカブトムシの態度が許せず、多少痛い目を見せてやろうとまたのたのた駆け寄っていく。
「ｾﾞﾝｾﾞﾝｷｶﾅｲｼ…！ｿﾚﾊﾀﾇｷﾉｵﾔﾂﾀﾞｼ…！」
「ちびたくましいし…！虫の攻撃をものともしないし…！」
ちびたぬきはカブトムシに飛び掛かるが、再び角が腹に食い込み、そのままひっくり返される。
カブトムシの怪力が腹に食い込んだ角を通して一点に伝わり、内臓に大きなダメージを負うちびたぬき。
腹には大きな痣が出来ているが、命に別状は無く、痛みでジタバタを繰り出す程に元気である。
カブトムシは"不殺の王者"である。どれだけ鬱陶しいちびたぬきであっても、その命を奪うことはしない。
「ﾀﾞﾇﾇ…ｲﾀｲｼ…ｾﾞｯﾀｲﾕﾙｻﾅｲｼ…」
「虫ごときが何回攻撃したってちびの命を奪うことは出来ないし…！ちびは不死身なんだし…！」
邪魔者を追い払ったカブトムシはちびたぬきに対して止めを刺すことはせず、ただのんびりとゼリーを食べ進めている。
ちびたぬきは腹の痛みを堪えながら立ち上がり、カブトムシを見据える。
自分にこのような痛みを与えたカブトムシに対する怒りから、今度はその命を奪ってやろうとカブトムシにのたのた駆け寄っていく。
「ﾎﾝｷｦﾀﾞｽｼ…ﾑｸｲｦｳｹﾙｼ…！」
「ふふふ…ちびを怒らせたようだし…大人しくおやつを差し出してれば命までとられることは無かったろうにし…馬鹿な虫だし…」
ちびたぬきはカブトムシに飛び掛かるが、再び角が腹に食い込み、そのままひっくり返される。
「ｸﾞｹﾞｪｯ！」
「いつの間にかちびがすごい丈夫になってたし…よそのちびは虫にたくさん殺されてるし…うちのちびは虫なんかには殺されないし…」
先程と同じく腹を深く突かれ、いくつかの内臓が潰れるが命に別状は無く、苦しみでジタバタを繰り出す程に元気である。
カブトムシは"不殺の王者"である。どれだけ鬱陶しいちびたぬきであっても、その命を奪うことはしない。
「ｷﾞｭ…ｷﾞｭｷﾞｷﾞ…」
邪魔者を追い払ったカブトムシはちびたぬきに対して止めを刺すことはせず、ただのんびりとゼリーを食べ進めている。
ちびたぬきは痛みと苦しみの中、本来たぬきの食料となるべき虫にコケにされた屈辱を晴らそうと立ち上がった。
口からは血が溢れ、痛みによって目からは涙が溢れているが、なんとしてでもこの怒りを晴らそうとカブトムシによろよろと駆け寄っていく。
「ｼﾈｼ…！ｼﾈｼ…！」
「ちび…？なんか血が出てないかし…？どっかケガしちゃったし…？」
ちびたぬきはカブトムシに飛び掛かるが、再び角が腹に食い込み、そのままひっくり返される。
「ｷﾞｯ…！」
先程と同じく腹を深く突かれ、とうとうジタバタも出来ずに土の上でぐったりと動かないちびたぬきであったが、命に別状は無かった。
カブトムシは"不殺の王者"である。どれだけ鬱陶しいちびたぬきであっても、その命を奪うことはしない。
「ｵｷﾞｭｯ…ｵｷﾞｭｯ…」
「ちび…！大変だし…！ちびが苦しそうだし…！」
邪魔者を追い払ったカブトムシはちびたぬきに対して止めを刺すことはせず、ただのんびりとゼリーを食べ進めている。
何度も何度も腹を突かれ、地面に叩きつけられたちびたぬきは体の内部がボロボロとなっていた。
もはや駆け出す体力も気力も失ったちびたぬきはカブトムシに背を向け、親たぬきへ向かって這い進む。
「ﾏﾏ…ﾀｽｹﾃｼ…ｲﾀｲｼ…ｸﾙｼｲｼ…」
「ちび…！ちび…！ままがすぐ助けるし…！」
親たぬきはちびたぬきを助けようと水槽の壁をもちもちと撫でるが、中に入る方法も分からず、ちびたぬきを取り出すことも出来ない。
親たぬきがもたもたとしている間も、ちびたぬきは血を吐き、顔は青ざめていく。それでも死には届かない。
どれだけ頼んでも親たぬきは慌てふためくばかりで、ちびたぬきに対して何もしてくれない。
やがてちびたぬきは再び親たぬきに向けて背を向け、のんびりとゼリーを食べ続けるカブトムシへ向かって這っていく。
「…ｺﾛｼﾃｼ…」
「ちび…！？」
痛みと苦しみに耐えきれず、親たぬきが助けてくれることも無いと察したちびたぬきは、カブトムシに向かって苦しみを終わらせるように懇願した。
「ｺﾛｼﾃｼ…ﾓｳﾔﾀﾞｼ…ｺﾛｼﾃｼ…」
ちびたぬきが這ったままカブトムシに縋りつく。すぐさま角が腹に食い込み、そのままひっくり返される。
「ｱ…ｷﾞｭｯ…」
地面に叩きつけられたちびたぬきは片方の目玉が飛び出し、全身の骨も至る所がへし折れているが、まだリポップまで辿り着けない。
カブトムシは"不殺の王者"である。どれだけ鬱陶しいちびたぬきであっても、その命を奪うことはしない。
「ﾀﾞ…ﾇ…」
「ちび…！しんじゃだめだし…！頑張って耐えるし…！すぐままが助けるし…！」
邪魔者を追い払ったカブトムシはちびたぬきに対して止めを刺すことはせず、ただのんびりとゼリーを食べ進めている。
水槽の外でだしだしと喚き散らすだけの親たぬきには目もくれず、ちびたぬきはカブトムシへ向かって這い進む。
「ｺﾛ…ｼﾃ…」
ちびたぬきはカブトムシへ辿り着く前に力を使い果たし、土の上にぺちゃりと顔を落とす。だが、まだ心臓は動きを止めない。
「ｺﾛｼﾃｼ…ｵﾜﾗｾﾃｼ…」
ちびたぬきは涙と血と泥に塗れた顔を上げ、カブトムシへ向かって心の底から懇願した。
カブトムシは"不殺の王者"である。どれだけ鬱陶しいちびたぬきであっても、その命を奪うことはしない。
「ｺﾛｼﾃｪ…ｺﾛｼﾃｼｨ…」
カブトムシは"不殺の王者"である。どれだけ鬱陶しいちびたぬきであっても、その命を奪うことはしない。
「ﾀﾞﾇ…ｺﾛ…ｼ…」
カブトムシは"不殺の王者"である。どれだけ鬱陶しいちびたぬきであっても、その命を奪うことはしない。
ちびたぬきはその場から動くことも出来ず、助けられることも無く、その身が朽ち果てるまでひたすらに死を願い続けていた。
「ｺﾛｼ…ﾃ…ｼ…ｺﾛ…ｾｪ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

