「たぬきvsネズミ」

「ｷｭｰ…ｷｭｰ…ﾏ､ﾏ」
「ちびが喋ったし…嬉し…」
「ほとんどのちびが喋れるようになったみたいだし…」

人工の光が溢れる街の陰にある路地裏、見捨てられた廃屋のそばにはたぬき達がひっそりと暮らしている。
本来人が立ち入らない森林地帯に生息するはずの種族なのだが、リポップにより偶然都会のど真ん中に生まれてしまった彼女達は、生き残る為に仕方なくスラムを形成せざるを得ない事情を抱えていた。

「たぬきの数も随分増えたし。そろそろ旅立ちの時は近いし…」
「ちび達が歩ける様になったら始めようし…」
「ちびには色んな世界を見てほしいし…」

人間と交渉し、仮初の居住権を得て今日に至るまでを凌いできたたぬき達だが、仲間の数が増えれば自然と転居が必要になってしまう。
頭数が増えれば群れ全体の質が低下し、人間から不評を買う。そうなればスラムは撤去されることだろう。
それ故に親たぬき達はちびがある程度まで成長し切ってから居住地を引き払い、引っ越そうと計画しているのだ。

「ここの人間には世話になったし…」
「引っ越す時にはここら辺ピカピカにしてお礼の品を置いていこうし…」

これからの生活に希望を抱き、ションボリ顔を僅かに緩ませていたたぬき達。しかし大変ながらものどかな日々が、一匹のたぬきが逃げ込んだ事で崩壊していくとはこの時までは思いもしなかった。

※

「お掃除お掃除、と…ちびー、あんまり遠くに行くんじゃないしー」

大体のちび達が自分で歩ける様になり、スラムたぬきの引っ越しが始まった。これまで資材を置いていた場所を整理し、要らないものを袋にまとめたり、手作りの箒でゴミを集めたり…非常に手際が良く、この調子なら路地裏はたぬき達が居付く以前よりもずっと綺麗になる事だろう。

「ままー、たぬきが来るし。見ない顔だし」

ゴミ拾いをしていたちびがそう言って路地裏の入口を指さした。他のスラムからの連絡たぬきだろうかと近くにいた親たぬきがそちらに目を凝らすと、一匹のたぬきがふらふらと覚束ない足取りでスラムへと近づいて来る。

「もしかしたらもどきかもしれないし…ちび達は下がっておけし」
「お、おおーい…助けて、しぃ…」

不審なたぬきはか細い悲鳴をあげると、顔面から倒れ込む。糸が切れた様なその動きは尋常ではない事態を匂わせ、親たぬき達は恐る恐る近付いた。
倒れているのはもどきではなくたぬきだった。頭から爪先まで血で染め上げられているだけでなく、片腕が無かった。

「むっ！ちび達はこっちには来るなし！」
「おい、何があったし！」

慌てて助け起こしたスラムたぬき達だが、呻き声が返ってくる。もう長くないのは誰の目から見ても明らかだ。

「は、やく…ネズ、ミが、くる、し」
「ネズミ？ネズミって、あのネズミかし！？」
「みんな、くわれたし、はやく、しないと、ここも、みんな、した、から…」

そう言って片腕たぬきは事切れた。

「あ、こいつ…隣町にあるスラムのたぬきだし…じゃあ、あそこはネズミにやられたのかし！？」
「こんなボロボロなのに私達の為に歩いてきたのかし…？」

スラムたぬき達は隣町の仲間に「もうすぐ引っ越す」とよく話していた。きっと彼女はその事を覚えていて、瀕死だと言うのに警告をしにきてくれたのだ。

「作戦会議だし！みんな、ネズミが来るし！」

命をかけて教えてくれた仲間に哀悼の意を示しながら、スラムたぬき達は引っ越しの準備そっちのけで来るべき戦いの為の作戦会議に移った。

※


「まま、なんで外で遊んじゃダメなんだし？遊びたいし…」
「ｷｭｰ!ｷｭｰ!!」
「いいからお前達はじっとしてるし…もう少しの辛抱だし…」

路地裏のスラムをこれまでにない緊張感が支配している。大人たぬきは皆一様に顔を険しくし、これまでにないくらい真剣なその面持ちに子たぬきは困惑するしかない。
ネズミ襲来の知らせから二日、未だにスラムに敵はやってこない。たぬきよりも足は速いはずなのだが、見張りたぬきからも偵察たぬきからも一切の情報が入手できず、まるで暗闇を歩いているかのようだった。

ネズミ。犬や猫、もどきよりかは小さくたぬきと同じくらいの生き物。けれど恐ろしく凶暴だと聞く。
スラムたぬき達は震え上がった。たぬきの腕を食いちぎるほどの怪物が、別のスラムを壊滅させた挙句自分達のスラムにまでやってくるのだ。

たぬき達の意見は二つに割れた。
一つは徹底抗戦。これまで何度ももどきを撃退し、確かな実績を積み上げてきた者達は防護策を徹底してネズミを迎え撃つべきだと進言した。
もう一つは迅速な撤退。当初の予定通りスラムを引き払い、ネズミが来るよりも先に逃げ出そうというものだ。

