・予行練習

「おかーさん！ごはんまだだし？」
「おなかすいたし…」

「はいはい、もう少し待っててね…」

キッチンに向かいエプロンを巻く。
足もとでは二匹のたぬきがせわしなく駆け回っていて鬱陶しい。

「今日は…おうどんがいいし！」「わ…わたしもだし…」

「…作ったげるから、大人しく待っててね」

「やぁたしー！」「しー…！」

ドタドタと足音を鳴らしながら居間に戻っていくたぬきの背を見ながら、大きく溜息をつく。
覚悟はしていたが、育児？がここまでストレスになるとは…

ーーーーーーーーー

遡る事半年前。いつも通り遅くに帰宅した夫から、仕事の都合で地方に1年間出張になる事を告げられた時だ。
仕方がないとは言え女一人で一年間を過ごす事に不安を感じていると告げると、夫からペットを飼ってみては？と提案があったのだが…
犬派の私と猫派の夫との確執は深く…度重なる喧嘩の末、近頃ペットとして人気を集めている「たぬき」を飼うことになったのである。

小学校低学年並の知能を持ち、人語を話せる為話し相手としても申し分ない。
将来夫との間に設ける子供の子育ての予行練習も兼ねる事が出来、まさしく一石二鳥だった。

たぬきショップのショーケース、仲良くたぬき玉になって眠る姉妹ちびたぬきの愛らしさに感動し、即座に購入を決意した。

ーーーーーーーーー

長女のたぬきには赤いリボンでポニーテールに髪を結い、妹のたぬきは青いリボンでツインテールに。たぬきは区別が付きにくいのだ。
髪を結んであげると、「いもうとかわいいし…」「おねえちゃんもかわいいし…」と言わんばかりに「ｷｭー！」「ｷｭｩー！」とお互いの髪とほっぺたを良く撫であっていた。

名前も付けてあげた。長女を「つきみ」、次女を「てんぷら」と。
意味を理解しているのか分からないが、何度も呼ぶ内に「ｷｭ！ｷｭｰ♪」と鳴きながら私の膝に乗ってくれた。

ーーーーーーーー

姉妹でお互いのお尻を追いかけ回し、疲れて無防備に眠りこけている時。頬っぺたをこっそりモチモチすると眉をひそめてｼﾞﾀﾊﾞﾀした。
うどんが好物だと聞いたので毎日一食は必ず与えた。フォークを用いて一生懸命うどんをすする姿に思わず笑みが零れたものだ。
お風呂は桶にお湯を掬って入れてあげた。尻尾が濡れる度にションボリとする姿が愛らしく、ドライヤーで乾かしてあげると即座に元気を取り戻したのが愉快だった。
寝る際はケージに入れていたが、寂しいと言わんばかりに涙声でｷｭｰｷｭｰ鳴くものだから、潰さないように気を付けつつ一緒に寝てあげた。

大変だ…けども、楽しい。生活に張りが出てきたのが分かるし、思考は何時の間にかあの子たちが中心になっていた。
そしてひと月も経った頃だろうか。「ｷｭ…ま、まま！」「まま、ま…ま！」二匹が初めて人語を話した時、私は感動の余り号泣してしまった。
「まま…？」「なかないでち…」と心配してくれたその姿に、この子たちは一生私が守る、と決意した。

のだが…

ーーーーーーーー

「「おかーさん…！」」
買い物から帰宅するや否や、顔中をクレヨン塗れにした二匹の姿が目に入る。
「これ…おかーさんだし！」「がんばって書いたし…」
差し出された画用紙には、辛うじて人の顔と判別できるようなものが極彩色で描かれていて何とも誉め言葉に悩んだ。
「あ、ありがとう…」
「…？よくわからないけどよろこんでくれたならよかったし！」「あげるし…」
絵を受けとり苦笑しながら戻った居間は、家電やテーブルのみならず、壁、床に至るまで色とりどりのクレヨンで飾り立てられていた。


「しー…！」「待つし…」
「もう…静かにしなさい！」
もう夜中だと言うのに大声を上げながら追いかけっこをする二匹を止めようとするも、聞く耳を持たない。
おかーさんも追いかけっこするし…」「やったし…！」
あ、こら！…もう！」
家の中を縦横無尽に掛けめぐり、挙句かくれんぼまで始めた二匹は中々捕まえられず…押し入れの布団の中で仲良く眠っていたのを見つけた頃、時計の針は12時近くを指していた。