子供達に捕まったたぬきの親子。子供達はなにやら箱を持ちだしてきて、親たぬきにやさしく話しかける。
この箱に手を入れ、触感だけで中に入ってるものを当てられたら二匹とも解放する。という遊びの誘いだった。
生き残るチャンスがあると知った親たぬきは二つ返事で引き受け、子供達は笑顔で親たぬきの拘束を解く。
「たぬきの知識を無礼るんじゃないし…伊達にリポップを繰り返してるわけじゃないし…」
「ﾊｶｾﾀﾇｷﾀﾞｼｰ！」
親たぬきは箱の両側に開けられた穴から腕を突っ込み、中のものをもちもちとこねくり回す。
「むむっ…なんだかヌルヌルしてるし…それに結構小さいし…そして動いてるし…ヌルヌルしたちびかし…？」
「ﾀﾇｷﾊｶｾﾀﾞｼｰ！」
親たぬきは両腕から伝わるぬるりとした感覚に対して正解を出せないまま、中の生き物を両手で弄び続ける。
箱の中にいるため今まさに撫でまわしている親たぬきからは見えないが、その生き物の体表はとても鮮やかな、あるいはド派手な色をしている。
その見た目から今では観賞用のペットとして飼育されることもあるが、古くは観賞用では無く、人間の生活に密接した用途で重宝されていた。
箱の中に鎮座するその生き物の名は、南米原産「ヤドクガエル」。日本にいる蛙とはあまりにもかけ離れた体色だが、大きさはあまり違いが無い。
しかしその名前に含まれている通り、この小さく可愛らしい生き物の体表には少しばかり毒が流れている。人間はその毒を狩猟用に用いていたのだ。
未だ撫で続ける親たぬきの両腕にしっかりと染みついたその毒の効果は非常に単純で、「触れたら死ぬ」。それだけである。
「あっ…！わかったし…！ヌルヌルじだ…ま˝…め˝…」
もちもちと手と口を動かしていた親たぬきが動きを止める。ヤドクガエルの神経毒が親たぬきの全身に回り、呼吸と心臓の鼓動が止まっていく。
苦しさと死の恐怖が親たぬきの全身を駆け巡り、助かる方法をかつてのたぬ生の記憶から探し出そうとするが、当然そんなものは無かった。
親たぬきは箱から毒塗れの両腕を引き抜いて喉を押さえ、目を見開いたまま仰向けに倒れると体をガクガクと激しく痙攣させながら窒息死した。
「アギュッ…アギュッ…ギュッ…」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

「ちび…さっきこの中にごはんとか勲章の材料とか色々しまってるの見たし…ままが中に入って役に立つもの探してみるし…」
「ｻｶﾞｽｼｰ！」
そう言って焼却炉の中へのたのたと入っていく親たぬき。それを目の前で見ていた用務員は特に気にせず焼却炉に火を点けた。
「あ゛づい゛しぃぃぃぃ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

二匹で仲良く手を繋ぎ、校舎内をトボトボと歩いている親子のたぬき。周りに子供達の姿はまったく見当たらない。
「よく分からないけど人間はお休みってのが続いてるみたいで厄介なちび共はいないし…ちび…今はここがたぬき達のお城だし…」
「ﾚﾝｷｭｰ！」
たぬきの生命を脅かす存在が居ない校舎内を、ちびたぬきは興味深そうに周囲を見回しながら進んでいった。
「ｽｺﾞｲｼ…ﾋﾛｲｼ…」
「ふふふ…静かでいい感じだし…もどきも人間も居ないならたぬき達の天下だし…ここでちびと平和に暮らすし…誰にもじゃまさせないし…」
特に食料等が見つからないまま一階を探索し終えた親子のたぬきは、新天地を目指そうと二階へ続く階段をもたもたとよじ登っていく。
全身を伸ばしてへりを掴み、一段一段必死によじ登っていくちびたぬきだったか、疲れから中間あたりで手足を滑らせてしまった。
「ｷﾞｭｫｫｫﾝ！」
「あっ！ちびぃぃぃぃ！」
ゴロゴロと階段に体を打ち付けながら一階まで転げ落ちるちびたぬき。最後は床に勢いよく頭を打ち付け、白目を剥きながら泡を吹き出した。
「ちび…！しっかりするし…！今助けを呼ぶし…！助けが来るまで頑張るんだし…！」
「ﾌﾞｷﾞｭｯ…！ｸﾞｼﾞｯ…！ｷﾞｭｼﾞｼﾞｯ…！」
ちびたぬきの意思で行っているのか脳が勝手にさせているのかはわからないが、ジタバタと暴れるちびたぬきを抱き留めながら親たぬきは口を開く。
「誰かぁ…！たぬきのちびがケガしちゃったし…！助けて欲しいし…！誰でもいいから早く来てしぃ…！ちびが大変なんだしぃ…！」
「ﾌﾞｼﾞｭｯ…ｳｼﾞｭｯ…」
「ちび…！もうちょっと頑張るし…！すぐにお医者さんが来てくれるし…！誰か…！ちびが…！ちびがピンチなんだし…！ちびがぁ…！」
ちびたぬきの吐き出す泡に塗れながら必死にちびたぬきを励ます親たぬき。たぬきなりの全力で叫び続けるが、無人の校舎内に響き渡るだけだった。
他のたぬきが助けに来ることも、人間やもどきがやってきて苦しみを終わらせることも無く、その命を使い果たすまでちびたぬきは苦痛を味わう。
救護することも無くただ叫び続け無駄に時間を浪費する親たぬきの声を聞きながら、ちびたぬきはゆっくりと辛いことばかりのたぬ生を終わらせた。
「ｼﾞｭ…ｸﾞｷﾞ…ｷﾞ…」
「ちびがぁぁぁぁ！ちびがぁぁぁぁ！」

