『いきづまり』

冬。
たぬきにとって最も厳しい季節である。
他の動物たちのような暖かな毛皮を、たぬきは持たない。
その代わりになるはずの服も、防寒具としては全く頼りない。
とはいえ服持ちのたぬきはまだマシなほうで、野良では裸のたぬきも珍しくなく……そういった野良たぬきの多くは、冬の間に息絶えることになる。


＊＊＊＊


ﾋﾞｭｩｳｳｳｳｳｳｳ…………
寒風が吹きすさぶ。

公園の近くの狭い路地裏。
ダンボールを横倒しにしただけの巣の中で、親たぬきと子たぬきがじっと寒さに耐えていた。
「…ママ…さむいしぃ……ﾀﾇｩ………」
「もっとくっつくし…ほら…」
親たぬきが、ガタガタと震える子たぬきを膝上に抱き寄せる。
「あし……ジンジンし……いたいしぃぃ…………」
子たぬきは、寒さで真っ白になった自分の両足を、親たぬきの足の間に埋めた。
「……っ…」
そのあまりの冷たさに、親たぬきの身体がビクリとなる。

巣の中にはたくさんの落ち葉が積まれており、親たぬきは胸のあたりまで埋まっている。
その足元にはボロボロのレジ袋が数枚敷かれ、じっとりと湿ったダンボールから水気が伝わるのを防いでいた。
これが、この巣の寒さ対策のすべてであった。

「さむいしぃ…さむいし……ママ……」
親たぬきは、哀れな声で訴えてくる子たぬきを、しっかりと抱き締めてやることしかできない。
子たぬきの、ボサボサの髪。薄汚れた肌。ガビガビのシッポ。こけた頬。
そして悲しみに満ちた顔を見るたび、親たぬきの心は申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだった。


＊＊＊＊


この親たぬきは、服持ちのたぬきとして公園の近くで暮らしていた。

今からひと月ほど前。
秋が深まってきたその時に、茂みの中でｷｭｰｷｭｰと鳴いている裸のちびを見つけた。
おそらく、どこからともなくリポップしたのだろう。

拾わない方がいい。
冬の間は、自分が食べていくだけでも精一杯になるだろう。
ちびを育てる余裕なんて……

しかし、土の上で悲しげに手足を動かすちびを見て、放っておけなかった。
抱き上げてやると、ちびは安心したような鳴き声をあげて顔をすり寄せてきた。
その可愛らしさに思わず笑みがこぼれる。

…そのときから、たぬきは親たぬきとなった。

そのちびが、ようやく喋れるほどに育ったのが、つい先週のこと。
だが……生活は、ますます厳しさを増すばかりであった。


＊＊＊＊


親たぬきの腕の中で震えていた子たぬきのお腹が、ｸｩｸｩと鳴る。
「ママ……おなかすいたし……」
寒くても…むしろ寒いほど、空腹は襲ってくる。
「……ちょっとまつし……」
親たぬきは子たぬきを膝から下ろし、巣の隅をゴソゴソと探る。

街棲みのたぬきが、人間の残飯や生ゴミに頼って生きているのは、夏も冬も変わらない。
しかし、この街ではゴミ荒らしへの設備対策が進んでおり、手が出せなくなったたぬき達は飢えに苦しんでいた。
ポイ捨てされる僅かな食べ残しを拾うか…
もしくは、虫や木の実を食べるしかない。
そして、冬にはそのどちらもが枯渇する。

「ほらし……お食べし…」
親たぬきが差し出したのは、あちこちで落ち葉をめくって見つけた、テントウムシ。
それを見て、子たぬきがイヤイヤと首を振る。
「それ…もうイヤだし……にがいし……もっとおいしいの………」
「……ワガママはメッだし……」
「イヤだじぃぃ……」
子たぬきが目の端にこんもりと涙を浮かべ、ズビズビと鼻水をすする。
しかし、こればかりは親たぬきにもどうしようもない。このテントウムシですらも、貴重な食料なのだ。