「「ごはんおてつだいしますし…」」
「あ、じゃあ…これ持って行ってもらえる？」
少し心配だが、仕事を与えないとぐずるだろう。完成したうどんを載せたお盆をつきみに預ける。
「おねーちゃん、わたしも持ちたいし…」「だめだし…あげませんし！」
ふたりのほほえましい喧嘩に苦笑した直後、耳をつんざく様な轟音が聞こえて慌てて振り向く。
しっぽを抑えて泣き喚くつきみ。わざとらしくそっぽを向くてんぷら。
床には割れた容器とその中身が盛大にぶちまけられていた。
「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃ！！！しっぽ痛いしぃぃぃぃ！！！」「……………」
今にも殴り合いを始めかねない二匹を宥め、片付けを終わらせ…コンビニで代理の食事を買い終え帰宅すると…
強盗に入られたのかと錯覚せんばかりに散らばった居間。その中心、泣き腫らした顔で眠るつきみとてんぷらの姿を見ては、ただ脱力してその場にへたり込むしかなかった。

ーーーーーーーーー

そんな生活が続いて早半年。季節は既に真冬だ。
つきみ達の面倒を見る都合、友人達と会う機会も減った。おまけにもうずっと満足に眠れていない。
今更そんな事を言っても仕方がないのだろうが…
「甘やかしすぎたのかも…もう少し厳しくしないと…ってあれ？」
買い物を終え帰宅しても、玄関には誰も居ない。いつもならつきみとてんぷらが必ず出迎えてくれるのだが…嫌な予感がして急ぎ家中を駆け回るも二匹の姿はどこにも見当たらなかった。
「ウソでしょ…つきみ！てんぷら！何処行ったの！」大声で呼びかけるも返事はない。
吹き込んで来る風から居間の窓が少しだけ開いている事に気が付いたのは、それから数十分後の事だった。
 
散歩コースの公園。行きたいと良くねだっていたスーパー。
「たぬきですか？そもそも区別がつかないんで分かんないっす…すぐ追い出しますし」
近所のたぬきマート。
「あのリボンを付けた奴かし？今日は見てないし…それより新発売のたぬきまんじゅう(くるみ味)いかがですかし…」
手土産を持って野良たぬき達にも情報を集ったが成果なし。
「ごめんし…誰も見てないそうだし…おわびに木の実と…ちびあげますし…(ｷｭｰ)」
どちらも丁重にお断りした。
 
無我夢中で探し回っていると気が付けば辺りは静寂に包まれ、夜の帳が下りていた。
ズキズキと痛む足を抱えて帰路を歩く私の姿はたぬきに負けない位ションボリとしていた事だろう。
保健所と警察に連絡…旦那にも…捜索用のビラも作らなきゃ…
そうして色々思索している内に自宅に着く。玄関のドアノブに手を掛け、私の目に飛び込んできたのは
大の字になって寝転んでいるつきみとてんぷらの姿だった。
「ﾀﾇｰ…ﾀﾇｰｰ…」「ﾎﾟｺｰ…ﾎﾟｺｰ…」

ーーーーーーーーー

玄関のドアが開く音が聞こえ、それに反応して長女たぬきのつきみが目を覚ます。
「ﾀﾇｰ…ﾀﾇｯ!?…あっ！おかーさんやっと帰ってきたし…てんぷら…おきるし！」
おねちゃ…ねむいし…とうわ言を繰り返す次女たぬきのてんぷらの頬っぺたを起きろと言わんばかりにモチモチし始める。
「ﾎﾟｺｰし…ﾎﾟ…おねえちゃん、なんだし…？…あ、おかーさん…遅いし…」
「ごはん早くたべたいし…今日はうどんがいいし！」
二匹のたぬきが眉を八の字にし、不機嫌そうな顔で飼い主に詰め寄る。帰宅が遅れた抗議だ！と言わんばかりにモチモチの両手で膝を叩き始めた直後、飼い主が口を開いた。

「どこに行ってたの？」

「し…？あ…ちょっとざいりょうを集めに行ってたんだし…！」「実は…おかーさんにプレゼントがあるし…」
二匹のたぬきが赤面しながら背中に手を回し、内股にもじもじし始める。覚悟を決めたかのように隠していた物を飼い主に向けて差し出した。
「「おかーさん、いつもありがとうだし…」」
つきみが手にしていたのは不揃いのどんぐりとビーズを糸で束ねたブレスレットらしきもの。
てんぷらは松ぼっくりに穴を開けて紐を通したペンダントをそれぞれ差し出した。

