No.37「仮装」

朝から街中に溢れる、おかしな格好をした人間たち。
野良のたぬき達は、物陰からその様子を伺っていました。
ヒーロー。ヒロイン。怪人。かいじゅう。
がっつりとキャラクターの着ぐるみだったり、普段着に少しアレンジを加えた程度だったり。
色々な格好をした人々が行き交い、楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
普段から地獄のような野良生活にションボリしているたぬき達からすれば、一体どうしたことですしと問いかけたくなるようなお祭り騒ぎでした。

野良たぬき達は一旦スラムに戻り、別の所で情報収集をしてきた他の野良たぬき達と集めた情報を交換することにしました。
「どうやらおかしな格好をするとおかしがもらえるらしいし…」
「いわゆる仮装ってやつだし…」
「おかし欲しいし…」
「仮装なんて、どうしたらいいし…？」
「あと確か合言葉がいるんだし…」
「知らなきゃおかしもらえないし？やだし…」
「知ってるし！“トリニクおわトリいっこ”だし！」
「よく知ってたし…すごいし…」
「結局鳥なんだし？」
野良たぬき達はどうにか仮装して、お菓子を手に入れられないものかと画策しました。
普段のみすぼらしい野良生活では、たぬきが逆立ちしたってお菓子など手に入りません。
ちなみに、たぬきは頭が大き過ぎるので逆立ちは出来ません。


だれが1番人間からお菓子をもらえるかを競うように、色んなたぬきが仮装を始めました。

「ミイラってやつだし！ししし！」
1匹の野良たぬきがスラムを出て、ミイラの仮装を自慢げに練り歩きます。
まだ仮装できていない野良たぬき達は、果たしてお菓子をもらえるのか成否を確かめるため、こっそり後をつけました。
ミイラたぬきの仮装ですが、包帯なんて手に入るわけがありませんので、
トイレットペーパーを全身にぐるぐると巻きつけています。
安っぽいですが、それなりの出来栄えでした。
スラムから出たところの路地裏で、1人の男性がタバコを吸っていました。
このご時勢では、煙草1本吸うのにも苦労する事にイライラしていて、明らかに不機嫌そうでしたが、
ミイラたぬきは構うことなく、はつらつと声をかけました。
「そこのヒト！お菓子くれし！」
「ほう…よく出来ている。野良の分際で包帯なんて手に入るのか？」
「トイレの紙使ったし！」
「そのトイレの紙はどこから？」
「これかし…？公園のトイレに置いてあったし！」
「そうか。ハロウィンでお菓子をねだる時は合言葉が要るんだが、知ってるか？」
「合言葉？知らないし！」
ミイラたぬきは首をぶんぶん振って答えました。
「おかしくれないとジタバタするしぃ〜！」
その場でジタバタを始めて、醜くもお菓子を要求し始めます。
男性はその様子を見てポケットに手を突っ込み、何かを探しているようでした。
まさか、いきなり成功かし？こっそり眺めていた野良たぬき達はドキドキしながら見守りました。
「怪我してねえのに包帯巻いてんじゃねぇよ」
男性は無表情のまま、ポケットから取り出したライター用のオイルをミイラたぬきの頭にかけました。
オイル特有の匂いが周囲にツンと広がり、ミイラたぬきはさらにジタバタが止まりません。
「なんだしこれ！くさいし！美味しくないしぃ！」
「包帯巻く理由をつけてやるよ」
「えっ？し…？」
使い捨てのライターを点火したまま、オイルが染み込んだミイラたぬきに向かって落としました。
次の瞬間には、ミイラたぬきが炎に包まれます。
可燃性の上がったトイレットペーパー製の仮装は非常によく燃えました。
楽しいハロウィンの雰囲気が気に入らないはみ出し者の人間の手によって、ミイラたぬきは火だるまたぬきにクラスチェンジさせられてしまいました。
「ぎぃいいいいっ！あ゛っ゛！あづい゛！じぃいいぃぃぃぃ！」
ゴロゴロと転げ回って火を消そうともがきましたが、火が消える頃には火だるまたぬきの命の灯火も消えていました。
男性は、黒い消し炭たぬきを何度か踏みつけ、火が消えたのを確認すると唾を吐きつけて去っていきました。
「ミイラたぬき…いい出来だったのにし…」
「全部燃えたし…」
「こわ…し…」
「あの人間ヤバいやつだったし…」


