天丼たぬき

住処でちびたぬきと共に寝ている親たぬき。どうやら悪夢を見ていたらしく、うなされながら目を覚ました。
「夢かし…前のたぬ生の記憶を見てたような気がするし…ひどい夢だったし…」
深く息を吐いた親たぬきは、脂汗まみれの額を拭い、傍らのちびたぬきへ視線を投げる。
「前のたぬ生は何も良いこと無かったし…でも今は幸せだし…おまえがいるし…」
うっとりとちびを撫でる親たぬき。しかし、なんだかちびたぬきの様子がおかしい。体は海老反り、両腕は喉を押さえている。
「どうしたし…？なんだか苦しそうだし…」
親たぬきが寝ている隙に、餌をこっそりとつまみ食いしたちびたぬきであったが、どうやら喉に詰まらせたようだ。
「ｷﾞｭ…ｷﾞｭ…」
「た、大変だし…！息してないし…！」
慌てて飛び起き、ちびたぬきの背中をぺちぺち叩いたり、ひっくり返してゆすったりと必死にちびたぬきを助けようとする親たぬき。
だがちびたぬきは悲痛な表情を浮かべ、もがき苦しみながらゆっくりと死んでいった。
「ｷﾞｭｩ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

住処で眠りにつく親たぬき。ふと、外からちびの鳴き声が聞こえ、目をくしくしと擦りながら外の様子を伺う。
「ちび…トイレにでも行ってたのかし…？勝手に外に出ちゃだめだし…」
「ﾀﾞﾚﾄﾊﾅｼﾃﾙｼｰ？」
住処の入り口から顔を出す親たぬきを、中からちびたぬきがくいくいと引っ張る。
「あれ…ちびここに居るし…外のちびはなんだったんだし…」
そう言うと、住処の入り口から、声の主が茶色く毛深い顔を覗き込ませてきた。
「もどきだしぃぃぃぃ！ちび逃げるしぃぃぃぃ！」
「ﾀ、ﾀﾇｰ！ﾀﾇｰ！ﾃﾞﾃｹｼｰ！」
親たぬきの言葉は届かず、小さい体で精一杯の威嚇を始めてしまうちびたぬき。あっという間にもどきに押さえ込まれる。
このもどきは成体にはまだ成り切れておらず体は小さい。そんなもどきはちびたぬきを小さな口で一口ずつゆっくり味わっていった。
「ﾀﾞﾇｯ！ｷﾞｭｱｶﾞｯ！ｷﾞｭｯ！ｷﾞｪｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

とある朝、眠りから覚めた親たぬきは、自分のちびたぬきと共に住処から這い出た。
「ちび…一緒に今日のごはん探しに行くし…今日はあったかくて気持ちいいし…きっと虫さんもたくさんいるし…」
「ｲｷｭｰ！」
住処から少し離れた公園へ向かったたぬきの親子は、公園から道路を一本挟んだ茂みの中で歩みを止めた。
「人間のちびが居ないか見てくるし…居たら殺されるし…ままが先に行くから呼んだらすぐ来るんだし…」
ちびたぬきを隠し、公園の入口へ移動してもちりもちりと公園の中を見回す親たぬき。早朝なこともあってか人間の姿は見えない。
「誰もいないし…ちび…！こっちに来ていいし…！」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！ﾋﾟｮｺﾋﾟｮｺｼｰ！ｼｯｼｯｼｰ！」
笑顔で親たぬきの元へ駆けてくるちびたぬきは、走ってきた車に轢かれ、一瞬でアスファルトに薄く広がる肉片となった。
「ｼﾞｯ」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

