
「天上にて」

自然が豊富で、避難場所としても使われるような広大さの防災公園。
やや高い木の上に野鳥用に設置された巣箱がある。
今は使っている鳥がおらず、空き巣箱のようだった。
「ここをたぬき達のおうちにするし…！」
「ｷｭｷｭ~！おうちだし！」
「やねあるし！ｷｭｰ！」
「あめこわくないしぃ！」
親1匹と子3匹の野良たぬき親子が、その巣箱を安住の地として選んだ。
幹と枝に針金でしっかり固定されているので、たぬき親子が入っても落下の心配はなさそうだ。
「ｷｭｳｳ…たかいし…こわいしぃ…」
「でもけしきはいいし…やっぱこわいし…ｷｭｳﾝ…」
「まま…ほんとにここにするし…？」
「だいじょぶし！ままに任せるんだし…！」
ただし、少し高さがあるのでチビ達は登り降りする親にしがみつく事でしか出入りできない。
親はヘコヘコと尺取り虫のように幹にしがみついて器用に移動していた。
そのため、基本的にチビたぬき達は親がエサを取りに行っている間は巣箱の中で過ごし、
運動のために時々、親にしがみついて下に降りた際にうどんダンスなどが許される決まりとなっていた。
留守の間は滅多に顔を出さないようになど、親たぬきは子供達に身を守るための決まりをしっかりと教え込んだ。
「もししたくなったら、おしっことうんちは巣穴から外にするし…」
と、親が躾けていたので巣箱の中はある程度清潔に保たれていた。
「ｷｭｯ！わかったし！」
「おしりだすのはずかしいし…」
巣箱を観察している人間がいれば、時々しっぽをピン！と立てたおしりだけが顔を出して尿や糞を落としていく様を見て眉をひそめた事だろう。
しかしここは人の通りも少なく、ランニングコースなどからも外れた所にあるので幸い人目にはつきにくかった。
ただし、木の根元に無視できない量の糞尿の山が作られるまでは。


待っている間、親の言いつけを守り大人しくしていたチビ達はいつもより帰りの遅い親を心配していた。
親が拾ってきたボールをコロコロと手で転がしたり、しっぽを抱きしめて昼寝したり、近くの葉っぱをちぎって折り紙のように遊んだり。
3匹が思い思いに過ごしていた。
「ままおそいし…」
「おなかｷｭｰｷｭｰいってるし…」
「あ…ままのこえだし！かえってきたし…！」
大声で叫ぶ母親の声を聞きつけ、3匹のちびたぬきは団子のように縦に並べて一斉に顔を出す。
「待って、待ってし…！たぬきには子供がいるし…連れてっちゃやだじぃぃ！」
騒ぎ立て、必死に訴えながら縄に括られ引きずられていく親の姿が遠くなっていく。
駆除業者に見つかり、木の上に登る前に捕まってしまったらしかった。


「まま…たすけなきゃし…！」
1番甘えん坊のチビが、何とか降りようと巣箱から身を出した瞬間、
「ギャアッ！ギャアギャア！」
ずっと巣箱の中を狙っていたカラスが、モチリとした頬と胴体に爪を食い込ませて連れ去っていく。
「…しいぃぃぃ…っ…！」
ジタバタしようと手足を振り回しながら、遠くなっていく姉妹を見送って残りの2匹は青ざめた。
カラスからすれば、栄養の詰まった大きなお肉でしかない。
あの姉妹の次は、また捕まえにくるかも。
1番臆病なチビたぬきは、恐ろしい想像に頭を両手で抱えて震えるしかなかった。
「ひぃぃし…こわいしぃぃ…ままぁ…！」
「はやくここから抜け出さなきゃしぃ…！」
そういって、勢いよく飛んだチビたぬきは。
「あっ…し…！？」
空中でジタバタしたのも束の間、糞尿の山の横に汚い血の花を咲かせた。
やはり、チビたぬきにとって木の上は高すぎた。


さて、残った1匹はというと。
「やだし…みんないっちゃ、やだし…！」
カラスに連れ去られるのは絶対にイヤだと巣箱から顔も出せず。
かと言って飛び降りる勇気もなく。
巣箱の奥でビクビクと震えながらしっぽを抱えて、ずっと、ずーっと。
丸くなっている事しか出来ないのだった。



やがて、季節が巡って。
いつも春にここを利用する種の、野鳥が舞い降りた。
巣箱の中を覗き込むと。
干からびた変な色の塊や固まった糞尿を嘴でつまんで取り除き、放り投げて。
それから巣箱の中を、自分好みに仕立て上げたのだった。


オワリ

 