天丼たぬき2

住処でちびたぬきと共に眠りについた親たぬき。どうやら悪夢を見ていたらしく、うなされながら目を覚ました。
「夢かし…前のたぬ生の記憶を見てたような気がするし…ひどい夢だったし…」
深く息を吐いた親たぬきは、脂汗まみれの額を拭い、傍らにいるはずのちびたぬきへ視線を向ける。
「前のたぬ生は何も良いこと無かったし…でも今は幸せだし…おまえがいるし…あれ…いないし…」
一緒に寝たはずのちびたぬきの姿が見えず、首を左右に回して住処の中をキョロキョロと見回す親たぬき。
住処唯一の出入り口は閉じたままであり、ちびたぬきが外に出ているとは考えられない。
しかし狭い住処の中で、どこかに隠れられるとも考えられない。親たぬきは自分のちびを呼び続ける。
その時、背中に妙な温もりを感じ、手を伸ばしてみるとぬるりと赤い液体が手に付いた。
「げえっ…！血だし…！たぬきケガしちゃったし…！？でも痛くないし…」
親たぬきが寝ている間に甘えたくなったちびたぬきが背中にくっついたが、親たぬきの寝返りによって押しつぶされてしまったのだ。
親たぬきの背中で赤いシミとなっているちびたぬきは、ピクピクと動いたかと思うと、すぐに息を引き取った。
「ｸﾞ…ｸﾞｼﾞｭ…ｷﾞｭ…」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

人里へ近づこうと、森の中を進む親子たぬき。歩き続けていた二匹は人の生活圏へやって来た。
「ちび…自然の中で狩りをするよりも人間のいるところのほうが食べ物手に入りやすいし…一緒にごはん食べに行くし…」
「ｵﾃﾞｶｹｼｰ！」
騒ぐ二匹が罠にかかる。大きな網が地面から飛び出して木の上まで上がり、空中に囚われてしまう親子たぬき。
「ひええっし…罠に引っ掛かったし…高くて怖いし…身動きが取れないし…ちび…どこだし…」
「ﾏﾏｰ！ﾀｽｹﾃｼｰ！」
くの字に曲がったまま動けなくなっている親たぬきの服の端に、必死にぶら下がるちびたぬきの姿があった。
親子たぬきを捕らえた網は網目が大きく、親たぬきは押さえこめるが、ちびたぬきは簡単に隙間を通れてしまう。
網の外に放り出されてしまったちびたぬきは、なんとか親たぬきの服を掴み、落ちないよう耐え続けていた。
「ちび…！しっかり掴まってるし…！ままが助けるし…！」
「ﾊﾔｸﾀｽｹﾃｼｨｨ！」
親たぬきは必死にもがくが、網が絡みついて余計に動けなくなる。そればかりか、体を揺らすことでちびたぬきが振り回される。
そしてちびたぬきの手からするりと服の生地が抜け、ちびたぬきは地面に落ちていき、熟しすぎた果実のように破裂した。
「ｲﾔｧｧｧｧｧ…！…ﾌﾞﾋﾞｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

餌を探しに行こうと森を進んでいた親子たぬきが、罠に捕らえられ、木の上に浮かぶ網の中でもがいている。
「うぐぅ…動けないし…ちび…ままのお腹の上から動いちゃダメだし…」
「ﾀｶｲｼｨ…ｺﾜｲｼｨ…ﾊﾔｸｵﾘﾀｲｼｨ…」
体をくの字に曲げたまま動けなくなっている親たぬきの腹の上で、ちびたぬきがぷるぷると震えている。
そんな二匹の下へ、一人の人間が歩いてきた。その姿に気付いた親たぬきはちびたぬきへ警告する。
「あっ…人間だし…！ちび…静かにするし…きっとこの罠は人間が仕掛けたものだし…見つかったらくじょされちゃうし…」
「ｿｺﾉﾋﾄﾀｽｹﾃｼｨｨｨ！」
ちびたぬきの叫び声に気付いた人間が、即座に手に持っていた高枝切ハサミを振り上げる。鋭い刃先が親たぬきの尻に深々と突き刺さった。
「ンギャァァっし！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

