春
それはたぬきにとって最も生きやすい季節だ
多くのたぬきが冬に耐え消えずにリポップに旅立ち、少数の生き残ったたぬきと新たにポップするたぬきが暖かな季節を謳歌する
多少の肌寒さはあれども日差しからの暖かさは丁度良く、何よりも少し歩けば春の芽吹きが数多に存在する
冬の間に枯れていた草木は命を取り戻し、美しい花々を咲かしていく
そうした恵みは野良として生きるたぬきにとって今日を生きるための糧となる

「よいしょ…よいしょ…ふぅ……」

道路わきに生えている一本の茎を引き抜いているたぬきもまた、そうした糧を得ようする一匹であった
茎の先端には穂のあるつくしは全国各地で自生しているのもあり、田舎であれ都会であれ春頃になると一度は見た事のある人も多いだろう
わざわざ野良のたぬきが自生されているつくしを取って食おうとも人々は気にしない
いくら春先から取れる食材の一つであっても、多くの人がつくしが食べられる食材であるとも知らないのもあるだろう
そのためたぬきが春につくしを収穫している姿は一種の風物詩のようなものと見られていた

「ひっこぬくし…」
「ｶﾞﾝｼﾞｮｳﾀﾞｼ…」
「ｼｨｨ…ｼｨｨ……」

そんな中でも小さなチビたぬきたちも同じようにつくしを引き抜こうとしていた
成体のたぬきと違って精々5~10cmほどの子たぬきでは同じぐらいの植物を引っこ抜くのは苦労する
複数匹係で協力しながら引き抜こうとし、びくともしない茎に休憩とジタバタを挟みながら再度挑戦する
そうした我が子たちの姿をピクリともしないはずのションボリ顔が、少しばかり微笑んで見えるのは冬を乗り越えた先に見た穏やかな光景だからなのか
ここで手を貸すのも容易いがあえて子供たちに任せるのも親の教育だ

「しぃ…！ギュウウウ！」
「ﾇｹﾀ…ｼ!」
「ｷｭｳｳ!」

たかが一本、されど一本
子たぬき姉妹が協力して引き抜けた一本のつくしは同じ時間で成体たぬきなら10本は収穫できるだろう
しかし親のように食料を調達し、親の手伝いをしたいと思った子たぬきにとってそれは大きな達成感となる

「よく頑張ったし…さぁ家に帰ってご飯にするし…」
「たのしみだし…」
「ｷｭｰ♪」

巣に戻ればさっそく収穫したつくしを食べる…前に下処理をしなければならない
まずは袴と呼ばれる茎から生えた葉を取り除かなければ食えたものじゃないからだ
たぬきのもっちりとした手では上手く処理ができないため、石を使って器用に葉を取り除いていく
子たぬきたちも最初は興味深そうに見ていたが、途中で飽きてしまったのか追いかけっこの遊びをやりだした

「まだ時間がかかるから助かるし…」

育ち盛りの子たぬきにとって目の前で食べれるものがあるのに食えないのは癇癪を引き起こす要因にもなる
なので食材の下処理中でつまみ食いをされるより遊んでくれたほうが助かるのだ

袴を取り除いたつくしを今度は水洗いで綺麗にし、ボウルに水を貯め込むとそこにつくしを投入した
アクの強いつくしはそのまま食べても成体たぬきなら我慢して食べれる程度で子たぬきには癖が強い代物だ
本来であれば水で数度のアク抜きをした後に沸騰させた湯で茹でるまでの工程が必要になるが、火を持ちえない野良たぬきには無理な相談だ
あくまで水で綺麗にする程度にしかできないがそれで充分、たぬきにとって春の食糧になる

「ﾆｷﾞｬ…ﾆｷﾞｬｲｼｨｨｨ」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「ぷふぅ…！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「ｷｭｰ?」

アクが取れるまであとは待つだけなのだが、どうやら目を離した隙に子たぬきたちはアク抜き中のつくしをつまみ食いしたようだ
しかしまだ苦くて癖のある味に子たぬきの味覚では上手く食べきれず、吐き出してジタバタをすることしかできない
そんな姉たちの姿を見て困惑する末っ子たぬきと、呆れた顔の親たぬきは落ち着かせるようにモチモチをし始める

春の息吹きはまだ始まったばかり
彼らのたぬ生は如何なものになるかはまだまだ未定である



しかしながらつくしを普段、人が食べない理由はもう一つある
一つ目は前述の通り、つくしが食べられる食材であると知らないから
もう一つはつくしの生える場所が基本的に道路わきにあり、そして目立つように飛び出た形に生えている事だ

「わんわん！……クゥゥゥン」
「おーよしよし、今日もたくさん出たな…さて、水で流してっと…」

目立つように生えているからこそ、犬や猫の小便の的にされやすいという点だった
人間だって小便をする時はトイレに汚れを見つければそこを優先的に当てようとするように、マーキングという目的のある犬たちの小便も同様に何かしら目標のあるものがあれば優先的に当てて排泄しようとする

たぬきたちが人間の住まうような場所で、そんな場所でもつくしを収穫できるような場所であれば当然のように飼い犬の散歩ルートであったりする
そうなれば必然的につくしは犬や野良の生き物たちの小便の良い的となる
犬の小便に当てられ、飼い主によってつくしを含む周辺を水で洗い流されることで時間も経てばそこが小便をされた場所だと分からないだろう
しかしそうしたつくしを知らぬ間にたぬきたちは収穫して嬉しそうに食べて行く

知らぬが仏と言うべきか