買い物から帰ってくると、家の中が白濁液まみれになっていた。
あまりにも唐突かつ非現実的すぎる事態に、頭の中まで真っ白になりそうだ。
嗅ぎなれた青臭い香りが充満している。軽く呼吸するだけでもむせてしまいそうになる。

どうしてこうなったのか考えても全く分からない。
玄関の鍵はしっかりとかかっていた。
この部屋はマンションの4階だから、ベランダから不審者が入ってきたということもないだろう。
そもそもこれが精液だった場合、とても人間に出せるような量じゃない。

内部犯行の可能性しかないのだろうが、我が家にいるのは私の他にはたぬきだけだ。
まさかたぬきが射精したとでも言うのか？
それよりも家の中がこんな惨状でたぬきは大丈夫なのだろうか？
私はたぬきがいるであろうリビングへ急いで向かった。

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「まんまんし…まんまんし…」ｼｺｼｺ…ｸﾁｭｸﾁｭ…
私は我が目を疑った。
たぬきがオナニーをしていた……正確に言えば、股座から生えた肉棒を扱いていたのだ。
それと同時に股間も弄っていたのだが、肉棒が生えていることと比べれば些事に過ぎない。
というか「まん」ではなく「ちん」では？
部屋に入ってきた私に気がついていないのか、必死にオナニーを続けている。

「ｳﾞｯﾌ…出るし…たぬまんミルク出るし…」ﾄﾞﾋﾟｭｯ♡ﾄﾞﾋﾟｭｯ♡
どこからどう見ても射精だった。そうとしか言いようがない。
家の中がこうなった理由は分かったが、それ以外の謎が増えてしまった。
考えても仕方ないだろうから、たぬき自身に聞くことにした。

「ただいま。えーっと……ソレは一体？」
「おかえりだし…これは前しっぽだし…まんしになったら生えるんだし…」
ダメだ。聞いたせいで謎が更に増えた。

「う～ん？……まずは……まんしって？」
「乙女にそんなこと言わせるし？セクハラだし…冗談はさておき発情期のことをまんしって呼ぶし…」
「発情期？発動したところでメスしかいないんだから子作りできないんじゃ？」
そもそも、リポップとかたぬ木とか意味不明な増え方をしているはずだ。
改めて考えるとなんだこいつら。

「どこから話したものだし…たぬきはどの方法にせよ自然発生みたいな感じで生まれるのはわかるし？」
「まぁそのぐらいは」
「説明を色々とハショるとリポップもたぬ木もションボリのおかげで生まれるんだし…」
いきなり話をすっ飛ばされた。

「本題はここからだし…ションボリが少ないとたぬきが少なくなるし…たぬきが少ないとションボリも少なくなるし…悪循環だし…」
「……もしかして、発情期になるとそのションボリとやらを放出する？」
「おおよそ当たりだし…大人たぬきの周囲に他のたぬきが長期間いないとまんしになるし…」
「それで前しっぽが生えて、たぬまんミルクを出して……どうなるんだ？」
「たぬまんミルクは特濃のションボリだし…たぬまんミルクをまき散らして放っておけばちびが数百匹単位で生まれるし…」
何というか……単為生殖に近いようで全く違う、めっちゃキモい生態をしていた。

「うん？……ということは……この後ここに数百匹ぐらい子たぬきが生まれる？」
「左様し…」
「防ぐ手段は……？」
「無いし…少なくとも自分は知らないし…既にションボリに満ち溢れているし…」
「あー？……一匹で飼っていたせい？」
「左様し…偶然にも近所にたぬきが全然いなかったせいもあるし…運が悪かったと思って諦めるし…」

────

私は諦めて部屋を掃除することにした。
拭いても無駄らしいことは分かっているが、たぬまんミルク……精液まみれの部屋は普通に嫌だ。
ティッシュでたぬまんミルクを拭き取ってはゴミ袋に捨てていく。
全部拭き取るのにティッシュを2箱も使わせられた。どれだけ出したんだ……
発情していても最低限の分別はあったのか、カーテンなどの布ものにはかけていなかったのが不幸中の幸いだった。

ひと段落したと思ったその時、ゴミ袋の方から何か聞こえてきた。
「ｷｭｰ…」「ﾀﾇｰ…」「ﾎﾟｺｰ…」「ｾﾏｲｼ…ｸｻｲｼ…」
ゴミ袋の中には子たぬきが大量に詰まっていた。
それだけではない。ゴミ袋の中のティッシュがほとんど無くなっているのだ。
まさか、ティッシュを媒体としてポップしたのか？わけがわからない……

「ちびがたくさんだし…すごいし…」
こうなった元凶がのほほんとやってきた。
「あー……えー……どうすれば？」
私はもう何も考えられなくなっていた。
「本能的にヤっちゃったけどこんなにいらないし…豆3匹ぐらいで十分だし…この辺のこいつらが豆ちびだし…」
「残りはどうすれば？パッと見でも200匹ぐらいいるけど……」
「保健所に持ってけばいいと思うし…いい感じに処分してくれるし…この量はさすがにポイ捨てしたらヤバいし…」
「薄情者だな、お前……」
「反省はしているし…だけど無理なものは無理なんだし…」

考えるのが面倒になった私は、たぬきの言う通りにした。
豆らしい個体3匹だけ確保して、残りは全て保健所に持って行った。
飼いたぬきのまんしはかなり珍しいらしく、「是非ともそのたぬきを解ぼ……見てみたいですね！」と保健所の職員が興奮していた。
正直言ってこいつをその変態っぽい職員に明け渡そうかと思ったが、ほんの少しだけ愛着が残っているのでやめた。
とは言っても、「今度何かやらかしたらブチ殺すぞテメー」「了解し…致し方なし…」というやり取りがあったのだが。

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保健所から帰ってくると、家の床が子たぬきで埋め尽くされていた。
たぬき曰く「拭き残しと埃から生まれたみたいだし…かわいいし…」とのことらしい。
やっぱりこいつ殺しておこうかな……