「……仕方ないんだし……」
親たぬきのションボリが深まる。

「…………」
子たぬきは涙目のまましばらく沈黙すると、その小さな手をテントウムシに伸ばした。
口の中に入れ、表情を歪めながら、一生懸命咀嚼する。
「ﾝｹﾞｯ………ﾝﾌﾞｯ………ﾝﾀﾞﾇｯ…」
噛みしめるほどに溢れる、苦みと渋み。
子たぬきは、この味が嫌いだった。
しかし、大好きな親たぬきが苦労して手に入れたものであることは、ちゃんと理解していた。
「ごぐっ……し………」
飲み込んだ瞬間、反射的に吐き気が襲ってくる。
「…ｵﾞｪｯ…ﾀﾞﾇ………………」
それを何とか堪え……子たぬきは黙って親たぬきに抱きついた。
「…えらいし……」
親たぬきに頭を撫でてもらいながら、子たぬきは思いっきり鼻水をすすり上げた。


＊＊＊＊


翌日、ようやく空が白くなってきた早朝。

親たぬきは、腰のあたりを揺すられて目を覚ました。
「……ママ……ママ……」
「ん………どうしたし……？」
親たぬきが、落ち葉の中から身を起こす。
「ﾀﾇｩﾝ……ママ……おなか………いたいし………」
子たぬきの、悲壮な声。
「うんち………したいしぃ…」
「…我慢できないし…？」
「できないし…………ひっぐ……」
顔を白くして、お腹をおさえて縮こまる子たぬき。

オシッコやウンチを巣の近くですることは、危険な行為だ。
徘徊するもどきに臭いを嗅ぎつけられてしまうかもしれない。悪臭で人間に見つかり、駆除されることもある。
それらを避けるため、この親子の場合は、公園の茂みの中をトイレと決めていた。

「わかったし……公園まで行くし……」
「……もっ……でちゃう…し…」
「大丈夫し……ママが抱っこしてあげるし……」
親たぬきが立ち上がり、子たぬきの両脇に手を入れる。

その瞬間、子たぬきの両膝がカクンと折れた。
「あひっ……し……！」

ﾌﾞﾁﾞｭｯ

汚い音。
子たぬきの内腿を、濁った液体が垂れる。
「……だ……し……」
ﾁﾞｭﾁﾞｭﾁﾞｭﾌﾞﾁﾞｭﾎﾟﾎﾟｯ……
一気に流れ落ちる、下痢ウンチ。
「………ﾀﾇｰ…」
プルプルと震えながら、子たぬきがその上にへたりこんだ。

漂う悪臭。

「ひっ……ひぐっ……」
子たぬきが、嗚咽をもらす。
恥ずかしさか、情けなさか。
ボタボタと涙を流しながら突っ伏し、押し殺した声で泣き始めた。
「……ﾀﾞﾇｩｩ……ｩｩｩｩｩｳｩ………ｳｩｩｩ………ｩｩ………」

呆然と見ていた親たぬきであったが、子たぬきの様子を見て、慌ててその小さな身体を抱き締める。
「だっ…大丈夫だし……いいんだし……」
「……ｩｩｳｳｩｩ………ｩｩ………」
「……泣いちゃダメし…」
「…ｩｩ………ｩｩｩｳｩ……ｯｯ…」
必死に泣き声を押し殺す子たぬき。

漏れたウンチは、そのままにはしておけない。
「…ほら……おまた…キレイにするし……」
「ｩｩﾝ…ﾀﾇｩﾝ………」
親たぬきは、まずは下痢ウンチまみれの子たぬきの下半身を、丁寧に舐め回す。
「ぺろぺろし……ぺろぺろし……」
「ぐす…ごめんし……ママ……ごめんじ……」
涙と鼻水でグシャグシャの顔のまま、子たぬきが何度も謝る。
「ぺろぺろし……気にしなくていいし……ぺろぺろし……」
ベットリと下痢便を吸ってしまったシッポも、丹念に舐めていく。

この子たぬきは、生まれてから一度も水浴びをしたことがない。
沁みついた臭気は相当なものだが、親たぬきは黙って舌を動かし続けた。

続いて、地面に垂れた下痢便も舐め取ることにした。
「ぺろぺろし…………し…………」
下痢ウンチ、その中身。
ほとんど消化されていない虫の破片。
「…………し……」
親たぬきの眉間が険しくなる。
子たぬきの腸が……いや、身体が弱っていることは明らかだった。

