

『日本たぬき工業展示会』


たぬきが可哀想な目に遭うのが好きな闇のたぬき好きである私は、
大学の友人から「日本たぬき工業展示会」なるイベントのチケットを譲り受けた。
たぬき畜産業界に向けて、たぬき加工機械を卸す製造業者が一同に会するこの展示会は、
私の様な趣味の人間にとっても大いに楽しめるイベントなのだという。

某国際展示場に足を運ぶと、会場は既にスーツのサラリーマン達で大賑わいであった。
そして、商談する彼等の声に混じって尋常ではないたぬき達の叫び声が聞こえてきた。
私は期待に胸を躍らせながら会場を見て回った。

◆

「我が社の新製品、『たぬシッポむきむきくんZ』は、
　たぬきの尻尾毛を効率的に収獲したい御社にぴったりのマシンです！」

社員が解説しながら、ジタバタするたぬきを機械にセットしていく。

「やだし…！離してし…！なんだしこれ…？なんでみんなたぬきのこと見てるし…？」

全身を機械にガッチリ掴まれ、頭と尻尾だけが露出したたぬきの姿に客の注目が集まる。

「見てないで助けてくださいし…！これ怖いし…ジタバタもできな…ｲｯ!?」

ｳﾞｨｰﾝ…ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ!!

たぬきの尻尾の根元にセットされたリング状の装置が、
バリカンの様な音を立てながら尻尾の先端に向かって動き始めた。

「やだぁぁぁぁぁぁ！！やめでじぃいぃいぃ！」

リングが通り過ぎた部分の尻尾は皮膚ごと毛がキレイに無くなり、ピンクの肉が露出している。

「おねがいだからｼﾞｯﾎﾞはやめでじｨｨｨｨｨ!!」

ものの10秒でたぬきの尻尾はズル向けピンクの毛無しになってしまった。
ショックのあまり白目を剥いてヒクヒク痙攣するたぬきを機械から取り外した社員は、たぬきを掲げて客に見せた。

「この様に一本も残さず全ての尻尾毛を刈り取ることができます！刈った毛はこちらに溜まっていきますからね！」

機械の下の引き出しを開けると、中には茶色くて艶のあるたぬきの尻尾毛が収獲されていた。

「さぁどんどん行きますよ！」

社員はハゲ尻尾たぬきを箱に捨てると、檻から別のたぬきを取り出して機械にセットする。

「さわるな…！ﾀﾇｯ!?ｷﾞｭｧｧｧｧｧｧｧｧｧ!?」

ｳﾞｩﾝﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ!!

機械の効率を見せつける為に、凄まじいスピードで次から次へとたぬきの尻尾がひん剥かれていく。

「ﾀﾞﾇﾀﾞﾇﾀﾞﾇｩｩｩｩｩｩ!!」

「さぁさぁ、たった1分で尻尾毛マフラー3本分の毛が収獲ができましたよ！
　気になったお客様はお名刺をこちらの箱に入れて下さいね！
　この後は『たぬヘアーぬきぬきくんZ』の実演も行いますので是非ご覧下さい！」

名刺交換タイムに入った様なので、私はその企業ブースを立ち去り次へ移動する。
いきなり素晴らしいものを見てしまった。これは期待以上のイベントかもしれない。

◆

「こちらのスライドをご覧下さい。生まれた時からションボリ顔のたぬき達は、
　たとえ嬉しい事があってもこんな笑顔しか浮かべられません。」

別の企業ブースでは、いつも通りの八の字眉と垂れ目だが口元だけ少し笑っているたぬきの写真が
プロジェクターで映し出されていた。

「しかし我が社なら、たぬきをこんな素敵な笑顔にする事が可能です。」

スライドが切り替わると、満面の笑顔を浮かべたたぬきとちびたぬきが現れる。
私もWeb広告で見た事がある有名な写真だった。
"全てのたぬきに最高の笑顔を"
のキャッチコピーが踊るスライドを見て、私向けの企業ではないな、と思い立ち去ろうとしたが…

