俺、槙島 奏馬(まきしま そうま)は寂れた繁華街の片隅にあるクルージングスペース──俗に言う有料ハッテン場で最悪の年越しを迎えようとしていた。  大晦日の夜。居酒屋で一人寂しく酒を飲んだ後に他人の温もりが恋しくなった俺はハッテン場に飛び込んだが、後悔する事になった。その理由は三つある。  一つ目の理由。それは、俺が四十を過ぎたおっさんである事だ。  この有料ハッテン場に年齢の上限制限は無い。だが、いざ店内に入ると二十代の若者ばかり集まっていた。若者は若者同士で交わりたいと思うのが自然。俺みたいなおっさんがあぶれるのもまた自然なのだ。  二つ目の理由は、俺のちんぽがでかすぎる事。一度、物好きな若者が俺に声を掛けようとする素振りを見せたが、俺の股間を見ると黙って離れていった。  下着越しでも分かる程、馬獣人である俺のちんぽはでかい。俺のポジションがウケだったらただ無用の長物になるだけで済んだだろうが、生憎と俺のポジションはタチだ。でかいちんぽが好きなウケは多いらしいが、それにも限度があるらしい。  そして最後、三つ目の理由。  このハッテン場の閉店時間は零時だ。そして現在の時刻は二十三時四十五分。つまり、あと十五分で閉店。しかも俺以外の客が居ない状態である!  こんな時間ギリギリで入店する客など居るわけもない。悶々とした気持ちを抱えたまま帰るしか無さそうだ。そう思って俯きながらロッカールームに向かおうとした瞬間── 「あの。もうすぐ閉店時間ですが……」  黒い半袖シャツと白いハーフパンツを着た筋肉質な白虎の獣人の男が俺に話しかけてきた。  顔をしっかりと上げて彼の顔を見ると、よく晴れた日の空のように澄んだ青色の瞳に視線が吸い寄せられた。一瞬綺麗だなと思ったが、よく見ると黒目は小さく目付きも鋭いため、中々に怖い顔をしている。もし睨まれたら恐怖で縮み上がってしまいそうだ。  思わず視線を再び下に向けると、彼が着ているシャツの胸元に小さく“STEP ON”と書かれているのが認識できた。どうやら彼はここの店員のようだ。入店時に受付をする時は手だけが出入りできる小窓で料金の支払いを行うため店員の顔を見ておらず、彼が店員である事に気がつくのに少し遅れてしまった。 「すみません。今、帰ります」  俺が頭を下げて急いでロッカールームに向かおうとした瞬間、彼は慌てて右手を軽く左右に振ってこう言った。 「こちらこそ、すみません! 退店を急かした訳じゃないっす。むしろ逆で……」 「逆?」 「はい。もし時間があるなら、温かい飲み物でもどうっすか。オレ、一人で年越しするのが寂しくて……」  一人寂しく年越しをしたくないのは俺も同じ。断る理由なんかない。 「嬉しい申し出だ。お言葉に甘えようかな」  恐らく、彼は俺よりかなり年下──二十代前半くらいだろう。被毛の艶がとても良いし、仕草も若々しい。さっきまで怖い顔だなんて失礼な事を考えていたが、言動が合わさると何だか可愛く見えてきた。我ながらちょろい男だ。 「良かった! 丁度お湯が沸いたところなので、こっちにどうぞっす!」  彼は俺の手を引き、受付のすぐそばにあるスタッフルームの中に案内してくれた。  こじんまりとしたスタッフルームの中はよく暖房が効いており、パイプ椅子と簡素な木の机、そしてやや小さなテレビが置かれていた。 「座ってちょっとお待ちくださいっす」  俺は頷き、パイプ椅子に座ってテレビを眺める。テレビには、どこかの寺で鐘撞きをする様子が映し出されていた。  まさか、ハッテン場という煩悩まみれの場所で除夜の鐘の音を聞く事になるとはな。滑稽すぎて苦笑してしまう。 「はい、お待たせしました! 淹れた後で言うのもなんですが、甘いの大丈夫っすか?」  彼が差し出してくれたカップから、湯気と一緒にふわりと甘い匂いが漂った。美味しそうなココアだ。 「うん、好きだよ。