
No.48「情愛・前編」


「ｷｭｳﾝ…ｷｭｳﾝ…」
「ｷｭｷｭｷｭｷｭ！ｷｭｷｭｷｭ！」
「ｷｭｳﾝ！ｷﾞｭｳー！」
公園の隅の茂みに、近隣のションボリが集まって何匹かのチビたぬきがポップしました。
“まま！早く、ちびを見つけてし！“
“ここだし！ここだし！”
“チビを育ててし！”
そんな想いを込めて、庇護対象となる親へのアピールのために必死に鳴き続けています。
たぬ木生まれのチビは体がある程度形成されるまで無事な上、実というすぐ食べられるエサもありますが、ポップした場合は服がない個体もいるので、冬場は特に時間との戦いでした。
手足もしっぽも短く、ハイハイして移動する事もできないために仰向けでごろんと寝転がって鳴くしかありません。
空腹と寒さに耐えられるうちに、成体たぬきに見つけてもらう必要がありました。
運が悪ければ人間に駆除されるか、他の動物のエサとなるのですが、この時は運良く公園に住むたぬき達が鳴き声を聞きつけてやってきていました。

「見るし…チビだし…」
「いっぱいいるし…いち、に…いっぱいいるし…」
野良たぬき達は全部で5匹のチビたぬきを確認しました。

たぬきの習性として出会ったチビたぬきを拾って育て勲章をもらおうとするーーーというものがあります。
それはたとえ厳しい冬の真っ只中でも、変わりませんでした。
孤独に耐えられないたぬき達はぬくもりと勲章を求めて自分だけの家族を形成するのです。

服を着ているチビたぬきは冬場の生存条件の1つを満たしているため、たぬ気が高いですが今回ポップした中では1匹だけでした。
「服着てるこのチビもらうし…」
「あ、ずるいし…たぬきの子にするし…」
「もう遅いし…ニオイつけちゃったし…」
「ｷｭｳｷｭｳ♪」
「キュウ…いいなし…」
たぬき界隈には明確なルールは存在しませんが、奪い合いになれば早い者勝ちです。
ニオイをつけたり、いち早く連れて行ったり。
何にせよ、チビが懐いたらそこで決着です。
親を殺してまで奪うたぬきは、あまりいません。


「ｷﾞｭｲｲｲ！ﾁﾞｨｨｨ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ！
「こいつ、ジタバタし過ぎだし…きっとワガママに育つし…」
「そうかし…？元気でいいと思うし…よしよし…」
「ﾁﾞｨｱｱｱ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ！
たぬきによって判断基準はまちまちなので、どのチビが拾われるかも運次第なのでした。
ちなみにこのチビは気に入らない事があるたびに激しくジタバタし、他の姉妹を傷つけてしまうので諦めた親たぬきにいずれ捨てられます。


「このちびは！たぬきのだし！」
「たぬきが先に決めてたし…さわるな…」
「ｷﾞｭ…？ｷﾞｭｳｳ…」
左右のたぬきを見比べて、困惑するチビたぬきはオロオロと不安そうに右手をしゃぶります。
やがて、それぞれが手を取って左右からの引っ張り合いが始まりました。
「こっちくるし！チビ！」
「こっちの方がいいし…」
「ｷﾞｭｳ！？ｷﾞｭ…ｵｱ…！」
左右からぐいぐいと引っ張られたチビの柔らかい身体は左右からの引力に耐えきれず、ミチミチミチ、と音を立てて左右に千切れてしまいました。
「あ…だめになったし…」
片割れをアッサリ手放して、先程まで威勢のよかった野良たぬきがションボリと呟きました。
「おまえにやるし…」
「おまえが処分しろし…」
異様なまでの執着はどこへやら、争っていた野良たぬきもチビだったものを放り捨てて遺体のなすり付け合いを始めました。
「もどきが来るから早くしろし…」
「おまえがやれし…」
モチ、モチ…と殴り合いながらも決定打にはなり得ませんので、そのうちお互いに疲れてトボトボとその場を離れていきます。
「このぐらいにしといてやるし…」
「こっちのセリフだし…まねるな…」


「やれやれし…こんなもんかし…」
「あのチビがよかったし…きっとあのちびだってたぬきの事が…タヌ…」
「また何処かで見つかるし…」
「ばいばいし…」
「いいチビ拾えたし…よろしくし…」
「ｷｭｳｷｭｳー♪」
トボトボと、野良たぬき達がそれぞれの巣の方向へと歩き去っていきます。


「…ｷﾞｭ？ｷｭー！ｷｭｳｳｳｳｳ！？」


おや？まだ、残っているチビたぬきがいますね。
結局、誰にも選ばれなかったチビが一際声を大きくして泣き叫んでいます。
服もなく、しっぽも短く、他の子より身体が小さいチビでした。
野良で育てるにはハンデを背負いすぎていて、どのたぬきにも見捨てられていたのです。

千切られた死体と共に放置され、それでも生を諦められずに泣き続けます。
「ｷｭー！ｷｭｳｷﾞｭｳ！ｷﾞｭｳｳ……ｷｭﾜｧｧｧﾝ！ｷｭﾜｧｧｧﾝ！」
“誰か！誰か拾ってし！まま！”
しかしいくら力を込めて叫ぼうと、その場には誰もいないので、虚しく響くだけです。
まだハイハイすら出来ないチビたぬきは、仰向けにジタバタしたまま、天に向かって泣き続けていました。


数時間後、力尽きるまでその場から動かず泣き続けていたこのチビたぬきは。
鼻息を鳴らしながら近づいてきた、たぬきもどきの夕食になりました。


先ほど、服を着たチビを拾った野良たぬきは、それからもチビたぬきを拾って家族を増やし続けました。
そしてーーー。


ツヅク