周囲を警戒しながら畑に近づいていく親子たぬき。人間達が農作業に勤しんでいるのを隠れて眺めながら親たぬきが囁く。
「ちび…人間達は畑から野菜を盗むとびっくりするぐらいキレるし…絶対に見つからないようにするし…ままをよく見て盗み方を覚えるし…」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！」
ちびたぬきの叫び声に気付いた人間が、即座に手に持っていた鎌を投げる。回転しながら飛んでいく鎌はちびたぬきの胴を真っ二つに切り裂いた。
「ｲｷﾞｬｧｧ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

人間が農作業している畑を、少し離れたところから眺める親子たぬき。ちびたぬきの口を手で塞ぎながら親たぬきが囁く。
「ちび…畑の近くで人間に見つかるとしぬし…絶対に人間から目を離しちゃいけないし…そこで静かにままを見て盗み方を学ぶし…」
「ﾓｺﾞﾓｺﾞｯ！」
ちびたぬきが返事をしたのを確認すると、ちびたぬきをその場に残し、親たぬきは身を低くして畑へ忍び寄っていった。
「人間の顔がこっちに向いてる間は動かないし…絶対に頭を上げないし…しっぽもお腹に抱えるし…」
地面に張り付くように伏せ、匍匐前進で少しずつ進んでいく親たぬき。植えられている野菜まで残り数メートルの地点まで来た。
「ﾏﾏﾓｳﾁｮｯﾄﾀﾞｼｰ！ｶﾞﾝﾊﾞﾚｼｰ！」
ちびたぬきの叫び声に気付いた人間が、即座に手に持っていた猟銃を発砲する。螺旋を描いて飛んでいく弾丸はちびたぬきの頭を吹き飛ばした。
「ﾌﾞｷﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

畑から少し離れた木々の中で、ちびたぬきに囁く親たぬき。
「ちび…ままが野菜を持ってくるまでここで静かに待ってるし…騒いだら殺されるし…」
「ﾜｶｯﾀｼｰ！」
距離がある為、ちびたぬきの叫び声は人間達に届かない。親たぬきはちびたぬきをひと撫でしてから畑へ向き直る。
「命懸けの戦いだし…人間達の動きをよく見るし…集中だし…さあ行くし…」
親たぬきは農作業に勤しむ人間達をじっと見つめ、静かに畑へ向かって一歩踏み出した。
視線は遠くの人間達へ向けられていた為、目の前に設置されていたトラバサミを踏み抜いてしまう親たぬき。
たぬき以外の獣を想定していたそれはたぬき用の物よりも大きく、親たぬきの顔面を凄まじい勢いで挟み込んだ。
「ぶげぇっし！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

地面をずりずりと這いつくばって進む親たぬき。片足が千切れており、傷口からは血がどくどくと流れ出ている。
「ﾊｧﾊｧし…目の前が暗くなってきたし…どうにか住処まで戻らないといけないし…諦めないし…」
この親たぬきは先程畑に侵入しようとした際、たぬき用トラバサミを踏み抜いてしまったのだ。
刃の部分が鋭すぎた為、挟み込んだ親たぬきの足を容易く切断してしまった。現場には親たぬきのもちっとした足がまだ残されている。
親たぬきが出血により薄れゆく意識の中で思うのは、住処へ残してきたちびのことだった。
「ちびがままの帰りを待ってるし…せめて生き抜く術を伝えてから逝くし…最後にもちもちしてから逝くし…」
顔は泥に塗れ、体は擦り切れながらも必死に這い続ける親たぬき。そこへ小さく丸っこい影がぽてぽてと駆けてくる。
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」
「ち…ちびかし…！？おうちで待ってろって言ったし…！」
「ﾏﾏｹｶﾞｼﾃﾙｼ！ｵｳﾁﾆｶｴｯﾃﾃｱﾃｽﾙｼ！」
帰りの遅い親たぬきを心配し、住処を飛び出したちびたぬき。負傷している姿を見て、住処まで連れて行こうと必死に引っ張っていく。
「ちび…ままはもうダメだし…こんなところに居たら人間に見つかっちゃうし…ままを置いて逃げるし…ちび…」
「ﾔﾀﾞｼｰ！ﾁﾋﾞｶﾞﾏﾏｦﾏﾓﾙｼｰ！」
「ちび…」
ちびたぬきは泣きながら、必死に親たぬきを助けようと引っ張る。親たぬきは泣きながら、そんなちびたぬきを見つめる。
（ちび…いつの間にか立派になったし…きっとままが居なくなってもたくましく生きていけるし…いつか立派なままになれるし…）
「ちび…愛…し…てる…し…」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」
そんな親たぬきの血の匂いに釣られてやってきたもどきが、サッとちびたぬきの腹を引き裂き、内臓を引きずり出して咀嚼した。
「ｷﾞｭｱｱｱｱ！ﾔ˝ﾍﾞﾃﾞｪｪｪｪ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

