子ども

子どもは無知で、残酷で、無慈悲だ。
自分が強いと信じて疑わず、自分よりも小さく力のない生き物は玩具だと思っている。
大人にはある自制心も弱く、好奇心のままに生命を蹂躙することもある。

「きょうも食料を探すし...」
公園に訪れていたのは、1匹の親たぬきであった。なぜわざわざ見つかりやすい公園で食料を探しているのか？
理由は単純。意外と食料を調達しやすいからである。酒の缶にそのつまみの食べ残し、子どもたちが食べこぼしたお菓子のクズ。
缶は水をためておくのに便利で、公園で拾える食料は味が濃いため、この親たぬきにとっては穴場であった。
「ちょっと遅くなっちゃったし...早く拾って帰るし...」
今日このたぬきは、子どもであるちびたぬきたちがぐずったため、いつもの早い時間に出発することができなかった。
それでも愛する子どもたちのため、今日も危険を冒して食料調達にやってきたのである。

「あったし...食べ残しと空き缶だし...」
公園のベンチの上に、食料があるのを親たぬきは見つけた。それを取ろうと歩き出す。
しかしこのたぬきは気づいていなかった。今日は休日であった。昼間でも人が公園に多くいる日であった。
そして、今日はいつもよりも遅い時間に公園に来ていた。朝早くであれば人に会うことも少なかったが、時計は午前10時を指していた。
このたぬきは賢いたぬきであった。だが、曜日の概念を理解するほどではなかった。
危険な時間であることは薄々気づいていた。しかしお腹がすいたとぐずる子どもに、お腹いっぱい食べさせてやりたいと思う愛があった。
だから気づけなかった。複数の人間の親子がこの公園に遊びに来ていたのだ。

「これだけあればちびたちも満腹になるし...何だし...？」
食料を確保して一息つくたぬき。しかしながらそのたぬきを眺める複数の影があった。公園に遊びに来た子どもたちであった。
子どもは遊びの天才だ。大人にとってはゴミでしかないモノを、一瞬にして遊び道具にできる才能の持ち主である。
子どもたちは空き缶を見つけ、それで遊ぶためにたぬきと同じベンチに走ってきていた。
ただ、もう彼らにとって空き缶などただのゴミであった。だって、目の前にしゃべって動く謎の小さな生き物がいたのだから。

身の危険を感じた親たぬきは、戦利品を置いて逃げ出した。同時に子どもたちもたぬきを追って駆け出した。
生命の危機に瀕した生き物は、普段よりも大きな力を出す。リミッターが外れるのだろうか。
まだ体が出来上がっていない子どもから逃げる分には申し分ないスピードであった。このままいけば逃げ切ることができた。
しかし、子どもの1人が親たぬきに向けて石を投げた。直接当たりはしなかったが、すぐ近くで石がバウンドした。親たぬきは恐怖を感じてしまった。
確かに危険を察知しているのに、親たぬきはたぬきの本能にあらがうことができなかった。
感じた恐怖に対してｼﾞﾀﾊﾞﾀしてしまったのだ。こうなってしまえばもう、子どもたちに弄ばれるだけであった。

「やめろ...触るな...」
子どもたちに無遠慮にベタベタと触られ、親たぬきはストレスを感じそうつぶやきｼﾞﾀﾊﾞﾀした。
だがこれはむしろ子どもたちをより楽しませた。触れば反応が返ってくるのは、子どもたちにとって格好の玩具であった。
耳や手足、尻尾を触り引っ張り、子どもたちの無遠慮な遊びは、親たぬきにさらにストレスを感じさせた。
まだまだ遊びは終わらなかった。子どもたちの中に、水鉄砲を持ってきていた子どもがいた。子供たちはそれで親たぬきを濡らした。
するとどうだ。先ほどまでｼﾞﾀﾊﾞﾀしていた親たぬきが急にﾄﾎﾞﾄﾎﾞと足を動かし始めた。子供たちの歓喜は最高潮に達していた。
今度は尻尾を絞ってみた。するとﾄﾎﾞﾄﾎﾞと足を動かしていたたぬきはまたｼﾞﾀﾊﾞﾀし始めた。水鉄砲で濡らすと、またﾄﾎﾞﾄﾎﾞと足を動かした。
何度も何度も繰り返しているうちに、親たぬきのストレスのキャパシティーは限界を迎えた。ついに爆発してしまったのだ。

「ﾀﾞﾇｩｩｩｩｩｩｩｩ!!!」
限界に達した親たぬきは本来たぬきが発することのない鳴き声を出し、普段のｼﾞﾀﾊﾞﾀの数倍のスピードでｼﾞﾀﾊﾞﾀしながら暴れまわった。
こどもは無知だ。自分よりも小さな生き物は弱いものだと思い込んでいる。1度でも痛い目を見ない限り。それが今日だった。
親たぬきから思わぬ反撃を受けた子どもたちは、ある者は尻もちをついて泣き、ある者はその場から叫んで逃げ出した。
だから、何事かとその子どもたちの親がやってきた。その大人たちが見たのは、醜くぐずる大人のたぬきの姿でしかなかった。
大人がぐずる権利など存在しない。ぐずることが許されるのは子どもだけだ。

こうして人間の子どもに、たとえ原因を作ったのが子ども側であったとしても、危害を加えたと判断された親たぬきは処分場に送られた。
子どもは無知だ。自分たちの起こしたことで親たぬきがどのような末路を辿ったか知ることはない。
子どもは残酷だ。少し経ったら、今回起こした騒動についてはけろりと忘れてしまうかもしれない。
そして...世界はたぬきに無慈悲であった。





どこかの茂みの中で、ちびたぬきたちがｷｭｰｷｭｰと鳴いていた。もう何日も親たぬきが帰ってきていない。空腹も限界に達していた。
だがいくら鳴こうとも親は帰ってこない。処分された生物が生き返ることなどない。
ちびたぬきたちは知る由もなかった。自分たちがぐずったことが遠因となり親たぬきが命を落としたことを。
それも知らず、ちびたぬきたちは延々と、ｷｭｰｷｭｰと鳴き続けた。
もしかしたら、「もうわがままを言わないから帰ってきて」と叫んでいたのかもしれない。
ただ、それを確かめる術はもう存在しない。やがて茂みから鳴き声は聞こえなくなり、静寂が訪れた。

おわり
