パチ屋の駐車場でたぬき玉を見つけた。
裸ん坊のちびたぬきが三匹寄り添って互いを抱き、スヤスヤと気持ちよく眠って………ない。むしろぐったりとして苦しそうだ。
凶悪なまでに輝く真夏の太陽と、その熱をたっぷり溜め込んだアスファルトに挟まれていたら、誰だってそうなる。
おまけにしては強烈過ぎる蝉の大合唱まで加われば、小さな体にとって到底耐え切れない苦痛になるだろう。
よく見れば互いを抱き合っているのではなく、互いを日除けにする為か、なんとか体の下に潜り込もうと足を引っ張ったり蹴られたり、地べたで静かな攻防を繰り広げている。
それ以上は痛ましくて見ていられなかった。
パチ屋にUターンし、自販機で適当な水を買って、ちび達の傍に置く。
ひんやりした空気を感じたちび達が這い這いで寄ってくる。その背丈は500mlペットボトルの半分もない。
キンキンに冷えたボトルに裸で抱き着こうとするもんだから、それを振り払う。そんな事したら今度は冷え過ぎて体を壊す。
「ｷｭｰ！ｷｭｰ！💢」
「そう怒るなよ、意地悪したい訳じゃないんだ」
抗議の声をあしらってボトルの蓋になみなみと水を注ぎ、一番手前でジタバタしてるちびに差し出す。

ちびはそれを両手で受け取るとほんの少し躊躇った様子を見せ、しかし一気に飲み干した。
「ｶｰｯ…！」
うまい！もう一杯！とばかりに盃を突き出してくるが、他のちびへの水分補給が先だ。
同じ要領で次のちびに水を手渡すと、一番目のちびはまたアスファルトに背を付けてジタバタする。
三番目のちびに水を渡すと、二匹がジタバタ。
すべすべの肌に玉の汗が浮き、補給したばかりの水分がどんどん流れていく。
それでも根気よく三匹へ水を分けていき、ボトルが空になる頃にはちびたぬきはすっかり元気になっていた。
「ｷｭｰ❤️ｷｭｰ❤️」
ちび達がこぞって靴に体を擦り付けてくる。
水をくれたお礼の意か、単に懐かれただけなのかはわからない。
さてどうしよう。
このままこいつらを炎天下に放置するのは忍びない。周りに面倒を見てくれそうなたぬきも居ない。
ならば「どうだちび達、俺の家に来ないか？涼しいし、ごはんも食べさせてあげるぞ」と提案してみる。
ちび達はものすごい勢いでｷｭｰｷｭｰ頷いた。よほどこの環境が辛かったらしい。

家に着いたら風呂場に直行し、洗面器にぬるま湯を張ってちび達の体を洗ってやった。念の為、風呂上がりにもう一度水分補給もしておく。
寝室の机に運んでしばらくは、濡れたしっぽを引きずりトボ…トボ…とタオルの上を歩いていたのだが、乾くにつれてしっぽから漂うシャンプーの匂いに気を良くしたのか、今では三匹それぞれが好き放題にころころ転がっている。
その隣で住処を用意する。昔飼ってたペットの、ハムスター用のケージがそっくりそのまま使えそうだった。
少し奮発して買った立派な物だから、ちびたぬきのサイズに対してはかなり広い。まあ狭いよりは良いだろう。
指先でケージの入り口上部を叩き誘導すると、ちび達はてててっと軽い足取りで入っていく。
「ｷｭｰ…❤️」
中を見た途端ぱあっと笑顔を輝かせて、ベッドに飛び込んだり滑り台で遊んだり、梯子で二階に上がって広いスペースを駆け回ったりと、どうやらお気に召していただけたようだ。
ここで事件が起きる。
二階ではしゃいでいたちびが、更なる高揚を求めてか足場の縁ギリギリを歩き、あっという間に踏み外して空中に身を躍らせた。
デカい頭が自然と下を向く！

「いかん！」
慌ててケージの入り口に手を突っ込むが間に合わない！
誤飲を警戒して床材を敷かなかったのが裏目に出た！剥き出しの硬い床にちびの顔面が激突する！
べちっ！…むくっ
「ｷｭｰ！ｷｭｰ！💦」
びっくりするくらい無傷だった。
げに恐ろしきはそのもちもちさ。衝撃を完全に殺してみせた。
とはいえ怖かったには違いないだろう。泣き喚くちびの気休めに、人差し指の腹で頭を撫でる。
すると他のちび達も寄ってきた。落ちたちびの正面に立ち、短い両手でほっぺを挟んでもちもち捏ね回す。
「ｷｭｰｷｭｰ…ｷｭｰｷｭｰ…！」
何やらむにゃむにゃ唱えた後にもう一匹のちびと代わり、同じようにほっぺをもちもちむにゃむにゃ。
もしかしたらたぬきなりの痛いの痛いの飛んでけー的なやつなのかもしれない。
現に落ちたちびはあっという間に泣き止んで、ｷｭｰ❤️とお返しに相手を抱き頬擦りしている。
この様子だとメンタル面も平気そうだ。

