No.48「情愛・中編」

大きな国道を、親1匹子供4匹の大所帯のたぬき親子が渡ろうとしていました。
エサを求めて、別の地域へ移動しようというつもりなのでしょうか。
信号など知りもしないたぬきは、人間がやっているように車に気をつけて通り抜けようとしているようです。
ふんす、ふんすと鼻息を鳴らして右に左に視線を向けます。
ただし右見て左見て、もう1回右を見るなどはたぬきには持ち得ない発想ですので急に曲がってきた車などには対応できません。
幸運にも、車の流れは途切れていました。
自分達が渡りきるまでの時間は大丈夫そうだと判断した親たぬきは。
「いくし…ままについてくるし…！」
両手で少し大きなチビ達と手を繋ぎ、そのチビ達がさらに小さなチビ達と手を繋いでいます。
親たぬき、中チビたぬき2匹、小チビたぬき2匹と並んで…おや？もう1匹、いるようです。
背中にしがみついているチビだけはまだ服が無く、全裸で親の服の中に収まっていますね。
親の服が後ろ側に伸びてだるんだるんになり、その隙間から入る風が寒く感じようとも、この方が安全だと判断しているようです。

親子たぬきが必死に歩調を合わせながら、手を繋いで渡っている途中ーーー。
道路上に落ちていたスナック菓子の包みが裏返しになっていて、ギラギラと光り輝いていました。
「ｷｭ…ｳ！あれ、ほしいし…！」
スナック菓子の粉やカケラがついていたので
気を取られ、拾おうとしゃがみ込んだ左端のチビたぬきが手を離し、道半ばでしゃがみ込んでしまいます。
親たぬきに遅れまいと必死になっている、他のチビたぬきは気がつきません。
そのまま1匹のチビを置いていく格好に気づかず、親子たぬき達は危険な道路を渡りきりました。

「ひぃ、し…ひぃひぃ、し…よかったし…渡れたし…」
以前、親子での移動に失敗した他ぬき親子を見かけた事を思い出します。
その親は縦に並んで3匹の子供達を先行させ、自分が後ろから見守っていましたが、真ん中のチビが途中で前のチビも巻き込んで転倒し、列が止まったところで先頭のチビは左車線の車に頭を潰され、親は右車線の車にしっぽを轢かれて動けなくなり、残り2匹のチビが泣き叫んでいた所をカラスに連れ去られるという有様でした。
ちなみに残されたチビの胴体と、動けなくなった親たぬきはするっと渡ってきたたぬきもどきに食い尽くされ、もどきは素早く渡りきっていくという有様でした。

他ぬきの失敗を活かして、なるべくチビがついてこれる速さで、かつ慎重に判断しなければ移動は成功しません。
車線の真ん中には隙間がありますので、1匹きりなら立ち止まる選択肢もありますが、チビを連れたまま、車が往来する道で耐える事はパニックを起こしかねないので避けるべきだと考えていました。

なんとか一気に渡りきって、安堵して、親たぬきはようやく1匹足りない事に気がつきました。
1匹のチビたぬきが、道路の真ん中でしゃがみ込み、スナック菓子の袋の内側をペロペロし…と舐めていました。
「チビ、何やってるし…？！」


すぐに迎えに行こうにも車の往来が途切れず、下手に動けばこちらが轢き潰されるのは目に見えていました。
「ｷｭｳｳ…まま…！」
遅れた事にようやく気がついたチビは、しゃがみ込んだまま、車線の境目でゴミを片手にプルプルと震えています。
今にも恐怖に負けてジタバタし始めてしまいそうでしたが、
しかしここで倒れ込んでジタバタしようものなら、はみだした部分がタイヤの餌食となるでしょう。
親たぬきはひとまず周りの安全を確認してから、車道上のチビに呼びかけました。
「ままがいくまで動いちゃだめし…！」
ところが、この小チビは喋れるようになっていても身体能力は高くない部類だというのに、姉達と同じように動けると自分を過信していました。
「ｷｭ…いける…し…！」
やり方はわかっているので、気をつければ大丈夫だと思い込んでいます。
親と同じように鼻をふんすふんすと鳴らし、少し身を低くして走り出す構えを取ります。
にもかかわらず、スナック菓子の袋は未練がましく抱えていました。

