「たぬきの生まれ方」

たぬき空港の特番で一躍有名になったヒマラヤテレビが、たぬきに関する新たな企画を水面下で進めていた。
その名も『たぬきの不思議』。視聴者からのたぬきに関する疑問を検証しようという企画なのだ。第一弾は『たぬきはどうやって産まれるの？』である。

「子供達からの質問トップはこれでしたね。ちょうど夏休みですし自由研究のネタにはピッタリなのかなあ」
「でもいいんじゃないか？ある種の啓蒙になるし」
「うーんし…」

人間のスタッフが皆賛成する中で、たぬきディレクターは一向に首を振らない。たぬき空港のシリーズを産んだ敏腕ディレクターは、今回の企画に一抹の不安を覚えていた。

「どうしたんですかD、何か気になる事でも？」
「ちょっとこのテーマ微妙だし…」
「微妙？どういうことです、生き物が生まれてそれから何処へいくのかって結構ウケるテーマじゃないですか？ほら、ウミガメの産卵に始まり海に入るまでの壮絶な旅路とか…」

たぬきDは神妙な面持ちでジロリとスタッフ達を睨む。何やら剣呑な雰囲気になってきているの見るに、彼女は『たぬきがどう生まれるか？」という部分に並々ならぬ反感を抱いている様だ。

「…まあ良いし、とりあえず試しに撮ってみるし。公園にたぬ木があったはずだし…」

？と首を傾げながらスタッフ達はトボトボと動き出すたぬきDに続きカメラを手にテレビ局近くの公園へと向かった。
たぬきDの言う通り、二本のたぬ木が森の中に紛れ込んでいただけでなく、それぞれ果実が実っている。気のせいかもぞもぞと動いていて、それを目にしたたぬきDは、

「ひい、ふう、みい…大体五匹くらいかし。多分今夜には全部生まれるし」
「え！じゃあ撮らないと！」

早速スタッフ達はたぬ木のそばに定点カメラを設置する。動きに反応して撮影開始すると言うアレである。これまでに空港をはじめとしてたぬき密着関連の企画が軒並みヒットしているだけあり、彼らにはそれなりに投資されているのだ。
もうすぐ陽が沈む。大慌てで設置を完了させ、スタッフ達はいそいそと退散していく。たぬきDだけは公園に住むたぬきと何やら会話していた。

※

翌日、スタッフ達はカメラを回収するべく公園へと向かった。
すると驚くべき事にたぬ木に実っていたはずの果実は忽然と消えていた。

「あっ、実が無くなってる！」
「という事は生まれたんだ！」
「撮れ高あると良いな！」

口々に期待を寄せるスタッフ達とは対照的に、たぬきDはションボリ顔でボソリとつぶやいく。

「…生まれていたならここにいるたぬき達が騒ぐはずなのに何も聞こえないし」

朝の公園は異様な静けさに包まれていた。

※

さてカメラには何が映っていたのか、スタッフ達は心躍らせながら映像の再生を開始した。

深夜0時ごろ、枝にぶら下がっていた二つの実がブラブラと左右に揺れる。中のちびが目覚めて動き出したのだ。
たぬ木の実内部でたぬきは体を形成し、実が熟して地面に落下すると同時に外の世界へと飛び出す。実はちびを育てる揺り籠であり、同時に外敵から身を守る檻なのだ。
やがてポトリと音を立てて両方の実が落下する。熟れている為に地面に落ちると湿った音を響かせる。すぐにパカリと割れ、それぞれの実の中から愛らしいちびたぬきが顔を出した。

『ｷｭｰﾝ！』
『ｷｭ~!』

元気いっぱい、と言った様子のちびたぬき達はよたよたとスローな動きで実から出ると、まず最初に一緒に生まれた姉妹というべき別のちびと頬をモチモチしあう。

「おー！これがモチモチ！生まれたてはかわいいな！」
「幸せそうだわ…」
「今のうちに吹き替えの原稿とか作っておきましょうよ。お姉ちゃん初めまして！とかそんなの！」

はしゃぐスタッフとは裏腹にたぬきDはじっとちびの動向を見張っている。全く言葉を発さず、目を見開いて映像を見つめるその姿は異様だ。
互いに生まれた事への祝福を終えた後、二匹のちびはお腹を抑えてションボリする。どうやらお腹が減ったようだ。
二匹は自分が入っていたたぬ木の実に齧り付く。幼い内は歯が生えそろっていないものの、何なく噛み砕けるほどに熟れているのなら問題ない。凄い勢いで食べ尽くしていった。

『ｷｭｰ!』
『ｷｭｯ!ｷｭｯ!』

お腹いっぱいになり、ポンポンと膨らんだお腹を叩くちび達。その体は甘い汁で体をテカテカで、画面越しにも甘ったるい匂いを錯覚した。
空腹を満たし、眠くなってきた二匹はまた頬をモチモチしながらごろりとその場に寝転がる。そしてまるで手を繋ぐ様に尻尾を絡めて、たぬき玉を作った。