「おかーさんのためにお外に出ていーっぱい集めてきたんだし…！」「がんばって作ったし…うけとってしー…」
玄関の明かりが薄暗く、飼い主の表情は良く見えない。だがたぬきの頭上に伸ばされた手を見て、二匹はそっと目をつぶった。
おかーさんにナデナデされちゃうし…と期待を込めながら。

だが手を上げた飼い主は手を横に振りかぶり、勢いを付けてつきみの頬っぺたを思いっ切り引っ叩く。
「ダヌゥッ！…え…？なに？なんだし…おかーさﾌﾟｷﾞｭｯ」
勢いよく壁に衝突し、仰向けに転がされたつきみの上に靴も脱がずに飼い主がのし掛かる。
薄暗いが確かに見えたその表情は、怒りと悲しみと諦めが入り混じった様な、今まで見たこともない顔。
つきみがあげたブレスレットを本人の眼前で思い切り引き千切り、地面に叩きつける。
馬乗りになり拳を振り下ろす最愛の飼い主。それが、つきみが最後に見た光だった。

殴る。殴る。殴る。
女性の細腕で瞬間的な打撃に強いたぬきにダメージを与えるのは難しいだろう。だがそんなこともお構いなし、たぬきを貫通して床に拳を叩きつける勢いで何度も何度も殴りつけている。
「おがあざっやダヌｯゥ！ｷﾞｭｩｩｩ…ｷﾞｭｧ…ｷ゛ﾞｭ゛ｧ゛ｧ゛！！！」
無造作に振り下ろされた拳はついにたぬきの眼に命中した。ﾌﾟﾁｭ…と、粘性の液体が引き上げられた拳に糸を引いて纏わりつく。
「おめめぇぇぇぇぇ…いだいじぃぃぃぃぃ！！！みえないじ…や」
黙れ。そう言わんばかりにもう片方の無事な眼にも拳を叩きつける。
「ぎゅぅぅぅぅぅぅぅ！！！く゛ら゛い゛し゛…なんにもみ゛え゛な゛い゛し"ぃぃぃぃ……」

「ああ…あ…」
何が起こっているのか理解できない。そう言いたげなてんぷらの表情はとまどいと恐怖に溢れていた。
最愛の飼い主が、突如自分の姉を殴りつけ始めたのだ。感情の機微に疎い幼いたぬきに、母親が手をあげた理由は理解できる筈もなかった。
だが、目の前の蛮行を黙って見ている事も出来なかった。
「や…やめるし…おかーさん、目をさましてし！」
勇気を振り絞り、飼い主に向けて威嚇する。その声にピタリ、と動きを止めるとゆっくり、ゆっくりと飼い主が振り返る。
「おかーさんにはお…おばけがとりついたんだし…！」
「そうでなきゃこんな事しないし…おかーさんから出てけし…このー！このー！」
「おばけ！おに！たくぼｷﾞｭｩｯ！」

飼い主の背中めがけて勇猛果敢に突っ込んだてんぷらだが、全力で放たれた人間の裏拳になす術もなく吹き飛び、壁に頭から激突した。
潰れた両目を抑え、顔中青あざと血まみれのつきみ。
呻き声をあげながらうつ伏せで痙攣しているてんぷら。
その姿に溜飲が下りたのだろうか、飼い主はたぬき達に静かに問いかけた。
「ごめんなさいは？」
「なっ…んでし…いみわかんないじ…つきみ達、なんにも悪いことしてないし…」
「そうだし…おかーさん、おかしくなっちゃったんだし…！」

たとえ自分は悪くないと思っても、相手の様子を察して頭を下げることが出来れば、まだ希望はあっただろうか。
だが時として人間ですら誤る判断を１歳にも満たないたぬきに求めるのは余りにも酷だ。
燃え盛る感情の炎に水ではなくガソリンを注いでしまった事をすぐに後悔する事になるだろう。
火というものは初期対応を誤ってしまえば、後は対象を消し炭になるまで燃やし尽くすだけなのだ。
 
