初めに感覚を得た時に感じた事は、甘ったるいというものだった

たぬきは生き物や自然のションボリを集めてポップする生態を持っている
唐突に、何もない場所からポンッと音が鳴りそうな感じに湧き出る奇妙な生き物だ
しかしながら木々にションボリが集まってそこに実を宿し、その実の中にたぬきが形成されるパターンもある
そうしたたぬきを宿らす木々はたぬ木と呼ばれ、たぬきからすれば安全に同族を増やす母なる存在としてありがたられる

別のパターンとしてたぬ木のように何かしらを基点としてポップする形だ
例えば石を基点にポップすれば普通のたぬきより頑丈な個体に育ち、果実を基点にすれば果実の甘さや匂いを受け継ぐ個体になる
珍しくはあるがションボリは何処にでもあるのだから何かを基点にすることはどんなものでもありえる話であった

今、何かを基点としてその中でたぬきがポップした個体は意識に近いものが芽生え始めていた
体の形成を終え、尻尾を抱き枕のようにして眠っているたぬきは無意識ながらも匂いを感じている
恐らく基点となる周囲の何かの匂いを感じているのだろう
子たぬきながらもションボリとした顔付きではあるが、口元は少しニッコリとしていて穏やかだ
目覚める気配も無く、今はまだ周囲のションボリを取り続けることで安全にその身をしっかりと形成させていく

どれだけの時間が経ったのか
たぬ木の実から産まれるたぬきのように、何かしらの実から産まれるタイプのたぬきは実から取り出されるまで揺り籠の中で眠り続ける
中には自分から起きて外に出ようとする個体もいないわけではないが、子たぬきの力では相当熟れた実ではないと自力での脱出が敵わないので結局眠り続けるしかない

先ほどのたぬきはそうしたたぬきであった
本来であればとっくの昔に自意識も目覚めているのだがいつまで経っても実から出られない
しかし無駄に騒いで無駄にジタバタをしても無駄に体力を消費するだけだ
そもそも実が固まっているのでジタバタも声も出せないというのが実情のため、尻尾を抱えて寝る以外にできることはない

しかし、実を通じて音が伝わってくる
どうやら周囲に何かがいるのは間違いではなく、少なくとも子たぬきは自分が一匹だけではないのだと感じていた

(………た…………は………？)
(……か………し……さ……………)

音が通るたびに質の良いションボリもまた子たぬきに伝わってくる
それはションボリから産まれてションボリと生きる、揺り籠で未だ眠るたぬきへの暖かな贈り物である
早く実から出てきてモチモチとしたい…誰かと声を交わしたい…
子たぬきは眠りながらそう願っていた

転機は唐突にやってきた
突然揺り籠である実が割れて、子たぬきはついに自由となったのだ
慣れない光の中にションボリとした目はよりションボリとしながら周囲を見渡すと多くの子たぬきたちが存在している
産まれたばかりの子たぬきに100匹を超える数なんて数えられる事ができない
しかしこんなにも多くの同族がいたことに、産まれながらに胸に熱いものを感じていた

「ｷｭ……ｷｭｩｩ」
「ｷｭｷｭ…ﾀﾇｰｩ…」
「ｷｭﾋﾟｨ…ｷｭｩｩﾝ♪」

周囲の同族が各々、寂しい思いをしていたのだと互いに理解していたのか
誰に教わったわけでもなく、互いの頬で、互いの手で、思う存分とモチモチし始める
ただそれだけで子たぬきたちは身も心も暖かくなった
いつまでもいつまでも願い続け、ようやく産まれた事で行えるモチモチ
たぬきにとってのコミュニケーションであり、独りぼっちではないと確信できた瞬間でもあった

「お前とお前と…あとお前…今日から私がお前たちの保護者になるし…」

暫く後、複数の大きなたぬき達が次々と子たぬきたちを引き取っていった
数としてはまばらではあるが一匹の成体たぬきが3匹から5匹ずつ引き取っていく
この大きなたぬきが今日から自分たちの"ママ"になるのだろうか…モチモチと抱き抱えながら子たぬきたちはそう考えていた

