石蹴り
それは読んで字の如く、道にある石を蹴って進む遊びだ

小学生の子供が学校の登校中に、帰りの下校中に丁度良い石を見つけて蹴りながら進むのは一度は見る光景だろう
もしくはその経験もある者だって多いはずだ
ただ帰るだけの退屈な道のりの中で石を蹴り続けて何処まで進められるかという単純な遊びは単純だからこそハマりやすい
途中で飽きてもただの石なのだから適当に道の隅にでも蹴り飛ばせば済むのもお手軽だ

複数の小学生が学業を終えて下校中のようだった
話す内容と言えばこの後何をして遊ぶのか、宿題をいつ終わらすかという他愛ないものだ
しかしながら彼らは何かを蹴りながら歩いている
蹴っているのはたぬきであった。それも掌サイズには成長している子たぬきである

いくら小学生の子供と言えども小さい子たぬきであれば蹴りの一つで命は奪うほどの力の差がある
しかしながら子たぬきはションボリとした顔を痛みと苦しみに耐えるように歪ませながらも蹴られ続けている

「ｷﾞｭｩ！ｷﾞｭｱｱ！ｱ"ｱ"ｱ"!!ｷﾞｭﾋﾞｨ!?」

力加減を最小限に抑えながらボールを転がすように蹴り進めるのは小学生ながらも見事な技だ
少しでも力を込めて蹴ってしまえば簡単にたぬきのモチモチな肌を貫通して中身を破壊してしまうだろう
しかし蹴られ続けている子たぬきは精々青痣と蹴られて転がる際の地面にこすれた傷を作るだけで死ぬほどの怪我にはならない
ここに来て死ぬときはあっさり死ぬのに死ぬほどの怪我でなければ死なない生命力の高さが仇になる

ポップという生態で数を増やし、探そうと思えば何処にでもいるたぬき
そしてそんな雑な生態をしているためなのか子たぬきは誰かが手を下さなくとも自然の猛威で勝手に死んでいる
そんな命が軽い虫か何かのような玩具に子供が手を出さないはずがない

石蹴りの代用品とも言うべき形で子たぬきは全国で蹴られ続けている
何せ石と違って反応があるのだ。最初は獣のようにギューギューと鳴いても蹴り進めると懇願するように泣き始め、あとは呻き声を上げるだけになる
しかしながら力を込めて蹴ってしまえばすぐに死んでしまう
生かさず殺さずに蹴り進めることがたぬき蹴りの醍醐味であり、こうして子供たちは力加減を子たぬきで学ぶようになる
図らずとも石蹴りという遊びがたぬき蹴りになることによって「やりすぎない」ことを子供たちは得るのだ

「あ…僕のたぬき、手足がちぎれてる」
「じゅん君すり足で蹴るからなぁ。もっと足上げて歩いたほうがいいぜ」

「ｷﾞｭｷﾞｭ…ﾀﾞﾇｰ……ﾀﾞﾇｰ…」

とはいえ全ての子供がたぬきに加減して蹴れるわけではない
中には歩きながら蹴る際に小さいたぬきの体の一部を踏み潰しながら蹴ってしまい、手足や尻尾が千切れた状態になってしまう
こうなればもはや虫の息だ。反応として何も楽しめない

「よーし！俺のスーパーシュートでトドメだ！」
「しゃあ！風神脚！！」
「じゃあな、たぬき！」

「ｷﾞｭﾍﾞｪ!?」
「ﾀﾞﾇｩｩ!」
「ｱﾍﾞｷﾞｬ!!」

こうなれば飽きも早いもので各々が子たぬきを藪に向けて全力で蹴り飛ばして追いやっていく
今まで生かさず殺さずの状態だった子たぬきも鋭い一撃の前に容易にその命を奪われた
胴体に重く硬い一撃を浴びて肺に該当する臓器は潰れ、体の中から口まで血で溢れ返る
痛みによるショックと溺死を同時に味わった子たぬきは一瞬で死ねて幸運だったのだろう
なぜならとある一匹は頭に強い蹴りを受けてくるくると回りながら柔らかい草木に叩きつけられ、ジタバタを繰り返しながらその顔は痛みに狂ったように歯軋りをしている

「ｼﾞｨｨ~~~ｼﾞｨｨ~~~~!?!ｳｯｳｯｳｯｳｯ………」

頭に強い衝撃を受けながらも即死できずに無駄に苦しみ、死ななければ生命力の高さでジタバタを繰り返して更なる痛みを負う悪循環
もはや通りすがりのもどきに食われるまでこの子たぬきは延々と苦しみ続けるのだろう
そんな子たぬきにはもはや興味すらない子供たちは各々帰宅していく
後に残ったのは何十匹何百匹ものたぬき蹴りによって藪に蹴り捨てられたたぬきたちであった

