
『たぬきのアヒージョ』

お値段相応な緑のお店で買った鉄スキレットにオリーブオイルをたっぷり注ぎ、刻んだニンニク、鷹の爪を入れて七輪に熾った炭火にかける
ふつふつと泡が立ってきた頃を見計らってエリンギとチビたぬき達を投入した

「ｷﾞｭﾜｧｧｧｧ!ﾁｭｲｲｲｲ‼︎」
「ﾋﾟｬｱｧｧｧｧｧｧｧｧ‼︎」
「ﾏ、ﾏﾏｧ‼︎ﾀｼｭｹｪｪ…」

じゅわ、という音と共にジタバタするチビ達がこんがり大人しくなり、ﾀﾇｰ…ﾀﾇｰ…と弱々しくなってきたら食べごろである。
火傷しないギリギリを見定めて口に入れると、チビたぬきの淡白でもちもちした食感が揚げられた表皮で際立ち、オイルのコクとニンニクの風味を引き立てている
ここにキリキリに冷やしたハイボールをグッといけば勲章モノであった

「うまいからいいけどよォ、これじゃアヒージョじゃなくてたぬき揚げだぜ」

隣で追加のチビたぬきに塩胡椒をまぶしている友人の言葉に、どうしてそんなこと言うの…となったが、なるほど確かにアヒージョとはオイル"煮"であり、じゅわじゅわ音を立てて表面こんがりでは素揚げであろう
ニンニクがすぐに焦げてしまう事に悩まされていたが、こんなに単純な話だったとは
なるほどなーと得心しながらプチトマトと一緒に串に刺したチビをまたスキレットに入れる
貫かれた時点で激しかったジタバタが釣り上げられた魚のように激しくなって、すぐにしょんぼりとなった

改善点がわかったなら早速実行である
といってもあらためて用意したのは野外用のカセットコンロと調理用の温度計だけだ
炭火と違ってつまみ一つで火力調整が出来るコンロさえあれば油の温度を一定に保つのも簡単だろう
ニンニクも丸から刻んだ方が美味いが今回は手軽にいきたいので瓶詰めのきざみニンニクを使う事にする
スキレットにオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪と入れてコンロにかけ、大体100℃を少し超えたくらいで火をギリギリまで小さくした
これで温度が上がりすぎて焦げ付いたり素揚げになる事はないだろう
食材は適当に切ったアスパラやらベーコンやらキノコにチーズ、そしてチビたぬきと豆たぬきだ

豆たぬきは大人になってもチビとそう変わらないサイズだが、やはり成体だからか食感や風味が異なるので揃えてみたのだ
言うならば若鶏とひね鶉だろうか
どちらも素っ裸で大きなステンレスのボウルに入れられているが、チビ達がいつの間にかたぬき玉を形成して眠っているのに対し、豆たぬき達は不安げにしながらこちらを観察したり、ボウルのへりから顔を出して他の食材を物欲しげに見たりとバラバラだった

「あの…たぬき達をどうする気ですし…？服も返して欲しいし…」

あのクネクネしているやつはダンスで媚びているのだろうか？生っぽいキューピー人形の様で不快だが、アピールを無碍にするのも悪いのでこいつからいってみよう

「返事してほしいし…裸は寒いし…恥ずかしいし…」

ボウルのへりによじ登っていた豆をはたき落とし、菜箸で珍妙なダンスをしているヤツを摘んだ
さっきからぶつくさ言っているヤツに転げ落ちたヤツがぶつかってまとめてジタバタしている
摘まれた豆は自分が選ばれたと思っているのか、ぶら下げられた状態で「ﾀﾇｰｼ♪ﾀﾇｰｼ♪」とクネクネしている。選ばれたのは確かであるが、果たして試食に選ばれるのは名誉であろうか

「？…ギュﾌﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞ……！」

そのまま顔面からオイルに入れる。豆たぬきの前半分がちょうど浸かるくらいの深さだ
揚げのように高温でないからか、小さな気泡は着くが、じゅわじゅわといった音は全く立たない
それにさっと素揚げした程度なら瀕死で済むたぬきである。フライや焼きのように表面がすぐに固められない分、ジタバタが結構長い
それでもひっくり返すころには、弱々しく蠢くだけになった。
湯むきしたトマトの様に真っ赤にただれた顔面に、オイルで溺れた時にそのまま火が通って固まった表情が張り付いている
空気を求めて開いた口から突き出した舌と熱で白くなった目玉がちょっとグロい
そのまま10分ほどおき、全身が赤くぱんぱんに茹で上がった豆たぬきに早速齧り付く