とある朝、たぬきの親子が餌を探しに人間の町を歩いていた。
「ちび…車道は車が通って危ないし…たぬき達を見てブレーキ踏む人間はいないし…ちゃんと歩道を歩くし…」
ちびたぬきと手を繋ぎ、トボトボと歩道を歩く親たぬき。人間に踏まれたり蹴られたりしないよう、歩行者とはきちんと距離を取る。
「ﾏﾏﾄｵｻﾝﾎﾟｼ！ｳﾚｼｲｼ！」
「ふふふ…ままも嬉しいし…幸せだし…」
笑顔で親たぬきと見つめ合うちびたぬきは、歩道を走る自転車に轢かれ、一瞬でコンクリートに転がる二つの肉塊となった。
「ｷﾞｭﾌﾟｱｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

金属バットにボールが当たる音が響く公園にやって来た親子たぬき。
「野球場はちょっと離れてるからここに人は来ないし…ちび…一緒にごはん探すし…」
「ｻｶﾞｽｼｰ！」
放物線を描いて飛んできた硬式の野球ボールが親たぬきの顔面にめり込んだ。
「ぶげぇっし！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

公園を歩く親子のたぬき。設置されている自動販売機の近くで、ゴミ箱に入りきらなかった空き缶を見つけた。
缶を片目で覗き込み、中身を確認する親たぬき。缶の底で光が揺らめく。
「やったし…底の方にまだちょびっと残ってるし…ちび…飲んでいいし…」
底に残るジュースをちびに分け与える。ちびたぬきは小さな両手で缶を抱え、中身をちびちびと舌ですくい上げる。
「ｱﾏｰｼ！ｱﾏｰｼ！ｱｯ…ｺﾎﾞﾚﾀｼ…」
缶を傾けすぎ、ジュースが体にかかってしまった。ちびたぬきは飲む分が減ったことでしょんぼりしている。
「慌てすぎだし…拭くからちょっと待つし…」
ポケットから布切れを取り出し、親たぬきが再びちびたぬきに向き直ると、ちびたぬきの全身にびっしりと蟻がたかっていた。
「ﾏ…ﾏ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

四人の子供達に手足を一本ずつ摘まみ上げられ、胴体だけをくねらせるちびたぬき。
子供達は、最後まで千切れなかった者が鬼役だ、という内容の確認をし、一斉に摘まんでいる箇所を引っ張った。
ちびたぬきの手足がゴムのように伸びていき、ミチミチと肉が千切れる音とちびたぬきの悲鳴と子供達の元気な声が混ざり合う。
「ｷﾞｭｳｳｳﾝ！ｷﾞｭｳｳｳﾝ！」
「やめてし…！やめてし…！ちび痛がってるしぃ！手足無くなっちゃうしぃ！踊れなくなっちゃうしぃ！」
子供に踏みつけられている親たぬきは、ジタバタしながら泣き喚いていた。
やがてちびたぬきの体が限界を迎えると、手足はすべて同時に千切れ、芋虫のようになったちびたぬきが宙を舞い、落ちていった。
「ｷﾞｭｧｧｧｧｧ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

何時間も歩き続けへとへとになった体を、地べたに座り込んで休める親たぬき。しくしくと泣き続けたせいで目は真っ赤に腫れている。
朝からちびがどこかへ行ってしまい見つからないのだ。少しして、親たぬきは再びトボトボと一匹で歩き出す。
「ちびぃ…ちびぃ…」