休日の小学校に忍び込んだ親子のたぬき。ちびたぬきは大好きな親たぬきに手を引かれ、見知らぬ巨大な建物内を探索してご機嫌な様子だった。
「ちび…よくわからないけど今日はこの建物に人間のちび共が集まってないし…今のうちにここに引っ越しておくし…」
「ﾋｯｺｼｰ！」
自分達にぴったりな寝床を見つけようと廊下をもちもちと進むたぬきの親子。角を曲がった際に出くわした用務員の手で麻袋に詰め込まれてしまう。
「ひぃぃぃ…出してし…たぬきが何をしたって言うんだし…こんなの許されないし…」
「ｸﾙｼ…」
用務員は麻袋を何度か床に叩きつけて中身を大人しくさせたあと袋を担いで中庭へ向かうと、そこにある檻の扉を開けて麻袋をひっくり返した。
麻袋の暗闇の中でぐったりとしていたたぬきの親子はごろごろと転がり落ちて、日の差す藁の敷かれた地面でぼよんぼよんと二匹揃って軽く弾む。
「いたた…し…ちび…大丈夫かし…ここは檻の中かし…？まさか保健所に連れてかれたのかし…？」
「ﾓｳｵｼﾏｲﾀﾞｼ…」
親たぬきはかつてのたぬ生で何度も放り込まれた保健所の檻の中にいるのかと思い、慌てて周囲を見回した。
保健所の檻ならば他にも沢山のたぬきが捕まっているはずだが、檻の中から感じるたぬきの気配は自分達だけ。
記憶の中の冷たい暗闇とは違い、檻は屋外に置かれていて十分な明るさを持ち、床には藁が敷かれて地面の冷たさから肌を保護している。
保健所ではたぬきに与えられるものは毒ガスだけだったが、この檻には今は空だが餌置きらしき窪みと、水の張られた皿が用意されている。
親たぬきは明らかに記憶とは違う檻の様相に戸惑っていたが、奥に巣箱のようなたぬきサイズの寝床を見つけると、一つの結論に辿り着いた。
「ちび…思ってたのとちょっと違うけどたぬき達は飼いたぬきになったんだし…もう惨めで哀れな野良たぬき共と同じ生活をする必要は無いし…」
「ｴﾗﾊﾞﾚｼﾀﾇｷﾀﾞｼ…」
親たぬきは、飼い主が姿を見せたら檻では無く家の中で飼うように要求しよう、と考えながらちびたぬきと一緒に皿の水に顔を突っ込み飲んでいく。
「ごくごくし…お水も飲み放題だし…うどんだって食べ放題だし…屋根もあるから雨も気にならないし…壁は無いけどし…ぐびぐびし…」
「ｶﾁｸﾞﾐﾀﾞｼｰ！」
これから始まる輝かしい未来を夢見るちびたぬきの歓声に反応し、奥の寝床から4匹の飼いもどきが這い出してきた。
「あれ…なんでたぬきのベッドからもどきが出てくるし…？たぬきのおうちがもどき臭くなっちゃうし…飼い主に掃除するよう頼んどくし…」
飼いたぬきである自分はもどきから保護されていると考えるたぬきは、もどきを目の前にしても怯えることも無く愚痴をこぼすばかり。
そんな親たぬきの眉間に振り下ろされたもどきの爪が食い込み、そして引き裂かれる。血の吹き出す眉間を押さえながら、親たぬきは全力で叫んだ。
「いやあぁぁぁっし！飼い主早く来いし！もどきごときが飼いたぬきを食べようとしてるし！飼いたぬきが食べられちゃうし！早く追い出してし！」
助けを求め、叫び続ける親たぬきの四肢にもどきが一本ずつ噛みつく。そしてぶちりとそれぞれが咥えた手足をもぎ取った。
助けを求める言葉が苦痛を示す鳴き声に変わり、大きな頭と丸々とした胴体だけになった親たぬきが藁の床を転がる。
「ひぎぃぃ…これじゃもうダンスもお散歩も出来ないしぃ…せっかく飼いたぬきになれたのにしぃ…ダヌゥゥゥゥ…」
ダヌダヌ呟く親たぬきだったが、もどきの関心は既に自分からちびたぬきへ移っていることに気付くと、ぐねぐねと体を捩らせて慌てだす。
「ﾏﾏｧｧｧｯ！ﾓﾄﾞｷｶﾞｸﾙｼｨｨｨ！」
「ちびには手を出すんじゃないしぃぃぃ…！たぬきのパンチを食らってもいいのかし…！…もうパンチ出来なかったし…」
四匹のもどきはその場でビタンビタンとのたうち回る親たぬきを気にも留めず、ちびたぬきを四方から取り囲んだ。
「ｲﾔｧｧ…ﾀﾍﾞﾅｲﾃﾞｼ…ｷﾞｭｩ…」
ジタバタを忘れる程の恐怖に包まれたちびたぬきは目に涙を溜め、視界を埋め尽くす捕食者に命乞いをするが、特に効果は無い。
「ああ…ちびが食べられちゃうし…！飼い主早く来てしぃ…！早く助けてしぃ…！大事な飼いちびがピンチだしぃ…！」
ちびたぬきの後方に居たもどきがちびたぬきの頭に爪を突き立てると、そのまま後方へ引っ張り乱暴に引き倒した。
そしてもどき達は仰向けに倒れるちびたぬきの手足を噛み千切り、逃げられなくなった獲物の顔をにっこりと覗き込む。
ちびたぬきは目を逸らすことも出来ずに四匹のもどきの顔を見上げたが、もどき達の顔の向こう側から一人の人間が覗き込んでいることに気付いた。
その人間は手にした火ばさみで密着するもどき達の顔を掻き分け、中心にいる四肢を失い怯え切ったちびたぬきを持ち上げる。
もどきは空中へと連れ去られていく餌に追いすがるでも無く、ちびたぬきのような鳴き声を情けなく鳴らすだけで抵抗は無い。
「さっきの人間だし…やっと飼い主が助けに来たし…遅すぎるし…たぬきもちびもまんまるになっちゃったし…どう責任取るつもりだし…」
「ｷｭﾜ…」
地面に転がったままの親たぬきは、ちびたぬきを助け出した人間に助けが遅いと抗議の声を上げる。
火ばさみに挟まれたままのちびたぬきは助かった安堵よりも、手足を失った絶望と恐怖から暴れることも無くぐったりと運ばれていく。
「こうなったらおはようからおやすみまでちゃんと面倒見るし…うどんもたぬきとちびにお前が食べさせるし…というか早くもどき追い払ってし…」
「ｷｭ…ｳ…ﾄﾞﾝ…」
うどんを食べられると聞いたちびたぬきはいくらか元気を取り戻し、項垂れながらも親たぬきと共に飼いたぬきとして当然と考える要求を語る。
「トイレの時もお前が抱っこするし…終わったらちゃんと片づけるし…うどんは一日五回でいいし…寝るとこはふわふわのベッドがいいし…」
「ｳﾄﾞﾝ…ﾀﾍﾞﾃﾐﾀｲｼ…」
人間はたぬきの親子の言葉には耳を貸さず、もどき達もただ空中を移動するちびたぬきを視線で追うばかり。
「もちもちも出来ないからもちもち用の奴隷たぬきを連れてくるし…その辺の野良じゃダメだし…もちもちなたぬきがいいし…聞いてるのかし…？」
「ｲﾂﾃﾞﾓﾓﾁﾓﾁ…」
タヌタヌと要求を続ける親たぬきに対して無視を続ける人間は、幸福な飼いたぬき生活を夢見てうっとりとするちびたぬきを餌置きの上に落とした。
「ん…？なんでちびをそこに置いたし…？そこはごはんを置くところだし…ちびはごはんじゃないし…」
「ﾌｶﾌｶﾍﾞｯﾄﾞｶﾞｲｲｼ…」
餌置きの上にごはんを置かれたもどき達はちびたぬきに群がると、爪と牙でちびたぬきの肉を抉り取り、ちびたぬきをただの肉塊に作り替えていく。
体をくねらせることしか出来ない親たぬきの目の前で、ちびたぬきの血しぶきと中身がびちゃびちゃと餌置きの上に飛び散っていった。
「ﾅﾝﾃﾞｯ！ｳｷﾞｭｯ！ﾔﾒﾃﾞｯ！ｷﾞｭｧｯ！ﾌﾞｷﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