森の中、農具を手にした人間達に囲まれているたぬきの親子。野菜を盗もうとしたところを見つかり、追い詰められていた。
「ﾏﾏｰ！ｺﾜｲｼｰ！ｸｼﾞｮｻﾚﾁｬｳｼｰ！」
「ちび…大丈夫だし…ままがおとりになるし…その間にちびだけでも逃げるし…」
親たぬきが一歩前へ出て、体を大きく広げ、人間にアピールする。
「ここにはたぬきしかいないし…！ちびに手を出そうとするならたぬきが相手になってやるし…！」
そう言った瞬間、人間達がどよめき、一斉にたぬきに背を向け逃げ出した。
「おおっ…人間達が逃げていくし…いつの間にかたぬきは強さを手に入れていたし…」
「ﾏﾏｶｯｺｲｲｼｰ！」
そう言った瞬間、凄まじい勢いで突進して来た猪の牙に背中から貫かれ吹き飛んでいく親たぬき。
「ぶぎゃしぃぃぃぃ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

「野菜は火を通したほうがおいしくなるし…ちび…一緒にBBQするし…」
「ﾊﾞｰﾍﾞｷｭｰ！」
枝を集め、火を点ける親たぬき。点火直後に吹いた風で、親たぬきにまで引火し全身火だるまになった。
「あ゛づい゛しぃぃぃぃ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

低木の広がる森の中をトボトボと仲良く手を繋ぎながら歩く親子たぬき。親たぬきがちびたぬきへ顔を向けて語りかける。
「ちび…人間がいるところは危険でいっぱいだし…ままと一緒に森の奥でごはん探すし…」
「ｻｶﾞｽｼｰ！」
ちびたぬきが返事をし、親たぬきもにっこりとした笑顔を返す。そして親たぬきが前を向いた瞬間、枝が目に突き刺さった。
「痛っし…！目が痛いし…！なんだし…！」
慌てて一歩下がる親たぬき。無事な方の目からは、枝に突き刺さったままの自分の眼球をはっきりと見ることが出来た。
「ウッギャァァァァァ！目がぁぁぁぁぁしぃぃぃぃ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

人里離れた森の中を歩くたぬきの親子。ふと、近くの茂みがガサガサと音を立て、毛むくじゃらの顔が現れる。
「だ、だれだし…！もどきかし…！ちび逃げるし…！」
「ﾓﾄﾞｷｺﾜｲｼｰ！」
だがそれはもどきでは無く、可愛らしい小さな子熊だった。子熊はずんぐりとした手足でトコトコとたぬきの親子へ近づいてくる。
「おお…リアルベアルフくんだし…かわいいし…」
「ﾍﾞｱﾙﾌｸﾝｱｲﾀｶｯﾀｼｰ！ｺﾝﾆﾁﾊﾀﾞｼｰ！ｷｭｰ！ｷｭｰ！」
もどきでは無かったことに安堵し、子熊の姿をたぬき達が本能で求めるおもちゃと重ね、ちびたぬきは無邪気にはしゃぎだす。
だがそれはベアルフくんでは無く、一匹の獣だったので、ちびたぬきはパクリと頭を咥えられ、牙で噛みつぶされた。
「ﾍﾞｷﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」

