『たぬき叩き』
私の実家は小さな山を所有しており、そこで採れる筍や山菜を道の駅に卸して収入を得ている。そこまで大きな利益を上げていると言う訳でもないが、山の維持費を払ってお釣りが来る程度には稼いでいるようである。
ところが、最近になって急激に山菜の収穫量が減少した。不思議に思って調べたところ、山に生息するとある生物が原因だと判明したのだ。それ以来定期的にその生物の駆除が行われており、その役目は専ら在宅ワーク中心で家にいる事が多い私に押しつけられている。

山の中に足を踏み入れると、濃厚な自然の香りが鼻をくすぐった。うっそうと木々が生い茂る雑木林の隙間からは木漏れ日が差し、明と暗のコントラストを作っている。思わず立ち止まって深呼吸をしてみれば、さわやかな冷たい空気が肺に満たされ、身も心も清らかに浄化されていく気すらした。
「ｷｭｯ…ｷｭｳ…ﾁ…」
しばらく景色を楽しみながら山道を歩いていると、土を踏みしめる足音とざわざわとした木々のざわめきに混ざって、何か動物の鳴き声のようなものが聞こえてくる。声のする方へ向かうと、そこには5センチくらいのとても小さな少女にリスのような尻尾がついた生き物が数匹、尻尾を絡め身を寄せ合って寝転んでいた。
「ｷｭｰ…♪ｷｭｯ…♪ｷｭｰﾝ…♪」
「すぴーし…ぽこーし…」
野生のたぬきの幼体である。
たぬきとは、近年この世界に突然出現した、生き物と言っていいのかすら定かではない不思議な生命体だ。成体でも30cm程の大きさであり、幼体（ちびたぬきと呼称される）に至っては3〜5センチ程度しかない。人語を解し、人間の女児に似た見た目をしているが、身長に対して非常に大きな頭部から生える垂れた犬のような耳と、臀部から伸びるふさふさとした茶色の尻尾が人間とは異なる生命体である事を主張している。
また、何故か常にギュッと瞼をハの字に下げて口をへの字に結んだションボリとした独特の表情をしており、前述した小さなぬいぐるみのような見た目と相まっていわゆる「ブサカワ」的な可愛さでペットとして一定の人気があるらしい。
そして何よりの特徴が、『ポップ』と呼ばれる繁殖方法だ。彼女たちは通常の動物のように交尾や出産による繁殖を必要とせず、その代わりに空気中に漂うションボリとした気を集めて虚空より出現する。この意味不明な生態により、たぬきという存在が既存の生物という枠組みに含まれるのか、それとも含まれないのかが曖昧になっているのだ。
他にも幼体の時点では裸だったたぬきが成体まで成長するといつの間にか緑色の服を着ていたり、何故かその胸にピカピカと光るメダルをつけていたり、なんとも謎の多い生き物である。

都市部ではペットとして親しまれているたぬきだが、一転自然界にポップした場合、彼女たちはとんでもなく迷惑な存在と化す。
第一の理由は食事である。野生のたぬきの主食は木の実や小さな虫で、これはリスなどの小動物の主食とガッツリ被っている。当然それらは無限に湧き出てくる訳ではないので、たぬきがポップした分だけ小動物たちの取り分は減る事となる。
第二の理由は栄養価である。彼女たちは摂取した栄養をションボリとした気へと変換し、ちびたぬきを生み出す糧とする。そのためたぬき達の肉から摂取できるカロリーは非常に少なく、肉食動物に捕食されたとしても殆ど彼らの腹は満たされないのだ。
そして最後の理由が『リポップ』と呼ばれる現象である。たぬきが死亡してから1日程経つと、その死体は突如この世界から消失し、新たにちびたぬきとして再びポップする。これがリポップ現象だ。不条理としか言いようがないが実際に起こっているのだから仕方がない。そしてこのリポップが曲者で、たぬきの死骸は土中の微生物に分解されず、植物の養分とならないのである。
草食動物が植物を食べ、草食動物を肉食動物が食べ、そして肉食動物の死骸を微生物が分解して植物の養分とする。この食物連鎖の循環においてたぬきはなんの役割も持たないのだ。
この山の山菜の不作。それは繁殖したたぬき達によって食物連鎖が阻害され、土中の栄養分が不足したのが原因であった。

