散歩コースをいつもと変えてみたら見事に道に迷ってしまった。
「たまには自然を満喫してみるか！」と安易に山の方に進んだのが運の尽き。
道はすっかり舗装されておらず、人工物と言えそうな物も看板の残骸らしき朽木しか無い。もはや獣道になりかけている。
看板があるということは、この先に何かがあるのだろうか？文字はかすれていて全く読めない。
せっかくここまで来たのだ。何があるのか確かめてみよう。


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道と言えるのかすら怪しくなってきた道を進むと、その先には神社…らしきものがあった。
鳥居、本殿、拝殿、手水舎、社号碑、社務所、等々…神社に欲しいものは全て揃っている立派な神社だ。

しかし、全体的に朽ち果てしまっているのだ。
鳥居は色褪せている上に苔むしているせいで、灰色と緑色が入り混じった薄汚い色になっている。
建物の状態も全体的に悪い。本殿でさえ、屋根の瓦が殆ど無い酷い有様だ。
らしき、と言ったのはこれが原因だ。こうも見事にボロボロだと、神社と言っていいのだろうか？

社号碑があるので名前が分かる…かと思ったが、とても読めるような状態じゃない。神社と書かれているかすら分からない。
とりあえず一礼してから鳥居をくぐる。
意外にも手水舎には水がちゃんとあった。上を見ると屋根に穴が開いている。この水はきっと雨水だろう。
流石に雨水を口に含むのは抵抗感があるので、手だけ清めて先に進む。

拝殿まで進むと、拝殿の中から音が聞こえてきた。野生の動物でも入っているのだろうか？
そう思った瞬間だった。たぬき？が出てきて声をかけてきた。

「ﾌﾝｷﾞｬﾛ!?もしかして人間さんﾃﾞｽか!?」


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そのたぬき？は見たことない姿をしていた。
茶色を基調とした毛の色や、ションボリとした顔はおおよそ同じだが服が全然違う。
普通のたぬきは緑色の軍服のような服装をしているが、このたぬきはセーラー服のような出で立ちだ。
というか、たぬきと言うよりはキツネのようだ。
他にも色々と違うところはあるものの、本人に聞くのが一番早いだろう。

「キミは…たぬき？」
「ﾊｲ！フクたぬきはフクたぬきﾃﾞｽ！」
「ここに住んでいるの？」
「ﾊｲ！私達はここで暮らしていﾏｽ！」

私"達"？……そう思っていると、拝殿の中からゾロゾロとフクたぬきが出てきた。

「ﾅﾝﾄ!?人間さんﾃﾞｽか!?初めて見ました！」
「占いによれば『新たな出会いは吉』と出ていﾏｽ！」
「やはりこれもシラタキ様のおかげ…！」

ションボリした顔の割にやかましい。

「ここで会ったのもきっと何かの縁ﾃﾞｽし、少し休んでいきませんか？」
「うん。歩き疲れたし、ありがたく休ませてもらおうかな」


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フクたぬきに誘われて拝殿の中に入ると、ゴチャゴチャとした光景が広がっていた。
どこで拾ってきたのか謎の水晶玉、耳が欠けている招き猫、変なお札の束、いい感じの棒、etc…
その中でも特に目を引いたのが、なんか色々と祀られている祭壇だ。
枯れた菊の花、綺麗な鳥の羽根、玉虫の死骸…床に散らばっているものよりは御利益のありそうなもの達が飾られている。

「これは…？」
「ﾊｲ！これは『さいだん』ﾃﾞｽ！シラタキ様を奉っていﾏｽ！」
「シラタキ様…？」
「ﾊｲ！シラタキ様は神様ﾃﾞｽ！シラタキ様の仰ることは絶対ﾃﾞｽ！」

美味しそうな名前の割になんか物騒な神様だ。

「そういえばさっき占いがどうとか言ってる子がいたけど…」
「ﾊｲ！この水晶玉に『ﾌﾝﾆｬｶ～ﾊﾝﾆｬｶ～』と力を込めるとシラタキ様からのご神託が下りﾏｽ！」
「それじゃあ……帰り道…というか町への近道があるかっていうのも占える？」
「ﾊｲ！それぐらいお安い御用ﾃﾞｽ！」

実を言うと、スマホの充電を忘れていたせいでバッテリーが切れかけているのだ。
フクたぬきはここに住んでいるから、きっとこの辺の道がわかるはずだ。
ホット・リーディング(※)でそれとなく教えてくれるかもしれない。
(※事前に調べた情報を基にそれっぽいことを言って、占いが当たっているかのように見せかけるインチキ占い)

「ﾌﾝﾆｬｶ～…ﾊﾝﾆｬｶ～……出ました！『素直に来た道を戻るのが吉』だそうﾃﾞｽ！」

シラタキ様とやらに正論を諭されてしまった。そりゃそうだよな。

「ｱｧｯ！まだまだ来てﾏｽ！………………あ…え…？『ちびを連れて行くと迷わない』…？」

「…………人間さん…ちびを連れて行ってください…」
「いいの…？辛そうだけど…」
「ｷｭｰ！ｵｶｰｻﾝﾄﾊﾅﾚﾙﾉｲﾔﾃﾞｽ！」
「ほら、ちびもこう言ってるし…」
「駄目ﾃﾞｽ！断っじて駄目ﾃﾞｽ！」
「どうして…」
「シラタキ様の仰ることに反すると罰が当たりﾏｽ！未来永劫祟られﾏｽ！それならみんなで死んだ方がましﾃﾞｽ！」

そんなバカな…と思ったが、周囲のフクたぬき達がみんな頷いている。

「それならつれて行きます…」
「ﾊｲ！分かったならいいﾃﾞｽ！」
「ｷｭｰ！ｲﾔﾃﾞｽ！ｲﾔﾃﾞｽ！ｵｶｰｻﾝﾄｲｯｼｮｶﾞｲｲﾃﾞｽ！」
「ワガママ言うなﾃﾞｽ！悲しいのは私も一緒ﾃﾞｽ…」

「それならやめればいいのに…」と言うことは私には出来なかった。


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疲れを癒した私は、暗くなる前に神社を出発することにした。

「人間さんもちびもさよならﾃﾞｽ…達者にするﾃﾞｽ…」
「ｲﾔﾃﾞｽ！ｲﾔﾃﾞｽ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

フクたぬきの占いの通り、全くもって道に迷うことなく帰ることができた。
けれども、ちびをこのまま飼うのもどうかと思ったので、ちびを返しに行くことにした。
ずっと「ｵｶｰｻﾝ…」と泣いているのでかわいそうだ。
それに、『ちびを返してはいけない』とはシラタキ様も言っていなかった。

しかし、それは叶わなかった。
神社を見つけることが出来なかったのだ。
同じ道を歩いているはずなのに景色が違う。あの朽ちた看板さえ見当たらない。
スマホの電波が通じない。GPSも駄目だった。念のため持ってきた方位磁針がクルクルと回っている。
「狐につままれたような」とはまさにこういう事だろうか？
なんとも後味の悪い結末だった…

「ｵｶｰｻﾝ…」