小学校に侵入したたぬきの親子。既に日は落ち、校舎内を僅かな誘導灯や防犯灯の明りのみが照らしている。
「ししし…夜中なら人間どもはいないし…今ならこの建物を好きに探検出来るし…」
「ﾖｱｿﾋﾞｼｰ！」
厄介な人間がいない時間帯を狙ってやって来たものの、たぬき自身は夜目が効くわけでもなく、次第に不気味な雰囲気に呑まれていくたぬきの親子。
「誰も居ないとそれはそれで怖いし…なんで明りが緑とか青とかなんだし…ちび…ちゃんとままの後ろにくっついてるし…」
「ﾌﾞｷﾐｼ…」
ちびたぬきは小さな手で親たぬきの裾をぎゅっと掴み、親子で並んでぽてぽてと静寂に包まれる夜の校舎内を進んでいく。
もはや自分達が音を発することすら恐怖の対象になったのか、二匹のたぬきは口を開くこと無く、足音も立てないようにそろりそろりと歩いていく。
収穫も何も無いまま奥へ奥へと入り込んでしまったたぬきの親子だったが、恐怖に耐えられなくなったちびたぬきがとうとう泣き出してしまう。
「ﾓｳﾔﾀﾞｼｨ…ｶｴﾘﾀｲｼｨ…ﾔﾀﾞｼｨ…」
「おお…よしよし…ちび…泣かないでし…そうだねし…もう帰ろうし…よしよし…」
親たぬきはぐずぐずと泣くちびたぬきを優しく撫で、こんなところから出て住処へ帰ろうと元来た道へ振り返る。
振り返った親たぬきの先に広がるのはどこまでも続く漆黒の闇で、もはや床があるのかどうかすらわからない。
その闇を見つめることに恐怖を感じた親たぬきは、反射的に先程まで進んでいた方向へと再度向き直った。
向き直った親たぬきの先に広がるのはどこまでも続く漆黒の闇で、もはや床があるのかどうかすらわからない。
「あ…あれ…なんでだし…さっきまではあっちも向こうも明りがあったはずだし…なんで急に真っ暗だし…」
僅かな明かりではあったがたぬきの親子はここまで誘導灯に照らされた廊下を進んできたし、先に見える明りを目印に進もうとしていたはずだった。
しかし今点灯している明りはたぬきの親子の頭上にある非常口への案内看板のみで、親子たぬきの周囲だけを緑色に淡く照らしている。
どれだけ首を振っても、目をごしごしと擦っても、自分の周りに広がるのは黒一色。
親たぬきはどの方向にも進むことが出来ず、すすり泣くちびたぬきと共に恐怖で動けなくなっていたが、突然妙な寒気が背筋を襲う。
リポップという特性を持つたぬき達には幽霊という概念は理解できないが、何か良くない状況であることは親たぬきにも感じられた。
とにかくこのままここに居てはまずいことになるというのは分かるが、どこへ行けばいいのか親たぬきには分からない。
あちらの暗闇から何かが近づいている気もするし、向こうの暗闇の中で何かが蠢いているような気もする。
「はあはあし…だ…誰かいるのかし…いるなら…返事してし…」
「ｷｭ…」
良くない予感はヒリヒリと感じられるが、親たぬきに状況は何も変えられない。自分の行動で何か起こることに怯え、一歩踏み出すことも出来ない。
「ああ…もうやだし…帰りたいし…たぬき達は帰りたいだけなんだし…こわいしぃ…ああぁ…」
「ｷﾞｭｩ…」
恐怖でハアハアと荒い呼吸を続け、死角に何か気配を感じては顔を向け、背筋は凍るように冷たくとも脂汗の止まらない親たぬき。
不気味な緑色の中にぽつんと立つたぬきの親子の緊張が限界に達したところで、遠くから「ぴちょんっ」と雫の垂れる音が聞こえた。
「うひゃああっし…！」
「ｱﾞｯ」
なんてことの無い、普段なら気にも留めないようなささやかな音だったが、親たぬきは驚きのあまり飛び上がる。
慌てすぎた親たぬきは着地に失敗し、豪快な尻もちをついてしまう。
「あいたたた…し…びっくりしたし…ただの水の音だし…いたたし…はずかし…」
腰をさすりながらもたもたと立ち上がる親たぬき。立ち上がった視界に浮かぶのは変わらず暗闇だけだが、ふと違和感に気付く。
「あれ…ちびどこ行ったし…ちび…？どこだし…？どこ行ったし…！ちび…！」
親たぬきは飛び上がった際に潰してしまったのではと思い、真っ先に自分の尻を揉むが、ちびたぬきが貼り付いていたりはしなかった。
辺りを見回し、ちびたぬきを探す親たぬきだったが見える範囲には居ない。返事も無い。
もしやこの暗闇の奥へころころと転がってしまったのでは。親たぬきはそう考えたが、どの方向へ転がって行ったのかすら分からない。
親たぬきは相変わらず何も出来ず、ただ一匹オロオロとするばかり。そんな親たぬきの額へ、「ぴちょんっ」と雫が一滴垂れて来た。
「うひゃあっし…！な…なんだし…？雨かし…？」
親たぬきは屋内なのに雨でも降り始めたのかと思い、何の気なしに天井を見上げる。
そして、たぬきとは思えぬほどに恐怖で歪んだ表情を浮かべ、呪詛の如く醜い呻き声を上げるちびたぬきと目が合う。
まるで天井から生えているかのように、下半身がぐずぐずに溶けたちびたぬきが血や肉の雫を垂らしながら上下逆さまにぶら下がっていた。
「ｱﾞ…ｱﾞｯ…ｱﾞ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

夜の学校に忍び込んだたぬきの親子。どこに何があるのか知る由も無く、ただ手当たり次第に目に付いた教室へ入っていた。
「なんだかこの部屋からすごいしょんぼりを感じるし…ちゃちゃっとごはん探してさっさと出るし…」
「ﾃﾊﾞﾔｸｼ…」
たぬきの親子が忍び込んだ部屋は理科室であり、大量のたぬきがここで生きたまま腹を切り開かれていったことを二匹は感じ取ったのかも知れない。
二匹は廊下に続く窓から差し込む朧げな明かりを頼りに、惨劇の舞台となった机の隙間をトボトボと歩いていく。
もちもちと部屋の奥へ進むたぬきの親子だったが、ふと二人分の人影を見つけ、親たぬきは驚いて立ち止まった。
「ダヌッ…！だ…誰だし…！人間が何でこんなところにいるし…！驚かすんじゃないし…！」
「ﾃﾞﾃｹｼｰ！」
ジタバタと威嚇を始めたたぬきの親子だが、人影は去ることも無く近づくことも無く、ただ壁際で静かに立ち続けている。
親子たぬきの息が上がったところで、ようやく異変に気付いた親たぬきがジタバタをやめて立ちあがり、恐る恐る人影へ近づいていった。
「ありゃ…よく見たらこれ人形だし…あーびっくりしたし…人間じゃ無かったし…はずかし…」
「ｸﾞﾛｲｼｰ！」
たぬきの親子は、壁際に設置された人体模型と人の骨格標本を人間と勘違いしてしまったようだ。
二匹は少しばかり恥ずかしがりながらも、それ以上に人間で無かったことに安堵している。
「しかしよく出来てるし…もどきに襲われたたぬきみたいに内臓まるだし…こっちは誰にも拾われなかったちびみたいに骨だけだし…」
「ｷﾓｲｼ…」
親たぬきは二体の人形を見て、街中で見かけた同族達の末路を頭に浮かべる。思わず連想してしまった哀れな姿に、恐怖が再び足元から這い戻った。
「うう…変な想像したらなんだか怖くなってきたし…ちび…この部屋はもういいし…ここから出るし…」
「ﾂｷﾞｲｷﾏｽ…」
ちびたぬきの手を引き、廊下へと戻るため再び机の隙間をトボトボと歩いていく親たぬき。
廊下へと続くドアまであと少しのところで、親たぬきは背筋にムズムズとした寒気を感じ、不安感から立ち止まる。
足元のちびたぬきもやはり不安そうにぐいぐいと親たぬきの服を引っ張っている。親たぬきはちびたぬきへ顔を向け、頭をもちもちと撫でた。
その時、足元を照らしていた廊下からの光が何かに遮られ、たぬきの親子の足元に影を作り出す。
反射的に二匹が顔を上げると、理科室を横切るように、窓の向こうで長い髪を垂らした人らしき影がヒタッヒタッと足音を立てながら移動していた。
たぬきに幽霊というものが理解出来なくても、あれが人間で無いことは親たぬきでも即座に理解出来た。そして絶対に見つかってはいけないことも。
親たぬきは全身の血の気が引いていくのを感じながら、悲鳴すらも飲み込み、あれがこちらに気付かないまま通り過ぎるのを心の中で祈っていた。
「ﾋｯ…ｷﾞｭ…」
親たぬきの服を掴むちびたぬきから恐怖の嗚咽が漏れる。そして、あれの足音もピタリと止まった。
あれがゆっくりとこちらへ向き直るのを見た親たぬきは全速でちびたぬきを抱きかかえ、机の脚に身を隠す。
恐怖で涙を流すちびたぬきの口をもちもちの手で塞ぎながら、親たぬきは荒い呼吸をし、自身も涙を浮かべる。
机の影なら向こうから見えないが、こちらからもあれが見えない。親たぬきは耳を澄まし、ここへ来たことを後悔しながら恐怖に耐える。
親たぬきの耳にはヒタヒタとした足音も、ドアを開けて入ってくる音も聞こえない。
「も…もう行ったのかし…あれは一体なんなんだし…もどきより怖いし…」
「ﾔﾀﾞｧ…」
親たぬきは机の影から恐る恐る顔を出し、廊下の様子を伺う。
廊下は見えなかったが、窓に顔を貼り付かせ、長い前髪の隙間から血走った目でこちらを伺う黒い影ははっきりと確認できた。
「アヒッ…ひいぃっし…ちび…逃げるしぃ…」
腰を抜かした親たぬきは、ちびたぬきを引きずるようにして少しでもあれから遠ざかろうと部屋の奥へ戻ろうとする。
そして振り返った瞬間、親たぬきは顔面を固い何かに打ち付け、尻もちをついてしまう。
親たぬきは尻と鼻血の垂れる顔の中央をさすり、ちびたぬきも引っ張っていた親たぬきが転んだことで釣られて床に叩きつけられてしまった。
「あいたたた…し…」
「ｳｷﾞｭｰ…」
親たぬきは先程ぶつかった白い物体を見上げ、再び素っ頓狂な声を上げた。
「うひゃぁぁ！化け物だしぃ！…あ…なんだし…さっきの骨だけ人形だし…おどかすなし…ちび…大丈夫かし…早く奥へ逃げるし…」
親たぬきはちびたぬきを掴もうと手を伸ばし、立ち塞がる骨格標本の足の隙間を潜ろうとして、ふと違和感に気付く。
「あれ…なんでここに人形があるし…？さっきはあっちの壁際に二匹で立ってたはずだし…」
そう言った親たぬきは先程人体模型と骨格標本が立っていた方へ目をやるが、そこには張り紙すら無い寂しげな壁があるだけだった。
親たぬきは表情こそいつものしょんぼり顔だが、顔色を真っ青に変え、脂汗を吹き出しながらそっと骨格標本を見上げる。
明らかに、その頭蓋骨は親たぬきを見下ろしていた。
親たぬきが悲鳴を飲み込み切れず、何かを叫ぼうとしたところで骨格標本のゴツゴツとした腕が親たぬきの胴体を掴み持ち上げる。
そして親たぬきの頭目掛けて自分の頭を叩きつけ、容易く親たぬきの頭蓋骨をへこませる。
「ぐじっ……うじ…」
頭の陥没した親たぬきは口から泡を吹きながら何事かを呟いている。骨格標本は一度頭を上げると、再び親たぬきの頭蓋骨目掛けて振り下ろした。
「グギュッ！…ぐじじぃぃ…ぐじゅじゅ…」
そのもちもちの皮膚や肉を自身に擦りつけるように、骨格標本は何度も何度も親たぬきの割れた頭に自分の頭蓋骨を叩きつけ続けた。
「ウギッ！ゴッ！ブギュッ！ゴゲッ！アギュッ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