森の中を歩いている親子たぬきの近くで茂みが揺れる。現れたのは一匹の大きな熊だった。
「ヒィィ…！くまさんだし…！ちび…！しんだふりするし…！」
「ｼﾇｼ…」
親たぬきは地面に仰向けに寝そべりじっと目を閉じ、ちびたぬきもジタバタしないよう必死に耐えながら親たぬきの真似をする。
熊は突然身を差し出してきたたぬき達を不思議に思いながらも、普通に親たぬきの腹を食い破った。
「やめでえしぃぃぃ！たぬきの内臓返してしぃぃぃぃ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

森の中で大きな熊に出会った親子たぬき。ちびたぬきは慌てて地面に倒れこむ。
「ちび…！くまさんにしんだふりは意味無いし…！ただの餌だし…！目を逸らさずゆっくり後ろに下がるし…」
「ｷｭｩｩﾝ…」
ちびたぬきを抱き寄せながら、ゆっくりと後ずさる親たぬき。目線はしっかりと熊の目に向いている。
熊にとっても不意の遭遇の際には有効な方法だが、この熊は捕食しにたぬきへ近づいてきたので特に意味は無かった。
熊は逃げようとしないたぬき達を不思議に思いながらも、普通に親たぬきをおいしくいただいた。
「じぃぃぃぃぃ！やめでぇ！やめでぇ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

ある日、森の中、熊さんに出会ったたぬきの親子。圧倒的な捕食者を前に、二匹は抱き合って命乞いを始めた。
「ひいぃぃぃ！くまさんだしぃぃぃぃ！食べないでぇぇぇぇし！」
「ﾀﾍﾞﾅｲﾃﾞｪｰ！」
熊は立ち上がり、両方の前足を突き出してのっそのっそと、泣き叫ぶたぬきの親子へ近づく。
そんな熊の爪には、キラリと光る水色の髪飾りがぶら下がっていた。よく見れば、親たぬきが付けていたものだ。
「そ、それたぬきのだし…！まさか落とし物を届けに来てくれたのかし…！ベアルフくん偉いし…」
「ｶｼｺｲｼｰ！」
熊は髪飾りが引っ掛かっている腕をたぬきの親子へ伸ばしてきた。親たぬきはぱあっと笑顔を浮かべ、熊に近寄り髪飾りを手に取る。
熊には別にそんな意図は無かった為、急に近づいてきたたぬき達を不思議に思いながらも、普通に親たぬきをよく噛んで味わった。
「ダヌッ！ギュアガッ！ギュッ！ギェッ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