ーーーーーーーーー

「ごめんなさい」…と求めていた返答と真逆の物が返ってきた時、精神的に追い詰められた人間がどういった行動を取るのかは想像に難くない。
馬乗りになっていた状態から立ち上がると、てんぷらのツインテールを鷲掴む。
「じっ！いたっ…やめてし…！」
必死にｼﾞﾀﾊﾞﾀで抵抗するも手の力は微塵も揺るがない。むしろもがけばもがく程より深く頭髪にダメージが入っていく。
「髪引っ張っちゃやだじ…やめでじぃぃぃ…」
ﾌﾞﾁﾌﾞﾁ、と髪が抜けていくのも気に掛けず、飼い主はてんぷらを引き摺る。
目的地は風呂場であった。昨夜の残り湯が存分に残っているのを確認し、満足気な笑みを浮かべる。
てんぷらを床に放り出し、後頭部から鷲掴むようにして再び持ち上げた。
「ﾀﾇｰ…やめてし…やだじ…」
てんぷらの必死の懇願も飼い主には届かない。ふぅ、と一呼吸を整えるや否や、てんぷらの顔面を
風呂に張られた残り湯目掛けて躊躇なく押し付けた。
「おかあﾌﾞｺﾞｯ！？…………………！！！！！(ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ)」

沈めて。
「……(ﾎﾞｺﾞｺﾞｯ)……！！！」
上げて。
「…ぷひゅ、ぷひゅー…ひゅー…やめてじ…ぐるし…お」
沈めて。
「…………………………………………………！！！」
上げて。
「ｹﾞﾎｯ！なんでじ…ｺﾞﾎｯ…やめろじ…はなぜじぃぃ！！！ｷﾞｭｩｩｩ！ｷﾞｭ」
沈めて。
「……………………………」
上げて。
「…………ﾀﾞﾇ………ｵﾛﾛﾛ……」
手足を動かす力が徐々に弱まり吐瀉物が水を汚しても手は止まらない。何度も何度も何度も何度も沈めては上げてを繰り返す。
てんぷらの体は既に痙攣を始め、呼吸音は徐々にか細く不規則になっている。既に三途の川の道半ばだろう。

この仕置きが十往復を越えた辺りだろうか。度重なる水責めで意識を失いかけているてんぷらの膀胱から尿が堰を切ったように勢い良く漏れ始めた。
てんぷらお気に入りの、ベアルフ君のワンポイントが付いたショーツと勝負服を黄色い液体が濡らしていく。押さえていた飼い主お気に入りのパンツもだ。
畜生の尿で衣服が汚れる事を許容する心の余裕は今の飼い主に無い。水から引き揚げたてんぷらを仰向けになるよう乱暴に寝かせ、ショーツを脱がす。
「ﾀﾇｰ…ｺﾞﾌｯ…ﾀﾇｰ……あ、やだじ…パンツぬがさないでし…」
蒼白だった顔面が仄かに朱に染まり、下腹部を覆うように両手で隠すも、すぐに強い力で跳ね除けられる。
露わになったてんぷらの尿道と菊門。見ないで…と言わんばかりに小刻みに震えるそれらがより飼い主の逆鱗を刺激したのだろう。
近くにあった直径3cm程の化粧水のボトルを掴むと、何の躊躇いもなくつきみの尿道目掛けてそれを捻じ込んだ。

「……ッギ゛ュ゛ゥ゛ゥ゛！！！いだっ、おまた、だ゛め゛だ゛じ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛！！！」
ブチブチ、と無理やり肉が裂ける音と聞くに堪えない絶叫が風呂場に響き渡る。
たぬきの柔軟性に富んだ肉体は自身の尿道に差し込まれたそれを拒む事無く受け入れた。お腹の辺りが挿入されたボトルの形にぽっこりと膨らんでおり、何とも滑稽だ。
その様子に気分を良くしたのか、顔の端に引きつった笑みを浮かべた飼い主は同じ位の大きさのボトルをもう一本掴む。目標は勿論決まっている。
「うぅ～…おなかぁ…たぬきのおなかぁ…………えっ…あっだめだし…そこだめですし…うんちさんの出るところだし…やめてし…」
「…………し゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛！！！！！」

－－－－－－－－－ー

「…よしっと…これでもうお漏らししないよね」
服を全て脱がされ、はだかたぬきとなったてんぷらの下腹部に、相撲取りの廻しよろしくガムテープがT字状に巻かれている。
分厚く何重にも巻かれたそれはたぬきの力ではびくともしないだろう。勿論両穴に詰められたボトルはそのままだ。
「新しい勝負服、似合ってるよ。お相撲さんみたいで」
「…………」
余りの激痛に既に意識を失っているてんぷらのツインテールの先端を掴み、引き摺りながら飼い主は風呂場を後にした。