深夜の小学校に侵入したたぬきの親子。真っ暗な廊下を進んでいたが、ふと親たぬきが背筋に不気味な寒気を感じ、もちもちと振り返る。
進行方向と同じく、後方も真っ暗な空間が広がるばかりだったが、その暗がりに赤い点が浮かんでいた。
「…なんだし…？」
親たぬきは目を凝らし、元から細い目をじっと細め、その何かの正体を突き止めようとする。
それは僅かに光を反射しており、白地に曲がりくねった赤い線がたくさん走っていて、中心部は茶色や黒の円で彩られている。
親たぬきはそれが人の目であることを少しばかり遅れて認識すると、ちびたぬきの手を掴み、反対方向へ一目散に駆け出した。
親たぬきはあまりの恐怖に目から口から鼻から液体を垂れ流しながら全力で走る。ちびたぬきは引きずられ、床の木材で体を削られていく。
「うびゃあああっしぃぃぃぃ！出たしぃぃぃぃ！」
「ｳｼﾞｼﾞｼﾞｨｨｨｯ！ｳｷﾞｷﾞｷﾞｨｨｯ！！」
たぬきが全速を出したところで大抵の生き物から逃げることが出来ないが、親たぬきは振り返ること無く廊下をぽてぽてと駆けて行った。
廊下の曲がり角が見えて来たところで、壁が明るく照らされていることに気付く。その明りはゆらゆらと動き、ついには角を曲がってこちらへ向く。
角を曲がってやって来たのは制服に身を包んだ警備員で、手に持ったライトで床や壁を照らしながらこちらへ歩いて来ていた。
「あ…ああっ…！明るいし…！人間だしぃ…！助かったしぃ…！」
「ﾏﾌﾞｼｰ！」
親たぬきはそのまま真っすぐ警備員の下へ向かい、その足に縋りついて顔の液体をズボンで拭いながら助けを求めた。
「ああああっちに化け物がいるしぃぃぃ…！たぬき達を助けてしぃ…！早くここから連れ出してしぃ…！」
「ﾓｳｺｺﾊﾔﾀﾞｼｰ！」
警備員は膝を付き、纏わりつくたぬきの親子を優しく足から引き離すと、不法侵入たぬである親たぬきの頭に警棒を思い切りめり込ませた。
「ベギュッ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