「…この『たぬき笑顔矯正器 スマイリーラクーン』が、御社のたぬきを笑顔にします。」

そう続けた社員の言葉に思わず足が止まる。
スライドで説明する社員とは別の社員がたぬきを連れて現れ、実演を始める。

「ﾀﾇｰし…もうお家帰してし…たぬ…？触るな…ﾀﾇ…!?」

困惑するたぬきの顔に、ゴツい機械仕掛けの仮面が無理矢理装着される。
仮面の表にはニコニコ顔のたぬきが造形されており、その目の部分が緑色に点灯して、
装置の起動を客達に知らせた。

「あびゃぁぁあぁぁあぁし！！」

立ったままガクガクと全身を痙攣させるたぬき。

「まままっま、ばばばばばばばばっ！？」

「電流を流す事で電気刺激によりたぬきの表情筋を動かし、仮面の裏にある固定具が
　目、眉、頬、口を適切な位置で固定します。1時間の矯正で24時間の笑顔をお約束致します。」

「あばばばばはば！！」

「そして1日1時間の着用を5日間続ければ、そのたぬきは一生笑顔が続き、
　ションボリ顔を見せる事はもう二度とありません。」

「ばばば…ばぁｯ…！？ﾊｧ…ﾊｧし…。」

やっと電流を止めて貰えた仮面たぬきはそのままブースの裏に引っ込められた。
入れ替わりに現れたのは満面の笑みを浮かべた大人たぬきとちびたぬきであった。

「こちらが5日間の矯正を終えたたぬきになります。どうぞお近くでご覧下さい。
　広告写真への利用やペットショップ様の他、従業員たぬきを雇用する企業様方から格別のお引き立てを賜っております。」

「ﾀﾇｰし♪ﾀﾇｰし♪」
「ｷｭｰ!ｷｭｰ!」

2匹のたぬきはニコニコ顔で客に手を振っているが、その尻尾はプルプル震えながら両足の間に挟まっていた。
私はそれが恐怖や不安を感じている時の尻尾の動きだと知っている。
よく調教されているが、その笑顔の下の心は…闇だ。
表からでは分からぬ尊厳破壊にしみじみと感じ入った私は、満足してブースを去った。

◆

多くの見物客が集まるブースがあったので近付いてみると、
ホテル等で使う業務用調理器具メーカーが実演と試食をやっていた。
お腹も空いてきたし私も食べさせて貰おう。

コックの格好をした膨よかな社員が饒舌な解説と共に食材を準備している。
冷蔵庫から取り出されたバットには、髪も尻尾の毛も無い掌サイズのちびたぬきが山積みされている。

「子たぬき揚げは、たぬきが調理後も微かに生きているのが美味しさの決め手だと言います。
　たぬき仮死冷凍技術のお陰で、生きたままの子たぬき揚げを提供できるお店が全国的に増えました。
　私共の業務用フライヤーも早速子たぬき揚げの調理機能を搭載致しまして、
　高級ホテルでは既に大好評のメニューとなっております。
　さて、ここは上品に『活き子たぬきのフリット』とお呼びしましょうか。早速調理して参ります！」

"ピンチハンガー"という名前だったか、洗濯バサミが沢山ぶら下がった
よくあるハンガー…をステンレス製にした物が、レールにぶら下がっている。
レールの下には小麦粉や衣液のバットと油が入ったフライヤーが並んでいる。
コックが半解凍されたちびたぬき達を掴んで、手際よく洗濯バサミで両耳を挟みハンガーに吊るしていく。
ちび達は冬眠でもしているかの様で、耳を挟んで吊るされても微かに顔をしかめて
小さくもぞもぞジタバタするだけで起きる気配は無い。

「さぁ、あとはスイッチを入れるだけ！」

コックがコントローラーのボタンを押すと、ハンガーが静かに下がっていき、
均等に吊るされた20匹のちびたぬきが小麦粉の入ったバットに降ろされた。
バットは思ったより深く、ちび達は全身が小麦粉に埋まった。
すぐさま引き上げられたハンガーが、レールに沿って隣の衣液が入ったバットの上に移動する。
先程と同じ様にハンガーが降り、ちび達は全身衣液の風呂に浸った。
再びハンガーが引き上げられ、瞬く間に20匹のちびたぬきが綺麗に衣に塗れた状態になった。
そしてハンガーは再びレールを移動し、なみなみ注がれた油がジクジクと煮立つフライヤーの上で、
それまでと同じ動作を一切の躊躇無く行った。

