No.84「地獄」


「んふぅ…きもちいいし…」
うちのたぬきは、排便行為が快感らしい。
人間でもそうではあるが、声に出さないでほしい。
「飼い主さん…見てし…」
そしてワイシャツの袖をぐいぐいと引っ張ってきてたぬき用トイレとしているオマルまで連れてこようとするのだ。
人間でもたまにいるけども、見せようとしないでほしい。
そもそもケツを拭いていないので先に拭けと言いたい。
たぬきは俺がどう引っぱっても動かないので諦め───る事はせず、頑張ってアヒル型のオマルを俺の元へ押し出して運び、への字口はそのままだがどこかドヤ顔と共にくっせえ排泄物を見せつけてくる。
「どうだし…いっぱい出たし…この辺のがいい感じだし…」
「早く片付けてくれない？臭いよ」
「まぁまぁそう言わないでし…もう少しじっくり見て欲しいし…」
オマルの中の砂ごとスコップですくってゴミ袋に入れさせ砂を補充する所まで覚えさせているはずだが、今日のはよっぽど自信作らしかった。
ぶん殴るのが先か、汚物を処理させるのが先か、俺は少し迷ってしまっていた。

「うちのたぬき…なんでこんなバカなんだろ…」

とんでもない性(さが)に縛られた飼いたぬきに育ってしまったものだ。
ペットショップで買ってきたばかりの頃が思い出される。
　
　　
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「ｷｭｳｳ〜♪ｷｭｯ！ｷｭー♪」
思えば、ペットショップで買ってきた頃からあちこちで排泄をしてやり遂げた表情で両手を挙げてぴょんぴょん飛んでいた。
当然、大して浮いていない。
コイツはちびの頃からこんな様子だった。
ペットショップでは開店時間中は我慢させまくっていたらしいので快感のままに自由にあちこち排泄する開放感を覚えてしまった。
改めてトイレを教え込むのは苦労したものだ。
しかし折檻も加えつつようやくトイレを覚えたと思えば───。

喋れるようになって最初に発した言葉が、
「ｳﾝ…ﾁ！ｳﾝｳﾝ…ﾁ！」
だからどうしようもない。
せめてママとかにしろよコイツいい加減にしろ。
脳みそまでウンチなのかもしれないたぬきに辟易する。


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「みてみてし！ちゃんとできたし！」
次いで喋れるちびにまで成長して俺に聞かせてきたのは、キッチンペーパーを敷いた空き箱に鎮座する立派な一本グソを自慢する言葉だった。
「いっぱい、いっぱいでたしー！」
何かにつけてくっせえうんちを見せつけてくるのは何なんだ。
お陰でこいつの名前は“クソたぬき”である。

しかし不名誉な汚名を与えても排便が1番の快感である事と、その後にご立派な排泄物を見せつける習慣は変わらない。
どれだけきつい躾を施してもこれだけは正せなかった。

　　
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「今日もたくさん食べるし…モグモグし…ぱくぱくし…」
ちなみにコイツは食べるのが好きなわけではない。
しっかり食べて、バナナのような一本グソを出すのが目的なだけだ。
こいつの生活はウンチを中心に回っている。
クソたぬきの名に恥じないウンチ精神ぶりだ。
ぶりぶりって。
いい加減にしろよ。


では何故こんなのを放し飼いにしているのかと、教えてやればトイレを覚えるのが早かったからに他ならない。
ウンチ以外に興味がないので家電を変に扱って壊したり、盗み食いとか余計なイタズラもしないし、うどんダンスとやらもこちらに見せつけるためではなく腸の蠕動を促すために1匹で勝手にやってくれている。
あちこちにウンチを撒き散らすようなたぬきなら一生檻の中だが───。
「たまにはオマルの外にも出したいし…飼い主さん…紙を敷くからクソたぬきに思いっきりぶちまけさせて欲しいし…」

…やっぱコイツ一生檻の中かなぁ？.