ありがとう」  息を吹きかけた後、ココアを口に含む。  ──甘くて、温かくて、安心するな。 「美味しい」 「へへっ。オレ、昔からココアを淹れるのが得意なんすよ。まず、少しだけホットミルクを注いでココアパウダーをしっかりと溶かすのが大事で……」  彼は笑みを浮かべながら、美味しいココアの淹れ方を語り始めた。俺も釣られて笑いながら、相槌を打つ。  そうしている内に、あっという間にココアを飲み干してしまった。 「ご馳走様。体も心も温まったよ。本当にありがとう」 「いえいえ! オレのわがままに付き合ってくれて、こちらこそありがとうっす。……わがままついでに、お客さんの名前を聞いてもいいっすか?」 「そういえば名乗ってなかったな。俺は奏馬。槙島 奏馬だ」 「へえ、良い名前っすね! オレは海門 虎之介(かいもん とらのすけ)っす!」 「そっちも良い名前だ。時代劇に出てきそうで」 「それ、よく言われるっす」  虎之介くん、か。古風でかっこいい名前だ。 「……あっ! もうすぐ年が明けるっすよ!」  テレビから、あと三分で年が明けるというナレーターの声が聞こえてきた。 「まさか、君みたいなかっこいい子と年越しできるなんてな」 「かっこいいだなんてそんな……。お世辞でも嬉しいっす」 「お世辞じゃないんだけどな」 「マジっすか? ……なら、こんな事しても嫌じゃなかったり?」   虎之介くんは俺の近くにしゃがみ込むと、俺の股間に手を伸ばしてゆっくりと撫で回してきた。下着越しでも、彼の手の温もりが良く分かって心地良い。 「虎之介くん。君、俺みたいなおっさんに興奮するのか?」 「はい。オレ、ちんこでかそうな年上の雄が好きなんすよ。実は、奏馬さんを見た瞬間から尻が疼いてて……」  虎之介くんが頬を赤らめ、はあはあと荒い息を吐いている。尻が疼く……つまりは、欲情しているという言葉に偽りは無いようだ。 「虎之介くんは助平なんだな。そんな事を言われたら、我慢できなくなるぞ」  撫でられている内に、俺のちんぽに血が集まってきた。このままだと履いているボクサーパンツが張り裂けそうなので、慌てて脱ぎ捨てる。 「うわ、すごい……」  虎之介くんは、露わになった俺の屹立したイチモツを凝視した。見られていると思うと、より興奮してしまう。 「わっ!?」  俺は椅子から立ち上がり、虎之介くんを抱き抱えた。その状態で、彼に口付けをする。 「んう……」  テレビから、年明けを祝う声が聞こえた。  最悪の年越しになると思ったが、ギリギリで逆転勝利できて最高の年越しを迎えられたな。 「……さあ、姫始めと行こうか。虎之介くん」  長い口付けの後に発した俺の言葉に、虎之介くんはただ黙って頷いた。  §  虎之介くんを抱えたまま、俺はハッテン場の奥にある個室に向かった。  個室内にあるベッドはピンク色の薄明かりに照らされていて、淫猥なムードが漂っている。 「あっ……!」  俺は虎之介くんをベッドに寝かせた後、彼のズボンを剥ぎ取った。  ──虎之介くんの白い被毛によく映える黒のボクサーパンツ。その前面は、彼の勃起したイチモツの形が浮き出ていた。 「よっぽど興奮してたんだな」  ボクサーパンツに触れると、ぐっしょりと濡れているのが分かった。尻を疼かせながら我慢汁をだらだらと溢れさせていたのだろう。 「どれ、虎之介くんのお宝を拝見っと」  ボクサーパンツに手を掛け、ゆっくりと下ろす。直後、少し皮を被った太い肉棒がぶるんと揺れながら姿を現し、辺りに濃い雄の臭いを漂わせた。  脳天を突き抜ける雄の臭気を堪能しながら、彼のボクサーパンツを完全に剥ぎ取り、筋肉質な太腿を押して大きく開脚させる。 「お尻の穴がひくひく動いてるな」 「は、恥ずかしいっす……」  虎之介くんのアナルは腸液に塗れて妖しい光を放っており、何かを期待しているかのように小さく開閉を繰り返していた。 【続く】