No.50「ゆきあそび」

朝起きたら、世界は真っ白になっていた。
日曜でよかった…と思いつつ、長靴を履いて防寒着にカイロを仕込んで外に出てみれば、あちこちでたぬきが死んでいる。
今も細かい雪がちらちらと空を舞っているので、雪に覆われた地面に転がる凍死たぬきの上に、さらに雪が積もっていく。
地面の雪から逃れようと標識の支柱にしがみつき、そのまま凍ったらしい白い塊もあった。

「っし…っしぃ…！」
「づめだいじぃぃ！」
「さむいしぃぃ……！」
また、未だ生きているたぬきもタップダンスを踊るように、あるいは飛び跳ねるように移動している。

たぬきは靴下みたいな毛皮は生えているが、あれは実際足元は黒く汚れているだけで足裏もモチモチと柔らかく、ほぼ素足みたいなものだからだ。
霜焼けや凍傷に苦しみながら、生き残った野良たぬき達は白い大地を移動していく。
跳ねる体力の無くなった野良たぬきから死んでいくというわけだ。
つくづく冬に向いてない生き物だな。
でも春に爆発的に増えて夏に熱中症で死んで秋にまた少し増えて冬に大量に死んでを繰り返してるのに意外と種は存続してるから大したものだ。

さて、たぬきを誘き寄せるにはかまくらがいいかな。
シャベルを担いで公園まで行き、人気がなくひらけた隅っこの方で作業を始める。

公園の中央部では防寒着に身を包んだ子供達が雪玉を作って雪合戦ーーーというか、たぬき目掛けて雪玉を投げている子もいた。
狙われたぬき達は防戦一方で、死にはしないが泣きながらジタバタしている。
しっぽを雪玉で湿らされてトボトボ歩く背中に雪玉をぶち当てられながらも、歩きながら避難しか出来ないたぬきが多い中、
反撃しようと子供達のやり方を真似て雪をかき集める者もいた。
しかし素手で雪に触れるのはこの寒さでは危険な行為だ。
そもそも何かを掬ったり固める事に適していないモチモチの手ーーー否、現在は冷えてカチカチの手ーーでは雪玉を作る事など出来はしない。
白い手を赤く霜焼けさせるだけで、結局はただの的でしかなく、顔を赤くしてダヌーダヌー言いながら雪玉をボンボン当てられているのだった。


遊び道具にされている野良たぬきは放っておいて、こちらも作業に取り掛かる。
水を含んだ新雪なので、とにかく雪玉を複数作り、シャベルで集めた雪を隙間に詰めて大きな塊を作り、穴を掘っていく。
たぬきが入る大きさならそれ程大きくなくても良いし、耐久性がなくてもたぬきを生き埋めにするだけなので問題はない。
人のいない所で作業をしていれば、子供達から逃げてきた野良たぬきがやがて姿を現すだろう。


「それなんだし…ゆきでおうち作ってるし…？」
「ｷｭー？ｷｭー？」
さっそく釣れた。
ちびを4匹も連れた親たぬきが、馴れ馴れしく話しかけてきた。
かまくらを作るためにその辺の雪を掬っているので、冷たい地面ながらもなんとか立っていられるようだった。


出来上がるのを待っている間、震えて親子で身を寄せ合い…というか親たぬきにちび達が一方的にしがみついている。
ションボリ顔と猫背のせいで反省を促すために立たされているような親たぬきにちび達がまとわりつく様は奇妙なオブジェのようだ。
作業中の気晴らしに、たぬきの方は向かずに話しかけてみる。
「こんなにちびを連れて、よく生き残れたね」
「いらないちびを敷いたり服の中に入れて過ごしたし…」
やけに腹が膨らんでいると思ったら、1匹だけ胸元にしがみつかせているらしかった。ちびは全部で5匹か。
寵愛を受けているのか、ただ体温が高いからなのかはたぬきの表情からは窺い知れなかった。
何故なら、ずっとションボリしてるからーーーほんと何なんだ、この生き物。
胸元に入れてもらえたちび以外は外気を浴びまくっているので、こちらの作業中はずっとつらそうにｷﾞｭーｷﾞｭーわめき続けていた。

