私が飼っているたぬきはとても賢い。
頑張って教えた甲斐あってか、タブレットをそれなりに使いこなせるのだ。

「その薄い板はなんだし？いつもそれ弄ってるし…」
と興味を示してきたのが始まりだった。
使い方を教えてみたら、意外とあっさり覚えたのだ。すごい。

ただし、あくまでも覚えたのはタブレットの使い方だけである。
習っていないので文字は読めないし、モチモチしている手のせいで入力もままならない。
それでも読み上げ機能のおかげで、文字が読めなくてもある程度は大丈夫みたいだ。
入力も音声入力のおかげでどうにかなっているものの、声が小さいせいであまり上手く認識しないらしい。

ゲームで遊ぼうにも、モチモチな手が災いして誤タップが頻発してしまう。
というわけで、専らTanuTubeを見る機械として使っているようだ。
たぬきの動画を見るのが好きなようで、画面の向こうのたぬきと一緒にうどんダンスを踊っていることもある。
留守番をする時の暇つぶしに見るのはいいが、ご飯を食べる時にも見ようとするので正直困っている。

念のため私とたぬきのアカウントは分けてある。
たぬきに過激な動画は見せたくないので、ペアレンタルコントロールを設定してある。
TanuTubeはたぬきの動画であれば何でもOKなせいで、たぬきに見せるには危険な動画が大量に存在するのだ。
それに、私が普段見ている動画がバレたら困る…

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ご主人がお仕事に行ったし…今日もお留守番だし…でも大丈夫だし…
自分にはタブレットがあるし…お留守番の間はご主人のタブレットを貸してくれるし…
今日はどの動画を見るか悩むし…

「ｷｭｰ？……いつもと雰囲気が違うし…」
なんかオススメ動画がいつもと違うし…いつもはもっと明るい感じだし…
『つきみとてんぷらCh』とかのいつも見てるチャンネルが出てこないし…

「たぬき……他はやっぱり読めないし…」
たぬきの動画を沢山見ているおかげで『たぬき』っていう文字は「たぬき」って読むって覚えたし…
他はほとんど覚えていないし…特に漢字？は全く読めないし…ごちゃごちゃしすぎだし…

「たぬきって書いてあるからたぬきの動画のはずだし…」
逆に考えるし…新しいチャンネルを開拓するチャンスだし…
とりあえず見てみるし…

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『スラムたぬき駆除チャンネル』
テロップだけだから何言ってるのかよく分からないし…

『どうもこんにちは、スラムたぬき駆除チャンネルです』
こんにちはだし…挨拶は重要だし…
他の動画のおかげで『こんにちは』も読めるし…

『今日はいい感じに雨が降っているので、スラムの駆除をしていこうと思います』
街中の映像だし…野良たぬきと遊ぶし…？
というか『くじょ』ってなんだし…？

『依頼されたスラムはあそこの路地裏ですね……ありました！』
たぬきがいっぱいいるし…ちびも沢山だし…かわいいし…
でもなんか汚いし…裸たぬきもいるし…
もしかして綺麗にしてあげるし…？

『予想通り、雨なので身を寄せ合っていますね。あれで全部でしょう』
全身びちょ濡れだし…かわいそうだし…
あんなに濡れたらやる気が全く出ないし…見るからにションボリしてるし…

『袋小路なので逃げられる心配は無いでしょう。それでは、駆除開始！』
くじょ？が始まるっぽいし…？
楽しみだし…

『なんだし…近寄るな…』『ここには何も無いし…人間はどっか行けし…』
この野良たぬき達ガラ悪いし…
よく見たら髪の毛とかボサボサだし…

『その棒はなん(ｶﾞｯ!)ﾀﾞﾇｯ!?……』『ｷｭｰ!?……リーダーがやられたし…もうおしまいだし…』
えっ…あぁ…？
もしかして『くじょ』ってやっつけることだったし…？

『ﾀﾇｰ！』『やめてし…ちびを踏まないでほしいし…』『ダメだし…みんな殺されるし…』
とてもひどいことになっているし…見てられないし…
だけどなぜか目が離せないし…どうしてだし…