「オバケだしぃ〜！」
別の野良たぬきは、ゴミ捨て場を荒らして手に入った材料で仮装していました。
「ししし！ゴミ袋なら簡単に手に入るし！中身も頂いた後の袋を再利用するなんて、たぬき頭いいし！」
小さな穴を2つ開けて、目の代わりに。
その下に大きな穴を開けて口にして、そこから顔を出します。
手には破いたラップを巻きつけ、余りは垂らして。
自信満々に纏ったその姿は、傍目から見ればどう見ても動くゴミ袋でした。
ハロウィンでゴミが増えるために、自治体の要請で回収に来ていた業者は何の迷いもなくオバケたぬきを掴みゴミ収集車の中へと放り込みました。
「あっあっ待ってしたぬきはゴミじゃないしオバケだし捨てちゃダメだしやめてしあ゛あ゛ぁぁあ゛じ！化けて出てやるしぃぃぃ…！」
すごい饒舌なオバケたぬきが収集車の中に恨言と共に吸い込まれていき、それを見ていた野良たぬき達は震え上がりました。


「なるほどし…末路はかわいそうだったけど結構考えてるたぬき達多いし…」
「おかしほしいけどし…」
「他の仮装たぬき達もぜんめつしたし…」
「人間達に“トリニクおわトリいっこ”するのはやめておこうし…」
「おまつりだけするし！」
「たぬき達だけの、おまつりだし…！」
いくら甘くてたぬきみんなが大好きなお菓子でも。
お菓子のために命をかけるのは、分が悪すぎます。
小汚いスラムのたぬき達は人に媚びるのをやめて、自分達だけでハロウィンを楽しむことに決めました。


普段よりも色々な物が捨てられているのと、人混みの多さで、物集めに奔走する野良たぬき達が街中をうろついても目立たないのは幸いでした。
夕暮れ時までかかって、ゴミ捨て場や街中から色々なものを集め終えた野良たぬき達が、続々とスラムに集まってきます。

「おかしもってきたし！」
「でかしたし！」
「仮装してきたし！」
「かわいいしぃー！」
「ちび連れてきたし！」
「ｷｭｯｷｭｳー！」
「燃える水持ってきたし！」
「…なんか変なの混じらなかったかし？」

興奮気味だった所に危険物が持ち込まれ、野良たぬき達は急に冷静になって一斉にジタバタし始めました。
燃える水がもしここで暴れ始めたら、スラムなんてひとたまりもありません。
先ほどのミイラたぬきの死に様を思い出し、泣きながらジタバタするたぬきもいました。
「落ち着くし…扱いに気をつければなんて事ないし…」
燃える水を持ってきた野良たぬきが眉間に皺を寄せて説明します。
「なんでも、カボチャを燃やしてその火を囲むお祭りもあるらしいし…だからたぬき間違ってないし…」
「へぇ…し…」
「へぇへぇ…し…」
「さんへぇ…し…」
危険度は別に下がっていませんが、運んできた野良たぬきが責任を持って管理するということでスラムに燃える水の入った缶が持ち込まれる事となりました。


「よくおかしが手に入ったし…」
「たぬきの仮装をしてる体でいったし…よく出来てるわねって…あの人間大丈夫かし…」
「まじかし…後でたぬき達もいくし…」
「落ち着くし…たぬきが押し寄せたら流石にバレるし…頭たぬき過ぎるし…」
「もしかしたら気づいてて、おかし恵んでくれただけかもしれないし…」
「やさしさがつらいし…」
キャンディやクッキーの入ったかわいらしくラッピングされた包みや、誰かの落とし物らしい中身の入った菓子箱がスラムの中央に集められました。

仮装が間に合わなくとも、捨てられていたお菓子のラッピングのリボンで親たぬきに髪を飾ってもらい、ご機嫌な声をあげるチビたぬきもいます。
「ほら、こうすれば…チビもかわいいし…」
「ｷｭｳ♪ｷｭー♪」
「ほんとだし…」
「かわいいし…うちのチビにもお願いしたいし…」
「いいし…まだリボンあるし…この子は青色つけてあげるし…」
「ｷｭｳｳｳﾝ♪うれしいしー！」