「できた…」
ひたすら雪玉を作り、積み上げ、隙間を無くし、シャベルで叩いて固めた後に穴を掘るーーー言葉にすれば簡単だが、実行すればこれほどつらいこともなかった。
まあ、たまには身体を動かすのもそう悪い事じゃない。
悲惨なたぬきを見るための対価としては、安いものじゃないだろうか。
汗を拭い、腰を伸ばすと野良たぬき達が両手を挙げてはしゃぐ。
「すごいし…ほんとにおうちだし…」
「ｷｭｷｭｯ…」
「ｼｬﾑｲｼ…ﾅｶﾆｲﾚﾃｼ…」
「ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ…ｼ…ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ…ｼ…」
「ｷｭｳｳ…ｸﾁｭﾝｯ…ｷｭｳｳ…」
「ﾏﾏ…ﾏﾏ…ｻﾑｲｼ…」


「たぬき達をここに住ませてほしいし…おねがいしますし…」
「いいよ」
元々たぬきで遊ぶつもりだったので、二つ返事でOKした。
「ではお礼にこのちびあげますし…」
「ｷﾞｭｳ！？」
一歩前に押し出されたちびが心外そうに親へと振り向き、素っ頓狂な声をあげた。
なんと頼んでもないのに我が子を差し出してきた。
相変わらず、たぬきの倫理観はわからない。
「いいの？大事なちびじゃないの？」
「トイレトレーニングも出来ないバカだし…この白い大地も黄色く染めるほどだし…」
「そっか、じゃあもらっていくね」
かまくらから出られなくなって緩やかに死んでいったり、かまくらの奪い合いで争うたぬきを見たかったのだが、思わぬ収穫だ。
寒さなのかショックなのか、ちびがぶるぶる震えながら親たぬきにすがりつく。
「ﾔﾀﾞ…ｼ…ｽﾃﾅｲﾃﾞ…ｼ…！」
「喋れるようになったぞ、いいの？」
「いいし…喋れても今なお漏らしてるし…汚いし…」
親たぬきはイヤそうな顔をしながら、モチッとした手でちびをこちらに押し退けてくる。
たしかに、泣き叫びながら上も下も洪水だ。
かまくらの中を汚さないための、体のいい厄介払いか。
どう使うかを考えながらちびを受け取って、たぬき達がかまくらの中に立ち入る事を許してやった。


「不思議だし…あったかいし…」
冷気が入らず、雪の断熱効果により温かな空気が滞留するかまくらの中は、家と呼ぶのもおこがましいゴミの集合体でしか暮らしたことのないたぬきからすれば楽園のはずだ。
ただ、腰下ろし自分のしっぽをクッションがわりにしようとして、床の冷たさに思わず立ち上がった親たぬきは、1匹のちびたぬきを両手で掴んだ。
「地面は冷たいままだし…いらないちび伸ばすし…」
「ｷﾞｭ…ｷﾞｭｴ…ﾔﾀﾞ…ｼ…！」
ジタバタさせようとした四肢を引っ張られた後、地面に押しつけられたちびたぬきがペラペラに伸ばされていく。
親に見捨てられ、伸ばされたショックでちびが喋り始めても無視されていた。
「ちびじゅうたんの完成だし…これでたぬきは座っても冷たくないし…」
「ﾏﾏ…ﾋﾄﾞｲｼ…ｷﾞｭｴｴ…ﾂﾒﾀｲｼ…！」
そのまま伸ばしきると三角座りの要領で座り込んで、ニッコリ顔になっていた。
親のお尻に口を塞がれ、ちびじゅうたんはやがて静かになっていった。
いらないちび多いなアイツ…。

「ﾏﾏ…ﾁﾋﾞﾓ…ｼｬﾑｲｼ…」
「よしよし…お前はこの中でぬくぬくだし…」
甘えてくる1匹を服の中で抱き寄せて両手で抱き締める。
ちびはモチモチしてもらっているみたいで喜んでいるが、カイロ扱いしてるだろ、我が子を。
あれで昨晩も耐え抜いたのか。
ちびの消費の仕方が使い捨てレベルだなアイツ。

「ﾏﾏ…ﾏﾏ…」
「うるさいし…」
背中にしがみついているちびが弱々しく鳴いている。
親たぬきはこちらには鬱陶しそうに唸っていた。
「ﾏﾏﾉｼｯﾎﾟ…ｱｯﾀｶﾀﾞｼ…」
「重いし…どけし…」
図々しくしっぽにしがみついているちびもいるが、親の手は暖を取るためにちびを抱き締めるのに使われているので払い落とされる事は無いようだ。
しっぽが僅かに揺れるが、ちびを振り落とすほどの力はないらしく、諦めていた。
「ｷｭ…♪ﾀﾉｼｲｼ…♪」
ちびはご機嫌そうな鳴き声をあげた。
親がしっぽをフリフリさせて、揺らして遊んでくれているものと勘違いしたらしい。
いやお前、殺されそうになってたよ。
まあいいけど、どうでも。