夜中の学校に忍び込んだたぬきの親子だったが、校舎内で得体の知れない存在と出会ってしまい、あちこち逃げ回る内に二匹ははぐれてしまった。
親たぬきは居なくなったちびたぬきを探す為、孤独に校舎内を歩き回っているが、大声で呼びかけることも出来ない状況では中々見つけられない。
「ちび…どこだし…居たら返事するし…ちび…」
小さな声で呼びかけたところで、親たぬきの声は暗闇の中に吸い込まれていくばかり。
親たぬきは泣きそうになるが、この暗闇のどこかで震えているであろうちびたぬきの為にも諦めるわけにはいかなかった。
親たぬきは廊下の曲がり角に辿り着き、壁から頭だけをひょこっとはみ出させ、曲がった先を覗き込む。
親たぬきは壁際に立ってこちらを向いている人体模型に少し驚いたが、それ以外は異変を感じられず、ほっと一息ついて廊下を進みだした。
そろそろと廊下を進む親たぬき。教室の前を通りかかる度に扉をそっと開けては中を覗き込み、小さな声でちびたぬきへ呼びかける。
何度繰り返したか分からないが、どこからもちびたぬきからの返事は無い。親たぬきは扉をそっと閉めてまたトボトボと廊下を歩きだした。
「しかしこの人形よく出来てるし…内臓なんて見せつけて何が楽しいんだろし…キモいし…人間なのにもどきに襲われた間抜けかし…」
次の教室へ向かおうとした親たぬきは、廊下に佇む人体模型のそばをタヌタヌと呟きながら通り過ぎていく。
廊下の角まで進んだ親たぬきは先程と同じように先の様子を伺おうとするが、突然背後に何者かの気配を感じ、慌てて通ってきた廊下を振り返る。
振り返りはしたが、先程と変わらず人体模型がこちらを向いて立っているのが見えるぐらいで、ちびたぬきも、それ以外の何かも居ない。
「…気のせいかし…ちょっと緊張しすぎてるみたいだし…早くちびを見つけて帰るし…」
自分の頬をもちもちとこね回して気を取り直し、ひょこっと頭を出して曲がり角の先を確認する親たぬき。ただ廊下が続いているだけであった。
また同じように廊下を進み、教室の扉を開け、中で孤独に泣いているかも知れないちびたぬきへ向かって声をかける。
「…ここにもいないし…たぬきは諦めないし…ちび…必ず見つけてあげるし…次の部屋行くし…」
扉を閉め、隣の教室へ向けて歩きだそうとした親たぬきだったが、背筋に不快な寒気を感じ、両腕で体を抱えてぶるぶると震える。
「ううっ…夜は寒いし…ちびもきっと凍えてるし…はやくこのもち肌で癒してやりたいし…おや…？」
ぽてりぽてりと歩きだした親たぬきは、廊下の真ん中で、道を塞ぐようにして立っている人体模型に気付く。
「またあの人形かし…なんで人間達はこんな人形をそこら中においておくんだし…邪魔だし不気味だし…」
横を通り過ぎようと人体模型に近づいていく親たぬきだったが、距離を縮めてその姿がはっきりと見えるようになると様子がおかしいことに気付く。
今立ち塞がっている人体模型は、内臓や筋肉の露出していた部分がすべて肌色の皮で覆われ、中身が見えなくなっていた。
「さっき見かけたのとは見た目が違うし…もどきに襲われてないタイプの人形かし…そんなバリエーションいらないし…」
文句を言い続ける親たぬきだったが、人体模型が片手に握りしめている赤い塊が突然ぐねぐねと動き出すと、腰を抜かして床に尻もちをつく。
「あいたたた…し…な…なんだしあれ…芋虫みたいでキモイし…」
親たぬきは今にもこちらへ飛び出して来そうな肉塊に注目し、その視界の端に映った人体模型の皮膚を思わず凝視する。
人体模型を覆っていたのは、切り開かれたたくさんのたぬきの皮だった。
骨も肉も無く、眼球も感情も無いたくさんのたぬき達が親たぬきを見つめている。
「あ…ひぃっし…」
どのたぬきの皮からも血が滴り落ちており、ついさっき剥ぎ取られたばかりのようだった。そんな事実に気付いた親たぬきは思わず後ずさる。
そして親たぬきを見つめるたくさんのしょんぼり顔の中に見覚えのある顔を見つけると同時に、赤い肉塊が消えてしまいそうな声でぽつりと鳴いた。
「ﾏﾞ…ﾏﾞ…ﾐﾂ…ｹ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

夜更けの小学校を探索中にこの世のものとは思えないような化け物に襲われ、離れ離れになってしまったたぬきの親子。
いつ化け物と再会してもおかしく無い中、親たぬきは震える足を必死に動かし、真っ暗な校舎内でちびたぬきを孤独に探し回っている。
トボトボと校舎内を歩き続けていたが、ある時正面に一匹の成たぬきが立っていることに気が付いた。
「た…たぬきだし…！こんなとこで会えるなんてびっくりだし…もしかしたらちびのこと知ってるかもしれないし…」
親たぬきは大きく手を振りながら成たぬきへ向かって駆け出す。すると相手もこちらに気付いたのか、同じく手を振りながらこちらへ駆けてくる。
「見た目は汚らしいけど気が合いそうなたぬきだし…まずはもちもちしてやるし…」
やがて目の前にやって来た二匹は揃った動きで互いをもちもちしようとするが、相手の感触は固く、そしてひんやりとしていた。
「あ…これ鏡だし…たぬきなんていなかったし…たぬきの姿をたぬきと勘違いしちゃったし…はずかし…」
一匹ではしゃいでいたことに照れて頭を掻き、そして仲間は居なかったことにしょんぼりと肩を落とす親たぬき。
少しの間がっくりと足元を見つめていた親たぬきだったが、背筋に纏わりつくような寒気を感じ、ハッと顔を上げる。
親たぬきの正面には鏡に映った自分が立っており、その肩越しに輪郭の定まらない不気味な黒い塊がこちらへ近づいて来ているのが見受けられた。
「ひぃぃっしっ…！こっち来ないでし…！」
親たぬきは悲鳴を上げ、振り返って身構える。しかしそこには暗闇が広がるばかりで、先程見えた黒い塊はどこにもいない。
「あれ…気のせいかし…確かにいたんだし…」
親たぬきは再度鏡へ向き直る。親たぬきの正面には鏡に映ったぐちゃぐちゃの肉塊が床を這っており、それ以外には何も見受けられなかった。
「ぶしゅっ…ぐじゅじゅっ…」
親たぬきは鏡に映った醜い化け物に驚き、声を出そうとして口らしき器官から体液を吹き出す。
いつの間にか親たぬきはたぬきのもちもちとした肉体を失い、固体と液体の中間のような肉の塊と成り果てていた。
（な…なんで動けないし…たぬきはどうなっちゃったんだし…）
当然だが現状を飲み込めない親たぬきは、既に存在しない手足を使ってジタバタしようと試みるが、ぶよぶよと震えるばかりであった。
ジタバタも何も出来ず、ただ戸惑うばかりの親たぬきに向かって、小さな影がトボトボと近づいて来る。
「ﾏﾏ…ﾄﾞｺﾀﾞｼｨ…ﾁﾋﾞﾊｺｺﾀﾞｼｨ…」
（あっ…！ちびだし…！やっと見つけたし…！無事でよかったし…）
ひっくひっくと泣きながら歩いているちびたぬきを見つけ、親たぬきはすぐにでも安心させてやりたいとちびたぬきに大きな声で呼びかける。
（ちび…！ちび…！こっちだし…！ままはここだし…！）
「ﾋｨｨｨｨ！」
ちびたぬきは暗がりに潜んでいた化け物がぶしゅぶしゅと何かを吹き出したことに驚き、後ろ向きに倒れてころころと転がってしまう。
（ちび…びっくりさせちゃったのかし…ごめんし…お詫びにちびの大好きなもちもちしてやるし…なんだかうまく動けないし…）
「ｺﾅｲﾃﾞｼｨｨｨ！ﾏﾏﾀｽｹﾃｼｨｨ！」
ちびたぬきはゆっくりとこちらへ近づいて来る化け物に怯え、ジタバタしながら泣き叫び親たぬきへ助けを求める。
（ど…どうしたし…ちび…ままだし…ままともちもちするし…）
自分がまだもちもちの肌を保っていると考える親たぬきは、ちびたぬきが何に怯えているのかも分からず、ゆっくりと近づき続ける。
どれだけ暴れても向かってくる化け物から身を守ろうと、ちびたぬきはどこかで拾った鉛筆を掴んで立ち上がった。
「ｸﾙﾅｼｨｨｨ！」
ちびたぬきは無我夢中で鉛筆を振り回し、迫りくる化け物を尖った先端でチクチクと刺す。
（痛っ！痛っし…！ちびやめるし…！ままを刺しちゃだめなんだし…！痛いし…！）
明らかに化け物が怯んでいることを感じたちびたぬきは、先程までの恐怖を忘れ、調子に乗って自分の力を化け物に見せつけ続けた。
「ｼﾈｼ…！ｷﾓｲｼ…！ﾀﾇｷﾉﾃｷｼﾞｬﾅｲｼ…！」
（やめるし…！ちび…！どうしちゃったんだし…！やめろ…！もう限界だし…誰でもいいからちびを止めてし…！）
どれだけ言っても自分への攻撃をやめないちびたぬきに対してどうにも出来ず、他のたぬきへ助けを求める親たぬき。
そんな化け物とちびたぬきの下へ、暗闇から一匹のたぬきが笑顔を浮かべながらのそりと現れる。
（た…たぬきだし…！助かったし…！あれ…あのたぬき…たぬきだし…）
「ﾏﾏｰ！」
やって来たたぬきは、人間には見分けが付かないが親たぬきとまるで同じ様相だった。
ちびたぬきも親たぬきであると信じて疑わず、にっこりと笑顔のまま一言も発さずに近づいて来るたぬきへ向かって駆けて行く。
（ちび…！ままはこっちだし…！あれはままじゃないし…！そっちに行っちゃダメだし…！）
親たぬきが鉛筆で刺された痛みで意識が朦朧としていく中、ちびたぬきは未だに液体を吹き出し続ける肉塊に鉛筆を投げつけ、悪態をつく。
ちびたぬきが笑顔のたぬきにキュウキュウと甘えた声でもちもちをせがむと、暗がりから別のたぬきがぞろぞろと現れる。
「ｱﾚ…ﾏﾏｶﾞｲｯﾊﾟｲﾀﾞｼ…」
どれも親たぬきと同じ見た目であるらしく、笑顔のたぬきに囲まれたちびたぬきはキョロキョロとそれぞれの顔を見回している。
流石に様子がおかしいことに気付いたのか、ちびたぬきはぷるぷると震えながら、周りを囲む笑顔のたぬき達に問いかける。
「ﾏ、ﾏﾏ…ﾄﾞｳｼﾀｼ…ﾅﾆｶｲｯﾃｼ…」
（ち…び…逃げる…し…それはままじゃない…し…）
問いかけに答えることも無く、笑顔のたぬき達はちびたぬきへ一斉に腕を伸ばし、その小さな体をもちもちと生地を伸ばすようにこねくり回す。
親たぬきが体中の痛みで意識を失う前に見たのは、ちびたぬきに群がり肉体をぶちぶちと食いちぎっていく何匹もの自分の姿だった。
「ﾏﾏｧｧｧｧ！ﾔﾒﾃﾞｪｪｪｪ！ｲﾔｧｧｧｧ！」
「じゅじじじ…じゅじじじ…」