たぬき玉はちひが集団で眠る際に作る一種の防御形態である。寒さに耐える為に行うそうだ。

『ｷｭｰ…ｽﾋﾟｰ…』

呑気に寝息を立て始める二匹のちび。穢れというものを知らない純粋無垢そのものの姿と言えるだろう。
姉妹一緒なら寂しくない、そう言っているかの様に二匹の尻尾はガッチリと絡み合っていた。

「うあ〜可愛い、ほんと可愛い」
「こりゃあちびたぬきがペットショップで大人気なのも納得だわ！」

とにかく愛らしい姿にスタッフ達が食い入る様に見る横で、たぬきDはあちゃあ、とこめかみを抑える。

「あいつら…」

『ｶｰ!ｶｰ!』
『ﾀﾞﾇ!?ｷｭｰﾝ!ｷｭｰﾝ!!』

しかし、ちび達が眠りについて十分もしない内にソレはやってきた。

実が落ちてくるのをずっと待っていたのだろう。何処からともなく闇に紛れてカラスが急降下し、一匹のちびを足でガッチリと押さえ込んだ。
ぐっすり寝ていたところに突然攻撃を仕掛けられたちびはギョッとしながら生まれて初めてのジタバタを始めたものの、もがくばかりで何の意味もない。大人たぬきであればある程度は外敵にダメージを与えられるが、ちびではどうしようもないのだ。
もう一匹のちびは仲間が突然襲われた事態にパニックを起こし、同じようにジタバタする。誰かが助けに来てくれる事を期待しているのだろうが、全くその様子はない。更に尻尾が絡まっているばかりに、逃げたくても逃げられない。

しばらくして暴れ疲れたのか、ハアハアと息をしながらちびは動きを止める。獲物が抵抗する力を失ったと判断し、カラスはその肉を啄み始めた。

『ｷﾞｭ!?ｷﾞｭｱ!ｷﾞｭｱ!!ｷﾞｭｳ､ｷﾞｭｳ!』

黒い羽根に包まれた体が上下させ、嘴で柔らかい体を突くたびに悲痛な声に続いて血飛沫があがる。
もう一匹のちびは姉（もしくは妹？）が食われる姿を呆然とした様子で見ている。あんなにニッコリしていた顔がみるみるうちに絶望と恐怖で染まっていく様子は、筆舌に尽くし難い。

『ﾀﾞﾇｯ､ｹﾞﾌﾞｯ､ｹﾞﾌｯ…ｷﾞｭｳ…』

掴まれたままのちびは虫の息だ。顔から胸にかけてを中心に啄まれたせいで白い肌のそこかしこに、花が咲いたかのように抉られた跡がある。

『ｷｭ~!!!』

あんなにキツく絡めていた尻尾が解け、もう一匹のちびは悲鳴をあげながら逃げ出す。愛しい姉妹を助けようなどと言う勇気は流石にない様で、そのまま近くの茂みに飛び込んでしまった。

『ｷﾞｭ､ｷﾞｭ…ｷﾞｭ!?』

助けて、助けて。そう言うかの様にちびは手を伸ばすが、すかさず嘴がそれを遮り、柔らかい手がちぎれた。

『ｷﾞｭｳ…ｯ』

それがトドメになったのだろう。生まれてまだ間もないと言うのにちびは動かなくなった。
カラスは獲物が完全に死んだのを確認してから翼を広げ、飛び立つ。恐らく死骸は巣に持ち帰られて雛の餌になるに違いない。

カラスがいなくなり数分後。茂みから恐る恐るもう一匹のちびが顔を出す。顔面蒼白で、今にも崩れ落ちそうなくらい震えている。

『ｷｭ…ｷｭ!?ｷｭｳ!?』

お姉ちゃんどこ！？そう言いたげだ。
ちびは茂みから出て、カラスがいた場所へと走る。そこには血の痕だけが残っていて、ちびはションボリ顔になって涙を流した。

『ｷｭｯ､ｷｭｯ…ｷｭｴｴｴｴﾝ…』
「ああ、そうやって泣いたら…」

たぬきDが思わず声を上げた、次の瞬間。

『ｶｰ!!!』
『ｷｭ!?ｷｭ!!ｷｭｯ!ｷｭｳｳｳｳｳ!!!!』

鳴き声から獲物がいると嗅ぎつけたのだろう。別のカラスがやってきて、ちびの体をがっちり足で掴むとそのままカメラの外へと飛んでいった。

30分もしない内に二匹のちびは死んだ。あまりにもあっという間の死にスタッフ達はそれまでの和やかな気持ちもしぼみ、呆然としてしまう。

「え、え、えええ…」
「嘘だろ…」
「こんな事が、こんな事があっていいのか？」
「野良ちびのは大体がああして食われるし…人気のあるところなら助けてもらえるけど。次の木を見てみるし」

ショックを受けて口をパクパクさせるスタッフを無視し、たぬきDは次の映像に移る。
実が三つ実っているもう一方の木が映し出されると、そこには二匹の大人たぬきの姿があった。時刻は0時頃だ。