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しかしまあ、単に暴力をもって叩き殺すのも偲びない。
排便イコール快感でなくなればこの鬱陶しさも解消されるだろう。
ションボリと何の希望もない姿を晒しながら時たま話し相手やサンドバッグとして、こちらのストレス発散の道具で居続けてくれればそれ以上は望まないのだ。

排便＝快楽でなくせばクソたぬきもションボリしてくれるだろうか？
オマルまでトボトボと歩いていくクソたぬきの尻を見つめながら少し考えた。

痔にしてみるか。
たぬき。

こちらの視線を受けて、排便の快楽に酔いしれていたたぬきがオマルに跨ったまま嫌そうな顔を上げる。
「んふぅ…え…なんだし…こっち見ないで欲しいし…」
排便時の姿は見て欲しくない繊細さは必要なのか？それ。

　　　　
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「今日からクソたぬきのごはんはこれね」
「いただきますし…なんか…あかいし…パクパクし…ムグ…からいし…？」
まずはたぬフードの味付けを変えていき、最終的には唐辛子由来の辛い味へと次第に慣れさせていく事にした。
食物繊維の豊富なたぬフードは食べさせない。
さらに水の摂取量を徐々に減らして便が硬くなるように誘導する。

「からいし…つらいし…飼い主さん…クソたぬきお水ほしいし…」
「水飲むと余計からく感じるよ」
「え…やだし…ポリポリし…かはっ…かはいし…」
初めのうちはピリ辛程度で徐々に慣れさせていくつもりだったが、味覚が幼児なたぬきにはこれでもつらいらしい。

早食いさせると胃腸が活発に動くためお腹を下しやすい。
食事に時間制限を設けて、100均のキッチンタイマーが0になったらエサ皿を下げるように取り決めた。
───ピピピッ。ピピピッ。
苦戦するクソたぬきの前で容赦なく、終了を告げる音が鳴る。
「ひぃ…ひぃ…まだ食べ切れないし…」
「はいダメー」
タイマーが鳴れば例外なく皿を下げるようにしてしまえば、クソたぬきは泣きながらも早食いに変わらざるを得なくなっていった。


また、夜眠る直前に食べさせるのも痔を誘発しやすいので食べる時間をずらし、食べたらすぐ眠るように促す事にした。
皿を片づけ終えてすぐ、ケージに暗幕がわりの毛布をかけて暗くする。
「おやすみ、クソたぬき」
「えっ…もうねんねだし…？ぐぅ…」
「思ったより抵抗なくすぐ寝た…」


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そのうち当初よりだいぶ辛い味付けでも時間内に食べられるようになってくると、
「やったなたぬき！えらいぞたぬき！」
「てれるし…」
ウンチが上手く出来た時以上に褒めて褒めて、褒めに褒めまくる。
というか、ウンチ関連で褒めたのちびの頃だけだった。

ともかく、こんな生活を続けているとたぬきの単純な頭は辛いものを早く食べ切って褒められる際に脳内から報酬系ホルモンが出るようになり、分泌されたホルモンによって辛い味つけ＝嬉しいという図式がたぬきの頭に刻まれていく。
「からいし…つらいし…」
「今日も頑張ってるなクソたぬき！えらいぞクソたぬき！よーしよしよしよし！」
「てれるし…」


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「これからは紙でお尻拭く前に、これでおしり洗うんだぞ」
「…し？わかったし…」
ペットボトルを利用したウォッシュレットを用意し、使い方を教える。
本来の蓋の代わりに注ぎ口に装着し、ノズルを伸ばす。
この形にしてペットボトルを押し込むと圧力により、伸ばしたノズルを通してボトル内の水がぴゅーっと押し出される仕組みだ。

ミネラルウォーターのペットボトルは薄く、たぬきの力でもベコベコに凹むので両手で圧力をかけて水を発射する事ができる。
「すごいし…これならしっぽ濡れないでキレイキレイできますし…」
手がお尻に届かず前から紙を突っ込んで拭いていた為、股の前面を汚す事もあったクソたぬきが素直に喜ぶ。
「飼い主さんありがとうですし…」