「ご飯は一日二食…この甘くて蕩けるクリームだし…」

引き取られた後、子たぬきは幸せであった
親たぬきはしっかりと自分たちを世話してくれて、モチモチを欠かさずに日々を穏やかに過ごさせてくれた
特に食べ物が甘くて食べやすいクリームであり、その香りはかつての揺り籠を思い出させるものだった
クリームも栄養価のあるものだったのか、精々親指サイズであった子たぬきも掌サイズに近いぐらい成長を続けている
このまま行けばすぐにでも言葉を喋れるようになるだろう

「お前たちもだいぶ育ってきたし…そろそろ次の保護者に向かう頃し…」

親たぬきから突然そう告げられ、子たぬきはびっくりとした
このまま愛され続ける日々を送るのかと思っていただけに、まさか自分たちは捨てられるのか
そう感じながらもジタバタをし始めるが親たぬきはそれが止まるまでじっくりと待っていた

「ｷｭ…ｷｭﾌｩ…ｷｭﾌｩ…」
「落ち着いたかし…？最初に言ったはずだし…私は保護者であって"ママ"ではないし…大丈夫し…次の場所が最後だし…」

今度は落ち着かせるモチモチとしながら言い聞かせている
子たぬきとて言葉がまだ喋れないだけでバカではない。きっと目の前の親たぬきは…保護者たぬきは本当の引き取り手が出るまでの暫定的な存在だったのだ
しかしそれまで暮らしていた日に情を感じていたのも事実であり、理解はできても納得ができない子たぬきだって存在する

「ﾔｧ…ﾔﾀﾞﾁ……ﾏﾏﾄｲｯｼｮｶﾞ…ｲｲﾁ…」

別れたくない悲しみに刺激されたのか、子たぬきの一匹が言葉を喋り出した
そのことに保護者たぬきもまた目を少しばかり動かしながらも首を横に振るう

「……喋れたけど天使ならいらんし…」

その呟きは、子たぬきたちに聞こえないほどの小さな声であった

そうして別れを惜しみながらも子たぬきたちは次の保護者先へ向かうための準備に取り掛かった
その中で最も苦しいのが断食であった
曰く、次の生活先で慣れるために一度体の中を空っぽにしていくとのことだが今まで甘やかされた子たぬきにとって食べれないというのは初めての経験だ
それも甘くてニッコリ顔が止まらないクリームも食べれないのはションボリ顔だった子たぬきの顔が歯軋りをしたり癇癪を起こす個体だっているほどだ
しかしそうした状態になっても今までの待遇が一変するほどに保護者たぬきは何もしなかった
精々落ち着かせるためにモチモチをしてくれるぐらいであり、お腹が空いたと泣き喚いても何もしてくれなかった
中には癇癪を繰り返して他の子たぬきに暴力を振るうようになったのもいるが、そうした子たぬきは別の保護者たぬきに連れていかれた
連れていかれた子たぬきを再び見る日は、二度となかった

三日三晩の断食を繰り返し、すでに出るものも出ないほどに中身が枯渇した子たぬきは意識が朦朧としながら箱に詰められていく
幸い柔らかな毛布で包まれて不快感こそはないが、ここまで苦労して行く場所はなんなのか
意識が薄れて眠っていく中で箱は静かに閉じられ暗闇だけの世界となった

次に目覚めた時、とても甘い香りがする空間であった
断食をしてお腹も減っているがそれよりも周りにいたのは大きな成体たぬきたちだった
各々が自分らを含む子たぬきを抱き上げられ、モチモチをしてくれている
成体たぬきたちからも甘い香りが漂い、子たぬきたちは喜びながらモチモチを受け入れていた

