「たぬきの世界大戦」

たぬきという存在は常に人類の傍らにあった
いい時も悪い時も、黄金の時代も暗黒の時代も
そして激動の時代にも
馬、犬、鳩…etc.
人類の戦争に動物が利用された例は枚挙に暇がない
そしてそれはたぬきも例外ではなかった…



1944年　ノルマンディー

狭く暗い機内の中でたぬきは独りごちた
(どうしてこんなところに来てしまったんだし…？)
隣にいる仲間のたぬきたちも、いや前の席に座っている人間たちもそう思っているに違いない
皆口には出さずとも、たぬきも人間もションボリした顔になっている
その瞬間大きな破裂音に機体も中のたぬきや人間たちも揺さぶられた



1 months ago(1か月前)...



このたぬきはイギリスのカンブリア州の湖水地方でポップした
母の愛情を受けて姉妹共にすくすくと成長し、自然に囲まれた環境でのびのびとたぬ生を謳歌していた
ある時彼女はふらっと出かけた街先で広告を見かけた

『I want tanuki!』
『たぬきもまた国王陛下の臣民である　臣民としての義務を果たそう！』
『そのモチモチの手が大英帝国の未来を支える』

勇ましい字体とイラストで描かれたポスターが街中に張られていたのだ
このたぬきは今まで人間との関わりといえばたまに農家の手伝いをしてささやかな報酬を得ていたくらいだ
それでも最近人間たちの間で戦争が始まり、この国の首都が空襲で焼かれてしまったという話はたぬきの耳にも届いていた
火災で全滅したスラムや、家族を失った孤児たぬき、住む場所を失った難民たぬきが大勢いるとも
広場では人間たちが何か叫んでいる

「ロンメル恐るるに足らず」
「もはや我々にダンケルクは無い」
「今こそヒトラーの息の根を止める時だ」

よくわからないまま場の熱狂に流されて聞き入っていると、ニコニコした顔の男がたぬきの顔を覗き込んだ

「君も戦争に興味があるのかな？」

柔和な笑みとは不釣り合いに着こなされた軍服が、男の立場を示していた
たぬきはバツの悪い様子でションボリして答える

「人間さん同士の争いにたぬきができることなんてないし…」

男は屈んでたぬきと目線を合わせると、ニコニコ顔のまま言った

「そんなことはない！　今も前線では君のお仲間たちが従軍たぬきとして立派に勤めを果たしているのだから」
「ほ、本当かし？　たぬきには銃も扱えないのにし…」

男はたぬきにもわかるように丁寧に説明してくれた
銃を持って戦えずとも戦争で役に立てる仕事がたくさんあることを
人間が使う銃の弾や食料の配達や伝令
さらに人間がたぬきをモチモチすることによる荒んだ心のリラックス効果…etc.etc.
1匹でも多くのたぬきの助けがこの戦いには必要であると力説した
そして従軍たぬきになれば、衣食住の保証と戦功次第では勲章の授与もあることが告げられた
何故か勲章に執着する習性のあるたぬきにとって、これは非常に魅力的な提案であった。

「じゃあ、たぬきも志願するし…」

こうして戦火を逃れてもなお、戦争によって破壊された世代がまた一匹誕生したのだった



「じゃあ行ってくるし…いっぱい勲章もらって帰ってくるし…」ﾓﾁﾓﾁ…
「無事に帰ってくるんだし…！」ﾓﾁﾓﾁ…
「ｵﾈｰﾁｬ、ｷｮｰﾂｹﾃ!」ﾓﾁﾓﾁ…
「ｷｭｰｷｭｰ」ﾓﾁﾓﾁ…

そして母や妹たちとしばしの別れのモチモチを交わし、たぬきの軍隊生活が始まった
ここソールズベリー訓練区域には、他の地域からも集められたのだろう、自分と同じ成たぬきたちが大勢並んでいた
まずは兵隊たぬきとして最低限求められる能力を養うための訓練である
整列、体操、走り込み、障害物越え、匍匐前進…
訓練はたぬきには厳しいものであったが充実していた
たぬきたちの体力やスピードは着実に上がっていき、人間の教官からも褒められるようになった
食事は3食おやつ付き(米軍支給のクソ不味いチョコバー)
森にいた時とは比べ物にならないほど豪華だった
(みんなここに来ればいいのにし…)
訓練たぬきたちはそんなことを思うようになっていた―――



2 weak later(2週間後)...