丑三つ時に小学校へ入り込んだたぬきの親子。探索中、背筋に妙な寒気を感じたかと思うと、青白い顔をした髪の長い人影と遭遇してしまう。
それがこの世の物では無いと本能で察したたぬきの親子はあまりの恐怖から校舎内を逃げ回り、今はどこかの教室のロッカーに隠れている。
「ひぃっ…ひぃっし…ちび…静かにするし…ここならきっと見つからないし…ここに隠れてやり過ごすし…」
「ｷﾞｭｰ…」
ガタガタと震えるちびたぬきを抱きしめる親たぬき。そんな親たぬきの耳に、教室のドアが開かれる音が聞こえて来た。
「あひぃっし…入ってきたし…！だ、大丈夫だし…絶対に見つからないはずだし…絶対大丈夫だし…」
親たぬきは恐怖で呼吸が荒くなり、変な汗も溢れているが、外の音を聞き逃さないよう耳を澄ませる。
ヒタッヒタッという足音が遠くに聞こえ、近くに聞こえ、また遠くに聞こえる。どうやら教室内を探し回っているらしい。
「ｷﾞｭｳ…」
ほんの小さな声だったが、恐怖の限界に達したちびたぬきの口から鳴き声が漏れ出すと、外の足音が止まる。
血の気の引いた親たぬきはとっさにちびたぬきの口を手で押さえ、じっと息を潜めた。
足音はまっすぐこちらへ近づいて来る。親たぬきはぎゅっと目を閉じ、泣き出したいのを必死に堪えている。
足音はロッカーの目の前までやって来て、そして止まる。親たぬきは心臓が経験したことの無い程に暴れているのを感じながら、それでも口を紡ぐ。
恐怖で互いをぎゅっと抱き合う親子たぬきだったが、ロッカーの扉が開けられることは無く、足音は再び遠ざかっていく。
「…？こ…来ないのかし…？助かったのかし…」
「ﾓｳﾔﾀﾞｼ…」
たぬきの親子はふーっと一旦深く息を吐き、そして再び息を潜める。足音はまだ教室内をうろついている。
「ちび…耐えるし…あれが居なくなるまでここで隠れてるし…ああいうのは朝になればいなくなるし…」
「ｲﾔｧ…」
ちびたぬきは既にストレスの限界のようだったが、耐えてもらうしか無い。親たぬきはちびたぬきをもちもちと慰める。
ヒタッヒタッと不規則に足音が聞こえ続ける中、たぬきの親子は真っ暗なロッカーで身動き一つせず夜が明けるのを待ち続けていた。
「…ｷｭ…？」
どれだけ時間が経ったのか分からないが、親子たぬきの遠のいていた意識は子供達の笑い声によって引き戻される。
「あ…人間のちび共の声だし…朝になったから戻って来たんだし…！ちび…！もう大丈夫だし…！助かったし…！」
「ﾀｴｷｯﾀｼｰ！」
ワイワイと賑やかな声がロッカーの外から響き、親たぬきとちびたぬきは互いに顔を見合わせ喜び合う。
たぬきの親子が狭いロッカーの中でひとしきり喜びのもちもちをした後、暖かい住処に帰ろうと親たぬきがロッカーの扉を勢いよく開けた。
ロッカーの外は未だ真っ暗闇で、親たぬきの目の前には無表情のまま子供のような笑い声を鳴らす青白い顔が浮かんでいた。
親たぬきは状況を理解する間も無く、骨ばった細い腕に頭を鷲掴みにされ、そのまま闇の中へ引きずり込まれる。
教室には暗闇で全身をねじ切られていく親たぬきの悲鳴と、ロッカーの隅に一匹残され頭を抱えて泣き叫ぶちびたぬきの慟哭だけが響き渡っていた。
「うぎぃ！じぃぃぃぃ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

真夜中の学校を探索していたたぬきの親子は数々の恐ろしい怪異に散々追い回され、今はどこかの教室のロッカーに隠れている。
ロッカーの外ではヒタヒタと幽霊が教室内を歩き回り、ロッカーの中ではもちもちとたぬきの親子が震えている。
背筋を妙な寒気が襲う中、たぬきの親子は気付かれないよう必死に祈りながら、幽霊が居なくなるであろう朝を待ち続けていた。
暗闇の中、互いの体を抱きしめ合いながら縮こまっていたたぬきの親子は、互いの温もりと暗さ、そして緊張による疲労から次第に寝入ってしまう。
「…う…？」
どれだけ時間が経ったのか分からないが、親子たぬきの遠のいていた意識はロッカーの隙間から射しこむ光によって引き戻される。
「あ…お外が明るいし…朝になったから太陽が昇ったんだし…！ちび…！もう大丈夫だし…！助かったし…！」
「ｱｹﾅｲﾖﾙﾊﾅｲｼ…！」
親子たぬきの顔を照らす光が扉から漏れ出し、親たぬきとちびたぬきは互いに顔を見合わせ喜び合う。
たぬきの親子が狭いロッカーの中でひとしきり喜びのもちもちをした後、暖かい住処に帰ろうと親たぬきがロッカーの扉を勢いよく開けた。
ロッカーの外は未だ真っ暗闇で、親たぬきの目の前には警備員が立っており、手に持ったライトでロッカー内を照らしていた。
「まぶし…！すごい明るいし…！すごい朝だし…！幽霊なんかイチコロだし…！」
「ﾏﾌﾞｼｰ！」
協力して不法侵入たぬを追い詰めたはいいが、流石に普段児童が使っているロッカーを勝手に開けるのはどうか、と躊躇していた幽霊と警備員。
二人がロッカーの前でどうしたものかと思案していると、理由は分からないが突然たぬき側から扉を開けてごろごろと転がり落ちて来たのだ。
「うげぇっし！まだ夜だし…！まだ幽霊がいるし…！さわらないでし…！たたらないでし…！」
射しこむ光の正体が日光では無くライトの光だったことに気付いた親たぬきだったが、床を転がる勢いを止められず、幽霊に向かって突き進む。
これ幸いとさっそく幽霊が骨ばった細い腕で、ころころと転がる親たぬきの胴体をがっしりと掴み、強制的に床に立たせる。
「あっ！そこの人間…！早く助けてし…！保護して欲しいし…！このままじゃ呪い殺されちゃうし…！」
幽霊にしっかりと固定され、動けなくなった親たぬきは近くに立つ警備員に助けを求める。
攻撃を外して床を傷付ける恐れの無くなった警備員は警棒を取り出し、こちらをじっと見上げる親たぬきの頭に渾身の一撃を叩き込んだ。
「ベギュッ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