そんな毎日何百では効かぬ子たぬきが蹴られている中で親たぬきも黙っているばかりではない
もちろん大半のたぬきは触らぬ神に祟りなしと言わぬばかりに見て見ぬ振りをするのがほとんどだ
むしろ子たぬきが犠牲になってくれる分、人間のチビがこちらに興味を抱いてくれるのを避けてくれるのだからありがたいぐらいだ
人間の子供からすれば下手に言葉も喋れる分、成体たぬきのほうが時に酷い目に合うことだってある

「あの…そのチビを放してほしいですし…私の大事なチビなんですし…」
「あー？なんだこいつ…」
「ｷｭｩｩｩﾝ!ｷｭｩｩｩﾝ!!」
「うわ、暴れるなよ」

いつも通り子たぬきを捕まえて玩具にしようとしていた矢先であった
子供に掴まれている子たぬきはジタバタをしながら親たぬきへと助けを求め、親たぬきもまたションボリ顔を深めながら懇願をする
珍しいと言えば珍しい光景だった。子供からすればたぬきは親であっても危機であれば自分の子供を見捨てるような薄情なナマモノである
しかしながらこの親たぬきはまだ成体になって浅いのだろう
そろそろ言葉も喋り始める我が子が人間に捕まり、どうにか助け出そうと人間の前に飛び出すのはとても勇気のあることだ
しかしながらそれは蛮勇であった。少なくとも、たぬきの命を玩具としか認識しない子供からすればそれは「新しい玩具」以外なんでもない

「いいよ、放してあげる」
「本当かし…？ありが」

「よぉし、飛んでけぇ！！」
「ｷｭｲｨｲｲｲｲｲｲﾝ!!?」
「チ、チビィィィィ！？」

子供たちは一斉に掴んでいた子たぬきを藪のほうに放り投げた
突然の浮遊感と投げ飛ばされる恐怖感は器用に空中ジタバタを行いながら子たぬきたちは藪のほうへと姿を消していく
無論、突然の行いに親たぬきもジタバタしそうになるがチビの安否確認のために自らも藪のほうへと走ろうとする

「代わりにお前ボールな！」
「えっ…げぶぅ！？」

そんなたぬきの顔に子供からの蹴りをプレゼントした
子たぬき蹴りと違ってそれなりに力も込めた蹴りをまとも食らったたぬきは弾むように転がっていく
しかしながら子たぬきと違って成体まで育ったたぬきはそれなりに頑丈だ
子供の力を全力で込めても中々殺せない程度にモチモチの体には衝撃吸収も備わっており、生命力も段違いに高い
だからこそ、これから起きる地獄は子供たちが飽きる以外に終わる術は持たない
こうなるから成体たぬきは極力、人間の子供と関わらないように生きるのだ
何処にでも沸いて、何処でも拾えて、死ねば次のチビを育てればいいのに人間に捕まったチビに固執した
それこそが愚か極まりない、勇気と蛮勇を間違えた末路の始まりだった

「へい！パスパス！」
「としあきせんしゅ！ドリブルが早い！ドリブルが止まらなぁい！」
「止めろ止めろ！いや止めるな！蹴り続けろ！」

「げぶっ！ごぼぁ！ギュブェ！？」

逃げる事を許されずにただサッカーボールの代わりに蹴られ続けるたぬき
下手に頑丈なために気絶も死ぬ事も許されずにただ痛みだけが重なっていく
子供たちもまた、そんなボール代わりのたぬきを遠慮なしに蹴り続けて行く
たまに踏んづけても少し靴の跡が残るだけで子たぬきと違って潰れて死ぬ事だってない
つまるところ、子供からすれば成体たぬきは子たぬき以上に遊びに使える玩具の代わりであった
それも加減無しに使える玩具なのだからそれはもう大人気のボールである

しかしこうした扱いを受けるために成体たぬきは人間の子供とは関わろうとしないため、そういう意味ではいつでも捕まえられる子たぬきと違って成体たぬきは中々遊べない貴重な玩具であった
だからこそこうして子たぬきを捕まえた際の餌として親たぬきが来るのはとてもラッキーで遊び甲斐のある日となるのだ

「はー！良い汗かいた！」
「もう夕方だし帰ろうぜー！」

何時間も、時に休みを挟みながらも蹴られ続ける
例え子供たちが休んでる間にもたぬきはその痛めつけられた体では到底動くことも叶わず逃げる事が許されない
仮に動いて逃げようにも尻尾を踏んづけられてそのまま引っこ抜かれただろう
手足も尻尾も変形し、青痣のない部分を探すほうが珍しく、野良生活で元々ボサボサとした髪は落ち武者か何かのように剥がれ落ちている
丸い、蹴りやすい顔はもはや原型を留めておらず、ションボリとした目も口も崩壊してろくに機能しないだろう