「戦うべきだし！引っ越しと言ってもあまりにも大規模な移動になるし！ネズミどころかもどきや他の生き物に襲われかねないし！」
「ネズミがどれくらい恐ろしいかわかっているのかし！？」

意見は平行線だった。
抗戦を進言したたぬきは既にもどきを四度も撃退した叩き上げだが、最近は増長している。もどきとネズミとで勝手が違うというのをイマイチ理解していない。
撤退を進言したたぬきはリポップ前は森で暮らしていたらしく、薄暗いスラムから一刻も早く故郷に帰りたいと切磋琢磨していたのだ。それを邪魔されて、明らかに気が急いている。

「落ち着けし…このままでは何も出来ずに終わりだし」

リーダーたぬきがなんとか落ち着かせようとするものの、彼女も戦うべきか逃げるべきか判断がつかない様だった。

「ままー…きっとネズミなんて来ないし…」
「いいやダメだし。ちびが思っている以上にネズミはやばいし…」

会議が進まず、悶々とする中でちび達は口々に親へ不満をぶつけた。
ネズミがやってくる、という報せに大人たぬきはちび達を居住地であるスラムのそばにある廃屋へと隠していた。老朽化は進んでいるものの隠れ場所には最適な為である。
しかし遊びたい盛りの子たぬきにとって暗く湿った場所でじっとしているなど、拷問に等しい。すぐにでもみんなで外に遊びに行きたいものだ。

「私知ってるし…ネズミってたぬきでも倒せるくらい弱いんだし…」

威勢のいいちびがそう言い出した。ちびの中でも賢くて、発言力のあるリーダーとでも言うべき個体だ。何処で聞いたのか知らないが、親を言い負かしたい気持ちでいっぱいなのか堂々とした態度だ。
だが彼女の親は言い聞かせる様に首を振る。

「…ちび、よく聞けし。確かにネズミは一対一なら倒せるし。でもネズミはたぬきよりもずっと数が多くて素早いんだし。何も準備していないスラムなんてあっという間だし…」

そう言って親はポツポツとたぬきとネズミについて語り始めた。ちび達はネズミに興味があってか、ぞろぞろと親の前に集まる。

「ネズミの大きさはたぬきと同じくらいだし。でもものすごく鋭い歯があって、なんでも齧るんだし。だから…しっかり防御しないと、ｷﾞｭｯ!!だし」

そう言って親たぬきは首をかき切られる仕草をする。首を食いちぎられる、という事だ。

「話によるともどきでさえもネズミは食べるんだし」
「もどきも、かし…？」

ちび達はもどきの恐ろしさはよく知っている。対策しなければたぬきは絶対にもどきには勝てない、圧倒的な力の差があると本能で理解するほどだ。そんなもどきもネズミには勝てないのだという。
威勢の良いちびを筆頭に子たぬき達は真剣そのものな親の表情に言い返せず、プルプルと震えた。
ネズミの危険性はもどきよりもはるかに高い。もどきの場合はたぬきを何匹か喰えば満足して立ち去るが、ネズミは何もかもを蹂躙する。スラムが滅ぼされる原因のほとんどは、ネズミによって段ボールハウスも食料も、そしてたぬきも全て食い尽くされるからだ。

「でも安心するし！みんなでいつもの様に協力してやっつけてやるし！」
「し〜…やっぱりまま達カッコいいし！」

ばんばん、と胸を叩く親たぬきにちび達は安堵する。親の言葉は信用できる。
今まで何度もスラムは大人たぬき達によって守られてきた。もどきを撃退するだけでなく、討伐する事さえあった。
ならば今回だって心配せずとも大人達が解決してくれる。ちび達はそう信じ、おとなしく廃屋で遊び始めた。

「ダンスの練習しようし！」
「暗くてよく見えないし…モチモチしたいし…あ、いたし…へへへ、し…」

※

結局リーダーたぬきは決断をくだせず、会議は明日に持ち越しとなってしまった。
抗戦派たぬきは引っ越しなど忘れ、見張り達をこれまでの倍くらいに増やして臨戦態勢を整えていた。
その夜の事、見張りたぬきが何かを見つけ絶叫した。

「もどきが来たし！」

闇の中からのそりのそりとけむくじゃらの獣が現れる。たぬきの天敵、たぬきもどきだ。
ネズミが来るかもしれないという状況下でよりにもよってもどきか、とたぬき達が唇を噛み締めながら応戦しようとし、その時の事である。

「ｷﾞｭｰ…ｷﾞｭｰ!」
「待てし！あのもどき、手負いだし！」

抗戦派たぬきが声をあげる。全員が目を凝らしてみれば、驚くべき惨状がそこにあった。
もどきの四肢は一本残らずズタズタにされており、顔も小さな針で何度も刺されたかの様にボロボロだった。