「おお、よしよし…フフ…こうして見ると可愛いもんし…」
「ｷｭｩｩﾝ♪」
「ちょっともったいない気もするし…」
「ｷｭｩｩ?」

きっと彼らが新しい保護者であり、本当のママに違いない
暖かくて甘くて、抱かれながら揺り籠に似た匂いを感じながら久々に穏やかに過ごせそうだと思っていた

「でもこれで作ると凄く美味しそうだし…さっそく取り掛かるし！」

しかし子たぬきたちの穏やかで優しい時間は今この時を持って終了を告げられた

「ｷﾞｭｳｩｩﾝ!」
「ｷｭｩｩ………ｷｭﾝ…」
「ﾂﾒ…ｼｯﾎﾟﾓﾇﾚﾀﾁ…」

冷たい水に晒され、特に念入りに尻尾を濡らされてしまう
先ほどまで暖かな気持ちを吹き飛ぶほどのションボリ顔を披露してしまうほどだ

「よしよし…綺麗になったし…あとはこの棒をお尻から…入れるし！」

尻尾を濡らされたたぬきはろくに動くことができない
ジタバタもできずにじっとしていた子たぬきたちに待っていたのは、棒状の何かでお尻の穴から一直線に貫かれる事だった
腸に該当する臓器を超えて無秩序に貫通し、胸元まで念入りに突き刺されたそれはもはや想像を絶する痛みによって絶叫する他なかった

「ｷﾞｭﾋﾞｨｨ!ｷﾞｭﾋﾞｨｨ!!?」
「ﾀﾞﾇｩｩ!ｷﾞｨｨｷﾞｨ!」
「元気だし…これは良い商品になるし…」
「それじゃ、さっそく焼くし…」

今まで痛みというものを知らなかった子たぬきにとって、棒をお尻から貫かれる痛みの対処法なんて知る由もない
ただ歯軋りを重ね、ションボリとしたはずの目を見開き、獣のような汚い声で鳴くだけだ
そうした状態でジタバタとしながらも身動きをすることで更なる痛みを味わい続け、成体たぬきが用意していた壺の中に棒で吊るさられる
壺の中には炭が焼かれ、その熱を壺の中に閉じ込める事で子たぬきをじっくりと焼いていく装置のようであった
熱のよる致命的なダメージはない事が終わりのない苦しみだ
死なないだけで苦しい事に変わりのない熱を味わい続けるのは地獄でしかない

「ｷﾞｭｩｩﾝ…ｷﾞｭｩﾝ……!」
「ﾀﾇ…ﾀﾇｩ……ﾀﾇﾀﾇﾀﾇｩ!」
「ｱﾂﾞｨﾁ"ｨｨ!!ﾏ"ﾏ"ｧ"ｱ"ｱｱ!ﾀﾞｽﾞｹﾞﾁﾞｨｨ""」

もしも苦しみのない空間であれば、子たぬきのほとんどが気づいたかもしれない
今の壺の中にはとんでもないぐらいに甘い空間になっているということを
しかしそんなことを気づくような子たぬきは一匹もいない。時折壺の蓋が開けられ、様子を見る成体たぬきに助けを懇願するぐらいだ

何時間も焼き上げられ、ようやく回収された頃にはもはや虫の息であった
しかしたぬきはこの程度ではまだ死なない。あくまで尻の穴から棒で貫かれ、肌も肉も十分に焼かれていただけだ
呼吸をし、声を出せるならまだ余裕のある証だ
瀕死に近い状態でありながら今度は成体たぬきがどんどんと焼き上がった子たぬきを食べ始めた
各々がまだ早い、時間をかけすぎたかも、美味しいけどこの時間より半端という声を出しているが食べられている子たぬきはその意味を理解できない
ただうっすらと頭の中に浮かぶのはここは断じて保護者らしきたぬきのいる場所ではない
もしや間違って辿り着いた場所なのだろうか？それとも本来の保護者から連れ去られたのだろうか？
そんな考えがぐるぐると回りながらも、一匹の成体たぬきが考える子たぬきを掴んで小さなナイフで腹を引き裂いた