深夜の学校を訪れたたぬきの親子は、色々あってどこかのロッカーに身を隠していた。
「ちび…ここで朝まで耐えるし…声が聞こえても返事しちゃダメだし…明るくてもお日様の光以外は偽物だし…」
「ｷﾞｭﾜ…」
親たぬきは目に涙を浮かべ、ぷるぷると震えるちびたぬきを抱きしめながら忠告する。
二匹は元から満足に食料も水も確保できておらず、ロッカーの中では恐怖と不快な背筋の寒気以外にも飢えと渇きがたぬきの親子を襲う。
どれだけ苦しくても逃げ出すこともジタバタも出来ず、ただ暗く冷たいロッカーの中で震えているしかない。
たぬきの親子にとって非常に長い夜だったが、喉の渇きから来る咳も我慢し、ストレスから来るダンス衝動にもなんとか耐えていく。
何も口にせず同じ姿勢のまま動かずに一晩過ごし、心も体も憔悴しきったたぬきの親子だったが、鳥のさえずりによって薄れていた意識を取り戻す。
「う…鳥さんが鳴いてるし…外も明るいし…」
ロッカーの隙間から光が射しこみ、たぬきの親子の顔を照らす。
「ﾆｷﾞﾔｶﾀﾞｼ…」
ロッカーの外からは子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。それも一人や二人では無く、あらゆる方向からたくさん聞こえている。
「あ…朝だし…間違いないし…ようやく外に出れるし…やっと帰れるし…」
「ｶｴﾘﾀｲｼ…」
いつの間にか背筋の寒気もすっかり消え去り、夜が明けたことを確信したたぬきの親子は生き残った喜びに涙する。
そして互いを称え合うようにもちもちをした後、親たぬきはロッカーをゆっくりと開けた。
そこには日の光で照らされた教室が広がっており、ロッカーの目の前には誰も居ない。
「ふふふ…爽やかな朝だし…気持ちいいし…さあちび…！一緒に帰るし…！」
「ｶｴﾙｼ！」
元気を取り戻した親たぬきはロッカーから飛び出してころころと床を転がり、元気に登校してきた子供達に次々と踏まれ床と一体化していった。
「ブベッ！ギュェッ！ギュグッ！ゲッ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

始業時間を告げる鐘が鳴り響く小学校の校門の前で、人間の子供達がぞろぞろと大きな建物に入っていくのを眺める親子たぬき。
「ちびとは言え人間がたくさん居るところでたぬきが生きていけるわけが無いし…ちび…あの建物には近づいちゃダメだし…」
「ｾﾞｯﾀｲﾆｲｶﾅｲｼｰ！」
親たぬきはちびたぬきの手を引き、校門が閉じられていくのを背中で見送り、トボトボと歩き去って行く。
「ちび…たぬきは机に縛られる存在じゃないし…自然の中で自由に生きるし…人間のちび達はあの建物にいるから外のほうが安全だし…」
「ｻｶﾞｽｼｰ！」
公園にやって来たたぬきの親子は食べられそうなゴミや虫を探していく。しかし今日はどちらも見つからず、ただ時間だけが過ぎていく。
「ｵﾅｶｽｲﾀｼ…ﾅﾆﾓﾅｲｼ…」
「ふう…今日もごはん見つからないし…流石にお腹空いたし…ん…？し…」
収穫も無くしょんぼりと一息ついていた親たぬきは、賑やかな声が公園に近づいて来ていることに気が付いた。
「この声…まさか人間のちび共かし…！？外に出て来ちゃったのかし…！ちび…！逃げるし…！」
「ｺﾞﾊﾝﾊｲｲｼ…？」
親たぬきはちびたぬきを抱えて大急ぎで公園から逃げ出そうともちもちと駆け出し、走って公園にやって来た子供の足にぶつかり蹴り飛ばされる。
「ダヌッ！」
「ﾀﾞﾇｯ！」
子供は突然体当たりをしてきた当たり屋たぬきに悪態をつきながら、親たぬきの近くに放り出されたちびたぬきを掴み上げた。
「うぎぎ…やめろし…ちびにさわるなし…」
「ﾊﾅｽｼｰ！」
蹴り飛ばされ負傷した親たぬきは満足に動くことも出来ないが、子供へ向かってちびたぬきを解放するよう要求する。
しかし子供は親たぬきの言葉など聞こえていないかのように、後からやって来た三人の子供達と言葉を交わす。
これから遊ぶ内容を決めた四人の子供達は地面に寝そべる親たぬきを踏みつけて逃げられないようにし、ちびたぬきの手足を一本ずつ摘まみ上げた。
手足を掴まれ、空中で胴体だけをくねらせるちびたぬきと、腹を踏まれ、地面で手足だけをジタバタと動かす親たぬき。
子供達は、最後まで千切れなかった者が鬼役だ、という内容の確認をし、一斉に摘まんでいる箇所を引っ張った。
「ｷﾞｭｳｳｳﾝ！ｷﾞｭｳｳｳﾝ！」
もちもちの手足はゴムのように伸びていき、ちびたぬきはミチミチと千切れていく体の痛みに悲鳴を上げる。
やがてちびたぬきの体が限界を迎えると、手足はすべて同時に千切れ、芋虫のようになったちびたぬきが宙を舞い、落ちていった。
「ｷﾞｭｧｧｧｧｧ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」
子供達はそれぞれ摘まんでいたちびたぬきの手足を放り投げ、親たぬきを踏みつけていた足をどける。
解放された親たぬきは逃げ出そうとはせず、目の前に転がる苦痛に歪んだ表情が貼り付いたちびたぬきの死骸へ向かって手を伸ばす。
しかし親たぬきがその死骸に触れることは無く、子供に持ち上げられた親たぬきの体はふわりと地面から離れる。
ちびたぬきの手足がすべて同時に千切れたため、子供達は予備として確保しておいた親たぬきの手足で鬼を決めようとしていた。
親たぬきの手足がすべて掴み上げられ、大の字になった状態で宙に浮かぶ。親たぬきはちびたぬきと同じように胴体だけを必死にくねらせ抵抗する。
「やだぁぁぁぁしぃぃぃ！やめてしぃぃぃぃ！いやぁぁぁぁ！あんな死に方はやだしぃぃぃぃ！」
四人の子供達は、それぞれ掴んでいる親たぬきの手足を引っ張るため、一斉に力を込めた。

「夢かし…前のたぬ生の記憶を見てたような気がするし…ひどい夢だったし…」
うなされながら目を覚ましたたぬきは、深く息を吐き、背筋に妙な寒気を感じながら脂汗まみれの額を拭った。


おしまい