ちゃんとした食事が必要だ。

「……ぺろぺろし……ぺろぺろし……くんくんし……まだし…ぺろぺろし……」
下痢ウンチの臭いが消えるまで何度も何度も舐め取りつつ、親たぬきは自分の不甲斐なさを責め続けていた。


＊＊＊＊


それから1時間ほど経った頃。

「ゃあ……いっちゃイヤし……」
「ママが美味しいご飯を探してくるし……いい子で待ってるし…」
「ﾀﾇｩﾝ……」
まだ下痢ウンチのショックから脱していない子たぬきが、切なげに親たぬきの足に縋る。

親たぬきが、食べ物を探しに出掛けようとしているのだ。

「ちょっと帰りは遅くなるかもしれないし…ちゃんと葉っぱに隠れておくし…」
しっかりと子たぬきに言い含める。
「イヤぁし……ママ…ママ…」
「……ご飯がないと大変だし…分かるし…？」
「ｷｭｯ…………ｷｭｩｩﾝ………わかったし……」
子たぬきが、泣きそうな顔で渋々と引き下がる。
「お腹空いたときはこれを食べるし……お水はこれし……」
干からびたミミズと、ペットボトルのフタに溜めた水。それらを親たぬきが葉っぱの上に置くが、子たぬきの表情は暗い。
「………しぃ……」
「ほら、早く隠れなさいし……」
子たぬきは、不安げな顔をしつつも、ノロノロと落ち葉の中に潜り込んでいった。
「よしよし…いい子だし…」


＊＊＊＊


親たぬきは、この日はいつもとは違う場所まで食料を探しに行くことにした。
どこかに食べ残しが捨ててあるかもしれない、飲食街。
ゴミ捨てがルーズになりがちな、集合住宅。
コソコソと、とにかく慎重に立ち回りつつ、可能な限り遠くまで足を延ばす。

…そして、気づけばもう昼を過ぎていた。

「ないし……ないし……」
食料が見つからない。分かってはいたが、手を出せるようなゴミ箱もない。
親たぬきの表情に、焦りの色が濃くなる。

今日こそはマトモな食事を持って帰りたいのに。

気づけば、夕方。
収穫はゼロであった。

「寒し……」
気温が下がり始め、親たぬきがブルブルと震える。

見つからないものは、仕方がない。きっと日が悪かったのだ。
…また虫を探さないと。
ミノムシでも、ダンゴムシでも、テントウムシでも、カメムシでも。
食べられるなら、なんでも。

親たぬきは背を丸めて帰路についた。


＊＊＊＊


巣の近くの公園までトボトボと帰ってきた親たぬきの視界に、ある女性の姿が映った。

公園のベンチにレジ袋を置き、スマホで通話している女性。
その買い物袋の口からは、大きなドーナツの入った袋がはみ出て、落ちそうになっていた。

「………し…！」
サッと身を隠す親たぬき。
親たぬきは過去に一度だけ、人間が落としたドーナツの切れ端を食べたことがあった。

甘くて美味しくて、フワフワ。

子たぬきの顔が、親たぬきの脳裏に浮かぶ。
もしアレを持って帰れたら、きっと喜んでくれるだろう。
「………」
しかし、人間のモノを盗むのは、最も危険な…これまで絶対に避けていた行為であった。