『駆除し終わりました。地面の掃除などの後始末をして完了です』
結局最後まで見ちゃったし…なんでだし…？

『本日の成果は大人4匹、子供13匹でした。それなりの大きさのスラムでしたね』
たぬきがやられる姿を見て喜ぶような悪いたぬきになっちゃったし…？

『チャンネル登録はこちらから、駆除のご依頼はHPからお願いします』

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なんか目覚めた気分だし…色々わかった気がするし…
今までこの世界の綺麗な部分しか見ていなかったんだし…

思い返せば野良たぬきがどう生きているかなんて全く考えたことが無かったし…
普段見てた動画に出てる野良たぬきはみんな綺麗だったし…しかも人懐っこかったし…
多分だけどあれは人間にお世話されている野良たぬきなんだし…
野良っていうよりは住んでいる場所がお外っていうだけの飼いたぬきに近いんだし…
きっと普通の野良たぬきはさっきの駆除の動画みたいな汚いたぬきなんだし…

どうしてかわいいたぬき達がやられなきゃいけないんだし…？
って思っていたけど考えたらわかってきた気がするし…
あのたぬき達は路地裏に住んでいたし…
だけどあそこはたぬき達のものじゃないし…本当は誰かの土地だし…
勝手に誰かのところに住むのは悪いことだし…そのぐらいはわかるし…
つまり悪いたぬきだから駆除されたんだし…

もっと賢くなりたいし…他の動画も見るし…

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『スラムたぬき駆除チャンネル』
前置きは飛ばすし…

『今日は趣向を変えてマンションの豆たぬきを駆除していきます』
今度の駆除の場所はお家だし…？

『殺たぬ剤を噴霧すると周辺の部屋に悪影響を及ぼす可能性があるので毒餌を使います』
美味しそうなお団子だし…

『この通り食べたら約一時間後に死にます』(イメージ映像)
ヤバいお団子だったし…あんなのがあるんだし…恐ろしいし…

『毒餌と隠しカメラを仕掛けてしばらく待ちましょう』
自分だったら引っかかっちゃうし…
駆除されるような悪いたぬきだってわかっていても同じたぬきとして助かってほしいし…

『出てきました、豆たぬきです。家具の隙間に潜んでいたようですね』
頑張れし…引っかかるなし…
でもこの子も勝手に住んでいるから悪いたぬきだし…なんか複雑だし…

『住処に持って帰りましたね。場所が特定できたので3時間後に確認してみましょう』
ダメだし…それ食べたら死んじゃうし…

『家具をずらして…いました。見事に全滅しています。本日の成果は豆3匹でした。』
かわいそうだし…だけど悪いたぬきなんだし…
悪いたぬきは死ぬべきだし…？
他の動画をもっと見るし…

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仕事から帰ってくると、たぬきの様子がなんとなく違った。
いつもは幸せオーラみたいなのを出しているのに、今は普通のたぬきのようにションボリとしている。
何かあったのかと思い、聞く前におやつで気分を和らげようとしたのだが…

「ちょっと遅いけどおやつにお団子でも食べる？」
「ﾀﾇｩ!?お団子だし…？……今はちょっとよしておくし…」

団子と聞けばすぐに食らいついて喉に詰まらせるほど好きなはずなのに、今はこの通りだ。
ここまで落ち込んでいると、何があったのか聞きにくい。

というのも、たぬきはストレスがかかり過ぎると蛹になるらしいのだ。
リアルでも動画でも蛹化の瞬間は見たことが無いので、正直言って半信半疑なのだが万が一のためだ。
下手に刺激してストレスをかけるのも良くないだろう。

物を壊したとかそういう様子でもないので、なるべく普段通り接してあげよう。
そうすれば、そのうち何があったか話してくれるはずだ。

しかし、この落ち込みようは何なんだろうか？

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それからも様子はおかしいままだった。

いつもだったら料理の時は「お手伝いするし…」とか言ってキッチンにやって来るのだが…
包丁を見た途端に「ｷｭｰ!?」と驚いて逃げ出していったのだ。
もしかして、たぬ食の動画をうっかり見てしまったとかそういうのか？