快適なのはいいけど、あの親子はエサも何もないかまくらの中から動けずに餓死するだろうな。
それともかまくらが解けて崩壊するのとどっちが先かな？


ひとまずたぬき親子には束の間の安息を楽しんでもらうことにして、
もらったちびをどうするか考えた結果、雪たぬきを作ることにした。
ようはたぬき入りの雪だるまだ。
まずは大きな雪玉を作る。
かまくらに続き、これは結構体力が要る。
小さな塊をゴロゴロ転がして、バスケットボール大の雪玉が出来上がった。

「ｷｭｳ？ﾅﾆﾂｸｯﾃﾙ…ｼ？」
小便をもらしているせいで股下の雪が少し解けて立っていられるようになったちびが、口元に手を当てて首を傾げる。
半ば無視しながら、ちびの頭を掴んで持ち上げる。
「ﾑｷﾞｭ…ﾅﾆｽﾙ、ｼ…！？」
そのまま振り下ろし、出来上がった雪玉に足先から突っ込む。
「ｷﾞｭｴ！」
ゴキッとイヤな音をさせたので多分足が潰れたか折れたかしたようだ。
「ｲﾀｲｼｨｨｨ！…ｱﾚ…ｲﾀｸﾅｲｼ…？」
痛くない訳がないが、雪が冷たすぎて痛覚が働いていないらしい。どんだけ適当なんだたぬき。
手足を出せないように、ちびの後ろに回り込み、さらに雪を盛って首から下を固める。
これならかまくらと同じように断熱性がーーーないな。
「ﾂﾒﾀｲｼ…ｳｺﾞｹﾅｲｼ…」
鼻水を垂らしながら顔を青くして首から上だけを露出させたちびがぶるぶると震えている。
後は頭を雪で包むだけだがーーー髪の毛邪魔だな。抜くか。
ブチブチブチ！
｢ｷﾞｭｳｳｳｳーー！？」
ごっそり抜いて、その辺に捨てるのももったいないのでかまくらの中に放り込むと。
「やったし…服の中に入れるし…」
「ｷｭー♪ﾁﾋﾞﾓ♪」
かまくら内のたぬき親子は我が子や姉妹の毛を喜んで受け入れていた。
何の意味があるのかはわからない。


「ﾓ…ﾓｳ…ﾀﾞﾒ、ﾀﾞｼｨ…」
毛を放り込んだ時にちょうど、親の背中にしがみついていたやつは力尽きて落ちていった。
落下の際に、親のしっぽにのしかかるようにしがみついていたちびも巻き込む。
「ﾁﾞﾑ」
上のちびの小さなお尻が、下のちびの頸椎めがけて直撃し、舌を噛んだらしい口元のへの字の隙間から勢いよく血が噴き出す。
頸椎も潰れたのか、そのまま動かなくなってしっぽから離れて転がり落ちた。
姉妹を死なせながら、冷たく白い床の上に落下したちびは泣きながら緩やかにジタバタしていたが、やがてスローモーションになっていきーーー動きを止めた。
なんか変なピタゴラスイッチでも見た気分。
「背中としっぽが軽くなったし…」
ちび2匹死んでるぞ。いいのか？


「ｷﾞｭｳｳ…ﾋﾞｨｨｨｨ…ｼ…！」
髪の毛を抜かれたちびはハゲになってところどころ血が滲んでるのが痛々しいのでさっさと雪でコーティングする。
「ｼｯ…ｼｨｨ…！」
「動くなよ。首振ったら折るからな」
「…ｼ……！？ｼﾞ……」
死んでしまったらつまらないので実際にはやらないが、喋れるということはこちらの言葉も理解できるはずだと脅しの言葉で手間を省く。
後頭部、頬と雪を押しつけられ、真っ白に包まれていったちびはだんだんと大人しくなっていく。
顔だけ露出させれば、ちび雪たぬきの完成だ。
雪玉に収納された手の代わりに、枝の手をつけてやった。
大人たぬきサイズでやると大変だが、ちびなら簡単だったな。

「どうだ？ちび雪たぬきになった感想は？」
せっかく喋れるのだし、ちびの意見も聞いておこう。
「ｼ…ｼ…」
もうしゃべる気力も無いらしく、鼻水を垂らしながら青い顔で小さく呻くだけだった。