いつもの親たぬきなら、諦めていただろう。
だが、一日中歩き回って徒労に終わったという辛い事実が、親たぬきの判断を狂わせた。

「………やるし……」

ちびのために、やるしかない。
そろりそろりと、女性に気づかれないように、ベンチに近づく。
ベンチの端から手を伸ばせば、届くはずだ。

親たぬきは、喉をごくりと鳴らす。
もし失敗して捕まったらどうなるか、考えるまでもない。

「………そろーし……そろーし……」
小声で呟きながら、ベンチの脇まで来た。
女性は、まだ気づいていない。

「…………し！！」
全力でベンチをよじ登り、レジ袋を横倒しにする。
ボトリと落ちたドーナツの袋を両手で掴み、ベンチから転げるように下りた。

「あっ！　コラ！」
女性の叫び声。
親たぬきは振り返らない。一目散に植え込みの中に飛び込――

ズン！

その前に、女性の靴に左足とシッポをまとめて踏み抜かれた。

「ぎっ……！！」
グチャリと、何かが潰れる感触。
「ギャッ……！！　ヴォォオオオオオオオオウッッ！！」
目の前が真っ白になるほどの激痛。喉の奥から迸る絶叫。
「ダヌッ……！　おヒッ…！！　じいぃィイイイ！！！！！」
全身を波打たせ、死に物狂いで暴れる。
シッポの付け根に、ミチミチとした感触が走る。

思った以上の抵抗に怯んだのか、女性の脚の力が一瞬弱まった。

「じいいいぃぃ！！」
その機を逃さず、親たぬきはドーナツの袋を掴んだまま、女性の靴の下からなんとか身体を引きずり出す。
そして、植え込みの奥へと転がり込んだ。


＊＊＊＊


それから小一時間ほど経った。
あたりは徐々に暗くなりつつある。

「おふ…し……おふ……し……」
親たぬきは服も髪もボロボロにして、ようやく巣のある路地裏に辿り着いた。
ここに至るまでの道を、ずっと這ってきたのだ。

歩けない、どころか立てない。

左足は途中からありえない方向に曲がり、紫色に大きく腫れあがっている。
そして、シッポは根元で千切れかけて、力なく垂れ下がっている。
傷口からはドロドロとした血が流れ出て、服を赤黒く染めていた。

目の前がチカチカするほどの痛みに、親たぬきは荒い息をつく。
「…ぎっ！！　……いだい…じぃ…やだし……」

だが、ようやく帰ってきた。巣に。

「た……ただいま……じぃ……」
その瞬間、落ち葉の中から子たぬきが飛び出してきた。
「ママっ……！！」
親たぬきの顔面に抱き着く。
「おそいしぃぃいい！！　……こわかったしぃ………」
「…え…えらいし……ちゃんと待ってていい子だ……じ…」
「……ママ……？」

子たぬきが、親たぬきの様子がおかしいことに気づく。

見たことが無いようなひどい表情。そしてなぜか這いつくばっている。
「……ママ…どこかいたいし……？」
「…大丈夫し……」
子たぬきに心配をかけまいと、必死に笑みを作る親たぬき。
そして、手に握っていた袋を子たぬきの前に置いた。
「これ…ゴハンし…」
既に袋はボロボロになっており、中身が顔を覗かせている。

シロップのかかった、甘い甘いドーナツ。

「タヌッ……！？」
子たぬきが、その匂いに前のめりになる。
「ご……ごはん……し？」
「そうし…」
親たぬきが力を振り絞ってドーナツを覆う袋を取り去る。
「たべて、いいし……？」
早くも、子たぬきの口からボタボタと垂れる涎。
「もちろんし……」
「！」
言うが早いか、子たぬきはドーナツに飛びついた。
まずは一口。

「！！！　………あまいしぃいいいいいい！！！！」

ほっぺを両手でおさえ、身体をウネウネさせて、幸せを表現する。
そしてまたすぐにドーナツに抱きついた。
「もぐもぐし！！　もぐもぐし！！　あまいしぃぃいおいしいし！」
たぬ生で初めての、圧倒的な甘み。
「タヌゥン！　もぐもぐし！　タヌタヌゥゥン！　もぐもぐしぃ！！」
子たぬきは、全身をシロップでベタベタにしながらがっついていた。

「………し……」
親たぬきは、幸せそうな子たぬきから視線を外し、巣の入り口に突っ伏す。
「ひぎ……ダヌッ…！」
左ヒザが地面に強く当たり、激痛が走った。
「あひ……ひぃ…ひぃし……」
じわじわと、頭の芯が冷えてくる。