「…………ﾀﾇｰ……ﾀ……ｼ……ｺﾛｼ……ﾃ……ﾀﾇｰ……」

それでもかろうじて生き残ってしまったのはたぬきの生命力の高さが成せることか
しかしここまでボロボロであればもはや死ぬの時間の問題だ
すでに壊れて飽きた玩具を処理もせずに帰った子供たちがトドメを刺さずともいずれ次のリポップ先に旅立つだろう
せめて藪に投げられ安否の確認すらできなかった我が子が無事であることを祈りながら、苦しみを味わい続けていた

ちなみに藪に投げられた子たぬきたちは草木がクッションで無事ではあった
しかしながら藪にはたぬき蹴りによって大量の死骸や虫の息となった子たぬきを目当てにもどきが寄っていた
親元から強制的に放され、投げられ、様々なショックでジタバタを繰り返す子たぬきはあっさりと生きたままもどきの食料となったようだった

しかしここまで玩具にされるたぬきであるが、当然ながらマナーというものを学んでいない子供も時にたぬきによってトラブルを起こす時がある
集めた子たぬきをひたすら蹴り飛ばして、もしくは全力で投げつけて壁にぶつける遊びをする子供がいるようだが、その壁は民家を囲むコンクリートの壁だ
無論、子供たちは気にせずただ楽しむために全力で子たぬきを蹴り飛ばしてコンクリート壁の汚い染みにしては笑っている
しかしながら自分の住む家の壁ならまだしも、他人の家でこのようなことをして怒らない者はいるだろうか？

「こらぁぁ！このクソガキどもぉぉ！何をしちょるかぁぁぁあ！！」

その家の主人である老人が飛び出すと、老体とは思えぬ動きでもって子供たちが逃げ出す前に拳を一発ずつ、頭にお見舞いした
カミナリと言わんばかりの説教も加えて先ほどまで子たぬきを壁にぶつける遊びで楽しんでいた子供もすっかり意気消沈だ
今では他人の子供に体罰だの説教だのは問題になる事も多いが、こればかりは仮に子供が親に報告しても逆に親が子供に説教を更に食らわすだろう
遊びに夢中になるのも仕方ない年ごろであっても、他所に迷惑をかけてはいけないのだ
こればっかりは苦い記憶と共に学んでもらうしかない人生の教訓だ

「ﾁ…ﾀｽｶｯﾀｼ…」
「ありがとうし…いのちのおんじんだし…」
「ｷｭ…ｷｭｩｩﾝ…ｷｭｩｩﾝ……」
「ちび…なくなち…」

一連の人間たちの騒ぎにポカンとしながらもようやく自分たちが助かったと子たぬきたちは安堵の声を出した
助けてくれただけではなく、自分たちを殺そうとした恐ろしい人間のチビに説教までして退散させた老人に感謝の言葉を送ろうとする
しかし老人は手に持つスプレーで子たぬきに噴射すると子たぬきたちは息ができないように苦しみだした

「ｷﾞｭｫｫ!?ｷﾞｭｨｨ!」
「あぎゃばぁ…！いぎが…ｷﾞﾕｴｴ！」

「はぁ…たぬきがよう沸くからガキ共も調子に乗るんじゃ！こんの虫は山奥にでも帰ってくれんかのう」

老人が子たぬきを助けたと勘違いしたがそもそも老人が叱ったのは遊びで壁を汚すなという至極真っ当なものだ
しかしその説教の中にたぬきの命を粗末にするなとは一言も言っておらず、老人からすればたぬきは何処にでも沸く虫か何かでしかない
そんな虫で壁を汚されたら誰だって怒るだろう。幸いなのはたぬきの汚れは雨で簡単に綺麗になる程度だ
箒で集められた子たぬきの死骸は纏めて外のゴミ箱に入れられ、老人は家に入れば天気予報を確認する
予報であれば明日には雨が降るようで、わざわざ自分で掃除せずとも綺麗になることに少しばかりほっとしたようだった




たぬき余談話

たぬき蹴りのたぬきたち
主に学校の登下校中の子供たちに暇潰しや遊びとして蹴られている
最後は川岸や藪、道の隅などに蹴り飛ばされてその生涯を終えるが、そうして残った死骸の処理が主にもどきである
わざわざ自分がたぬきを見つけて狩らずともそうした道の隅に行けばいくらでも子たぬきが動かずに溜まっているので安全かつ大量に食う事ができる
そのためわざわざ清掃せずとももどきがたぬきを処理していくので所構わずに糞をするような個体を除けば基本見逃されている
たまにたぬき蹴りの最後に死ねずに中途半端に生き残った子たぬきがご馳走