まずはうどんダンスの仮装バージョンでも踊って、その後にみんなで火を囲んでお菓子を仲良く分け合う手筈となりました。


人前に出て全滅する様子を見てから、披露の場を今か今かと待ちかねていた、仮装たぬき達が続々とお披露目に現れます。
「じゃーん！し！」
「その格好なんだし？」
「ゴキブリ…かし？」
おそらくは何かの仮装なのでしょうが、わからない野良たぬき達が尋ねます。
底に穴の空いた黒いバケツに赤いリボンを巻いてかぶり、ボロボロの黒い傘から剥いだ布地を羽織った野良たぬきが答えました。
手には丁度いい長さの流木を握っています。
「まじょだし！街にもたくさんいたし！」
傘で作ったマントをひらひらさせ、流木の杖を掲げて魔女たぬきは満足げにくるくると回りました。
バケツのぼうしがずれ落ちて、慌てて直します。


魔女の出てくる創作物など知るはずもない野良たぬき達は、想像が追いつかずに首を傾げました。
「まじょってなんだし…？」
「知ってるし…」
スラムの物知りな野良たぬきが神妙に答えました。
「歳の割に若く見える人間のメスのことをまじょって言うし…」
「なるほどし…でもたぬきは歳とっても大きさしか変わらないし…」
「つまりたぬき達は仮装しなくてもまじょだし…」
「ちがうし…！まじょそんなんじゃないし…もっともっと、すごいんだし…ﾀﾇｰ…」
物知りが言っているのは美魔女で、魔女とは似て非なるものでしたが、魔法使いの女性について正しく説明できる語彙力のない魔女たぬきは、ジタバタする気力もなく、ションボリとうなだれました。


「さっき街でベアルフくんの着ぐるみの仮装してるたぬきいたし…」
「あれは飼いたぬきだったし…うらやましいし…ずるいし…」
「ペロペロキャンディ舐めてたし…」
「飼い主が一緒じゃなきゃ奪い取ったんだけどし…」
「たぬきのくせにションボリしてない幸せそうな顔がムカついたし…」
「気にするなし…おかしはあるんだし、たぬき達はたぬき達で楽しむし…」
動物系の仮装は野良たぬき達にも大たぬ気でしたが、
野良の環境では着ぐるみなどとても用意できません。
しかしそこに、野良の限界に挑戦した野良たぬきが現れました。

「オオカミたぬきだし…」
毛先の荒れたホウキの先っちょをほっぺたに、知らないチビから髪の毛をむしって服から露出した肌にセロテープで貼り付けていました。
本たぬからすれば相当な自信作でしたが、所詮スラムで手に入る材料で作られた見た目の印象は。
「うわぁあああし！もどきだしぃぃいいい！」
「ちがうし…オオカミたぬきだし…がるるし…」
野良の他ぬき達は慌てふためいて逃げ回り、自称オオカミたぬきは、心外そうに唸りました。

「おまえかし！うちのチビの毛むしったのは！どうしてテッペンむしるんだし！」
騒ぎの中心となった自称オオカミたぬきの元へ怒鳴り込んできたのは、被害たぬであるチビの親たぬきでした。
顔を真っ赤にしての怒りはごもっともでした。
よりによって頭頂部の毛をむしられ、落武者スタイルにされたハゲチビたぬきは顔を覆ってメソメソと泣いています。
「知らないし…オオカミたぬき知らないし…」
「ｷｭｷﾞｭｳｰ！」
「こいつだし！ってチビも言ってるしぃ！責任取れし！」
「…わかったし…責任取るし」
地団駄を踏んで興奮するハゲチビたぬきを抱き上げて、
「ごめんし…」
と謝罪の言葉に続いたのは。
無言で頭からかぶりつく行為でした。
「ｷﾞｭｷﾞｭ！……ｷｭｯ？」
“ゆるさないし！”と威嚇していたハゲチビたぬきですが、突然目の前が暗くなったのを不思議に思ったのは一瞬のことで、
がぶり。
オオカミたぬきは、オオカミらしくハゲチビたぬきを頭から食べてしまいました。
頭を失った首からは悲鳴の代わりに鮮血が噴き出し、
置いてけぼりの胴体は手足をバタバタさせました。
「もぐもぐし…もぐもぐし…ごくん、し…」
「やっぱりもどきだしぃぃいいい！」
「あえ…？チビ…？どこだし…？」
「もどきじゃないし…オオカミだって、言ってるし…」
「たぬきを食べるたぬきは、もどきだし！」
仮装に本気になりすぎるあまり、別の何かに変貌するたぬきまで現れる始末でした。


