たぬきが群れを成してひっそりと住む場所をスラムと呼ばれる
そんなスラムの一角に二匹のたぬきがこそこそとしている

「持ってきたし…」
「それがこの前言ってた奴かし…よく買えたし…」
「安かったし…在庫処分と言ってたし…」

たぬきの手に持っているのはケーキなどにデコレーションに使うデザートホイップである
中身もたっぷりとそのままで、在庫処分と言うように賞味期限がすでに過ぎている代物だった
ちなみにその日まで食べられるが過ぎれば食中毒になる危険性のある消費期限と違い、賞味期限はあくまで美味しく食べられる品質の保証である
人間の手伝いや仕事である程度の賃金を稼ぐ野良のスラムたぬきにとって人間の食べ物はほとんどがご馳走に等しい
多少品質が落ちても賞味期限で在庫処分行きになる食品はスラムたぬきにとって狙い目の商品であった

さっそくホイップクリームを少しだけモチモチとした手に乗せて互いが一口
干した果実とは比較にならない甘い味は口の中で幸せが広がるようで、辛気臭いションボリ顔は少しだけニッコリとするほどだ
甘味として古くなったお菓子を食べたことはあれども、クリームをそのまま食べるというものは一種の贅沢感がある
そうした高揚感がただのクリームを美味しくさせる要因にもなっているのだろう

「あま～し…良いし…」
「このままでも美味しいけど一つ思いついたし…ちょっと待ってろ…」

片方のたぬきが思いついて持ち出してきたそれはたぬきのチビであった
それもポップしてからさほど時間が経っていないであろう、栗サイズの子たぬきである
ギューギューと声を出しているそれは明らかに保護される側でありながら両たぬきに懐いた様子はない
それもそのはずである
スラムは一定のたぬきが住むと馬鹿正直に子たぬきを拾って育てることはしない
そんなことをすればすぐに食料や住む場所を失い、パンクするからだ
なので育てると見込んだ子たぬきだけを我が子にし、それ以外の拾った子たぬきは基本的に非常食として生かされる
この懐かない子たぬきがまさにそれだ。非常食として生かされ、そのためにたぬきのうんちを少量だけ食わされる
モチモチもされるわけでもなく、ただ雑に扱われ時には兄弟に等しい同族が食われるのを目の前に見て懐くわけがない

「さて…ちょっとチビの口を開けて固定してほしいし…」
「りょ…」
「ｷﾞｭｩ…ｷﾞｭﾜｧ……」

片方のたぬきが子たぬきの口を広げて固定し、その行いに首から下の全裸の体はジタバタとしている
その口に目掛けてホリップクリームを流した。唐突に広がる、たぬきのうんち以外に口の中で広がる初めての味覚
そのあまりの味わいと幸せは今までの辛い過去を打ち消すほどであり、口を固定されてるにも関わらずしょぼくれた顔はニッコリ顔だと分かるほどだ
不快感から幸福のジタバタになっている子たぬきをクリームを与えたたぬきはニッコリとしながらそのたぬきを手に持つと、そのまま一飲みで口の中に入れた
子たぬきはその幸福のまま死ねて運の悪い個体だったのだろう
噛み砕かれ、磨り潰され、たぬきの胃の中に向かってその意識が失う瞬間まで痛みと恐怖を味わいながらも、ただ美味しいクリームを食べることができた
その幸せが正気を繋ぎとめていたのだから

「おぉ……思った通りだし…こりゃ美味いし…」
「うーんし…チビの肉とクリームってそんなに合うかし…？」
「フフ…まるで大福みたいな食感と味だし…」

子たぬきは淡泊ながらも肉として扱われるのだから甘味のクリームと合わないのではないか
そんな懸念を飛ばすようにニッコリ顔で答えている
群れを成してスラムの一員として暮らし、決して楽と言い難い日々を送るたぬ生ではあるが成体まで育ったからこそ生きる喜びを忘れないようにしている
子たぬきを育てる者、趣味に走る者、それはたぬきそれぞれだがこの二匹は美味しいものを食べる事をたぬ生の軸にしている
もちろん野良のたぬきなのだから上等なものどころかこうした在庫処分のクリームすら滅多に食べれるものではないが、だからこそその出会いに感動し、生きるための気力に繋がるのだ

「大福…あれは美味かったし…また食いたいし…」
「できれば次はカビが出てる奴じゃないほうがいいし…死にかけたし…」
「ヴッフ…仲間にもしばらく避けられたぐらいにうんち出まくったし…」

複数の食べるものを組み合わせて新しい食料にするのは知恵のある者の特権だ
たぬきたちは非常食に過ぎなかった子たぬきがより美味しい食べ物になったことを学びながらも野良なりの食道楽を模索していく
次なる美味しいものを食べれる日まで、しぶとくしたたかに生きて行くだろう