「ｷｭｰ…?」
「おっきいち…くまさんだち…？」
「ｷｭｳｩｩｩｩﾝ…♪」
木漏れ日を浴びながら気分良く日向ぼっこしていたちびたぬき達であったが、私の身体が影となり日光が遮られた事によってこちらの存在に気づいたようだ。自分より大きな存在を親と認識したのか、1番小さな個体が鈴の音色のような鳴き声を上げながらよちよちと四足で歩み寄ってきた。
「ｷｭｰﾝ…♪ｷｭｯﾁ…♪」
「あっ…まつち…あぶないち…」
お姉さんたぬきの静止も聞かず、もちもちしてち。とでも言わんばかりに差し出した手にすりすりと頬擦りして甘えるちびたぬき。そんな彼女の首根っこを素早く押さえつけ、頭が動かないように地面に固定する。
「ｷﾞｭｯ!?ｷﾞｭﾍﾞｯ…！」
そしてもう片方の手で腰に提げていたネイルハンマーを握り、驚いて目を白黒させるちびたぬきの頭部に振り下ろした。
ポコッ！
「ｵｷﾞｭ!」
小気味のいい音と共に頭蓋骨が粉砕され、内部の小さなたぬ脳に致命的なダメージを負ったちびたぬきの喉から間抜けな断末魔の叫びが絞り出される。本能的にジタバタする暇すらなく、ちびたぬきは生命活動を停止…死んだのだ。

「ひどいち…たぬきのいもうと…かえしてち…」
ポコッ！
「ｵｷﾞｭｯ!」
「ﾀﾆｭｰ!?ﾀﾆｭｰﾁ!ﾋﾟｨｨｨｨ!‼︎」
ポコッ！
「ｵｷﾞｭ!」
同族の死を目の当たりにしジタバタする他のちびたぬきも同様に叩き殺していく。最初の頃こそ小さな命を屠る罪悪感に心が押しつぶされたものだが、今となっては慣れたものである。死んでもリポップするという彼女達の冗談のような生態も、私の心を軽くする助けとなった。
ポコッ！ポコッ！ポコッ！ポコッ！ポコッ！
「ｵｷﾞｭ!」「ｵｷﾞｭ!」「ｵｷﾞｭ!」「ｵｷﾞｭ!」「ｵｷﾞｭ!」
木陰で微睡むちび、二匹で仲良く遊ぶちび、たぬき玉を作って抱き合うちび、得体の知れない存在に驚きジタバタするちび、よちよちと逃げようとするちび、目についたちびたぬきを撲殺しながら山道を歩いていると、少し開けた天然の広場のような場所に出た。その片隅には地面を掘り返してできた15センチほどの穴があり、覗き込んでみればその中には小さな糞が大量に入っていた。
たぬきの作ったトイレである。
『スラム』などという共同体を作る社会性を有しているが故か、はたまた縄張りを主張する野生動物としての本能なのか、たぬき達は一箇所にまとめて排便をするのだ。
この深さの穴はちびたぬきの力では掘ることは不可能なのでおそらく成体となったたぬきの仕業と推測できる。ちびたぬきから成体になるまでの約半年ほどの期間、野生動物による捕食や定期的な駆除を逃れていたのは相当な幸運の持ち主としか言いようがない。
たぬきは成体まで成長するとちびたぬきを拾い集めて群れを形成する習性があるため、早めに駆除しておかないと面倒な事になるだろう。

私は背中に背負っていたミニバックを地面に置くと、チャックを開いて中を覗き込んだ。その中にはある試みのために殺さずに何匹か生け捕りにしておいたちびたぬきが入っており、彼女達は恐怖に怯え震えながらたぬき玉を作って励まし合っていた。
「ｷｭｰ…ｷｭｳﾝ…」
「ｷｭｯﾁ…ｷｭｩ…」
「ｷｭｯ…ｷｭｯ…」
もちもちと頬を寄せ合う数匹のちびたぬきから適当な一匹を鷲掴みにし、そのまま無理矢理たぬき玉から引き剥がす。
「ｷﾞｭ-ｯ‼︎!」
「ｷｭｯ!?ｷｭｰ!ｷｭｰ!」
「ﾀﾆｭｰ!ﾀﾆｭｰ!」
抗議する声を無視して、掌の中でジタバタするそれを広場の中央辺りに放り投げると、近くの茂みの中に素早く身を隠す。放物線を描いて地面に落下したちびたぬきは、ぽよんっと音を立てて一回バウンドした後、広場の土の上に着地した。
「ｷｭｯ⁉︎」
たぬき特有のもちもちした肌によってダメージこそないものの、いきなり放り投げられた心理的な衝撃は大きかったようだ。たちまち瞼の端に涙の粒が浮かび、ぽろぽろと頬をこぼれ落ちる。
「ｷｭｳｩｩｩ…ｷｭｯ…ｷｭｳｩｩｩｩﾝ!!!!ﾀﾆｭｳｩｩｩｩ!!!!!」
しばらく心細そうに弱々しい鳴き声を上げていた彼女であったが、とうとう感情を抑えきれなくなったのか地面に転がりジタバタと手足を激しく動かしながら泣き叫び始めた。
「ｷｭｴｪｪｪｪｪﾝ!!!!ｷｭｴｪｪｪｪｪｪﾝﾁｨｨｨｨｨ!!!‼︎!」
その小さな身体からは想像もできない大音量の鳴き声が周囲に響き渡る。暫く茂みの中で息を殺しながら待っていると、ガサガサと向かいの茂みが揺れ、ひょこっと辛気臭い表情の生物が顔を出した。