「みんなでやっつけるしー！」
「おー！しー！」
「チビのかたきだしぃぃい！死ねっしぃぃいいい！」
「やめてし…たぬきはオオカミたぬきだし…」
もうチビを殺してしまった自称オオカミたぬきを仲間と認めるわけにはいきません。
野良たぬき達はおまつりを守るために団結して、もどき対策の先を尖らせた木の棒で突いたり、次々と石を投げ、一斉に鎮圧します。
「えいっし！えいっし！まほうをくらえしー！」
魔女たぬきは危険を厭わず流木を使って自称オオカミたぬきをポコポコ叩きまくりました。
「すごいし…あいつ勇敢だし…」
「あいつこそ真の“うぉりやー”だし…」
どこで覚えたのか、戦士を意味するウォリアーという言葉を微妙に間違えながら物知りたぬきが讃えます。
「あの木は棍棒だったのかし…」
「武闘派たぬきだし…」
本たぬの意にそぐわない褒められ方に、魔女たぬきは再びションボリしました。
「武闘派ちがうし…魔女はもっとかわいいんだし…ﾀﾇｰ…」


リンチを受けたオオカミたぬきの死体は火種とされ、燃える水がかけられました。
仮装のために纏ったチビの毛髪やホウキの毛が、良い可燃剤になり、パチパチと火を爆ぜながらおまつりの始まりを告げます。
「安らかにねむれし…」
「ちんぽこだし…」
「ちがうし…ちんこんだし…」


「おまえすごいし…やたら気合入ってるし…」
血糊と傷のメイクが生々しいたぬきを見つけて、野良たぬきが感心の声をあげました。
話しかけられた本たぬは、
「じぃ…」
としか答えません。
「知ってるし！“ぼんび”の仮装だし！」
「まるで本物だし…」
そのリアル感は“ゾンビ”を知っている者なら納得の出来栄えでした。
街中でも血糊やシールを使ったゾンビナースなどの仮装をした女性を見ていたので、野良たぬき達にも完成度の高さが伝わってきます。
「じぃ…じぃ…」
「…ていうかこれ…ほんとに傷だらけじゃないかし…？」
よく見るとボコボコに殴られたのか腫れた顔は青あざだらけで、あちこちの擦り傷から血を滲ませていただけでした。
「ほんとだし…ただの死にかけのたぬきだったし…」


「誰にやられたんだし…？」
「………じ…」
なんとか絞り出したらしい、その言葉が遺言でした。
ゾンビたぬき改め、死体たぬきは微動だにしません。
「死んじゃったし…」
「宴に参加させてやりたかったし…」
「とりあえずそこに寝かせとくし…」
もし、たぬきもどきにやられていたのならば今すぐにでも避難するべきでしたが、先ほど危険因子も排除しておまつりムードに浮かれ気味のたぬき達はそこまでの発想に至りませんでした。



「捨てられてたかぼちゃを使ってこんな風にしたし…」
ハロウィン当日には、料理やお菓子に使われたかぼちゃの残骸が手に入りやすかったのでした。
ある野良たぬきは、頑張って石で穴を開けたかぼちゃに下半身を突っ込み、まるでパンツのように装着しています。
ヘタのあるてっぺんの方は、帽子のように石で削って頭の上にちょこんと載せています。

「かぼちゃパンツだし…」
「すごいし…かぼちゃたぬきだし…」
「皮だけかし…中身どうしたし…」
「全部ほじって食べたし…おいしかったし…」
「独占するな…」


「でもこれ…石使って穴空けて足としっぽ入れたら抜けないし…すごいフィット感し…」
「おまえそれおしっことかどうするし…？」
「たれながし…」
泣きながらかぼちゃたぬきは答えます。
涙も垂れ流しでした。
「じゃあ一生そのままかし…？」
「…だと思うし…やだし…」
「1発ネタのために残り全部憐れなたぬ生だし…」
せめて宴の盛り上げ役として、一役買ってもらう事にしよう、そうしよう。
野良たぬき達はスラムの中心で火を焚いている所にかぼちゃたぬきを連れて行きました。


同時に、他の野良たぬき達が両手で大きなかぼちゃを掲げてやってきていました。
「カボチャかっぱらってきたし！」
「焼きカボチャ食べるし！」
「えっ！し…！？」ﾌﾞﾘｭﾘｭ
自分が焼かれるのかと思って、かぼちゃたぬきが驚きのあまりビクッと反応しブリッと破裂音をさせました。
下半身のかぼちゃの中から漂う悪臭に、周囲のたぬきが鼻を抑えながら離れました。
燃える水を管理していた野良たぬきも、
「なんかくさいし…？」
と鼻を抑えてその場から離れてしまいます。

