『飼ってし』

ホームセンターの一角にある、ペットショップ。
そのさらに片隅にあるショーケースの中では、売れ残り組…大きさも割引具合もバラバラなたぬき達が、やかましく自己アピールをしていた。

「踊れますし！　うどんダンス踊れますし！　たっぬっき…たっぬっき…うどんうどんうどんうどんうどん！！」
「たぬきはこんなに元気だし…見てし…（ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ）」
「…………し…」

そこに、一人の男性がふらりと立ち寄る。覗き込んだのは、8割引たぬきのケースだった。

「そいつは売れ残りだし！　こっち！こっちみるし！！うどんうどんうどんうどん！！！たぬき！！」
「こんなに元気にジタバタできますし…（ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ）」

五月蠅く主張する他の2匹は無視し、男性は8割引を観察する。
完全に育ち切っているためかケースが狭く、みっちりと押し込まれている。頭は天井に擦れ、猫背にならないと収まりきらないようだ。
よく見ると、足はガニ股気味になっていた。

じっと見つめる男性に、8割引きが恐る恐る声を掛ける。
「………あ……あの…飼ってくださいし…………」
男性と目が合う。8割引は思わず顔を下に向けた。
「………その…飼っていただけませんかし………お願いですし………」
「ダンスとか出来る？」
男性が口を開く。
返事を貰えると思ってなかった8割引が、ビクリと身体を震わせる。
「ひっ……ご…ごめんし………踊れませんし……」
申し訳なさそうに頭を抱えた。
「そうなのか？」

「そいつはダンスできないし！！ダメたぬきだし！！！こっちし！！こっちみてし！！」
上のケースから、他のたぬきがわめき散らす。

「…………ちょっと前までは…できましたし…」
「今は？」
「…………ﾀﾇ……すいませんし…できませんし…」
開店中ずっとこの体勢を強いられ、8割引の股関節は若干変形していたのだ。
歩くことや小走りは問題ないが、ダンスのような動きは難しいのが現実であった。
「でもっ……その、ちゃんと言うことききますし……おてつだいもしますし……」
取り繕うように、男性に訴えかける8割引。

男性はそれを聞くと、ケースから離れていった。

「あ………」
ガラスに顔面を押し付け、去り行く男性の背中を見つめる8割引。

いつも通り。
たまにこうしてケースを覗く人は居るが、ケースを叩いたり、写真を取ったり、指を差して笑ったり。
誰もまともに相手してくれたことは無い。
「やだし…いっちゃやだし…」
それでも。
8割引にとって、いつ以来か分からないチャンスだったはずなのだ。
「…ﾀ………ﾀﾇｰ…ﾀﾇｰ…」
へなへなと、ウンコ座りで座り込み、自分のシッポを抱え込んで情けない鳴き声を発する。

「タヌゥ～ン！！　ざまあみろし！！ざまあみろし！！！　気分いいし！！！」
「ジタバタしないからだし…人間はたぬき達が元気なところが見たいんだし…（ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ）」
他のケースから、売れ残り仲間の罵りが聞こえてくる。

8割引の心には、諦めと焦りが同居していた。
自分がまだ5割引だった頃…隣のケースに入っていた8割引の先輩たぬきの事を、よく覚えている。
ある日、ケースから髪を掴まれて引っ張り出され、「いたいし…やめてし……」と呟きながら逆さまに袋に入れられた、先輩たぬき。
それを受け取る作業服の男性。
あの先輩たぬきがどうなったのか、誰も教えてくれない。
だが、それが幸せな道でないことは明らかだった。

自分が先輩たぬきのようになるまで、あと何日あるのだろうか。

「おーい」
ハッとして顔を上げる。
目の前には、先ほどの男性がしゃがんでいた。

「今、店員と話してきたんだ。オマエ安いんだな…」
「え………し？」
フラフラと前に出て、ガラス面に手を付く8割引。

「俺の家ってあんまり広くなくてさ…走り回ったりできないけど」
「だっ…だいじょうぶですし…！　たぬきは大人しいですし…」
「あと、トイレってちゃんとできるか？」
「はっ…はいし…！　決まった場所で…しますし…」
たぬきの返事に、ウンウンと頷く男性。