「ﾏﾏ…ﾂｶﾚﾀｼ…ｻﾑｲｼ…」
薄暗い森の中を進み続けるたぬきの親子だったが、ちびたぬきがぷるぷると震えながら親たぬきへ不満を漏らし始めた。
「ちび…もうちょっとだけ頑張るし…明るい場所に出たら休憩するし…転んだら大変なことになるから抱っこしたまま歩けないし…」
親たぬきはちびたぬきを歩かせようとするが、ちびたぬきはイヤイヤと首を振り動こうとしない。
親たぬきはせめて寒さだけでもなんとかしようと、手近な葉っぱをむしり取り、ちびたぬきの腹を包む。
「ほら…ちびのおくるみだし…ちびによく似合う綺麗な緑色だし…」
「ｱｯﾀｶｲｼｰ！ﾐﾄﾞﾘﾀﾞｼｰ！」
「ふふふ…明るい場所に行けばもっときれいに見えるし…さあ歩くし…」
上機嫌になったちびたぬきを連れ、もちもちと歩く親たぬき。少しして日の差す空間に辿り着いた。
日光を浴びながら腰を下ろす親たぬき。ちびたぬきはよほど葉っぱが気に入ったのか、差し込む光の下でくるくると回っている。
「ちび…気に入ったのかし…なら全身を包んでやるし…葉っぱならいくらでもあるし…」
「ﾏｷﾏｷｼｰ！」
近くに生えている葉っぱをブチブチと千切り、ちびたぬきの全身を包み込む。葉っぱからにっこりとしているちびたぬきの顔だけが出ている。
「ちび…よく似合ってるし…とってもかわいいし…もちもちするし…」
「ﾁﾋﾞﾉﾄﾞﾚｽﾀﾞｼｰ！ﾓﾁﾓﾁｼｰ！」
ちびたぬきを抱き寄せる親たぬき。葉っぱごしにもちもちを始める。ちびたぬきは喜んでいたが、ふと笑顔が消え、ガタガタと震えだす。
「ｷﾞｭｨｨｨｨｨｨ！ｷﾞｨｨｨｨ！」
「ちび…！どうしたし…！お腹痛いのかし…！…うっ！」
突然暴れ出したちびたぬきを強く抱きしめる親たぬきだったが、親たぬき自身も突然の激痛に動きが止まる。
たぬきの親子のそばに生えていた何の変哲もないその葉は、絶対に触れてはならない魔物だった。
触れたものに耐えがたい激痛を与え、その苦しみを数年は持続させる悪魔の植物。
植物故に自ら攻撃してきたりはしないが、自らを害そうとした者に自死を選択させる程の苦痛をもたらす。
オーストラリア原産「ギンピ・ギンピ」。それが今ちびたぬきの全身を包んでいる怪物の名前である。
「うぎぃぃぃぃ！ぎぎぎぃぃぃぃ！」
「ｷﾞｭｶﾞｱｧｧｧｧｧｧ！」
言語能力を失った二匹の生き物が、差し込む光の下でのたうち回っている。そんな二匹のそばで、緑の植物は静かに佇んでいた。
たぬきの親子は終わることの無い激痛にもがき苦しんでいるが、先にちびたぬきが悶絶しながら息絶えた。
「ｳﾋﾞｨｨ…ﾏﾞ…ﾏﾞ…ｷﾞｭ…」
「ぐぎぃぃぃぃ！ぐぎぃぃぃぃ！」

長く歩き続け、疲れた体を川のそばで休めているたぬきの親子。ちびたぬきの腹の虫が鳴っている。
「ままもお腹すいたし…川の中に何か無いか見てみるし…魚は採れなくても貝とか虫とかいるかもし…」
ざぶざぶと川の中へ入っていく親たぬき。腰が浸かるほどまで進んだあたりで急に動きが鈍くなる。
「しっぽも濡れたし…うわっし！」
親たぬきは足を滑らせ転倒してしまい、川に全身が沈んでしまう。慌てて水面から顔を出した。
「この川結構深かったし…ギリギリで足が着いたし…ちび…危ないからこっち来ちゃだめし…ままも戻るし…」
「ﾏﾏﾀﾞｲｼﾞｮｳﾌﾞｶｼｰ！」
陸地へ向かってなんとか進もうとした親たぬきは、下半身の違和感に足を止める。
「なんか魚がつついてくるし…くすぐったいし…」
親たぬきの腰回りを一匹の細長い魚がしつこくつついていた。
「変なとこつつくなし…えっちな魚だし…」
親たぬきは不快に思いながら追い払おうとするが、水中では親たぬきの腕よりも魚の方が素早く動ける為、魚は気にも留めていない。
たぬきの親子は知らないが、この魚は「人食い」ナマズと恐れられ、ピラニアよりも遥かに凶暴で残忍な肉食魚だった。
南米原産「カンディル」。このハンターはそう呼ばれている。集団で獲物の体内に潜り込み、内側からその命を貪り喰う。
現地民の間ではカンディルの侵入を防ぐ為、川に入る際は陶器製の下着を装着するほどだった。
そんな捕食者が潜む水辺へ、柔いたぬきが迷い込めばどうなるか、二匹のたぬきはそれを思い知ることになる。
すぐさま親たぬきの下腹部から侵入し、そこから体内に噛みついてくる。
「んあぁぁぁっしぃ！たぬきの中に入ってくるしぃぃぃぃ！」
どうにか抵抗しようにも、相手は既に体内にいる。追い払うことも出来ず、ただ内側から内臓を食われる痛みに耐えるしかない。
水中に血を吹き出しながら、ゆっくりとジタバタする親たぬき。足が川底から離れ、再び全身が沈んでいく。
ちびたぬきから親たぬきの姿は見えなくなり、大量に吹き出る泡と共に、水面が赤く染まる。
そして流れ出る血に呼び寄せられた大量のカンディルが、たぬきの穴という穴から体内に入り込み、親たぬきを細切れにした。
「ゴボォォォ！ブボォォォ！」
「ﾏﾏｰ！ﾏﾏｰ！」

