【釣針奇譚】

私が住まいはマンションが連立して立っている内の一つ
住んでいる部屋は日陰で窓を開けると向かいのマンションの壁がすぐ見える
窓から手を伸ばせが届く…程ではないが体を乗り出せば向かいのマンションに触れるくらいのスペースがある
そんなマンションとマンションの間にたぬきのスラムはあった

スラムの中ではションボリした顔をしているたぬき達は殆どが裸であったが少数ではあるが服を着ているもの、
上だけや下だけ着ているもの、ぼろ布切れを纏っている者もいた
このスラムの付近には中華料理屋があり、たぬき達はそこから出ているゴミを持ち帰って食料としている
ゴミの中から食べられるものを厳選し食べられないものはまとめて料理屋のゴミ捨て場に綺麗に戻す
料理屋の主人としてはゴミの量が減るしきれいにまとめてもらえるのでありがたいとも思っていたのだ
朝や昼は食料調達やダンスをしたりポップした野良ちびたぬきを保護、夜はたぬきの家族ごとに固まってたぬき玉を過ごし眠る
そんな比較的平和なスラムであった


そして…そんな夜も更けた時に私の趣味の時間が始まる


先ずはスラムに設置している盗聴器の受信機にスイッチを入れる
「…ｷｭｰ…ｽﾋﾟｰ…ﾎﾟｺｰ…ﾀﾇｰ…」
「ぐーぐーし…」
スラムのたぬきが寝入っていることを確認しつつ受信機の音量を上げていく
「…みんな寝ているし…今のうちダンスの練習だし！上手になってみんなを驚かせるし…ししし！」
寝ているたぬき達の中に夜更かししているたぬきの存在も確認できた
よし、準備ができた

私は窓を全開にして外に向け釣竿を軽く振るった
ﾋｭｳｩｩｩｩｩｩｩｩﾝ
部屋の中から弧を描くようにエサを付けた釣針が舞い闇へと消えていく


「っがちっまる…うどんうどー…ん？アレはなんだし…？」
静かな夜のスラムにぼんやりと赤く浮かぶ物体を見つけた
「これなんだし…くんくんし…くんくんし…甘いにおいがするし！！」
砂糖漬けされた蔕を取ったチェリーだ
スラムのたぬきにとっては甘いものは珍しく滅多に口に出来ないものだった
たぬきは我慢できずにすぐに食らいついてしまった
「あむあむし！！…甘いし…♥」



かかったな



グイィイイ！！！
釣竿の電動リールの起動し勢いよく釣針を引き上げた
ギュルルルルルルルルルル！！！！
勢いよく轢かれた釣針はチェリーの果肉を突き破りたぬきの頬肉を貫いて引っ張り上げた

「もぐも‥！？痛だだだだし！！！！いふぁいしいふぁいし！！！？」
すごい勢いで引っ張り上げられたスラムたぬきは大声を上げながらジタバタし始めた
当然スラム内の他のたぬきは驚き集まってきた

「なんだし！？たぬきが浮いているし！？」
「ママ！あれなんだし！？」
「ああ…あれは妖怪の仕業だし…このスラムで夜起きている悪いたぬきは上に連れ去られるんだし…」
「あーあ…新参たぬきに説明するの忘れてたし…」
「ママ…あのたぬきどうなっちゃうし…？」
「見てるし…この後どうなるか最後まで見るんだし」


釣りあげたたぬきが部屋の窓まで到着した
「痛いし…あっ人間だし…助けてし…なんか頬っぺたが引っ張られてるし…」
特注のガラス製の釣針と釣り糸は目の悪い(当然頭も悪い)たぬきには見えていなかった
私は助けを求めてきたたぬきに手は差し伸べず改造エアガンを構えて狙い撃った

ﾊﾟｧﾆ…！ﾊﾟｧﾆ…！
ﾊﾞｽｯ!ﾎﾞｽｯ!ﾌﾞｽｯ!!
「ギャ！ギュ！ギェー！！！」

右目、左目、針が刺さっている左頬を撃ち抜く
両目は弾け飛び左頬は1円玉ほどの大きさの穴をあけた
釣針が穴を広げていき頬を裂いていき…裂けきった口から釣針が離れたぬきはリリースされた

ひゅうぅうううううううううーー……ベチャ！！
「ダニュッ！！」
地面に落下したたぬきは虫の息になっていた

「マ…ママ…あれ何し…妖怪怖いしー！！」
事情を知らない子たぬき達は恐怖のあまりジタバタしてしまった
失禁してしまったものもいる
「分かったかし…このスラムで夜更かしをするたぬきは妖怪に連れて行かれてあんな風に痛めつけられるし…」
「分かったし…夜は大人しくしてるし…」
「さぁ…もう寝るし…みんな段ボールハウスに戻るし…」
他所のたぬきであるが同族が死んでしまう事に悲しみを覚える程の情は持ち合わせているのか普段よりもションボリとした声で子供たちに言い聞かせていた
ションボリしながら家に戻ろうとする親たぬきだったがどうも調子がおかしい事に気づいた
歩いても何かに引っ張られたように動けなっている

疑問に思いながら周りをきょろきょろしていると背中から吊るされる様に親たぬきのスマートとは言えないモチモチした体ふわーっとが浮き上がった
「あれ…なんでし…しぃいいいいい～～～！？」
「マ、ママー！！」
「ﾏﾏﾄﾝﾃﾞﾙﾁｰ!!」
「妖怪の仕業しー！！」
子供たちは連れ去られる親たぬきをジタバタしながら見ている事しかできなかった…

数秒後、上空から親たぬきの悲鳴が聞こえてきたかと思いきや
ベチャア！！
体中に穴が開いて絶命した親たぬきが降ってきた
「「「キュ…キュー！！！！」」」
子たぬき達の上に
ｷﾞｭﾁｬﾁｬﾁｬ!!
「ｷﾞｭﾍﾟ!」「ｷﾞｮﾎﾟｫ!」「ﾀﾞﾆｭｨ!!」
小さな子たぬき達は落下してくる親たぬきの衝撃に耐えられず目玉を飛び出させ口からは内臓を吐き出しながら生命活動を停止…死んだのだ


1時間後
「もう終わったかし…？」
「今日の被害は夜更かししたバカとあそこの一家だし…」
「酷いもんだし…でもここは住み心地も良いし餓死はしないしもどきも入ってこないし…」
「このスラムから出て行っても結果はどうあれ死ぬ可能性は高いし…」
「怯えながら暮らすくらいならここの方がまだましだし…」
「さぁみんな今日はもう寝るし…」
「ばいばいし…明日も生き残りたいし」


おわり