『もうすぐ産まれるし…楽しみだし』
『名前とかもう考えてあるし？私はたぬ子だし…』

ションボリ顔をほんのりニコニコさせながら二匹は実が落ちる瞬間を今か今かと待ち構える。

『もう一本の方にあった実はいいのかし？』
『いいしいいし…まとめて拾ったら五匹になるし…そこまでの大所帯は勘弁願うし』

かなり俗っぽい事を言っている。要するにこの二匹は三匹のちびを拾い、残りの二匹を捨てる事にしたわけだ。
と、三つの実が同時に落下する。先程と同様に実が割れ、中から三匹のちびが元気に顔を出した。

『『『ｷｭｰ!!』』』
『おー、元気なちびだし…私達がままだし』
『ししし…可愛いし…』

「今度は大人に拾ってもらえたし、大丈夫そうかな」
「何も起きませんように…！」
「…公園のたぬき達は今朝何処にもいなかったし。それは何故か、これからわかるし」

そんなたぬきDの呟きに応じるかのように、映像に小さな影が映り込む。

『ﾀﾇ!?』
『え…！』

大人たぬき達も気配を感じ取ったのか、ちびを抱いたままそちらを向く。カメラに背を向ける様にして、何匹ものネズミがその姿を表した。

『ね、ネズミだし…』
『なんでここにいるし…今まで寄り付かなかったのに…』

そこで大人たぬき達は腕の中でジタバタするちびに視線を落とす。ご飯が食べたい、と口をパクパクさせながら手を伸ばす純真無垢そのものと言えるちびを、ネズミ達は狙っているに違いない。
たぬ木の実は非常に甘い匂いを放つ。恐らくネズミ達は匂いをたどって公園にやってきたのだ。

『ｷｭｰ?』
『ｷｭｯｷｭｯ､ﾏﾏ…』
『ｼ~…』

『…………』

大人たぬきは互いに顔を見合わせる。ちび達が笑いかけているのに気にも止めず、何をすべきか考えている様子だ。
ネズミはジリジリと距離を詰めてくる。逃げ出そうものならすぐに追い付かれるだろう。

『っし…』
『ちび、許せし！』

なので二匹のたぬきはちび達を諦める事にした。勢いよく抱いていた幼い命達を、二匹は勢いよくネズミへと放り投げたのだ。

『ｷｭｰ!?』
『ﾏﾏｰ!』
『ｷｬｯｷｬｯ!』

遊んでもらっていると勘違いしたのだろう。ちび達は空中でジタバタしていたが、それを待ち受けていたネズミ達の中に落下した。

『ﾁｭｰ!』

リーダーらしきネズミの号令に応じて群れはちび達を背中に乗せて公園を去っていく。さながら絨毯の様なそれの上で、ちび達はこれから貪り食われる事など想像もせずに首を傾げた。

『ｷｭ?ｷｭ?』
『ﾏﾏ?ﾏﾏ!ｷｭｰ!』
『ｷｭｳ~ﾝ~!』

『ちび…ごめんし…』
『リポップしたらまた会おうし…』

仲間を生贄にした二匹のたぬきは涙を流しながらネズミの群れを見送る。
もしも要求を無視していたら二匹もちび達も纏めて食われていた事だろう。しかし自己保身に走ってしまった後悔は離れない。一生かけてもちびを見捨てた事実を彼女達は忘れないだろう。

『ｷﾞｭｰ…』
『ｷﾞｬｯ!?もどきだし！わあああｷﾞｭｳｯ!』
『ひいい！誰か助ｹﾞｯ!』

忘れない以前に二匹は後ろから忍び寄ってきていたもどきの爪でバッサリと袈裟斬りにされた。ちびを狙っていたのはネズミだけでなく、もどきもだったのだ。

『ｷｭｳ~ﾝ』

嬉しそうに鳴いて、もどきは二匹を咥えるとカメラの外へと去っていく。
残ったのは不気味なほどの静謐だった。

※

映像が映していたのは企画のテーマである『たぬきはどうやって産まれるの？』ではある。たぬきはたぬ木から生まれて、それから他のたぬきに拾われる。それは間違いない。だが、そこにはあまりにも残酷な野生があった。

「これでわかったし…？たぬきは今のままで十分だし…こんなもん子供達に見せたらトラウマもんだし」

一応上にも見せたが、『こんなもんお茶の間に出せるか』という事でボツをくらった。
しかしたぬきDは敏腕なだけあり、録画した映像を有効活用した。
映像のグロテスクな部分を可能な限りカットし、たぬきが産まれる瞬間と大人たぬきに拾ってもらうところだけを流したのだ。
そしてその後は可愛らしいイラストで、カラスやネズミの危険性を説明する。これに専門家が追従し『野生のたぬきが危険な目に遭わない様に保護団体が動いている』という旨の話をする。
こうしてたぬきはどうやって産まれるのか？をざっくりと説明しつつ前向きな番組を作り上げたのである。

「ししし…結構ギリギリだったけどなんとかなるもんだし…」

雑な終わり。

解説

・公園にいた二匹
たぬきDからちびをしっかり保護しろよと釘付けされていたが普通に切り捨てた
・連れて行かれたちび達
頭から丸齧りされた