「ちびの声が聞こえたし…どこだし…？」
キョロキョロと周囲を見回しながらちびたぬきを探す成体のたぬき。少し小さめなので成体になりたてと行ったところだろうか。これなら群れを作られてしまっている可能性は低いので一安心だ。
やがて広場の中央辺りで泣き疲れてか細い鳴き声を上げるそれを見つけると、嬉しそうにトコトコと歩み寄る。
「あっ！ちびいたし…！おーいし…！」
「ｷｭｩ…ﾁ…?ｼﾞｭﾋﾞｯ…」
彼女はぐずるちびをそっと抱き上げると、安心させるように優しくすりすりと頬擦りを繰り返す。
「ｸﾞｼﾞｭｯ…ｷｭｳｩｩｩﾝ…ｸｩｩｩｩﾝ…」
「おぉ…ちび…よしよしし…もう大丈夫だし…」
「ｷｭｯ…ｷｭｰ…ｷｭｰﾁ…♪」
すべすべの感触にすっかり機嫌を直したちびたぬきが頬擦りを返してきたのを確認すると、二匹のたぬきはにっこりと微笑みながらお互いのほっぺた同士をぷにぷにとくっつけ合い始めた。たぬき同士の親愛の表現、『もちもち』だ。
「もちもちし…ちびのほっぺ、ぷにぷにだし…」
「ｷｭｰ♪ｷｭｯ♪ﾏ…ﾏ…♡」
頰が触れ合うたびに柔らかく弾力のある肌がプルプルと振動する。その感触が心地いいのかちびたぬきはもちもちの度に嬉しそうな鳴き声を上げ、それに気を良くした成体たぬきはさらにちびを喜ばせようともちもちを繰り返す。新しく親子となるたぬき達の繰り広げる微笑ましい光景である。