「今日は訓練のハードルを少し上げるぞ」

人間の教官がそんなことを言った
だがたぬきたちは日々の訓練ですっかり自信をつけており、みんな満面のドヤ顔で頷いた

「やれるし…」
「今までのたぬきたちとは一味違うし…」
「訓練の成果を披露するし…」

その様子に満足したように、教官は匍匐前進を命じた
たぬきたちは淀みない動作で腹ばいになると、全身をモチモチさせながらゆっくり前進する
人間の匍匐前進の10分の1にも満たない速度であるが、たぬきの基準ではよく訓練された動きだ
すると教官が手を挙げて、何か合図した

「Fire(撃て)!」

すると奥に控えていた兵士たちがライフルをたぬきの頭上スレスレに発砲した
耳をつんざくような飛翔音から少し遅れて火薬の破裂音が鼓膜に響き渡った

「Fire!」

兵士たちはすぐさま装填して再び発砲
この時点で訓練たぬきたちは既に半狂乱となっていた

「しぃぃぃぃぃぃ！！！」
「なんでたぬきたちが撃たれるんだしぃぃぃぃぃ！！！」
「たぬき悪いたぬきじゃないしぃぃぃぃぃぃ！！！」

今までの規律だった行動は何処へやら、ジタバタを始めたり尻尾を抱えてうずくまったりと散々な有様であった

「止まるなクソ共！　進め！」

銃声に負けない大声で教官が怒鳴りつける
しかしたぬきたちはすっかり戦意を喪失しており、本能のままにみっともない醜態を晒している

「Fire!」

しかしそんなたぬきたちには一切容赦なく、再びライフル弾がたぬきの頭上を掠める
泣き叫ぶたぬきたちに教官の怒声が響く

「ドイツ野郎の銃撃はこんなものじゃないぞ！　そのクズ肉を穴だらけにされたくなかったらとっとと前進しろ！」

たぬきたちはすっかり恐慌状態で、もはや震えるクズ肉の集団と化していた
その時、悲劇は起こった

「Fire!」
「もう嫌だしぃぃぃぃぃ！！！」

たぬきの1匹が匍匐状態から立ち上がって逃げ出そうとした
その瞬間、そのたぬきの頭を.303ブリティッシュ弾が貫いた

「ｱｷﾞｭｸﾞｩ゛」

おかしな声を上げてたぬきは倒れ伏す

「Cease fire(撃ち方止め)!　…ああっ、クソッ！」

ライフル手たちを下がらせると、教官は急いでたぬきの体を検めて安否を確認する
しかしそのモチっとした額には綺麗に穴が穿たれており、そこからとめどなく出血している

「おぐぁ…あっ…あっ…じぃぃぃぃ～！！！　じじじぃぃぃぃぃぃぃぃ～～～！！！」

たぬきは虚ろな目を見開きながらジタバタと激しく痙攣していた
弾丸が抜けた後頭部からは血と脳の破片が散らばっており、おかしな断末魔を上げながら涎を垂らす
やがてピタっと動きが止まったかと思うとダラリと舌を出したまま事切れた

「medic(衛生兵)!　…死体袋を」

衛生兵はズタ袋を用意し、そこにたぬきの遺体を無造作に放り込んで片づけた
その様を訓練たぬきたちは静かに泣きながら黙って見ていることしかできなかった
そこでようやくたぬきたちは自分たちの置かれた状況を理解したのだった―――



to be continued...



兵隊たぬき
軍によって使役される従軍たぬきの内、前線で働くたぬきの総称
任務内容は弾薬運搬、食料運搬、無線手、兵士の慰問(アニマルセラピー的な)など多岐に渡る
しかし戦闘訓練や直接戦闘への参加は基本的に禁止されている(戦後に戦闘技術を持ったたぬきが野良化するリスクがあるため)
階級は与えられず、どんな兵士もたぬきにあらゆる命令を下すことができる
そのため配属部隊によって赤子のように可愛がられることもあれば、ゴミのように使い捨てられる場合もある
衣食住の完備と勲章受賞のチャンスの多さから多くのたぬきが志願し、過酷な戦場へと送られていった



米軍支給のクソ不味いチョコバー
前線の過酷な環境を想定し、摂氏40度でも溶けないハー〇ーズ社驚異のメカニズム
しかし軍の「茹でたジャガイモよりはおいしく」という要求性能をクソ真面目に実現してしまい、兵士からの評価は芳しくない
なので従軍たぬきのご褒美用に配備されている



難民たぬき・孤児たぬき
戦火によって住処や親を失ったたぬきたち
生き延びる糧を求め、その殆どが軍へと志願して従軍たぬきとなった
だがその全てが前線で働く兵隊たぬきにはならないようである