「ｷｭｰﾝ…ｷｭｰﾝ…」

媚びる様に鼻を鳴らすもどきの姿は哀れみさえ抱かせるほどに痛々しい。
もどきはスラムを襲いにきたのではない。むしろ、スラムに助けを求めに来たのだ。

「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ」

どこからともなく、聞いた事もない囁く様な鳴き声が聞こえる。

「ｷﾞｭ!?ｷﾞｭｯ!ｷﾞｭｳｳ!!!」

それを耳にしたもどきは目に見えて怯え始めた。足が震え、周囲を忙しなく見回している。

「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ」
「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ」
「「「「「「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ」」」」」」

鳴き声はどんどん大きくなっていき、そして、いつの間にかたぬきと同じくらいの小さな獣達がもどきを取り囲んでいた。

「あっ…」
「あれが…」
「ネズミだし…！」

動揺を隠せずにたぬき達が声を漏らすが、ネズミは気にも止めずにじわじわともどきを包囲していく。

「ｷﾞｭｰﾝ!」

前足の爪で応戦しようとするもどきだが、ネズミはそれよりも素早かった。
たとえるならば、黒い波である。一匹一匹はさほど大きくないネズミがまるで一つの生き物を思わせる様に動き、けむくじゃらの体に這い上がってあっという間にもどきを包み込んでしまう。

「ｷﾞｭｳｳｳｳｳｳｳｳｳｳ!!!!」
『ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ』

絶叫するもどき。しかしその声は幾十ものネズミの鳴き声によってかき消されてしまう。
ものの10秒もしない内にもどきは崩れ落ちた。ネズミ達は潮が引くように死体から離れていき、残ったのは辛うじて生き物だったと判別するのが精一杯の肉片だ。

「もどきが…」
「し、し、し…」

呆然とするたぬき達。これまでスラムの戦力を総動員して撃退するのがやっとだったもどきを、ネズミ達は容易く仕留めてみせた。それが何を意味するのか、語るまでもない。
ネズミ達は満腹になったのか、たぬき達に振り向きもせずに闇の中へと消えていった。

『ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ…』

路地裏にネズミが現れたという事はつまり、もう逃げ場はないという事。スラムから一歩出れば奴らの餌食になるのだ。
この時点で撤退派たぬきの心は折れた。彼女は待ち焦がれていた帰郷が頓挫しただけでなく、最早死を待つだけなのだと悟り、仲間達と共に自ら命を絶つのだった…。

※

最早残っているのは抗戦のみ。逃げ場が無いのならば、命を賭してネズミを撃退するほかにない。
覚悟を決めたスラムたぬき達は一斉にスラムの防御を強化するべくあらゆる対策を行なった。
もどきの体当たりに対応するべく作った端材を固めたバリケードは更に硬いものに変え、武器である剣や槍の穂先はギザギザに削って殺傷力を高めた。
何より鋭くなっていたのはたぬき達の目だった。恐るべき敵を前にして、彼女達の生存本能は極限まで高められているのだ。

「私達には明日があるし…」
「どんなに辛くても明日の事を思えば生きられたし…」
「死んでたまるかし…」
「死ぬのは、奴らだし…！！」

いつでも来い、その時がお前達の最後だ。大人たぬき達はまさに戦士というべき面持ちで日夜自らを鍛え上げ、決戦の日を待ち侘びる。
ちび達はと言えば、極限状態の中ですっかり萎縮してしまい誰一人として外に出たいなどという不満を言わなくなった。

※

「眠れる奴は眠っておけし。見張りは周囲の警戒を休めるな！し…」

夜になり、一部のたぬきを除いて皆休息を取るべくダンボールハウスで眠りについた。
ちび達は親と共に廃屋で丸まり、ネズミが来ませんようにと祈りながら眠りに落ちていく。

「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ…」
「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ…」
「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ…」
「ｷｭｯ､ｷｭｯ､ｷﾞｭｴｯ､ｷﾞｬｯ」

まだ朝日も昇っていない未明に、廃屋の中で一匹の親たぬきが妙な音に気付き目を覚ました。何かを咀嚼する音、耳障りな鳴き声、そして、ちびの…呻き。

「そこにいるのは誰だし！！」

寝ぼけ眼を擦りながら親たぬきは不穏な物音の主を凝視し、そして言葉を失った。
ちび達は基本たぬき玉を作って眠る。それでも寝相の悪い者はたまに仲間を玉から蹴り飛ばしてしまう事がある。
不運にも蹴り飛ばされてしまったのだろう一匹のちびに、何匹もの子ネズミが群がりその柔らかい体を貪っていた。

「ギャァァァァァァァ！！！」

喉が張り裂けんばかりの悲鳴にちび達はギョッとして起き上がり、仲間が目の前で食われている事に気付き同様に絶叫した。

「ｷｭｳｳｳｳｳｳｳ!!!!」

子ネズミ達は驚いて蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出し、あっという間に何処かに消えてしまう。
　
「ちび！ちび！ちびぃ！」
「ｷﾞｭ…ｷﾞｭｴｯ､ｷﾞｭｳｳ…」