ーーーーーーーーー

「…うぅ…なにもみえないし…つきみのおめめどうなっちゃったんだし…」
両目から血を垂れ流しながら、周囲の状況を探ろうと手探りを繰り返すその姿は何とも痛々しい。
「てんぷら…どこだし…いたっ…」
壁に何度も頭をぶつけながらも、匂いと音を頼りに妹と飼い主の姿を探す。

「…し？………これ…てんぷらのおまたとおしっこの匂いだし…！こっちに続いてるし…」
途中、引き摺られたてんぷらの尿の跡を見つけてからは追跡は容易だった。何度もお互いに嗅ぎあった匂いだ。間違えるはずもない。
水滴は廊下からリビングに、そして開け放たれた窓の外まで続いていた。
「くんくんし…くんくんし…これ、おそとに居るし…？」
「てんぷら…今行くし…！」
痛みを何とか堪え、匂いを頼りに妹の所まで歩き出す。あと少しだ。

確かにてんぷらは庭の中心にぽつんと放り出されていた。
気絶からは回復したようではあるが、挿入された異物の痛みに身動きが取れず、仰向けの態勢で弱々しく呼吸をしている。
視界の端、こちらに向かう姉の姿が見えた瞬間。目を見開いて体を動かし、必死で声を振り絞って何かを伝えようとするもそれが届く様子はない。
その唇はこう言っている様に見えた。「おねえちゃん、来ちゃだめだし」と。

金槌を携え虚ろな表情をした飼い主が窓の後ろで息を潜めている事に、妹を助けようと必死なつきみは気が付かなかったのも無理はないだろう。

ーーーーーーーーー

「てんぷら…今たすﾌﾞｷﾞｭｯｩ！」

窓の外に足を踏み入れた瞬間。無慈悲に振り下ろされた金槌がつきみの頭に直撃した。
金槌の直径分ぽこん、と後頭部が凹み、衝撃の余り両目から吹き出した血が宙を舞う。
止まりかけの独楽のようにその場でふらふらと回転した後、地面に顔面から倒れこむ。
「じぃ～…じぃ～…」
死にかけのセミの様な鳴き声を上げ悶えるつきみに、再び金槌が振り下ろされる。
「ｷﾞｭﾋﾞｯ………うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！うっ！………………………」
二度目の衝撃は後頚部だった。たぬきの生命維持においても重要な神経が数多く通っている頸部へのダメージは、当たり所が良くても半身不随等の恐れがある。
そこを人間の力で、しかも金槌で叩きつけられたらどうなるか。
壊れたラジオの様に叫んでいたつきみだったが、1分もしない内に全身を弓なりに反らす様な態勢で硬直すると、そのままピクリとも動かなくなった。

「あぁ…おねえちゃ………うぅ～…やだしぃ…」
目からポロポロと涙を流し、姉に寄り添おうと体を芋虫の如く這わせる。
痛みを堪えのそり、のそりと移動するてんぷらに飼い主は酷く冷たい視線を向けていた。何と醜悪な生き物だろうか、と言わんばかりに。
窓とカーテンが閉まる音だけが、静かに鳴り響いた。

ーーーーーーーーー

それから数分後。てんぷらはようやく姉の元へ辿り着く。
「うんしょし…うんしょし…やっと…おねえちゃん…大丈夫かし…？」
返事はない。既につきみは事切れている。死後間もないため、体は微かだが暖かかった。それを生きていると勘違いしたのだろうか。
「あしたは…おかーさんに一緒にあやまるし…なんか…わるいことしちゃったんだし…」
服を剥がされ寒さに震えるもちもちの体を姉に優しく擦り付ける。
「あったかいし……おねえちゃ…」
「てんぷらも…ちょっと…ねむ…る……し」

何時の間にか、空からは無数の雪欠が降り注いでいた。
つきみとてんぷらを優しく包み込む様にその体に落ちては解ける。
やがて積もった雪で見えなくなった二匹の姿は、神の使いに連れて行かれた様にも見えた。


ーおわりー




面倒なガキ共が居なくなって早半年。出張から夫が帰って来た。
二匹の死体は山に捨てた気もするし、刻んで生ゴミに出した覚えもある。まぁ…正直どうでもいい。
誤魔化すのは簡単だった。
母親が恋しいとしきりに叫んでいて、ある日突然何処かに逃げてしまったと言ったら簡単に丸め込めてしまったからだ。

思い出すのは辛いから、と理由を付けて二匹にまつわる物を全てゴミに出した時。
ようやく心から解放された気がした。


・飼い主
　一年後、夫との間に念願の子供を授かり大いに喜んだ。
　それが双子と分かるまでは。　　