たぬき揚げのような表面のパリパリ感は無いが、ウインナーの様にブツッと快い歯切れの皮の中に、オイルを含んでもちもちジューシーになった肉がある。
豆とはいえ成体だからだろう、なんとなく野趣のある肉質で、それがニンニクとよく合っている。ナンコツ揚げくらいの硬さな骨の食感も良いアクセントだ。
しかし火力の問題だろうか、尻尾と髪の毛が少し口に残る気がしたので、次のヤツからは処理してから投入する
尻尾は楽に引き抜けるし、髪の毛も生え際に軽く切れ目を入れ、そこに指先を差し込んで裏返す感じでやれば玉ねぎの外皮のようにツルッと皮ごとまとめて剥げるので簡単だ

「ア゛ｧｧｧｧ！い゛だいじいぃ！やめでぇぇ！！！」

「はなせ…触るな！やべｯﾋﾞｷﾞｭｪｪｪｪ！」

「ｱｯｱｯ尻尾かえして…やだし…やだし…頭剥いちゃだめだし…」

ほいほいと処理してはオイルで煮込む
少し騒がしいが、たぬ食にはつきものなので気にしない
ブツッ、ｺﾘｺﾘと歯から脳に伝わる快感と共に口の中に流れる脂と旨味をビールで流し込むと腹の中から活力が湧いてきて発電所にでもなった気分であった
そうこうするうちにボウルの中にもスキレットにも豆たぬきが見当たらなくなった。次はチビたぬきの番である

さすがにあれだけ騒がしくすれば寝こけていたチビも気がつく様で、ｷｭｰｷｭｰと不安そうに鳴きながらもぞもぞしていた
上からキャンプ用のミックススパイスをふりかけてやると、唐辛子や胡椒がしみるのか、ｷﾞｭｰｷﾞｭｰと鳴き声が汚くなる
のたうちまわって勝手に満遍なく味付けされてくれるので、その間にオイルを補充して温め直す
いい具合に味が馴染んだところで適当に2、3匹つかむと、スキレットに放り込む

「ｷﾞｭｯ‼︎ｷﾞｭｱｧ！ｶﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞ…」
「ﾏﾏｰ‼︎ｱﾂｲｼ！ｵﾎﾞﾚﾁｬｳｼ゛ｨ!」
「ﾀﾞﾇｯ！ｷｭｲｨ！ﾋﾟｲｲｯ‼︎」

か細い悲鳴をあげるが、豆たぬきより一回りほど小さいチビ達がひたひたになるくらいにオイルを増やしたので、軽く押さえて沈めてやるとすぐにくぐもって聞こえなくなった
オイルの中でまだジタバタしているのが見えるあたり、チビでもたぬきは高温に強いらしい
が、単に死ぬまでの時間が伸びた分苦しむだけで、火が通らないとかではない以上あまり救いにはならぬ長所であった

ピンクのピンポン玉めいて煮上がったチビを食べてみると、なるほどプツンｯと軽やかな歯応えとクセのないもちもちプルプルの肉で、ジューシーなマッシュルームのようだ
しかしこれ単体では少々物足りなさもある
怯えるチビを1匹掴み上げ、その顔の前ににアスパラの穂先を近づける

「ｷｭｰ…？ﾀﾇｰ♪」

ほんの少しだけ戸惑うような素振りを見せたが、目の前に差し出された野菜に理解がおよぶと、はやく頂戴と涎を垂らして口をパクパクさせ始める
その口にアスパラを差し込み、そのまま一気に押し込んでやった
何が起きたか理解も出来ないまま、アスパラで口から肛門まで串刺しにされたチビを皿に置き、ついでにもう何匹かも同じようにする
他にも爪楊枝で留められたチビのベーコン巻き、口から腹が限界になるまでチーズを詰め込んだチビのチーズ詰めを作る
既にだいぶ酔っているので何匹かやぶってしまったが、それもご愛嬌というものだろう

あっさりした味わいで弾力のある食感のチビは、思った通り他の食材と合わせると相手をよく引き立ててくれる
個人的なヒットはチーズ詰めチビに胡椒を追加でたっぷりかけたものだ
弾けるチビから溢れるチーズとピリッと効いたコショウのスパイシーさで手が止まらない美味さであった

これにはあの小煩い友人もケチをつけられまいと1人笑っていたが、油とニンニクを連日摂り過ぎたせいで猛烈に腹を下し、しばらく節制を余儀なくされたのであった