不運なちびは手足を半分辺りまで齧られた挙句、舌が食いちぎられていた。子ネズミ達はまずちびが叫ばないように黙らせていたのだ。

「何事だし！？」
「ネズミがスラムの中にいるし！どうなってるんたし！？」
「み、見張りから侵入者の知らせはなかったしぃ！？」

「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ…」
「ﾁｭｯ､ﾁｭｯ､ﾁｭｯ…」

慌てふためくたぬき達を嘲笑うかのようにネズミの鳴き声が響く。廃屋内は安全とは言えない、ちびを連れて外へと飛び出すと騒ぎを聞きつけた仲間達が集合していた。

「何処からネズミは入ってきたんだし！？」
「わ、わからないし…」
「あ！？！？みんな、ネズミが来たしいいいいい！全員構えろし！！」

混乱するたぬき達に追い討ちをかけるが如く、離れた見張り台にいるたぬきから叫び声が聞こえる。
たぬき達は背筋が粟立つのを感じた。陣地内に敵がいるのに、外からも敵がやってきている？こんな状態で戦うのか？

「何してるし！早く防衛に向かうし！残っている者は廃屋に逃げろし！護衛をつけるし！」

リーダーたぬきの判断は速かった。仲間に喝を飛ばすと槍を手にバリケードへ向かう。その姿を目にし、交戦派たぬきも正気を取り戻して部下に指示を飛ばし始める。

「し…み、みんな！家に戻るし！」
「え、でもさっきネズミが…」
「もしまた襲ってきたらやっつけてやるし！だから早く！」

ちび達を守る世話係たぬきは怯える幼な子らを励ましながら渋々廃屋へと戻り、最深部へも向かう。
これ以上ないほどに安全なはずの室内が、今はパックリと開いた怪物の口に思えた。

「とんっでもない量だし！みんな諦めないで、ﾀﾇ!?こっちに来るし、やめて、やめて、ｷﾞｭｱｱｱｱ!!」

見張り台が音を立てて砕け散り、立っていた監視たぬきは一匹残らずネズミの牙により食いちぎられた。遠くから聞こえる悲鳴にバリケードたぬき達はジタバタしたい衝動に駆られながらも、大切な家を守るべく武器を構え直す。

「来たし！あれは…マジかし…」

黒い波が、来た。何匹ものネズミが一斉に動き、塊となってスラム目掛けて突っ込んでくる。もどきは基本一匹だけなので対応が出来るが、これほどの数と戦うのはたぬき達にとっては初めての事だった。

「ﾀﾇｰ…」
「し、しぃ…」
「お前達！！そんな弱々しい声でちびは守れないし！！仲間は守れないし！！！叫べ！！！！」
「し、しいいいいいいっ！！」
「やってやるしいいいいいっ！」
「来るぞおおおおッ！」

瞬間、凄まじい一撃がバリケードを襲い、何匹かのたぬきがあまりの衝撃に吹っ飛んでコロコロと地面を転がってしまった。
リーダーたぬきは様々な端材を組み合わせた鉄壁が前後に揺らぐのを見て背中に嫌な汗が噴き出し、そして戦慄した。このまま攻撃を続けられたら突破される。予想よりもネズミは遥かに強い。

「突け！突け！突け！」
「投石開始！！」

バリケードの隙間から槍や剣を突き出し、背後からは鉄砲隊の如く石を投げつける。ネズミを寄せ付けまいとたぬき達は奮闘するが、とにかく数が多い。攻撃して攻撃してもまた別のネズミがバリケードを崩そうと体当たりを仕掛けてくるのだ。物量差はざっと2倍、もしかしたらもっと多い。

「バリケードが崩れるしい！」

予定ではバリケードを守りながら前衛たぬきをローテーションで交代させ戦線を維持するつもりであった。だが予想以上に、どうしようもないほどにネズミの猛攻が激しく、早くも防壁は崩壊しようとしていた。

「こんのぉぉぉっ！」
「やらせるもんかぁ！しぃ！」

何匹かのたぬきが武器を捨て、身を挺してバリケードに体重をかけ始める。けれどそれは、ネズミ達に背中を見せているに等しい。
今度は崩れかけの端材の隙間から爪が飛び出し、必死に支えようとするたぬき達の顔や腹を裂く。血が迸り、臓器が飛び、幾度となくスラムを守ってきた守護神と言うべきバリケードを真紅に染め上げていく。

「ｷﾞ､ｷﾞ､ｷﾞ…」
「踏ん張る、じぃ！私達がやらないと、みんな、死んじゃｷﾞｭｳｯ!」
「ちくしょう！し…し…え？」

仲間達が立ったまま命を落としていくのを目にしながらも、バリケードを支え続けるのは抗戦派たぬきだ。人一倍体が大きく責任感の強い彼女は、何度体を引き裂かれようとも決して逃げようとはしなかった。
その足元には、黒い真円状の物体が地面に嵌め込まれている。地下の下水道に通じるマンホールだ。抗戦派たぬきはそこから目が離せなかった。
スラムから脱出する際の移動手段として提案されたが、人間でも持ち上げるのに苦労するフタをたぬきにどうにか出来るわけがないと却下されていた。そのフタにある幾つかの穴から、子ネズミがぴょこんと顔を出しているのだ。

