『親切心』


ある日、部屋の隅っこに飾っていた観葉植物がたぬ木になっていました。
実の生らない植物のはずなのに、いつの間にやら真っ赤で綺麗な実が生っていたのです。

こうなった原因は簡単に推測できます。
十中八九、飼っている豆たぬきの影響でしょう。

思い返せば最近「そろそろちびが欲しいし…」といったことをしきりに呟いていました。
はいはい、と適当に返事をしていましたが、まさかこんな事になるとは…

彼女たちの言葉を借りれば「ションボリが実ったし…」みたいなことなのでしょう。多分。

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しかし「家族が増えるよ！」と素直に報告するわけにはいきません。

何しろ、このたぬ木から生まれるたぬきが豆たぬきとは確定していないのです。
たぬきは凄く適当な生き物なので、豆たぬきの子供も豆たぬき…とは限らないらしいのです。

けれども、私たちが住んでいるマンションでは飼っても平気なのは小動物までです。
つまり豆たぬきはOKで普通のたぬきはNGなのです。

素直になれない理由はそこです。
もしも普通のたぬきが生まれてしまったら保健所送りにするしかありません。
子供と出会って一日で「はい、お別れしなきゃね」ではあまりにかわいそうです…

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どうしようか悩みつつ適当にネットで調べていると、とても良いグッズを発見しました。
その名も"たぬ木防止剤"です！

その名の通りたぬ木になるのを防止するという、農家の必需品な薬品らしいです。
それだけでなく、たぬ木の実からたぬきが生まれるのも抑止するというのです！
これがあれば「残念だけど生まれなかったね」とできるはずです！

善は急げという感じでホームセンターでたぬ木防止剤を買ってきました。
肥料と同じようなアンプルなのでお手軽です。
早速たぬ木と化しているっぽい観葉植物にあげましょう。

「ｷｭｰ？何してるし…？」
たぬきちゃんがケージの中から問いかけてきました。
そういえばケージと観葉植物は結構離れているから、たぬ木になったっぽいことを知りませんね。

「いやぁ～…これがたぬ木になったみたいだから栄養をあげなくちゃって」
真実とはまるで真逆のことを言っていますが、これもたぬきちゃんのためです。
「ウチでは飼えないかもしれないから事前に間引いているんだ」なんて口が裂けても言えません。

「本当だし？見てみたいし…」
「よしよし、見せてあげるから。ほら、手に乗って」
確認のためにたぬきちゃんを運んであげます。

「ションボリとしたオーラを感じるし…確かにたぬ木だし…」
「オーラでわかるんだ…」
私の勘違いであってほしかったですが、本当にたぬ木だったようです。

「これで自分もママになれるし…早くちびが生まれてほしいし…」

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それから特に何事もなく、あっという間に二週間が経ち…

「そろそろちびが生まれるはずだし…楽しみだし…」
私にもそのことが分かるぐらい、たぬ木の実はパンパンに膨らんでいました。

「これだけ熟れていればもういいはずだし…ちびを傷つけないようにパカッと割ってほしいし…」
たぬ木の実から生まれるたぬきの子供は、熟れて柔らかくなった実を食い破って出てくるそうです。
しかしそれを待ちきれないのか、さながら帝王切開のようなことを要求してきました。

どうせたぬ木防止剤が効いていれば、いつまで経っても生まれてくることはないのです。
要求通り割ってあげて「おちびちゃんいなかったね。残念だったね」と慰めてあげましょう。

「それじゃあ…って、めっちゃ柔らかい…握るだけで崩れそう…」
林檎っぽい見た目なのに完熟の桃のような、むしろそれ以上の柔らかさにビックリしました。
「よし、開けるね」
握り潰さないように慎重に開くと、そこには…

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「…………ｷｭｰ？……これ…なんなんだし…？」

"それ"は名状しがたいモノでした。
毛、肉、布、血……要素だけ見ればたぬきに違いありません。
ですが、"それ"はたぬきではないと断言できます。

ミンチのようにグチャグチャなわけではなく、かと言って生き物のように整然とはしていない…
例える言葉が思いつきませんが、強いて言えば"なりそこない"。

「……ぇ……ちび？…ちびはどこだし…？」
たぬきちゃんも"それ"をたぬきだと、ましてや待ち望んでいた子供だとは認識していないようでした。
少々心苦しいですが現実を突きつけてあげましょう。

「実の中にあったっていうことは、それが…」
「そんな…噓だし…噓だと言ってほしいし……あぁ……ちび…ちﾋﾞ…ﾁﾋﾞ…」
たぬきちゃんの髪が、皮膚が、服が……最終的には全身がパキパキと音を立てながら硬化していきました。
固まりながらも、声にならない声で「ちび…」と言っていたような気がします。

たぬきって極度のストレスがかかると蛹になるって本当だったんですね。
とか思って現実逃避している間にたぬきちゃんは蛹化を完了していました。

今、私の目の前にあるもの。たぬきになれなかったもの。たぬきだったもの……

「……うん、見た目キモいから捨てよっ！」
勢いのままに、たぬきのようなもの達を中身が見えないタイプのゴミ袋に突っ込みました。

「たぬきを飼うと碌な目に遭わないってよく聞くけど本当だったね！」
なんかもうヤケクソなテンションになって独り言を喋りまくって…
「次は素直にハムスター飼おう…ケージ使いまわせるし…」
最後は電池が切れたかのように眠りに落ちました。

「今思えばたぬきってそんなにかわいくないかも…サナギになるとかキモいし…zzz…」

完