これも別にたぬきのためではない。
濡らした水分が蒸発する際に肛門を乾燥させるので、柔軟性を失わせて裂傷を起こしやすくするのが目的だ。

「ふひぃ…おしり濡れたし…」
排泄の喜びに加えて肛門への程よい刺激を受けてたぬきが変な声を出すのは本当にやめろお前…。

しかしこれが罠なのだ。
乾く際に必要以上に肛門周りの水分を持っていってしまう。
そのため痔を誘発しやすい。
後は水を拭くためのトイレットペーパーを安めの固いやつに変えるだけだ。
「ふきふきし…ふきふきし…」
しっかり拭かないと臭いたぬきはケージに閉じ込めると脅しているので頑張っている。
これで乾いた肛門を何度も擦ることで微細な傷がつき、切れ痔へと繋がっていくのだ。


後は基本的に座って過ごすように命令する。
肛門付近の血流を滞らせてイボ痔を作らせるのが目的だ。
「おいクソたぬき。ここに座っていいぞ」
「えっ…いいし？本当にそこ、座っていいし…？」
あぐらをかいて手招きをする俺の言葉に、ケージから出されたクソたぬきは困惑した。
成体になってから特に撫でたり触ったりもしてやっていないからだろうか。
捨てるつもりのスウェットズボンを部屋着として履いているので、遠慮はいらなかった。
クソたぬきは一丁前にもじもじしながら顔を赤らめてこちらに寄ってくる。
ちなみに座れと薦めている場所は股座ではなく、膝の上だ。
膝周りに硬めのサポーターを巻いているので外でその辺に突き出ている石に座るのと大差ないだろう。
後はクソたぬきの頭頂部に手を置き、その上に顎を載せて体重をかけ続ける。
「おもいし…」
こうなれば単なる顎置きでしかない。
顎置きはうめいたりしないけど。
しかし、ここに座りたいならちゃんとお尻を拭けと命じればクソたぬきは案外と素直に遵守し、一緒にバラエティや映画を観たりした。

これらを並行して、クソたぬきを痔にするための準備を進めていく。
座り仕事で、辛いモノが好きで、トイレの時間が長くなりがちな上ウォッシュレットを多様する人は要注意というわけだ。

細かく生活に変更を加えているうちに、クソたぬきの変化が目に見えて現れ始めた。
今日もアヒル型のオマルに跨って、アヒルの側頭部から突き出たハンドルを握ってうんうん唸っている。
「…だ、ヌゥ……ぅぅ…」
敢えてこちらからは触れないように努めていたが、相当排便時の痛みが堪えるらしい。
この生活に変えてから初めて自主的に確認を行った便の状態は、鮮血が混じり赤みを帯びていた。
そういえば、ちびの時は体調確認のために毎回ウンチの確認をしていた事を思い出す。
もしかしてそれで飼い主に出したウンチを見せるものだと思い始めたのだろうか。
だとしたらバカすぎる。


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「んぢっ…しぃぃ…ヌゴぉぉ…しッ…」
ウンチが肛門を通り抜ける時に伝わる感覚は灼熱感と痛みばかりで、クソたぬきがいつも得られていた快感は完全に失われてしまっていた。

いくら鈍感なたぬきでも、最近便の切れが悪くなってきている事に気がついているらしい。
「……まだついてるし…」
しっかり拭き取ろうとして多量に使う羽目になったトイレットペーパーにも血がつき始めたので、嫌そうな顔をしながらも何度も拭いて確認している。
クソたぬき専用のオマルは、捨てたトイレットペーパーで溢れんばかりになっていた。


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「う〜んし…ううんし…」
クソたぬきがお腹に手を当てたまま、何事か唸り続けている。
便意を催したらしいが、オマルに向かう様子を見せない。
チラッとオマルを見ては俯く後ろ姿を見ていると行きたくない様子が手に取るようにわかる。

多量に摂取し続けているカプサイシンにより粘膜を傷つけて胃潰瘍も起こしているらしく、食欲も落ちて元気がない。
いい感じになってきた。
これぐらいションボリしている方がたぬきらしく惨めだ。


