「冬が来たし…」と一匹のたぬきが小屋からモクモクと上がる湯気を眺めて呟いた。
たぬきの里は冬になると温泉が湧く。その為、時期が来ると共同浴場が建てられ、そこにたぬきたちが集まるのだ。
雪の積もるたぬきの里には湯の恵みはありがたく、氷点下の里の中を湯気を登らせるたぬきが往来するのが例年となっている。
「冬の冷たさが骨身に染みるし…」「たぬきって骨あるし…？」「流石にあると思うし…」「T先生に聞いてみるし…？」
「お肌ツヤツヤ玉子肌だし…温泉卵ならぬ温泉たぬきだし…」「入るのにはいい具合だけどこの温度じゃ温泉卵にはならんし…」
「熱燗をやるのにちょうどいいし…あっ零れたし………」「アルコール臭で酔うし…」「湯も零れるからジタバタしないで欲しいし…」
「冬の温泉を楽しめるのは格別だし…終わらないで欲しいし…」「でもずっと冬なのは辛いし…」
たぬきたちは下らない会話を楽しみながら、身と頬を寄せ合って42℃前後の湯に浸かり、悴んだ手足を温めてから各々の家に帰っていく。

こうした温泉のある暮らしが続くのは雪が解けて梅の花が咲く頃までである。春が訪れると温泉がピタリと止んでしまうのだ。
「秋の内はずっと月と紅葉で酒呑んでたし…」「春もお花見で呑むだろうし…」「夏は冷たい地下水が湧いてプール開きだし…」
「夏以外呑んでばっかりな気がするし…」「プールの脇で寝そべってカクテルとか飲んでるし…」「通年飲んでたし…」
何故か良い具合に冬に温泉や夏に地下水が湧く理由はたぬきたちすら知らない。
ただ確かなことは、里では通年季節を楽しめる余地があるということだった。