公園のベンチに座る子供が、裁縫セットを取り出し膝の上で親たぬきに何やら縫い付けている。
親たぬきの皮膚に針が刺さるたびに短い悲鳴が上がり、肉の中を糸が這っていくたびに汚い悲鳴が辺りに響く。
「やめてしぃぃぃぃ！もう刺さないでしぃぃぃぃ！ﾀﾞﾇｩ！もうやだしぃぃぃぃ！ギェガアアアアア！」
「ﾏﾏｦｲｼﾞﾒﾙﾅｼｰ！ﾓｳﾕﾙｻﾅｲｼｰ！」
ちびたぬきは親たぬきを助けようと、必死にベンチを這い上がろうとするが、ちびの力では登ることが出来ない。
ベンチの下から聞こえる声に構うことなく、子供は鼻歌交じりにちくちくと縫い付けていく。親たぬきの悲鳴は止まらない。
やがて作業が終わり、ベンチから立ち上がった子供は、完成した作品を放り投げてどこかへ去っていった。
「ﾀﾞﾇ…ﾀﾞﾇ…体中痛いし…なんかゴワゴワだし…でもなんとか生き延びたし…ちび…もう大丈夫だし…」
「ﾏﾏｰ！…ﾋｨｯ！」
親たぬきは頬や胴体に紙やすりを縫い付けられており、全身には血が染み込んだ真っ赤な糸が這いまわっていた。
そんな親たぬきの姿を見て、ちびたぬきは恐怖のあまり泣き叫び、ジタバタを始めてしまった。
「ちびどうしたし…ままのこと忘れちゃったのかし…ほら…ちびの大好きなままのもちもちだし…」
「ｷﾞｨｨｨｨ！ﾔﾒﾛｫｫｫｫ！」
暴れるちびたぬきを抱きしめ、頬や体をすり合わせる親たぬき。やすりがちびたぬきの薄皮を削り取り、柔肉を削ぎ落していく。
「ちび…ままだし…もっともちもちして思い出すし…もちもちし…なんかゴワゴワだし…」
「ﾀﾞｸﾞｩ！ｱｷﾞｭｱｧｧｧｧ！ｻﾞﾜﾙﾅｧｧｧｧ！」
親たぬきが気付いた時には、ちびたぬきの半身は真っ赤な肉が露出し、人体模型のようになっていた。
鬼のような形相で痛みに耐えていたちびたぬきは、最後の力を振り絞って親たぬきに一言語りかけた後、息絶えた。
「ﾏﾏ…ｼ…ﾈ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

公園の、木々が生い茂るエリアを散策する親子たぬき。葉は枯れ落ち、辺り一面に落ち葉が敷き詰められている。
ちびたぬきは落ち葉をガサガサと踏み鳴らしたり、手ですくい上げたりして遊んでいた。
「ふふ…ちびが楽しそうで良かったし…ままはごはん探してるし…」
ちびたぬきは落ち葉がこんもりと山になった場所を見つけ、嬉しそうにぽてぽてと駆けていく。
「ﾌｶﾌｶﾍﾞｯﾄﾞｼｰ！」
落ち葉の山に全力で飛び込み、その下にあった尖った枝に顎から脳天を貫かれるちびたぬき。
「ﾌﾞﾍﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

「寒いから落ち葉燃やすし…ちび…一緒にあったまるし…」
「ｱｯﾀﾏﾙｼｰ！」
落ち葉を集め、火を点ける親たぬき。点火直後に吹いた風で、親たぬきにまで引火し全身火だるまになった。
「あ゛づい゛しぃぃぃぃ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

気が付くと薄暗く、窓一つ無い密室に閉じ込められていた親子たぬき。ちびたぬきは不安そうに周囲を見回している。
この部屋には他にも何匹かたぬきが居るが、どのたぬきもションボリするばかりで、状況を理解しているものはいない。
「ちび…安心するし…ままは前にもここに来た記憶があるし…何があったかは覚えてないけどし…」
「ｺｺ…ｻﾑｲｼ…」
「大丈夫だし…ままとくっつくし…」
部屋の片隅でモチモチと身を寄せ合う親子たぬき。互いの温もりを感じ、勇気が湧いてくる親たぬきと、安心感に包まれるちびたぬき。
通気口から、捕らえた野良たぬきを処分する為の神経ガスが送り込まれると、室内のたぬき達は順番に苦しみ悶え始める。
ちびたぬきは、呼吸が出来ず苦しむ親たぬきの腕の中で目を見開き、痙攣する体から糞尿を垂れ流しながら窒息死した。
「ｱｷﾞｭｯ…ｱｷﾞｭｯ…ｷﾞｭｯ…」
「ぢびぃぃぃぃ！ぢびぃぃぃぃ！」