「ちび…あの中に甘いものがたくさんしまってあるって聞いたし…誰かに取られる前に取っちゃうし…」
「ｱﾏｰｼ！」
親たぬきが手に持った棒で蜂の巣を叩く。中から蜂の大群が飛び出し、たぬきの親子を針でめった刺しにする。
「ウギャァァァァ！い˝だい˝し！い˝だい˝し！い˝だい˝しぃぃぃぃ！」
「ﾋﾞｨｨｨｨ！」
全身が赤い腫れだらけのたぬきの親子が必死にジタバタとしているが、蜂の大群は容赦なく攻撃を続ける。
手を出した巣がまずかった。親たぬきが叩いた巣に居たのは、ただの蜂では無かった。
普通のミツバチは一匹につき一回しか刺すことは無い。だが、この蜂は何度も何度もたぬきの肌を刺し貫く。
他の蜂は「防衛」の為に、「警告」した後でその戦闘能力を使うが、この蜂は違う。
対象を「殺す」為に、「無警告」で攻撃を開始する。巣に限らず、自身に近づくものには問答無用で攻撃する。
自身の持つ毒液が尽きない限り、何度でも毒針を突き立てる。攻撃をやめるのは、対象が死んだ時だ。
キラービーと呼ばれる蜂を駆除させる為にアメリカが輸入しようとしたが、「我々の手に負えない」と中止された逸話もある。
それが世界最強の蜂。日本原産「大雀蜂」。人間の死亡件数が最も多い危険生物は熊でも鮫でも無く、"蜂"である。
大雀蜂が強靭な顎でたぬきの肉を咥えこむ。それだけで鋭い痛みがたぬきを襲う。
そして巨大な針を勢いよく突き刺してくる。針が刺さっているのだから、当然かなり痛い。
その針を伝って、毒液が体内に流し込まれる。針が刺さる痛みを超える痛みがたぬきの体内へ染み込んでいく。
そして、それを何度でも繰り返す。攻撃対象となったたぬきが死ぬまで、何度でも突き刺し、何度でも毒を流し込む。
そして、それを数え切れぬ数の大雀蜂が繰り返す。獲物となったたぬきが死ぬまで。
「ギャッ！ギャッ！ギャッ！ギャッし！もうやめてしぃぃ！」
「ｷﾞｭｨｨｨｨｨｨ！」
大雀蜂達は親たぬきの耳を噛みちぎり、ちびたぬきの目を突き刺す。そして体の肉を細かく引き千切り、団子状にして巣へ持ち帰る。
ちびたぬきは暗闇の中で、大量の羽音と親たぬきの悲鳴だけが聞こえていた。何も分からないまま全身から痛みが昇ってくる。
大雀蜂の毒は激痛をもたらすだけでは無い、その毒は死をもたらす効果を持つ。決して強くは無いが、間違いなく持っているのである。
少しして蜂毒を大量に流し込まれたちびたぬきの心臓が動きを止める。小さい体では致死量をとっくに超えてしまったのだ。
「ｵｷﾞｭｯ！」
「ちびぃぃぃぃ！ちびぃぃぃぃ！」
小さいほうを仕留めた蜂達は、まだ叫ぶ気力が残っている大きな獲物目掛けて針を突き立て続け、少しして攻撃をやめた。

「夢かし…前のたぬ生の記憶を見てたような気がするし…ひどい夢だったし…」
うなされながら目を覚ましたたぬきは、深く息を吐き、脂汗まみれの額を近くの葉っぱで拭った。


おしまい