真っ暗闇の中でそのたぬきは生まれました。
暗いせいで見えませんが、透き通るような白い肌と純白の服を兼ね備えた、それはそれは美しいたぬきでした。

「ｷｭｰ……ﾀﾇｰ……」(冷たいし…全身びちゃびちゃだし…)
このたぬきが知ったことではありませんが、ここは土鍋の中。
そう、このたぬきはお米から生まれたお米たぬきだったのです。
だから白かったんですね。

「ｷｭｰﾝ……」(ほっぺがぷよぷよしてきたし…)
どうやらお米を水に浸している間に生まれた様子。
ほっぺに限らず、全身が水を吸ってふやけていきます。
お米から生まれたせいか、普通のたぬきよりも余計に水を吸い込みやすいようです。

さて、お米を水に浸した後にやることと言えば……
ｶﾁｯ
ﾎﾞｫｫ……

「ｷｭｰ♡」(あったまってきたし…♡)
土鍋に火がかけられてしまいました。
土鍋の分厚さのせいで、外にまで鳴き声が届かなかったようです。
調理している人間には全く気づかれていません。

「ｷｭｰ…？」(気持ちいい…し…？)
初めのうちはお風呂のようで気持ちよかったですが、それもつかの間。
ぐんぐんと温度が上がっていきます。

「ｷｭｰ！ｷｭｷｭｰ！」(やばいし！なんか熱いし！)
白かったお米たぬきの体が、段々と赤くなってきました。火傷です。
この時の水温はおよそ50～60℃。
人間でもたちまち火傷してしまう温度です。

ｸﾞﾂｸﾞﾂ……
「ｷｭｩｩｩ！ﾀﾞﾇｩｩｩ！」(痛いし！助けてほしいし！)
ついに沸騰し始めました。
生まれたての子たぬきとはいえ、無駄に耐久力だけはあります。
全身がぐずぐずに火傷しているのに、まだ鳴くことができるようです。

そんなたぬきでも流石に15分程度も炊かれてしまっては……
「ﾏ…ﾏ……」
死ぬかと思いきや、息も絶え絶えですがまだ生きているようです。

そして、ついに土鍋の蓋が開けられました。
「ﾀｽｶｯﾀｼ…？」



────

その男性は土鍋でお米を炊いてみることにしました。
「どうせ炊飯器と大体同じだし、米を水に浸けといてから炊けば多分できるだろ…」
チャレンジャーな割に適当な性格だったので、特に調べもせずに始めたようです。

「無洗米だから1時間ぐらい浸けておくだけで準備終わるだろ…多分…」
この間にお米たぬきが生まれたのですが、気がつくはずがなかったのです。
炊く前に米の状態や水の量を確認すらしない適当人間だったのだから。

「『はじめちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣いてもふた取るな』だっけか…？」
『はじめちょろちょろ…』は釜で炊く場合の話です。
土鍋で炊く場合は最初から強火にしましょう。

「ｷｭｩｩｩ！ﾀﾞﾇｩｩｩ！」
「おっ、本当に赤ちゃんっぽい音するよ。気になるけどフタ開けちゃいけないんだよな…」
中にたぬきが入っているとは夢にも思っていなかったようです。
この時に気がついていれば、たぬきは辛うじて助かったでしょう。
それに、そもそも『赤子泣いてもふた取るな』は蒸らしている時の話なので、根本的に間違えています。

「蒸らして……多分完成！オープン！」
「ﾀｽｶｯﾀｼ…？」
「うわっキモっ！捨てよっ！」
「ﾀﾞﾇｯ」ﾄﾞｻｯ…

お米たぬきは真っ赤になっていました。それも、ただの赤ではありません。
水でブヨブヨにふやけた肌…熱湯による重度の火傷…
そう、全身の皮膚が破れてしまっていたのです。
難しい言葉で言えば、深達性II度熱傷+αの酷い状態です。
(もし「深達性II度熱傷」で検索した場合、ガチでグロい画像が出てくるので注意しましょう)

つまりお米たぬきは、写真に『閲覧注意！』とかつけられるほどのグロい見た目になっていました。
捨てられるのも無理はありません。

「なんだったんだあれ…まっいいか…もう一回やろ…」
男性はやっぱり適当なので、それほど気にせずに次に移ることにしました。
この後、なぜかこの土鍋で調理する度に料理がたぬきになってしまうのですが、それはまた別のお話……