そろそろいいだろう。
私は成体たぬきの警戒心がすっかり解けたのを確認すると、茂みから飛び出し広場の中央でだらしなく抱き合う二匹の害獣を駆除すべく駆け出した。
「タヌッ！？」
案の定ちびとのもちもちに夢中で周囲に無警戒だったのだろう。彼女が私の存在に気づいたのは、目と鼻の先の距離に接近した直後であった。
「ひいっ…し…！……ちび…！ごめんしっ！」
「ｷｭｰｯ⁉︎」
成体たぬきは先程まで抱き合っていたちびをこちらに放り投げると、くるりと身を翻して逃げようとする。こういった幼体に対してのドライさは、胎を介さず虚空より生まれてくるが故なのか、あるいは死んでもリポップするという雑な生命観に基づくものなのだろうか。いずれにしてもいい気分はしないものである。
「ふっし…ふっし…！ﾀﾞﾇｯ!」
短い手足を必死に動かして逃走を図るたぬきだったが、その速度は野生動物とは思えないほど遅い。1メートルも走らないうちに追いつくと、ずるずると引き摺られている尻尾をがっしりと握ってそのまま空中へと持ち上げる。
「は…離してし…！たぬき何も悪いことしてないし…！」
宙吊りで手足をバタつかせながら命乞いをするたぬき。残念ながらこの山でこいつらが生きている事それ自体が罪なのだが、これから駆除する対象にそんな事を説明する義理はない。
「なんで聞いてくれないし…！もおぉぉぉ！怒ったしぃ！ﾀﾇﾀﾇﾀﾇﾀﾇ…ダヌーーーー！ダヌゥゥゥゥ！！！！」
無視された事に腹を立てたのか、癇癪を起こして顔を真っ赤にしたたぬきが手足をジタバタと激しく動かす。しかし短い手足は虚しく空を切るばかりで、尻尾を握る私の腕に届くことはなかった。
「ﾀﾇｰ…ﾀﾇｰ…」
ジタバタによる体力の消費とともに手足の動きは次第に緩慢になっていき、とうとうたぬきは弱々しい鳴き声を発しながらだらりと腕の力を抜きなすがままとなってしまう。
「じ…っ！？ﾀﾞﾇｯ…!」
たぬきから抵抗の意思が消えたので、尻尾を掴んでいた手を離して落下させる。したたかに地面にその大きな顔面を打ちつけたたぬきは、無様な鳴き声を上げながら這いずって逃げようとする。だが、その動きはあまりにも鈍かった。
「ｷﾞｭｳｩｩｩ…！」
私は素早くしゃがみ込むと膝でたぬきの胴体を強く圧迫し、決して抜け出せないように固定する。
「ひっ…やだし…やだ…」
そしてネイルハンマーを両手で握り込むと、うつ伏せの体勢でぶるぶる震えながら頭を抱える彼女の後頭部に渾身の力を込めて振り下ろした。
ポッコーン！
「ｸ゛ﾎ゛ｧ゛！！！！！」
確かな手応えとともにハンマーがたぬきの頭蓋骨を割り砕き、深々と後頭部にめり込む。
「おぎょ…ぐじじじじじじぃ………」
立ち上がりたぬきを足でごろんと転がして仰向けにすると、そこには虚ろな目でどこか彼方を見つめながら末期の声を上げる彼女の姿があった。
「じっ………じっ…じっ……じっ…」
ﾁｮﾛﾛﾛﾛ…ﾌﾟﾘ…ﾌﾟﾘﾌﾟﾘ…
たぬ脳が損傷した事によって膀胱と括約筋から力が抜け、漏れ出したたぬしっことたぬうんちが緑色の服を汚していく。
不規則的な弱々しい鳴き声を発しながら彼女の身体は次第に仰反りはじめ、とうとう頭から足先までがブリッジをするかのようにぴーん！と弓なりに伸びてしまった。
「うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！」
海老反りの体勢のままガクガクと全身を激しく痙攣させ、残された僅かな生命力を絞り尽くし断末魔の叫び声を上げるたぬき。それはまるで消える寸前に激しく燃える蝋燭の炎のようで、ある種の美しさすら感じさせる光景であった。
「うっ！！！うっ！！！！！…………」
一際大きな叫び声と共に大きく腰を空中に突き出したと思うと、突然ブレーカーが落ちたかのようにたぬきの動きがピタリと止まる。彼女の活動は二度と再開される事はなく、だらしなく開いて涎を垂れ流し続ける口からはもう何の音も発せられる事はなかった。
私はたぬきの死骸を蹴り飛ばして邪魔にならない所に移動させると、広場を後にしようとして…後ろに振り向いた。

おっと、忘れるところだった。
「ｷｭｳｩｩｩ…ﾏﾏ…ｼﾈ…ｼﾈ…ｼﾈ…ｼﾈ…ｼﾈﾁ…」
親となるはずだった存在に捨て駒にされ、広場の中央で尻尾を抱えて呪詛を吐き続けるちびたぬき。こんなものを放置していれば彼女のションボリを起点としてまたたぬきの繁殖が始まるだろう。
「ﾍﾞﾋﾞｭ!」
足元に転がる小さなゴミを一息に踏み潰すと、山を蝕む残りの病原体どもを駆除すべく今度こそ広場を後にする。
結局あの後も山を一回りするまでに十数体のちびたぬきを発見し、そのほとんどを叩き潰した。運良く回収されバッグに入れられたちびもいたが、まあ末路は似たようなものだ。
日も傾いてきたので今回の駆除活動を終了する。成果は成体1、幼体36を駆除、幼体7を回収という結果となった。これだけ減らせばしばらくは連中の繁殖も抑えられるはずである。
久々の運動で節々が痛むが、心地良い疲れが全身に広がる。私は両腕を組んで真上に伸ばすと、達成感を感じながら帰路に着くのだった。