（下水道…まさか、ネズミの奴らは、下水道を通って侵入したし！？早くみんなに知らせないと、早）

気付いた時には既に遅く、ギシギシと軋む音に続いてバリケードが崩壊した。

『チュー！！！』
「バリケードが破壊されたしいいいい！」

防衛線が崩され、ネズミ達がスラムへと侵入を開始する。襲撃の真実に気付いたものの、抗戦派たぬきは端材の下敷きになって悲鳴もあげられずに押しつぶされた。
とめどなく侵攻を続けるネズミ達に対抗すべく、たぬき達は武器を手に白兵戦を開始する。こうなれば戦って撃退する他にない。

「近付けるなし！距離をとって仕留めるんだし！」
「えーい！し！」

威勢のいいちびが言っていたように、たぬきは一対一の状態ならばネズミに勝てる。手に持つ槍で一突きすればネズミの体など容易く貫けるのだ。
だがそれはあくまでも一対一の場合である。自然において、生存競争において想定だの仮定だのは所詮机上の空論でしかない。たぬきが群れで動く様に、ネズミだって群れで動く。そうなればたぬきに勝ち目などありはしないのだ。

混沌とする戦場の中で、一匹のたぬきが槍を手にネズミを葬っていく。人間の映画から見様見真似で槍捌きを習得し、文字通り一番槍を担う戦闘のプロとでも言うべき存在だ。

「やー！し！」
「ﾁﾞｭｯ!?」
「ﾁﾞｭｳｯ!」

俊敏な動きで槍たぬきは前後から挟むように襲いかかってきたネズミを得物を振り回し薙ぎ倒す。そこから続け様にトドメを刺し、瞬く間に二匹も仕留めてみせた。

「ええい！敵が多すぎるし！」

だがそんな槍たぬきであっても対処しきれないものが、仲間達のカバーである。必ずしも全てのたぬきが戦闘に長けているわけではない。中にはセンスのない雑兵もいる。

「えい！えい！ｷﾞｬｯ!痛いしぃ！」
「ひいいいっ！この！このっ！」
「今助けに行くし！待ってろし！」

槍たぬきは決して仲間を見捨てない、義勇たぬきである。それ故に彼女はたとえ見捨てられても仕方ないたぬきであっても諦めずに助けようとしてしまう。
そのお節介を、ネズミが見過ごすはずがない。

「ﾁｭｯﾁｭ!」

ネズミ達はターゲットを急に変え、弱いたぬきばかりを集中して狙い始める。絶対に槍たぬきは仲間を助けるべく駆けつけると踏んだのだ。

「や、やめろしぃっ！ﾀﾇｯ!?」

仲間の首筋に齧り付いているネズミを背中から突き刺そうとする槍たぬき。だがその穂先を、一度に三匹ものネズミが上から無理やり抑え込み地面に叩きつける。
軽い音を立てて槍が転がり、槍たぬきが無防備になったその瞬間を見逃さず、狩人達は一斉に飛びかかった。
手、足、腹、頭、背中、捕食ではなく明確な殺意を持った噛みつきや引っ掻きにより、槍たぬきはぐちゃぐちゃに切り刻まれてしまった。

「ひぃっ！？ｶﾞｯ､ｱｸﾞ､ｷﾞｭﾌﾞ…ｷﾞｭ､ｵｵｵｵｯ!」

それでも槍たぬきはまだ戦う意志を失ってはおらず、頭に食らい付いているネズミを引き剥がそうと手を伸ばしたものの、そのまま事切れるのだった。

別の場所では哀れにもさして強くもない一匹のたぬきを四匹のネズミが取り囲んでいた。

「こ、来ないで…お願いだし…！」

威嚇のつまりで槍を左右に振るものの、怯え切っているその動きではむしろ敵に恐れを抱いていると自分から見せつけているようなものだ。
たぬき目掛けてネズミ達は飛びかかり、四肢に食いつくと一気に四方向に引っ張り始める。もうこの獲物は逃げられないと判断して遊び始めたのだ。

「ｷﾞｭｳｳｳｳｳ!!やだ！やだやだやだ！！たぬきはそこまで伸びないし、ちぎれちゃうしいいいい！！」

ぶちん、と音を立てて手足が引きちぎられ、真っ赤な血がスラム中に撒き散らされる。仲間の血を浴びて何匹かのたぬきは戦意を喪失、パニックになりその隙を突かれて食い殺された。

賢いネズミはただ食らうのではなく、たぬきをキープする事を覚えている。素早いネズミが数匹、戦場を駆け抜け瞬く間に三匹のたぬきの尻尾を食いちぎった。

「ｷﾞｭ!」
「ぐわっし！うわあ、立てないし！」

ネズミは理解している。たぬきは尻尾が無ければ満足に動けない。千切ってしまえば、もう何もできないデクノボウになるのだ。

「立てないし！助けて！助けてええええし！」

尻尾を奪われたたぬきはもうおしまいだ、と目を瞑った。叶う事ならちびと一緒にいつまでもいたかった…そう後悔を胸に抱きながら。
しかしいつまで経っても死が訪れない。どうかしたのかと目を開くと体を這い上がる何匹もの子ネズミの姿があった。