「「「ｷﾞｭｩｩｩｩｩｩｩ!!?」」」

首から下を油に投入されたちび達は冬眠から一気に目覚めた。青白かった仮死状態の顔が一転、
生気に満ちた薄桃色になったかと思うと、急激に紅潮し苦悶の表情へと変わった。

「「「ｷﾞｭｯｷﾞｨｨｨｨｨｲｨ!!!」」」

こうしてちびたぬきに叫びと共にションボリを吐き出させる事が、子たぬき揚げの調理過程において
とても重要なのは言うまでもない常識である。
ちび達の絶叫と、ジュワジュワ、パチパチという油の音に負けぬ様、コックが声を張り上げる。

「子たぬき揚げはレアからミディアムレア位が美味しいとされています！そろそろ仕上げましょう！」

ハンガーが更に下がり、ちび達は首から上も油に浸されて叫び声すら上げられなくなる。
頭部にも軽く火を通したらハンガーが引き上げられる。
全身を上品な黄金色の衣に覆われた見事な子たぬきのフリット20個があっという間に完成した。

「ささ、お熱い内にどうぞ！」

コックが手早く小皿に取り分けて配ってくれた。
ホカホカと湯気を立てるそれは、衣越しに僅かにジタバタしているのが見え、
確かに『活き子たぬきのフリット』の名に恥じぬ仕上がりだった。

配られたプラスチックフォークを突き立てて口に運ぶと、
サクサクフワフワの衣と弾力マシマシのはんぺんの様なモチモチプルプルたぬき肉の食感が
口の中を大いに楽しませた。
揚げたての火傷しそうな熱さに口を開けハフハフと喘ぐ。
すると、口の中でたぬき肉が僅かにもぞもぞ、ピクピクと動いているのが感じられた。
フリットの衣にはしっかりとした味付けがなされており、ともすれば淡白なたぬき肉を
思わず炭水化物か酒が欲しくなってしまう塩気とうま味の効いた味わいに仕立てていた。
流石ホテルでも出しているたぬき料理である。
小腹を満たした私は上機嫌でブースを後にした。

◆

その後も、対たぬきや対もどきに特化したトラップを扱う実用的な道具メーカーから、
たぬきの尻尾に水滴を垂らし続け無限にトボトボ歩きをさせハムスターの様に滑車を回させ発電する『トボトボ発電機』や、
『たぬ木判別センサ』等の不可思議な機械のメーカーまで、多種多様な展示を見る事が出来た。

その中でも、今回最大の展示である『たぬき下処理工場の製造ライン』を丸ごと再現したブースは見ものだった。

首根っこをアームに掴まれ吊るされ次々ラインを流れて行くたぬき達が口々に不安と不満を訴える。

「この先から叫び声聞こえるし…離してし…！離してし…！」
「高いとこ怖いしぃぃ！降ろしてほしいしぃぃぃ！」
「たぬきは悪いたぬきじゃないですし！あんまり酷いことしないで欲しいし…！」

たぬき達が最初に突入するのは洗車機の様な構造の『脱毛マシン』。
鬼の金棒みたいなトゲ付きゴム棒がびっしり生えたローラーブラシが左右にズラリと並ぶ一本道を
吊り下げられたまま通過しなくてはならない。

ﾌﾞﾙﾙﾙﾙﾙ…ﾐﾁｯﾌﾞﾁﾌﾞﾁﾌﾟﾁﾌﾟﾁ!