翌日。
虫かごに移しておいたちびたぬき達をボウルに放り込んで、キッチンへと移動する。
「ｷｭｩｩｩ!?」
「ﾀﾆｭｰ!ﾀﾆｭｰ!」
私とて鬼ではない。いくら小さくても命は命。たぬき達を殺さずに活用できる道があるなら、その方法を選びたいと思っている。
世間ではたぬきを調理して食べる『たぬ食』なるものが流行っていると聞く。それならば、山に無尽蔵に湧き出てくるこのぬいぐるみもどき達を袋詰めにして道の駅で売り出せば、幾らかの小銭へと変換することができるのではないかと考えたのだ。
「ｷｭｰ…ｷｭｰ…」
「ｷｭｴｪｪｪｪﾝ!ｷｭｴｪｪｪﾝ!!!」
「ﾔﾀﾞ…ﾁ…！ﾀﾞｼﾃ…ﾁ…!」
手元のボウルで尻尾を抱えて丸くなったりジタバタしているこいつらは、その試金石という訳である。
「ｷﾞｭｧｧｧ…‼︎!ﾋﾟｨｨｨｨ!!!!」
今回作るのはコンビニなどでよく売られているちびたぬき揚げだ。適当に選んだ一匹のちびの尻尾を掴み、流水で洗った後によく振って水滴を弾き飛ばす。
「ｷｭｩ…ｷｭｳｩｩｩ…」
キッチンペーパーの上で目を回すちびたぬきを菜箸で摘み、あらかじめ用意しておいた溶き卵に漬けた後に素早くパン粉を塗していく。
「ｷｭ…?ｷｭｯﾁ…ｷｭｰ…ｷｭｰ…」
ベトベトとした感触に不快そうに身を捩るちびたぬきであったが、ガッチリと箸でホールドされている為パン粉を落とすことは叶わない。弱々しく抵抗を続けるそれを煮立った油に突っ込むと、ﾊﾞﾁﾊﾞﾁﾊﾞﾁﾊﾞﾁ!と油の跳ねる音と共に彼女の絶叫が響き渡った。
「ｧ…ｱ…ﾁﾞﾁﾞﾁﾞﾁﾞﾁﾞｨ‼︎!!ﾁﾞｨｨｨｨｨｨ!!!!!!!!」
油の中でジタバタジタバタ！と激しく手足を動かしながら、大声で叫び続けるちびたぬき。その動きは次第に弱々しくなっていき、とうとうビクビクと小さく震える感触が箸から伝わるだけとなった。ちょうど良い揚げ具合になった頃合いを見計らって彼女を油から上げ、キッチンペーパーを敷いた皿の上に移す。
「ｼﾞｼﾞ…ｼﾞｼﾞｼﾞ…ｼﾞｼﾞｼﾞ…ｼﾞｨ…」
なんと死にかけのセミのような鳴き声を上げながらもまだ生きている。高温の油で揚げられてもギリギリのところで耐えるその生命力に感心しつつ、残りのちびたぬきも同様に調理していく。同族の哀れな末路を目の前にしてパニックを起こしジタバタを繰り返しているので逃げ出す心配もなかった。
「ｷﾞｭ…ｷﾞｭｷﾞｭ…」
「ﾀｼｹ…ｼ……」
全身の痛みに悶絶し、ピクピクと蠢くちびたぬき達の余分な油をキッチンペーパーで落として皿に盛り付け、塩と胡椒で味を整えればたぬき揚げの完成だ。サクサクとした衣の間からしょぼくれた顔が覗くその見た目は悲壮感を感じさせつつもコミカルな滑稽さも併せ持っており、コンビニで人気商品となるのも頷ける。
「ﾀﾞﾇｰ…ﾀﾞﾇｰ…ｷﾞｭｯ!?」
早速味見をしてみることにする。箸でたぬき揚げを摘み、口元に運んで一息に食いちぎると、サクリとした食感に加えてたぬき特有のもちもちさが口の中に広がって…これは…
不味い。
肉の旨味以前に味が全くしない。食感も全く脂が乗っておらずモソモソしていて、味のないガムを噛んでいるかのようだ。以前食べたたぬき揚げとは大違いである。
おそらくは、食用として売られているたぬき達は栄養価の高い餌を与えられ、選別をくぐり抜けてきたエリートたぬきなのだろう。山で適当に拾ってきたたぬきを売る計画は、早くも破綻してしまった。

「ｷﾞｭ…ｷﾞｭｩｰｯ…!」
「ﾔ…ﾀﾞ……ﾁ…!」
私は喋る生ゴミを皿から落としてゴミ箱に捨てると、ため息をつきながらがっくりと肩を落とした。
このションボリとした気持ちを糧として、また山にたぬきがポップするかもしれない。もしかすると、明日にでも。
たぬき達との戦いは、まだまだ終わりそうにない。