「ああっ…」

何故尻尾だけを千切られたのか。それはとても簡単な事で、子供達に食わせてやる分を確保するためだったのだ。

「は、離れろ！離れろしぃ！」

必死に手足をジタバタさせて子ネズミを振り落とし、四つん這いになって逃げようとする。しかしハイハイで移動するのがやっとな状態で逃げ延びられるはずもなく、その後ろを子ネズミ達はトコトコとついていく。

「やだし、ちびに会わせてし、こんなところで死にたくないしぃぃぃ！ちびネズミになんか食べられたくな…」

あっという間に追いつかれ、モチモチの首筋に子ネズミの歯が突き立てられる。まだ幼いながらも噛む力は確かなもので、プチリプチリと容易く血管を食い破った。

「あ、あああ、ああああああ！！！！ちび、ちび、ちびいぃぃぃぃ！！」

尻尾を失った哀れなたぬきは生きながら食われる恐怖に絶叫する事しか出来なかった。


「ひいいい！！誰かあ！誰かちび達を逃すしい！もうこのスラムはおしまいだしい！ああ、やめてし、私のお腹引き裂かないでｸﾞﾌﾞｴ」

リーダーたぬきは最後まで仲間に指示を飛ばそうとしたが、それよりも先に腹を食い破られた。

「あははははははは！！ははははははははは！！みんな死ぬし！生きたまま食われるしししししししいいいいひひひひ！！！ｸﾞｴ」

発狂したたぬきは涎を垂らしながらそこら辺を走り回り、疲れたところを五匹がかりで仕留められた。

「私の顔、顔どこだし…前が見えないし…ちび、ちびなのかし？痛い！やめてし、やだ！こっちに来るなし！誰かいないのかしぃ！来るな、来るなあああ！」

両目を潰され、右往左往していたたぬきはジワジワと痛めつけられみっともなく走り回った。

スラムは全滅寸前だ。
たぬきとネズミの間には練度の差があった。たぬきの特徴は道具を作り作戦を練る知能にあるが、それを働かせる前に戦線を崩壊させてしまえば、後に残るのは生物として強いかどうかしかない。ネズミ達は最初からたぬき達を丸裸にするつもりだったのだ。
ネズミ達は既に５つものスラムを壊滅させている。たぬきの長所も短所も、全て把握していたのだ。

戦闘員たぬきを鎮圧し、ネズミ達はスラムの奥深くへと突入する。
戦えないちびや子たぬき、そしてそれらを守る役目にあるたぬきの命運は既に決している。何故なら彼女達は自ら逃げ道を塞ぎ、死を待つことしかできないからだ。

「外が、静かだし…」
「し…」

ちびを含めた多くの非戦闘員たぬき達は暗闇で身を寄せ合いながら、あまりにも外が静かな事に気付き震えた。
廃屋に消えたはずの子ネズミ達は姿を見せない。息を潜めているのか、既にここにはいないのか。

「ちょ、ちょっとだけ外の様子を見てくるし…」
「ま、待ってし！置いていかないでし！」
「大丈夫だし大丈夫だし…ちょっとだけ、ちょっとだけ」

護衛たぬき達が槍を構えて恐る恐る外の様子を見に行く。
数秒にも数十秒にも、一分にも感じられる静寂。そして、それを破るように護衛たぬき達は悲鳴をあげながら廃屋へと戻ってきた。

「ひいいいいい！？！？やだ、やだし！！」

全員が手足を一本は失っていて、ションボリ顔どころか恐怖に顔が歪んでいた。血塗れのその姿にたぬき達は悲鳴もあげられずに硬直してしまう。
と、息も絶え絶えの護衛たぬき達が突然何かに引っ張られる。明かりがさほどない為にハッキリとしないが、どうやら何かが彼女達を掴んで引きずりだそうとしているらしい。

「やだ、やだあ！やだあ！やめてえ！やめてえし！！やだあああああ！！！」

ずるずると護衛たぬき達が消えていき、プチプチと何かがちぎれるような音が聞こえたかと思えばシンと静まり返る。
ちび達はお漏らししていた。先程まで聞こえていた親の声が聞こえない。護衛たぬきも何処かへ消えた。そばにいる大人達がロクに戦えない存在である事はわかっている。
つまりもう自分達を守ってくれる味方は、いないのだ。

その現実を叩きつけるように、暗闇に幾つもの赤い目が現れた。ゆっくり、ゆっくりとネズミ達はちび達への距離を狭める。
遂にスラムの奥深く、たぬき達が命に変えて守ろうとしたちびたぬき達へとネズミは到達してしまったのだ。