「ｷﾞｭﾍﾞｪ…」
「フフ…安納芋のチビ焼きはここからが本番し…クリームを詰めてっとし…」

もはや腹を引き裂かれる程度の痛みでどうこう動けるほどの余裕はない
しかしそのお腹に嗅いだ事のあるクリームをどんどん詰め込まれて苦しさを覚える
ここに来てから嗅いだことのある匂いも、先ほどからお腹に詰まれているクリームも、前の保護者から食べさせられたのと同じだと気づいた
気づいたからと言ってどうにかなるわけでもない。成体たぬきはバーナーを構えるとクリームの乗せたお腹に向けて火を放った
先ほどの壺焼きでじっくり焼かれていたのとは違う、1000度を超える温度によって瞬間的に焼かれた事で最後の声を子たぬきは捻り出した

「ｷﾞｭﾌﾞﾎﾞｧｧｧ!!ｷﾞｭｨ!ｷﾞｭｱ"ｧｧ!!」

尻の穴から体を貫かれ、何時間も全身を焼かれ、腹を引き裂かれ、モノを詰められ、更に燃やされる
何処からそんな声を出すのかと言わんばかりの断末魔にバーナーを持つたぬきもまた満足気の顔だ
そして瞬間的に焼かれた事で香ばしい香りと共に見た目はお菓子のブリュレと言わんばかりの品となり、成体たぬきはそれを足からクリームの詰まったお腹まで一口で噛み千切った

「ｷﾞｭﾎﾞ……ﾀﾞﾇｰ…ﾀﾞﾇｰ……」

もうろくに機能しない視界ではあるが、それでもぼんやりとだが自分を食べるたぬきの顔が見えた
自分以上にしょぼくれたションボリが極まったと言っていい顔をする、成体のたぬき
そんなたぬきが自分を食べる度にションボリが薄れ、ニッコリとした顔に見覚えがある
それはあの美味しいクリームを食べた同族の、そして自分たちの顔だった

ああ…自分たちがこのために…食べられるために産まれてきたのか

最初から先のないたぬ生に生きてきたことの絶望と、それでも自分を食べてくれた事で喜ぶ相手のいる奇妙な幸福感
そんな相半する感情を持ちながら子たぬきはせめて、次なるポップ先は食われないたぬ生であることを信じてその生涯を閉じて行った



「おはようし…今日から私はお前たちの保護者だし…」



たぬき余談話

子たぬきの正体

高級サツマイモにポップしたたぬき
基点を用いてポップした場合、基点には影響は出ないのだが中身にたぬきがいるということで商品価値が一部下がってしまうケースがある
その場合、そうした商品をたぬきごと引き取ることで新しいたぬ食商品にすることが全国区で進められている

サツマイモでポップした子たぬきはそれぞれ保護者たぬきが数匹纏めて引き取って面倒を見る
食べ物として基点の食材を用いた子たぬきでも食べやすいクリーム状に加工したものを用いることで、基点のベース食材を引き継いでいる子たぬきの味を更に凝縮させるためである
こうして一定まで育つとそれぞれの飲食業に搬送し、食材として用いられる

保護者たぬきはそのベースでポップした中でも早期に言葉を喋れる子たぬきを別で引き取って人間が育てた個体
基本的に子たぬきからすれば同じ匂いをするため、警戒心がほとんど無い状態で育てられる
ただし全てのたぬきがそうではなく、早期に喋られても天使個体であったり我儘個体は処分され、前述の子たぬき用クリームに加工される

食べ物からポップしたたぬきは自身が食べ物でもあると薄っすらと感じている
そのため痛い思いはごめんだが、食べられる事への本能を持ち合わせているため自分を食べられる事に対しては他のたぬきに比べて幸福感を感じる
ただしあくまで薄っすらとした本能であるため、子たぬきの頃から普通のたぬきと同じように育成されると食われる直前までの調理過程に置いてそれは理不尽な恐怖と絶望でしかない


子たぬきが眠っている間に聞こえた音

(………た…………は………？)
(……か………し……さ……………)
「芋の収穫にたぬきが入ってる…？」
「またか…幸い国の支援で差額分が戻ってくるが…」

芋農家の人々の声
前述の通り、たぬき入りの商品は価値が下がりがちなのでそこから発生する農家からのションボリで実の中のたぬきはより育つようになる
農家からすればこのションボリが更なるたぬきのポップを産み出す悪循環の極みのため、たぬ食の発展に期待している