人気が増えてきた公園で、人間の子供達が砂場で遊んでいた。山を作ったり、トンネルを掘ったりとはしゃいでいる。
一人が小さな穴を掘ると、バケツの中からちびたぬきを取り出し、頭から穴に突っ込んだ。
「ﾏｯｸﾗﾀﾞｼｰ！ﾔﾀﾞｼｰ！」
「やめろしぃぃぃぃ！ちびに触るなし！たぬきとちびを解放するしぃぃぃぃ！」
砂に体を埋められ、頭だけが出ている親たぬきが叫んでいる。別の子供が、大量に作っていた泥団子をその口に突っ込んだ。
「おえぇっし！ぺっぺっし！やめ…おえっし！やめ…ぺっし！やめろ！」
親たぬきは必死に泥を吐き出すが、次々と泥団子は放り込まれていく。その間にちびたぬきを埋めた子供は穴に砂を流し込んでいた。
「ｷｭｩｩｩｩ…！ﾔﾒﾃｼｨ…！ｲﾔｧｧｧ…」
「もぐぉぉぉぉし！べっし！じゃりじゃりするしぃぃぃぃ！むごごぉ！」
ちびたぬきの足だけが地面から生えている状態になり、子供達は周りの砂を叩いて固めたり、ジタバタと動く足を針で刺したりして楽しんだ。
門限が迫ってきた子供達は、余った泥団子を適当に親たぬきの頭に叩きつけ、ワイワイと笑顔で帰っていく。
親たぬきが口いっぱいの泥を飲み込んだ時には、ちびたぬきの足は既にぴくりとも動いていなかった。
「…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

餌を探しに訪れた公園から、住処へ帰っていく親子たぬき。日が暮れ始め、手を繋いだ二匹の影が長く伸びている。
「今日はごはん見つかってよかったし…ちび…帰って一緒に食べるし…」
「ｵﾅｶｽｲﾀｼｰ！」
二匹で仲良くトボトボと歩く親子たぬき。周りには同じように親子で手を繋ぎ、我が家へと向かう人間達も居た。
そして地を這うように飛んできたカラスがちびたぬきを足で掴み、あっという間に上空へ飛び去ってしまった。
「ｷｭｩｩｩｩﾝ！ｷｭｩｩｩｩﾝ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

「人間が使う道はどこも危ないから塀の上を歩くし…ちび…しっかりままにつかまってるし…」
「ﾀｶｲｼｨ…ｺﾜｲｼｨ…」
二匹でモチモチノロノロと塀の上を進む親子たぬき。後ろからスタスタと歩いて来た猫にはたかれ、親たぬきは塀から落下していった。
「しいいいいぃぃぃぃ！？…」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

餌探しを終え、トボトボと帰路に就く親子たぬき。
「すっかり暗くなっちゃったし…ちび…おうちに着いたらごはん食べてもちもちするし…」
「ﾓﾁﾓﾁｰ！」
いつもの帰り道を進み、いつもの角を曲がれば、いつもの住処があるはずだった。
「あれ…おうち無いし…なんで人間が居るし…？」
「ﾏﾖｯﾁｬｯﾀｼｰ？」
親子たぬきの住処は跡形も無く、ツナギを着た人間が何かをゴミ袋に詰めている。よく見ればこの親子たぬきの住処だ。
「お、おうちが壊されちゃったし…！ちび！早く逃げるし…！くじょされるし…！ちび…！」
「ｵｳﾁｶｴｽｼｰ！ｵｺｯﾀｼｰ！」
騒ぐたぬきの親子に気付いた作業員は、ため息をつきながらちびを持ち上げると、あっさりと首の骨を折った。
「ｵｷﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」
さらに作業員は面倒くさそうに、ちびたぬきの亡骸にしがみつく親たぬきの首にも手をかけた。

「夢かし…前のたぬ生の記憶を見てたような気がするし…ひどい夢だったし…」
うなされながら目を覚ましたたぬきは、深く息を吐き、脂汗まみれの額を拭った。


おしまい