「ｷｭｱｱｱｱ!!」
「ちび達を守るしいいいい！！」

ちび達がパニックになり身を寄せ合ってたぬき玉を作り上げる一方で、大人たぬき達は戦えないなりに身を呈して肉の壁となってネズミ達を抑え込もうと立ち向かう。

「は、早く逃げるし！私達が時間を稼ぐし！ちび！ちび！」
「やだし…やだし…」
「ｷｭｳ､ｷｭｳ…ｷｭｳｳﾝ…」

ちび達は完全に恐怖に支配されてしまっていた。
もどき以外の生き物ならば、球状にたぬき玉を作り、体を大きく見せる事でわずかに時間を稼げる。いつもならその間に親たぬき達が助けに来るのだが…もうそれが無理である事を分かっていながら、幼いたぬき達はこうして恐怖を紛らわせるしかなかった。

「ち、ちびぃ！？わあああ！？」

命を賭したというのに何の意味もなく、大人たぬき達はあっという間に押し倒されネズミの餌食となっていく。
悲鳴を聞く事で更にちび達は怖がり、ぎゅっとたぬき玉の結束を強めた。

「チュー！」

ネズミ達からすれば、ちびを捕まえる為に労力を割く必要が無くなって万々歳だ。
何匹ものネズミが廃屋へと駆けつけ、ズラリとたぬき玉を囲む。ちび達は自分達の逃げ場がもうないと分かっていながら、やはりたぬき玉を解かない。
恐る恐る一匹のネズミがたぬき玉を前足で突いた。ちび達が全員でがっちりと固めているが、所詮はたぬきなのでその感触はモチモチとしてやわらかい。それを確認してから容赦なくネズミは歯を突き立てた。

「ｷﾞｭｯ!!」
「痛ぁい！」
「わああああ！まま！早く来てしいい！！」

ネズミが肉を食いちぎるが、反撃の様子はない。それどころか攻撃された事を知り、目に見えて動揺している。
みんな大丈夫だ、と号令が出され、ご馳走の時間が始まった。獣達は一斉にたぬき玉に齧り付き、好きなだけ肉をちぎり取っていく。

たぬき玉の中は阿鼻叫喚である。幼いちびを中心部に隠したは良いものの、外部から際限無く与えられる激痛に幾十もの悲鳴があがった。

「ｷﾞｭｱ!!」
「ｷﾞｭｳｯ､ｷﾞｭｳｯ!!!ﾔﾒ､ﾔﾒﾃﾞ…」
「ｷﾞｨ!ｷﾞｨ!ｷﾞｲｲｲ…」
「痛いし…痛い、いたいいたいいたいいたいイイイイイ！！！！」
「みんな、我慢するし！もうすぐまま達が助けに来てくれるし！」
「足が！私の足取られちゃったし！痛い、痛いしいい！わああああ、あ、あ…」
「ｷﾞｭｳｳｳｳ!!!!ｷﾞｭｷﾞｭｷﾞｭｷﾞｭ!!ｷﾞｬ､ｱ…」
「背中痛いし！？ｷﾞｨ…」

背中の肉や手足を引きちぎられ、絶命したちびがたぬき玉からポロポロと剥がれ落ちていく。それでもネズミの捕食は止まらない。気が狂った様に食いつき、引きちぎり続ける。

「もうやだぁし！このままじゃ死んじゃうしぃ！」

十分程経ち、生きながら食われる恐怖に耐えられずにちび達はたぬき玉を解ち、一斉に地面に崩れ落ちてしまう。よりにもよって走れるかどうか危ういちびばかりが残り、目の前で仲間達が命を落とすのを見ていたせいか、ほとんどが目と耳を塞ぎ、尻尾を抱えて丸くなってしまった。

「ｷｭｳｳｳｳｳ…」
「やだし…やだし… 早く助けてし…まま…」
「助けて助けて助けて助けて助けて…！」

もちろん誰も助けてはくれない。
一匹のちびがネズミに抱え上げられてしまう。これから何が起きるのか、それを察しながらも他のちび達は助けようという気さえ起きなかった。

「ｷｭ!ｷｭｰ!ｷｭｰ!ｷｭｰ!!!ﾏ､ﾏ!ﾏﾏ!ﾏﾏ!!ﾏﾏｧｧｧｧｧｧ!!!」

嫌だ嫌だと必死に身を捩りながら、ちびは初めて言葉を発した。けれどそれを褒めてくれるはずの肉親はネズミによって手足をもぎ取られ、とっくの昔に死体となってしまっている。

「ｷｭ!ｷｭ!ｷｭ､ｷﾞｭｱｯ…」

ぶちり。ネズミがちびの頭に噛み付くと、肉が裂ける嫌な音が響いた。
そのまま首を食いちぎられ、制御を失った手足がダラリと投げ出される。それは、命が失う様を残酷に示していた。