「緑色のよりこっちのオレンジの方が美味しそうだし！」
1匹の若いたぬきが、飾り付けに置かれていたオレンジのかぼちゃを持ち上げました。
「待ってし…これは食べられなアッ」
オレンジのかぼちゃを持ってきた野良たぬきが注意を言い終える前に、焚き火に放り込まれ、管理たぬきの手から離れてしまった燃える水がぶち撒けられました。
野良たぬきの1匹が店先から盗んできたオレンジ色のかぼちゃは、ジャック・オー・ランタン。
かぼちゃ自体は本物ですが、固くて食べられないものが使われています。
最大の特徴は、中に蝋燭を有し、灯りの役割を十二分に果たすために油が仕込まれていました。
このインテリアと、燃える水を持ってきた本たぬ達は危険物という認識を持ち、細心の注意を払っていましたが、宴の雰囲気に浮かれた若いたぬきは、そんなコト知らないし！といったポンコツぶりでした。
あるいは自分は仮装が用意できなかったので、何か爪痕を残したい気持ちが生んだ悲劇でした。
謎のうんち臭騒ぎに混乱しながらも、火を囲んで踊るという初めての経験に、ワクワクしていた野良たぬき全員が火を囲んでいる状況です。
ぼんっ！と爆発的に膨れ上がった炎が周囲を呑み込んだのは一瞬のことで、しかし可燃物を身に纏っているたぬき達は大いに苦しみました。

「じいいいぃいぃぃい！」
「あづいじぃぃいいい！？」
「や゛だじぃぃぃぃぃぃぃぃ！」
「ｷｭｯ…ｷﾞｭｱｱｱ…ｼ…！」
「消えないしぃぃ！」
「ちびぃぃ！どこだしィイイ！」
「ｷﾞｭｳｳーーー！ｼﾞｨｨーーー！」
「きえろし！ほのお！きえろしぃー！」
「ﾏﾏｧｧｧ！ｱｯｱﾂｲｼｨｨ…！」
「だ、だじげでじぃぃいいい！」

浅慮の結果、おまつりに集まった仮装たぬき達はもれなく火葬たぬきになってしまいました。

お楽しみに取っておいた、まだ食べていないクッキーなどのお菓子も。
親に仮装させてもらい、生まれてはじめてのおまつりにはしゃいでいた生後3週間のチビも。
ゾンビの仮装かと思ったら本当の死体になってしまった野良たぬきも。
スラムでいちばん気合の入った仮装の、魔女たぬきも。
かぼちゃの皮と一体化した、うんちまみれの下半身も。
暴れ狂う炎の中に、等しく飲み込まれました。

メラメラと炎が燃え盛るスラムは黒煙に包まれ、動く者は誰ひとたぬとしていません。
「ギュグウ…あ、あ、あ、あついしぃ…！」
燃える水を注いだ若い野良だけが即死を免れ、黒焦げになりながらも地べたに這いつくばり、ボロボロのほっぺに涙を流していました。
ただし、無事ではありません。
全身を炎に嘗め尽くされ、仮装していない服も皮膚も焼け爛れて痛みに呻くばかりです。
自分がしでかしてしまった事の大きさを、我が身を以って思い知った若い野良たぬきは謝り続けていました。
「そんな…つもりじゃ…ごめん、し…ごめ…んし…ゆるして、し…」
でも、謝罪の言葉をかけるべき相手は、もうどこにもいません。
「げほ…げほっし…だれか…だれかゆるしてし…たぬき、を…し…」
誰も答えてくれないことに絶望しながら、若い黒焦げたぬきは息を引き取りました。

その後、局地的な通り雨がスラム周辺に降り注ぎました。
まるでプレゼントのような雨粒が、スラムを覆った炎を鎮めていきます。
残念ながら、手遅れでした。

後日、都会の喧騒の裏で一晩かけてすっかり自然鎮火したひとつのスラムの消失と共に、いくつもの黒い塊が発見されます。

楽しいおまつりも、大切な仲間も。
何もかもを焼き尽くされて、野良たぬき達のハロウィンの夜は更けていったのでした。

オワリ