一安心したところで食事を用意する。
経験上この手の不思議生物は甘いものが大好物だと思うのだが、あの小さい口がどれほど硬いものまで食べられるか、いかんせん見当もつかない。
なので三種類のお菓子を皿に盛る。
一つは、無難に柔らかいまっしろマシュマロ。
一つは、サクサク軽い食感のクッキー。
一つは、コリッとしっかりした歯応えのブロックチョコレート。
気になった物をどれでも食べていい、いわゆるビュッフェスタイルだ。
…視線を感じる。
辿ってみれば、三匹のちびたぬきがいつの間にかケージを出て、よだれを垂らしながらこちらを見上げていた。
なめらかなお腹がｷｭｰｷｭｰ鳴っている。こいつらひょっとして腹の虫までちびたぬきなんじゃないか？
「おっ…おう…そんな腹減ってたのか…。好きなだけ食べていいぞ。硬いやつは無理しなくていいからな」
『ｷｭｰ❤️❤️』
三匹が声を揃えて走り出す。足の速さには個体差があるようで、まず先頭の一匹がふわふわのマシュマロへと全身でダイブした。
この動きには見覚えがある。さっきベッドに飛び込んでたやつだ。柔らかい物を見ると我慢できないタチなんだろうか。

「ｷｭｰｷｭｰ❤️ｷｭｰ❤️」
マシュマロに顔をうずめた状態で、むしゃむしゃ食べ進む。表情は一切見えないが、好みの味だったのは間違いない。高く突き上げられたお尻としっぽを見れば、非常に興奮している事がわかる。
「ｷｭｰ！」
次のちびがお菓子の山に到着する。右を見て左を見て、もう一度右を見てマシュマロにかぶりつく仲間のお尻をじっと眺めた後に、また左を見てクッキーを持ち上げる。
仲間とは違う道を選ぶか。なかなか冒険心に溢れたやつだ。
だが、その頼りない歯で果たしてクッキーを食べられるのか？
ｻｸｯ…。ﾓｸﾞﾓｸﾞ…。咀嚼の音が聞こえる。一応食べられるようだ。
「ｷｭｯ！？」
突如ちびの体が雷に打たれたように跳ね、両手で支えていたクッキーを皿に落とす。
やっぱり硬い食べ物はダメなのか！？
と思いきや、
「ｷｭｩｰ…ﾝ…❤️」
うっとりした表情で、ちびが自分のほっぺをもちもち持ち上げる。柔らかいほっぺが波打ち、今にもこぼれ落ちてしまいそうな…どこか官能的な動きだ。
美味しくてほっぺたが落ちてしまいそう、とはこんな様子を指すのだろう。喋れない割に感情表現が達者な奴らである。

ならば三匹目はどんなリアクションを見せてくれるのか？自ずと期待が高まってしまう。
…ところが、当の本人は存外あっさりとブロックチョコを食べ終えた。
口の周りに付いた食べかすを拭おうともせず、残っているブロックチョコを両脇に挟んで、皿の外へ走り出す。
机の上にそれらを置いては皿に戻り、また二つを抱えて机に置く。地道な運搬作業をせっせと繰り返す。
そうしてでたらめに並べたチョコの上を、次から次へぴょんぴょん飛び跳ねていく。
着地する度に髪としっぽが揺れて、右に左にターンする様はまるで踊っているようにも見えた。
「ｷｭｯ❤️ｷｭｯ❤️ｷｭｯ❤️ｷｭｯ❤️ｷｭｰ❤️」
なるほど、どうやらこいつは三度の飯よりも遊びが大好きなやつらしい。
緩みきったその顔はほんのり赤い。多分、さっき二階から落ちて顔面を強打したちびだと思う。
あんな恐ろしい目に遭った直後なのに、このはしゃぎっぷり。筋金入りのわんぱくだ。

「こう、改めて間近で眺めてみると…結構個性豊かなやつらだな」
たぬきなんてみんな同じ性格だと思っていた。
いつもしょんぼりしていて、手を伸ばされたら「さわるな…」と払いのける。
そんなやさぐれたたぬき像と、目の前で自由を謳歌するちびたぬき達がどうしても結び付かない。
こいつらもいずれは、世に溢れるしょんぼりが染み付いた大人たぬき達のようになってしまうのだろうか。
「うーん…」
なんとなく、こいつらにはそうなってほしくないと思った。
しょんぼりしてない大人たぬきというのも想像ができないが。