「食べ物って何が好きなんだ？」
「えっと…その……たぬフードしか食べたこと無いですし…」
「そうか…。あと、それ以外にも服って欲しいか？」
「服…」
売り場には、たまに飼いたぬきとその飼い主が立ち寄ることがある。そのたぬきが着ていた着ぐるみを思い出す。
「……あったら嬉しいけど、なくてもだいじょうぶですし………」
「ははは、わかったわかった」
男性が笑う。

これは…つまり。
8割引の胸が、期待の感情でいっぱいになる。
あふれそうになる涙を堪え、必死に笑顔を作ろうとした。

そして。

「じゃあな」
男性は手を上げて、バイバイの仕草をした。

「えっ………し？」
固まる8割引。

立ち上がった男性が背を向ける。

行かないで。
8割引が必死に声を掛ける。
「あっ……あの………飼って！！　………くれる………んじゃ………し……？」

男性が無言で振り向く。

ガラスに押し付けられてブサイクになった、8割引のションボリ顔。
「あの…あの……………」

「………プッ」
男性が、噴き出した。
「フフ…ちょ、ダメだ。笑いが…」
口元に手を当ててなんとか笑いを堪える。
そして、固まる8割引に無慈悲に言い放った。
「デカくて辛気臭いたぬきなんて飼うわけないだろ。安くてもお断りだよ」

「……は……し……」
酸欠のように口をパクパクさせる8割引。
目の前が真っ白になる。

気が付けば、既に男性の姿は無かった。

「お………ダヌ……」
ドスン、と尻餅をつく。後頭部がケース奥の網に当たり、大きな音を立てた。

デカい。辛気臭い。たぬき。飼うわけない。お断り。
何かが壊れる音がした。

「……ひししし……」

突然笑いだす8割引。
「ひひ………っししししし！！しし！ししししししししい！！！だしぃしししし！」
身体を起こし、四つん這いのような姿勢になる。
口の端から涎が垂らし、ガラス面にモチモチの頭突きを繰り返し始めた。
「ダヌゥ！ダヌゥ！ダヌゥ！ダヌゥ！！！！！！！」
ﾌﾞﾘｭ　ﾌﾞﾁﾞｭﾁﾞｭ　ｼﾞｮﾛﾛﾛﾛ……
股間から、大小の便が漏れ出す。

「……！　こいつおかしくなっちゃったし…やめてし！　やめてし…！」
「ひぃい…しぃいい！」
直接見ずとも、そのおぞましい様子を察し、他のケースに入ったたぬき達は一斉にジタバタし始めた。

…通りがかった女性客が悲鳴を上げ、慌てて飛んできた店員の手で、8割引はケースから引きずり出されることになった。絶叫と、激しい抵抗と共に。

＊＊＊＊

「店長、もうたぬき扱うのやめません？」
「ちゃんと需要あるんだぞ？　野良は病気持ってるから飼うのはリスクあるし」
「それなら…せめて割引とかせずに、売れ残りはもっと早く処分しましょうよ…」
「俺が好きなんだよね…あの見苦しい感じが…」
「（この人やばいな…）」

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※割引たぬき

たぬき玉時代に売れ残ってしまったたぬき。
店側が頼めば、ブリーダー側が引き取ってくれる。その後どうなるかは……？

育ち切った個体はとんでもない割引率だが、服やケージなどを売りつけることで利益は出る。
なお、最低限の教育は店側が行っているが、性格が歪んでいる個体が多い。
割引たぬきは、一般人よりも好事家が買うことが多い。その後どうなるかは…？



END