足がこのままであれば、もう歩くことは出来ない。ゴハン集めも出来ない。
…いずれ死んでしまう。

「ひっ……ヒグッ……し…」
親たぬきは、こみあげてきた嗚咽と吐き気を押し殺す。

自分が生きることを諦めるわけにはいかない。子たぬきが居るのだ。
そう、子たぬきが……

　………ﾝﾌﾞ…　　…ｵ……

呻き声。
「しっ…！？」

親たぬきがハッとして目を向けると、子たぬきは地面の上で倒れ、ビクンビクンと波打っていた。

「……ｵﾞｯ…　……ﾑｫｯ…」

「どっ…どうしたし！？」
「………………ﾋｯ……」
子たぬきは白目を剥き、喉を両手でおさえている。時折、声にならない声が漏れていた。
「しっかりするし…！」
慌てて子たぬきの傍に寄り、その口の中を見る。

ドーナツが、喉の奥にぎっしりと詰まっていた。

「…たっ…大変しぃいぃいいい！」
「……ｳﾞ………」
弱々しく震える子たぬきの顔色から、徐々に血の気が引いていく。
「吐き出すし！！　ほら…しっ！…しっ！」
必死に子たぬきの背中をモチモチと叩く。
しかし、怪我の痛みで、腕に力が入らない。何の効果も無かった。
「………………………ﾋﾞｮｯ………　ﾝｨ…」
「ダメしっ……このままだとっ………」
自分ではどうにもならないことを悟り、親たぬきの両目に涙があふれる。

「…助けてしぃ………かみさま…」

「こんなところに住んでやがったか」

人間の声。
親たぬきがギョッとして振り返る。

ﾌﾟｼｭｩｳｳｳｳ!

そこに吹き付けられるスプレーの煙。
「ダヌッ！！！」
顔に直撃し、思わず吸い込んでしまう。

「ギュッ………オッ……！！！　ﾝﾎﾞｵｫｵ………ｵｯ……!!」
怪我の痛みも忘れて、親たぬきが自分の喉を両手で押さえる。
息が、出来ない。
「ﾝﾋﾞｯ……………ｶｺｯ………」
吸っても空気が入ってこない。

「ﾌﾞｯ…………ﾋﾞｮｫｫｵｵｵ―――――……………!!」

完全にパニックに陥り、苦悶の表情で呻き声を上げながら親たぬきが倒れ込む。

子たぬきが下敷きになったが、もはや親たぬきにそれを気遣う余裕は無かった。


＊＊＊＊


「……害獣めが……」
殺たぬスプレーを持った男性が、足元で痙攣するたぬきを見下ろし忌々しげに呟く。

この男性は、近所の住人である。
公園の清掃活動中、たぬきにモノを盗られたという女性の訴えを聞きつけ、どこに逃げたのか探していたのだ。
辺りが暗くなり始め、諦めようとしたその時。
血の跡が道路を横切っているのを発見し、ここを突き止めた。

巣の場所の見当がついたら、あとは駆除道具を持ってくるだけである。

「いつも公園の中で糞してたのもコイツか…？」
もはや死を待つだけのたぬきを足でひっくり返す。
「おっ……もう1匹居たか」
親たぬきに潰されたのか、苦しげな顔をしたまま動かない子たぬきが居た。

ﾌﾟｼｭｩｳｳｳｳｳｳｳｳ!!!!

念のために、殺たぬスプレーを親子両方の顔面にたっぷりと噴霧する。
「…………ｹﾞ………」
親たぬきが、ビクンと身体を跳ねさせる。
「……………」
子たぬきも、微かにピクリとなった。

…が、反応はそれだけ。
1分ほど待つと、2匹ともに完全に動かなくなった。

「……揃いも揃って、辛気臭い顔してるな…」
眉間をギュっとさせたションボリ顔。

2匹の亡骸。
巣らしきダンボール。
その中に詰まった落ち葉や、よくわからないゴミクズ。

全てをポリ袋に押し込み、男性は路地裏を去っていった。


――まだ冬は始まったばかりである。

END


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※殺たぬスプレー
たぬきにだけ毒性のあるガスを噴射する。
神経系に作用し、窒息、痙攣、失明といった症状を引き起こす。
特に冬場には、たぬき達は風通しの悪い場所に固まっていることが多く、効果抜群。