たぬき玉を拾ってから一ヶ月が過ぎた。
ちび達はすくすく育ち、今やその大きさは以前の三倍くらいになっている。500mlのボトルだって、両手で抱えて自分の力だけで飲めるようになった。
もはやケージに入れないサイズになってしまったので、今では放し飼いにしている。
最初は放し飼いする事に不安があったが、ちび達は予想に反して言いつけを堅く守ってくれた。
おかげで毎日心置きなく出勤できる。
「……それじゃ、まろ、くっきー、ちょこ、良い子にしてるんだぞ。なんかあったら、教えた通りに電話しろよ」
名前は最初に食い付いたお菓子から取った。何事もシンプルイズベストだ。
より凝った名前を、もっとオシャレな名前を、と連日連夜頭を捻り、最終的に寿限無寿限無五劫の擦り切れと書き出した思い出は、紙と共にゴミ箱に捨てた。
『ｷｭｰ！』
玄関の足拭きマットに三匹が並び立ち、昨夜一緒に見た映画で覚えたばかりの敬礼をビシッと決める。
一目で見分けられるよう作ってやった赤・青・黄色の簡素なポンチョが、屋内だというのに風ではためいている。こいつらの起こすちょっと不思議な現象も、とうに見慣れてしまった。

「そ、そんな悲壮な表情で見送られても…。何も戦場に行く訳じゃな…いや、まあ、ある意味戦場か…。ありがとう、行ってきます」
「ｷｭｰ…！ｷｭｰｷｭｷｭ、ｷｭｰ…！」
外に出る時、持ち前の行動力でリーダー格になったちょこになんか言われたが、残念ながら意味まではわからなかった。
我々一同、ご武運をお祈りしておりますとか、大方そんな所だろう。同じセリフが出てくるシーンを、テレビに齧り付きながら見ていたし。
いつかはちゃんとした人の言葉で話し出すのだろうか。
依然としてちび達への興味は尽きない。

「あいつらどんな顔するかな…んふふ」
夜。蝉の声が無くなった道を独り歩く。
仕事を終え、さっさと帰ろうとしたら先輩に肩を掴まれ、いつもちびの写真を見せてくれるお礼にとお高い店のケーキを渡された。
人間でも滅多に買えない煌びやかなお菓子達。それを目にしたちび達の反応を思い浮かべるだけで、口の端から笑みが溢れる。
いつものように玄関のドアを開いたら、ちび達がてててっと寄ってくるだろう。
そこでこの袋を見せつけて、中から洒落た箱を取り出すのだ。
もちもちした顔を三方向から近づけてくるあいつらの前で、たっぷりと勿体つけつつ箱を開けたら……。
シミュレーションしてる内に家に着いた。
「ただいまー！今日はお土産があるぞー！」
ドアを開けるなり声を弾ませる。
しかし、ちび達が駆け寄ってくるどころか鳴き声すら聞こえてこない。
「あー…二階か」
二階にある寝室のベッドは、成長したちび達の絶好の遊び場である。
帰宅したら布団がふっとんでるのはしょっちゅうで、まろなんて柔らかい羽毛枕を持ち出して一日中抱いている。
その姿を思い出し、愛くるしさに頬が緩む。

思った通り、ちび達は寝室のベッドに居た。
まろは、仰向けになって寝ていた。
仰向けのはずなのに後頭部が見えた。寝息が聞こえず、ぴくりとも動かなかった。
くっきーは、放心していた。傍らにはカッターナイフがあった。俺の視線に気付くと、粘液こぼれる股間を両手で隠した。
代わりに傷だらけのおなかがよく見えた。
ちょこは、見知らぬ裸のたぬきにのし掛かられていた。体格差は倍以上あった。
裸たぬきの股間から伸びる肉の棒が、ちょこの股間の割れ目を乱暴に拡張している様が、どこかスローモーションに見えた。
「ヴッフ！ヴフフ！レイプされてるのにたぬ汁だらだらに垂らして前しっぽを根本まで咥え込むなんて！その歳でとんだ淫乱たぬきだし！ヴフッ！」
早くあの強姦魔を止めなくては、と思うのに、体が動かない。
「ｷｭｯ❤️ｷｭｩﾝｯ❤️ｷｭｧｯ❤️ｧﾝｯ❤️」

ちょこが気持ち良さそうだったから。

「ヴフゥゥゥッ！！出るっ！出るしっ！野良たぬきの薄汚い劣等遺伝子入り特濃たぬ汁出るしっ！！ヴフッ！ヴフッ！ヴフゥゥゥゥン！！」
「ｷｭｩｯ❤️ｷｭｰｰｰｰｰ！！❤️」

あれからまた一ヶ月が過ぎた。
結局あの後どうしたかは覚えてないし、思い出したくもない。
まろは、住職たぬきに頼んで彼女達のやり方で弔った。
くっきーは、あれ以来冒険心を忘れ、酷く臆病になった。
「ごめんなさいし…。いたいのやだし…」
これが、ちびから初めて聞いた人の言葉になった。
ちょこは、
「…ポッキーは食べ物だ。股間に入れるものじゃない」
「ｷｭｰ❤️ｷｭｰ❤️ｷｭｩｰﾝ❤️」
叱ると甘い鳴き声と共に股を開いて、小さな割れ目をこちらへ見せてくるようになった。
それが、あの夜学んだこいつなりの護身術なんだろう。
何もかもが壊れて、何一つ戻らなかった。
だから俺はちょこの股ぐらに小指を突っ込んで、心行くまで突き上げてやった。
こいつらには、しょんぼりが染み付いた大人たぬきになってほしくなかったから。