「ｲｯ!?ﾋｷﾞｭｧｧｧｧｧｧｧ!!」
「ぢ！ぢぎれるじぃぃぃぃぃぁぁ！！」
「ごれ痛ずぎｼﾞｨｨｨｨｨｨｨｨ!!」

たぬき達の髪や服や尻尾毛が、高速で回転するトゲ付きゴム棒に絡まり
そのまま機械の強い力でブチブチと巻き取られ、引き抜かれ、撒き散らかされた。
マシンの左右は透明アクリル窓になっているので、たぬき達が揉みくちゃにされながらも必死にジタバタし
抵抗虚しく毛と勝負服を奪われる様がしっかり観察できた。

「うっ…ひぐっ…あんまりだし…ﾀﾞﾇｩｰ!」
「たぬきのシッポふわふわじゃなぐなっぢゃっだじ！！こんなのやだじぃぃぃ！」
「痛いじ！裸んぼだじ！ひぃぃぃんし！」

全身の毛を無理矢理引き抜かれる痛みに身を捩り涙を流すたぬき達だが、残念ながら毛の処理はまだ終わらない。
次に待ち受けるのはうぶ毛や抜け残った短い毛を焼く為のバーナーを多数を搭載した
『毛焼きマシン』だ。
マシン内は常に上下左右から炎が放たれ赤く輝いており、入ったらどうなるかたぬきにも見ただけで理解できた。

「あ…あ…それはホントにやめてし…」
「もうかんべんして下さいしぃぃぃぃ！！」
「ひぃぃぃ！ひぃぃぃ！火ぃだしぃぃぃ！？」

どんなにもがいても外すことの出来ないアームに掴まれたまま、
燃え盛るマシンの入り口に少しずつ近付いていくたぬき達。
ゆっくりと進むラインの流れはしかし、決して止まる事がない。

ｼｭｺﾞｫｫｫｫｵ!

「あづｧｧｧし！もうダメだじｨｨｨｨ!!」
「ｷﾞｭｩｩｩ!!ゆるじでぐだざいじぃぃぃぃ！！」
「ﾋﾞｷﾞｬｧｧｧｧｧｧｱ!!!」

うぶ毛を焼くだけなので大火傷を負うほど火を当てる訳ではないのだが、
たぬきの本能からするとこの工程が一番堪えるらしい。

「ひっ…ひっ…し…」
「こんなの…やだ…し…」
「………」

どんなに抵抗していたたぬきでも、毛焼きマシンで必ず屈服するという。

ところで、子たぬき揚げが生きたまま食すのが美味、と言われる所以は、踊り食いが趣味の変態ばかりだからではない。
たぬきは非常に足が早く、死してすぐに分解が始まり、特殊な処置をしなければ3日で跡形も無く消え去ってしまう。
これはリポップと呼ばれるたぬきの生態に原因があるのだが、要するに、ちびも成獣も調理直前まで生かしておくのが
最も安全で美味しいというのが業界の常識となったのである。
よって、鶏であれば最初に『屠殺マシン』を通過するのだが、たぬきの場合は生きたまま『冷凍マシン』にて仮死状態にされる。

ｼﾞｬﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ
「ｲｯ!…しみるし…」
「あづい…し…」
「…ﾀﾇｩ……」

すっかり静かになったたぬき達はそのまま『洗浄マシン』に突入し、左右からお湯をかけられて
身体に付着した毛や、ちびった大小便等の汚れを洗い流される。
そして最後に『冷凍マシン』に送られ、特殊な冷凍ガスの充満した庫内で叫び声をあげる間も無く昏倒し、
僅か5分で仮死冷凍状態になるのだ。

「ｷﾞｭ…ｸﾋｭ…?」
「ねむ…し…」
「……」

このたぬき達が次に目覚める時はまな板の上だろうか。
いずれにしても、新鮮なたぬきが家でも簡単に食べられる時代になったことを喜びたい。

技術の進歩に感謝し、企業ブースに一礼してその場を去ろうとした私だったが

「熱心にご覧になっていましたが、製造ラインの導入をご検討中ですか？」

うっかり社員に捕まってしまった。

「いえ、実はまだ学生で、今日は見学なんです。失礼します！」

私は最低限失礼のない様に自己紹介してそそくさと退散しようとする。しかしすれ違いざまに社員が

「門戸は広く開かれていますよ。」

と囁いてきた。
振り返ると、全てを見透かした目で社員がニコリと笑っている。
私が進むべき進路が決まった瞬間だった。

10年後、私が開発した『全自動たぬき伸ばし機』が大ヒットする事になるが、それはまた別の話である。


オワリ