あんなに得意げにウンチの話しかしなかったクソたぬきがお腹を抑えてうずくまり、
「やだし…やだし…うう…」
とうめき声を上げる様は見ていて気持ちがいい。
もうウンチを見せつけてくる事もなくなった。
これこそが望んでいた形だと思うと感慨深い気持ちになる。


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お願いですし。
今度こそ痛いウンチは、イヤですし。
クソたぬき、いつもちゃんといい子にしてますし。
だから、痛くないウンチがしたいですし。


飼い主が制裁を加えてこの激痛を呼び起こされているとも知らず、クソたぬきは存在の不明瞭なションボリの神様に向かってお願いしてから排泄を行う。
「んぎッ……じ、じじ…！」
でも、やっぱり痛い。
痛いものは、痛い。

「んぶぃぃ…！どぉしてだしぃぃ…たぬき、なんにも悪いことしてないしぃ…！」
涙ながらに訴えるものの、誰も応えてはくれない。
「ウンチっ…いたいしぃ…やだ、しィィ…！」

カチカチになったウンチがイボ痔で狭くなり肛門を通ろうとする度にたぬきは激痛に苛まれる。
さらにそのイボ痔の先端は裂けているのでぼたぼたと落ちる血液で血溜まりを作りあげる。
そんな日々が毎日続けば、排便時の快感を奪われたクソたぬきの楽しみは飼い主さんの膝の上に座る事だけだ。
しかし最近はお尻が痛いのでケージの中で静かに横たわる事が多くなっていた。
飼い主さんも別にその事については声をかけてはくれない。
ただ飼い主さんが何となくこちらを見る時に笑顔でいる気がするので、ぎこちなく笑顔を返すとつまらなさそうにして離れていってしまう。
その度にクソたぬきは、お尻の痛みとは別の部分に痛みを感じていた。
どの痛みも、クソたぬきにとっては正体不明で恐ろしいものだった。


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血が出ているという事はケガに違いないし、病気かもしれない。
でも病院は嫌だったのでクソたぬきは黙って耐え続けていた。
「やだし…注射やだし…」
幼い頃から何かにつけて予防接種に連れて行かれていたクソたぬきは病院は注射をする痛いところ、という認識しか持っていなかったので無理からぬ話だった。

しかし大した事はないと放置し続けた結果。
終わりは、ある日突然やってきた。


「だぬぎっ…もう゛、」
間断なくストレスを受け続け、脳を走る血管が限界を迎え破裂したクソたぬきの意識はそこで途切れた。
「……じ、じじじ……じっ…」
後はもう、ゼンマイ仕掛けのおもちゃのゼンマイが切れる直前のような声は脳の誤作動で起こっている断末魔の悲鳴のようなものだ。
それすらもやがて聞こえなくなって、飼い主がクソたぬきの異変に気がついたのはしばらく経ってからだった。

……何だか静かだなぁ。

「クソたぬき、そろそろ寝ろよ」

食事量も減り、排便の楽しみが苦痛になったクソたぬきはハンドルを握り、オマルに跨ったまま事切れていた。

「…永眠しちゃった？」
どうも、ションボリする姿がおもしろいからとやり過ぎてしまったらしい。
イヤイヤしながらも連れて行かれた病院で痔について告げられ、快便を奪われた事に青ざめた顔でショックを受けるクソたぬきが見たかったのに。
また買うか拾うかするかな…。

ウンチを包んだトイレシートと一緒にクソたぬきの死体を放り込む。
あんなに大好きだった排便をしながら死んだのに、最期は苦悶の表情が刻まれていた。

思えばコイツも、飼われてるだけならただのウンチ製造機だったんだよな。
排便が気持ちがいいのはもちろんだが、やたら報告してくるのは───自分ができる唯一の事を褒めてもらいたかったのかもしれない。
辛いものを食べさせて褒め倒している時、やけに顔を赤くして照れていたクソたぬきの表情が脳裏に浮かんでいた。


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数日後、何処かで排便のたびに泣き叫ぶちびたぬきが産まれて───安眠を妨害し、連鎖的に他の姉妹まで泣き出す始末だった───いちいちうるさいので親たぬきに石で殴られて短いたぬ生を終えた。


オワリ
