「みっちり系ペットショップ」


近頃「他では手に入らないたぬきが売っている」みたいな噂で評判らしいペットショップにやってきた。
早速店に入るとたぬき達がお出迎え…とか呑気なことを言っている場合じゃない光景が広がっていた。

たぬき専門のペットショップらしく、大人たぬきが入っているケージや、子たぬきなどが入れられているテラリウムが所狭しと並べられている。
…ところまではいいのだが、問題はその中身だ。

大人たぬきが入っているケージは、なんというか狭い。
高さにして40cmぐらいだろうか？うどんダンスを踊ることは勿論、直立することさえままならない様子である。
立っているたぬき達はみんな猫背になっている。うどんダンスの「おっにっく♪」のところのような姿勢だ。
まともに立つことを諦めたのか、ずっと寝転んだままのたぬきも多い。
何より、普通のペットショップでよく聞く「たぬきはうどんダンス踊れるし…飼って欲しいし…」といった感じのおねだりが全く聞こえてこない。
たぬきを見分けることなんて全然できないが、それでも明らかに他よりもションボリしていると断言できるほどにたぬき達がションボリしている。

子たぬきや豆たぬきが入っているテラリウムも酷いものである。
こちらは広さは十分…なのだが、とにかくギッチリとたぬき達が詰まっている。
何せ地面がたぬき達のせいで見えないのだ。下手なたぬき玉よりも密度が高い。
一番密度が高いテラリウムなんて、たぬきが二段重ねになっている。
おまけに、こんな状況なのに「ｷｭｰｷｭｰ」という子たぬき達の鳴き声が殆ど聞こえてこない。
普通だったらこれだけ子たぬきがいれば、ペットショップの鳥コーナーも斯くやとばかりの騒音…もとい大合唱のはずだ。


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客が自分以外にいなかったので、店主に話を聞いてみた。

─どうしてこんなにたぬき達をギチギチに詰めているのですか？
結論だけ先に言うなら「需要があるから」です。

─その需要とは？
「たぬきを飼いたいけれど、たぬきには静かにしていて欲しい」
そういうオーナーが意外と沢山いるんです。

─たぬきって他の動物と比べると割と静かな方では？
うどんダンス…あれが問題なのです。全力で歌う。ピョンピョンと跳ねる。
一軒家ならいいですけど、マンションだと周囲の部屋に響くんですよアレ。
それと、かわいいからってたぬき玉をまとめ買いする人が割といるんです。
だけどですね。夜中に公園とか路地裏とか行ってみなさい？
たぬき玉のちび達が全員で鳴くと結構響くんです。癇癪起こしてるっぽい時なんて私でも耳障りですよ？

─確かによく考えてみれば、たぬきって結構うるさい…
そこで私の店の出番っていう訳です。
子たぬきの頃からああやってみっちり詰めておけば、物静かなたぬきに育つんです。
喋ると近くのたぬきから「お前うるさいし…」って戒められるせいでどんどん無口になります。
ｷｭｰとかしか鳴けない子たぬきでも、ちゃんと効果があるみたいです。うるさいのは嫌なんでしょうね。
それに、あんな惨状なのでうどんダンスを踊ることが出来ません。
うどんダンスはある程度は本能的に理解しているみたいですが、親や仲間から教えてもらえないと振り付けも歌詞も分からないらしいです。
つまり、おまけ的効果でうどんダンスが踊れないたぬきが生まれます。
『殆ど喋らないし、うどんダンスを踊らないたぬき』、ここに完成です！

─虐待では？
何の法律にも条例にも引っかかってないからセーフです。ぶっちゃけ自分でも不思議です。

─話を戻して、どういう人に需要が？
例えば、たぬきOKのマンションに住んでいる人ですね。
うるさくしないように躾けるのが面倒な人が買っていかれます。
それと大っぴらには言えないですけど、たぬきNGのマンションの人にも人気です。
「全然喋らないからバレない！」とご好評です。

─納得しました。
そうだ、少し特殊な使い方をされるお客様もいます。
飼いもどきに食べさせる生餌用にうちのたぬきがピッタリだと。

─それはなぜ？
普通のたぬきだと、
「嫌だし！死にたくないし！食べられるために生きてきた訳じゃないし！…(もどきに齧られる)あ"あ"あ"あ"あ"！腕が！痛いし！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
っていう感じに抵抗するしうるさいんですけど、うちのたぬきだと
「………………………………………(もどきに齧られる)……………痛っ………………」
みたいに、食べられる時ですら静からしいのです。

─貴重なお時間を頂きましてありがとうございました。
いえいえこちらこそ。

─せっかくなのであの80%引きのたぬき買いたいんですけど。
お目が高い！あいつは喋らなさ過ぎたせいで喉がおかしくなって、喋れなくなった聴唖たぬきなんです！とっておきですよ？

─お会計は500円…500円!?
障害持ちのたぬきは通常であれば殺処分されるので、値段がついているだけでも凄いんですよ？


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「ありがとうございましたー！」
店主に見送りまでされてしまった。

さて、勢いで買ってしまったこいつはどうしたものか？

「お前本当に喋れないのか？」
「…………………………」ｺｸｯ
「うどんダンスは踊れる？」
「………………………………」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ
「というか、もしかして歩けない？」
「……………………」ｺｸｯ

話の通りだった。全く何もできないモチモチしているだけの生物だ。
確かに500円ついているだけでも奇跡みたいなやつだ。

「とりあえずお迎え記念でうどん食べるか？」
「！…………………………」ｺｸｯｺｸｯ

これからのことはこれから考えるとしよう。
とりあえず、最近肌寒くなってきたから湯たんぽ代わりにするか？……そうだ！

「決めた！お前の名前は『ゆたんぽ』だ！」
「！ｯ………………………………………………………………」ﾆｺｯ