「ｷｭｳｳｳｳ!!誰か助けてええ！！」

たまらず逃げ出すちびもいたが、囲まれている事をすっかり忘れているおかげで容易く他のネズミに取り押さえられてしまう。

「離してしぃ！離してしぃ！ｷﾞ､ｨﾔｱｱｱｱ!!!」
「ﾏﾏｧｧｧｧ、ﾏﾏｧｧｧｧ､ｧｱｧｧ!!!」

もう逃げられない様にとネズミはそんなちびを足から齧っていく。最初こそ体が削られていく恐怖に悲鳴をあげるちびだが、腹あたりで絶命して物言わぬ屍へと成り果てた。

「みんな逃げるし！逃げ、やだ、やだ離し、ひいいいいい！！」
「ｷﾞｭ､ｷﾞｭ､ｷﾞｨ…」
「わ、あ、わああああああ！！」

そんな地獄から抜け出したちびが一匹。ネズミなんて大した事ない、そう豪語していた威勢のいいちびだ。

「まま、まま助けてし！ままー！！」

ネズミ達が全員仲間を食らいつくそうと集中していた事が幸いし、逃げ出すちびを誰も追いかけようとはしなかった。何より、逃げたところで意味がない事をちび以外全員理解していた。
ままを探そう、ままならきっと守ってくれる。ネズミなんてやっつけてくれる、そう考えながら走り続け、ちびは外へと飛び出す。
ままは何処だろう？と探そうとした彼女は、しかし眼前の光景に言葉を失った。

「ｷﾞｭｱｯ､ｱｱｱ…やめて、取らないで私のしんぞ、う…」

生きながら食われ、目の前で心臓を持っていかれるたぬきがいた。

「ひいいいい！！やだ、食べないで、食べないでええええ！！」

小さなネズミにたかられ、黒い塊になってそこらじゅうを跳ね回るたぬきがいた。

大人たぬき達とそれを食らうネズミによる地獄絵図が広がっていた。
ちびの目の前をゴロゴロとたぬきの頭が転がる。よく見れば、ボールを転がす要領で子ネズミ達が運んでいるのだ。

「あ、あ、あ…」

転がるたぬきの顔には見覚えがあった。ちびの、親である。
心配いらないと、そう言ってくれた『まま』だった肉塊を目にして、ちびは呆然としていた。

「まま…」

親たぬきの目玉がポコン、と飛び出す。中から血で毛を赤く染めたネズミが現れ、美味そうに眼窩の肉を齧り始めた。

「ｷｭｰ!!ﾀﾇｰ!!ﾏﾏ､ﾀｽｹﾃｼｰ!!」
「ﾏ､ﾏﾏ!ﾄﾞｺﾀﾞｼﾏﾏ!!ﾀｽｹﾃｴｴｴｴ!!!!」
「嫌だしぃぃぃぃ！わあああ、わああああああ！！！」

背後からはちび達の絶叫が聞こえる。血生臭い匂いから察するに、背後では狂宴が行われているのだろう。
一瞬でスラムはネズミ達によって征服されてしまった。一体どうしてこうなったのだろう？自分達が何か悪い事をしたから天罰が降ったのだろうか？
人間に迷惑をかけない様にとみんなで頑張ってきた。人間に可愛がってもらいもした。これ以上迷惑をかけられないとみんなで引っ越しまで考えていた。なのに、なのに、何故ここまで残酷な最期を迎えなければならないのか。
黙々と獲物を食らっていたネズミ達の動きがピタリと止まり、そして滑らかに真っ赤な目をちび一点へと向けた。

「……ﾀﾇー」

それは、スラムたぬき最後の一匹が残した言葉であった。

解説
・ネズミ
何処から来て何処へ行くのか誰も知らない。
別にたぬきが主食なわけではないが、群れを形成する為に比較的食べやすいの。なので標的にする。
下水道を用いてスラム内に奇襲攻撃を仕掛け混乱させたのちに本陣へ突撃するという作戦で多くのたぬきを葬ってきた。
・隣町のたぬき
ネズミ達が逃した唯一のたぬき。命辛々生還し、ネズミがどうやってスラムを襲撃したのかを仲間達に伝えようと試みたが、叶わなかった。
「みんな、くわれたし、はやく、しないと、ここも、みんな、した、から…」
とは
「みんな地下からの攻撃でやられてしまった」
という意味だったのが、満身創痍では「した」という言葉を発するのが精一杯だった為に伝わらなかった。

時系列みたいなもの
・隣町のスラム壊滅、最後の一匹が逃げ延びる。この際ネズミ達は既に次の街へと出発していた。
・最後の一匹、スラムに到着。ネズミ達はこの時点でスラムの周囲を偵察していた。
・腹が減ったネズミ達、適当にデカい獲物を狙い徘徊していたもどきを襲撃。たぬきとネズミのファーストコンタクトである。この時点で彼らはたぬきが一匹たりとも外には出られない様に包囲網を敷いた。
・一旦時間を置き、下水道を利用してスラムのど真ん中にあるマンホールから侵入、ちびを狙う事でたぬき達の混乱を招き指揮系統を麻痺させ、その直後に侵攻を開始した。
・たぬき全滅。ネズミ達はまた別の街へと移動した。

・ビルの管理人
最近たぬき達が静かだなと思い様子を見に行き、誰もいないスラムを発見。凄まじい血の匂いから全てを悟った。

戦闘力
ネズミ>素手のたぬき
武器を持ったたぬき>ネズミ