親たぬきは我が子と手前側の車道を見比べ、遠くから乗用車が迫ってきているのを見て制止をかけました。
「まつし…！今はだめだし…！」
「いくし…！ｷｭー！」
親の制止を聞かずトテテッと走りだしたチビはなんとか渡りきれずーーーこけました。
すぐには起き上がれないチビたぬきは、ショックと痛みに驚き、うつ伏せでジタバタし続けて。
「ｷﾞｭﾝｯ」
迫ってきていた乗用車のタイヤに腰から下を轢き潰され、悲鳴と共に内臓を吐き出します。
潰された下半身はぐちゃぐちゃに潰れた上にタイヤ痕が強く刻まれており、誰がどう見ても助かりませんでした。
それでもたぬき特有のしぶとさで生命力を振り絞り、母を求めて声を上げます。
せめて、せめてモチモチして欲しいし。
「ま…ま…！」
「ああ…あれはもう助からないし…ちび達、いくし…」
「えっ…いっちゃうし…？」
「まだ動いてるし」
「かわいそうだし…まま、何とかしてし…」
「ｷｭｳー？」
「だめだし…いくし…」
背を向けて、遠慮がちに何度もこちらを振り向く姉妹達の背中を押しながら、トボトボと離れていく親たぬきに向かって、轢かれてしまったチビは懸命に手を伸ばします。
「ｷﾞｭｳｳｳｳ！なんでじぃぃいい！置いて、いかないでっ、じぃぃ！」
残された生命の限り、精一杯の叫びを振り絞って、いっそう大きな悲鳴を上げました。
「まま…いもうとが呼んでるし…」
「たすけないし？」
「チビ行って助けてくるし…ｷｭｳ…」
心配して戻ろうとする他のチビ達の手やしっぽを掴んで押し留めました。
「いったらお前たちも死んじゃうからだめだし…」
「ｷｭｳ…ｵﾈｴﾁｬ…」
親の背中にしがみついていた1番幼いチビたぬきが手を離し、親の服からグイグイと抜け出して地面に着地します。
やんちゃざかりで、轢かれた姉とは似た者同士仲良く遊んでいたのでいっそう悲しそうに見つめています。
立ち止まった親たぬきはションボリを深めた表情で、首を振ります。
「だめだし…あいつはもう助からないし…ままの言う通りにしないからああなったし…」
親たぬきはもはや余命いくばくもない我が子を、残った子を戒める教材としか見ていません。


それでも納得できないのが、親たぬきの背中にしがみつくほど幼い全裸のチビなのでした。
「ｷｭ…ﾔﾀﾞ、ｼ…！」
1番幼く1番頭の足りないチビが、弾かれたように走り出します。
「あ…チビ…！」
運良く車が途切れていて、トテトテとたどたどしい歩みで、仲の良かった姉めがけて向かっていきます。
親たぬきは手を伸ばしましたが予想外の行動に一手が遅れ、捕まえるタイミングを逃してしまいました。
幼い全裸チビの上を、車体が流れていきます。
親たぬきはヒヤリとしましたが、悲鳴は聞こえてきません。
車が通り過ぎた後、幼い全裸チビは何とか姉妹の元に辿り着いていました。
親たぬきはひとまずほっとしましたが、依然として危険な状況であり、見守るほかないのは変わりません。
「ｵｷﾃ…ｼ！ｵﾈｪﾁｬ…」
腰から下が潰れたチビは、必死の思いで駆け寄ってきた幼い全裸チビの呼びかけに応じる事はありませんでした。
道路に突っ伏したまま、すでに事切れていたからです。
「ﾓﾁｭﾓﾁｭ…ｽﾙｯ…ｼ…！ﾓﾁｭ…ﾓﾁｭ…」
小さな手を、倒れ伏した遺体の後頭部や背中にムニムニ、スリスリと押しつけます。
いつも自分が親たぬきや姉妹たぬきにしてもらって嬉しい事をしてあげれば、元気になるものだと考えていました。
「ｷｭｳ…ﾏﾀﾞ…ｼ？」
何度モチモチしても動かない姉に首を傾げて、幼い全裸チビは少し不満げに鳴きます。
そうこうしている間に大型のトレーラーがやってきて、一際幅の大きなタイヤが幼い全裸チビの上にのし掛かりました。
｢ﾍﾞｼﾞｭ」
短い悲鳴と小さな生命をかき消して、轟音と共に走り去っていきました。
道路には赤い肉片が２つ、汚い花を咲かせています。
かわいい妹のあんまりな末路に泣き出し、ジタバタし始めるチビ達に親たぬきは涙を見せずに言います。
「わかったかし…」

一度に2匹も姉妹を失って、ようやく心から理解したらしいチビ達はジタバタを終え、涙目でコクコクと頭を上下させて、誰も何も言わなくなりました。
親1匹と子3匹に減った親子たぬきが、トボトボと歩いていきました。

ツヅク