せっかくなので、かまくら内と向き合う位置に置いてやる。
「……ﾀｼｹ…ﾃｼ…」
「見るし…おしっこちびだし…雪に包まれてあったかそうだし…」
「ﾁﾋﾞ､ﾀﾞｯｺﾉﾎｳｶﾞ､ｲｲｼ…」
「よしよし…かわいいちびはこっちでいいし…」
かまくらと違って、直に触れてるからあったかくないよ。頭たぬきすぎるだろ。
一度見捨てたちびなので、助ける気は全くないらしい。
見事にかまくらから出ようとしない親たぬきは、我が子の変わり果てた姿にはさして興味がないようだった。
「ﾋﾄﾞｲ、ｼ…ｱﾝﾏﾘ、ﾀﾞｼ…」
涙を流し、鼻水を啜ることしか出来ず、ちび雪たぬきは自らの境遇を呪い続けていた。



いい汗かいた、と雪のオブジェを眺めながらも、やりきった途端に片付けを思うと憂鬱な気持ちが湧いてくる。
どうすんだ、これ。

辺りを見渡してみると、たぬきもどきがたくさんやってきて、あちこちで凍死しているたぬき達を喰らっていた。
毛皮に包まれているので、たぬきよりは寒さに強いらしかった。
それでも寒さが堪えるのか、動きはいつもより緩慢だ。
もっとも、エサであるたぬきは全く動かないので問題はない。
シャリシャリになった肉を貪り、キュウン♪キュウン♪と喜んでいる。
ああ、よかった。これで綺麗になるな。

もどきたちに、あっちにもたぬきいるよと教えてあげたら、
「ヴッフ…！」
と、理解したらしい一頭が頷いて喉を鳴らし、しっぽを振りながらのそのそと歩いていった。
言葉を理解してるらしい賢い個体はより多くのエサにありつけるというわけだ。

「ﾁﾞｨｨｨｨ！ﾁﾞｨｨｲｲｲｲｲ！」
ウトウトして永眠しそうだったはずの、ちび雪たぬきは、もどきが近づいてくる事に気がついたらしい。
動けない事に恐怖しながら、力の限り叫んでいる。

「なんだし…捨てたちびうるさいし…」
ちび雪たぬきと違って、安全で温かい空間で子を抱きしめてまどろんでいた親たぬきはうるさげに顔をあげた。

横倒しにされ、かまくらの中を涙ながらに見つめてくるちび雪たぬきと、
四つ足の生き物を確認して、親たぬきは立ち上がった。

「ひ……！？も、も、もどきだし！？」
「ｷﾞｭｴｴ…ﾏﾏ、ｸﾙｼｲｼｨ…ﾐｴﾅｲｼ…」

「キュウウン！」
この雪で出来た物置には冷たくなっていないお肉が4つもある！
たぬきもどきは歓喜の雄叫びをあげた。
外の丸くて冷たいお肉は放っておいても逃げないので、まず大きくてあったそうなお肉から食べることにしようーーー。

「に、に、逃げ場がないし…！」
かまくらの出入り口は一つしかなく、正面から近づいてくるもどきから逃げる方法はない。
「えいっ…し…これで帰ってし…！」
かまくらの内壁ぎりぎりまで下がり、死んだちび達をもどきの足元へ放るが、その歩みが止まることはない。
やはり動かない小さなお肉より血の通った温かいお肉の方が興味をひいているようだ。

「お兄さんっ…！お兄さん！？どこだし…助けてしぃぃいい！」
もはや助けを求めるほかないが、呼びかけに応える者はいない。
「ｷｭ…ﾏﾏ…！」
服の中のちびなどは出来ることもなく、ただ強くしがみつくしかなかった。
この後ちびの頭ごと、やかましく騒ぐ親の喉笛が食いちぎられることとなる。

ちび雪たぬきは親と姉妹、そして残りの遺体が貪られていくのをただ、見つめていた。
手足を封じられて何の抵抗も出来ないと知れば、後回しにされるのは必定だった。
見捨てられたちび雪たぬきは残る力で、
「…ｻﾞﾏﾐﾛ、ｼ…」
とだけ呟いた。

悲鳴だか何だかわからない声を背中に受けながら、俺はもうあちらに興味はなかった。

ーーーさ、コンビニで昼飯買ったら二度寝しよう。
久々に身体を動かしたので筋肉痛に苛まれる予感を覚えながら、せめてストレッチでもしようと考えながら帰路についた。


オワリ