ご飯を食べる際も「お先にどうぞし…」という感じで、一緒に食べることを断られてしまった。
私の食べる様子をまじまじと見てから、やっとご飯を食べ始めた。
食べ物系にまつわる何かがあっただろうことが、ようやく確信になり始めた。
それで食欲が湧かないのだろう。仕方ないことだ。

よく分からない異変も起きていた。
なぜかたぬきの毛や服が凄くゴワゴワしていたのだ。
いつもの3倍ぐらいの量のトリートメントを使っても、髪の毛のフワフワ感が戻ってくれない。
服も柔軟剤をドバドバ使ったのに、のりを付けたようにパリパリしている。
まさか蛹化が始まっているのだろうか？

だがしかし、ストレスがかかろうにも原因が見当たらないのだ。
なにせ部屋の中には全く異変は無い。出かけた時のままの状態だったのだ。
となると、原因はタブレット…というよりはTanuTube関連だろう。

お気に入りのTanuTuberが引退したショックとかなのだろうか？
寝かしつけてから視聴履歴を見てみよう。

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「ちょっと用事があるから先に寝ててくれるかな？」
「わかったし…おやすみだし…」

やはり様子はおかしいままだった。
ついさっきも、寝る前にはモチモチするのが習慣だったのに要求してこなかったのだ。
よっぽどのことがあったに違いない。

「他人の履歴を見るのは悪趣味だけど事態が事態だ…」
タブレットを起動してTanuTubeを開く。
トップ画面には見慣れた動画達が並んでいた。
私はたぬきを飼っているが、それはそれとしてたぬきが虐められている動画を見るのが趣味なのだ。
スラム駆除やたぬ食といった、逆らいようの無い暴力に曝されているたぬきがかわいそうでかわいくて好きだ。
あのションボリとした顔が苦痛に歪む様を見ていると、正直勃起してしまう。
しかし、そんな動画はたぬきに見せられないので、アカウントを分けているのだ。
おまけに、たぬき用のアカウントにはペアレンタルコントロールのおかげでたぬ虐は出てこない(らしい)のだ。

「さて、履歴は……あっ！」
ここで私は凡ミスに気がついた。
アカウントをたぬき用のものに切り替え忘れていたのだ。

「あ～…あちゃ～…」
私のアカウントなのに、履歴には見た覚えのない動画がズラリと並んでいた。
アカウントがハックされた…訳がない。
たぬきにたぬき虐待動画を見られてしまったのだ！

オススメ動画のシステムは理解していないだろうから、私がたぬ虐を見ていたのはバレていないだろう。
だが、仲間達の死を短時間で大量に見てしまったのだ。
世間知らず飼いたぬきのことだ。途轍もないストレスがかかったはずである。

「謝らないとな…」
どう謝罪すればいいか皆目見当もつかないが、とにかく謝らないといけない。
私は急いでベッドに向かった。

しかし、ベッドにはたぬきはいなかった。
そこには、おぞましい見た目の物体が横たわっているだけだった。



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悪いたぬきは死なないといけないし…？
たぬきには分からないし…

悪いことをしたら𠮟られないといけないし…
きっとそれの延長線なんだし…

それじゃあたぬきは悪いたぬきだし…？
それは自分のことだからちょっとだけ分かるし…
今日のたぬきは悪いたぬきだったし…
ご主人がずっと困った顔してたし…
人を困らせることは悪いことだし…
悪いことをするたぬきは悪いたぬきだし…

悪いたぬきは誰かが𠮟らないといけないし…
だけどご主人はたぬきに𠮟らなかったし…
ご主人は優しいからこの先も𠮟らないと思うし…

だったら自分で自分を𠮟らないといけないし…
悪いたぬきには罰を与えるし…

準備は整っているし…
自分にはこれしか方法が思いつかなかったし…
身体も意識も蕩けていくし…

ごしゅ…じん……わるい…たぬきで……ごめん…………し…………