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6号車 パルネ・ゼルクァス 「………………」 1779513463480
6号車 パルネ・ゼルクァス 〈黒の猪号〉が冒険者を集めて突発的な依頼に対応していようが、 1779513498647
6号車 パルネ・ゼルクァス それこそ〈黒の猪号〉が地の果てを走っていても6号車は変わらない。 いやそうでもない。さすがに地の果てでは変わる。今はそうではないので6号車は変わらない。 1779513532383
6号車 パルネ・ゼルクァス エルフは今日もそこにあり、そして本を読んでいるのだった。 1779513547406
6号車 ハイン・マクター 「ここが……」車両の戸を開けて疲れた様子の冒険者がやってくる 1779517579974
6号車 ハイン・マクター 「図書車両、いつの間にこんな物が増えていたなんて……いえ、ここ数週間は街の復興に付きっきりだったせいでしょうか……」ずらりと並ぶ本を眺めながら図書車両を歩む 1779517706567
6号車 パルネ・ゼルクァス ちら。 1779517706568
6号車 パルネ・ゼルクァス 車両の奥のカウンターと思しきあたりで熱心に本を読み耽るエルフが………。 1779517724840
6号車 パルネ・ゼルクァス あなたは見覚えがありますね。 1779517728152
6号車 ハイン・マクター 「ん……貴方は確か……パルネさん、でしたか?」すっかり本に紛れている司書を見つけ 1779517811068
6号車 パルネ・ゼルクァス 「……………………………?」 1779517812700
6号車 パルネ・ゼルクァス 「…………。…………。……………………。…………。………………………………。…………」 Now loading.... Now loading.... 1779517842872
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ハイン・マクター」 検索完了。 1779517850536
6号車 ハイン・マクター 「あっ、はい、ハイン・マクターです。うっかり以前名乗り忘れていたのかと思いました……」 1779517923099
6号車 パルネ・ゼルクァス 「おまたせしました」 1779517933969
6号車 パルネ・ゼルクァス 「頭の中にあれこれとたくさんのものを詰め込んでいるせいで人名の取り出しには時間がかかります」 1779517936768
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ああ、先日はご苦労さまでした。論理的に言って多少はお役に立てたようで幸いです」 1779517967656
6号車 パルネ・ゼルクァス 応じるだけの価値があると認めたのか、広げていた本を閉じてカウンターに置いた。 1779517983608
6号車 ハイン・マクター 「いえ、こちらこそ助かりました。貴重なお力を貸していただいて……おかげで助かった命もあります」 1779518043901
6号車 パルネ・ゼルクァス 「神の声を耳にしたことはあるとはいえ神官として修行を積んだわけでなし」 1779518075977
6号車 パルネ・ゼルクァス 「秘奥魔法も癒しに向いている魔法は少ないので、どれほど力になれたかは不確かですが」 1779518100960
6号車 パルネ・ゼルクァス 「まあ、それなら幸いでした」 1779518115551
6号車 ハイン・マクター 「魔法による治療が行える方は一人でも多いほうが助かりますから。それに秘奥魔法の治癒術も素晴らしいものでした」 1779518191043
6号車 ハイン・マクター 「今解読されているものでもさらなる高位のものがあるという話ですし……私のような医者も負けてはいられませんね」 1779518228281
6号車 パルネ・ゼルクァス 「そうですね。ドーデンのあたりは鉄道網に乗って多くの出土した魔導書が行き交いますので都合の良いことです」 1779518277743
6号車 パルネ・ゼルクァス 「|この車両《ここ》にもその流れで蒐集に成功した|魔導書《こ》がいくつか」 1779518317088
6号車 パルネ・ゼルクァス 「………ああ、ギルド長との契約で〈黒の猪号〉を利用する方ならこちらの書庫のものはご自由に閲覧して構いませんので」 1779518369608
6号車 ハイン・マクター 「なるほど、ここの司書をしているのは、そのためなのですね」エルフの口ぶりそして立ち位置から、この車両の主であるということを理解する 1779518468873
6号車 ハイン・マクター 「えぇ、ありがたく利用させていただきます」 1779518483389
6号車 パルネ・ゼルクァス 「結果的に司書のような役割に収まっただけで、当初はここを個人的な書庫としてしか使うつもりはなかったのですが」 1779518517328
6号車 パルネ・ゼルクァス 「車両ひとつ占拠する以上はこちらとしても乗組員の真似事くらいは論理的に言って果たすしかない、と」 1779518573823
6号車 パルネ・ゼルクァス 「とはいえあなたはお気になさらず。医療に関係する書籍も数点あったと思います。濫読していますのでどこにしまったかははっきりしません」 1779518621639
6号車 ハイン・マクター 「車両を個人的な書庫に……あっ、医学書も置いてくださっているのですね。それはとても有難いです」この方は黒の猪号にとっても重要人物だったのか、と思い至りながらも、話が流れたためあまり触れないようにした 1779518723092
6号車 ハイン・マクター 「私は魔導書の類よりも、やはりそちらが専門ですから」 1779518758044
6号車 パルネ・ゼルクァス 「────とはいえ、儂ともうひとりの秘文使いの集める本ですから。禁書すれすれだったり、思い切り禁書だったりしますが」 おもむろにカウンターから出てごそごそと壁一面の本を漁っている。 1779518806199
6号車 パルネ・ゼルクァス 「えーっと、どこにありましたっけ。理論上このあたりのはず……ああ、ありました。こういうのとか」 1779518824927
6号車 ハイン・マクター 「禁書……?」 1779518868929
6号車 パルネ・ゼルクァス 『霊脈医学提要』 著者:白燐医アルベリク・トラウス 分類:魔法医療学・人体魔術研究 魔法と医学を統合し、「生命活動とは肉体・精神・魔力の三循環によって成立する」という理論を提唱した医学書。 著者アルベリクは古代魔法文明末期の治療術師であり、本書は彼が戦場・疫病都市・魔域調査で得た症例をもとに編纂した実践的研究記録である。 本書では人体を単なる肉体としてではなく、 「魔力の流れによって維持される半精神的器官」 として扱っている。 そのため治療法も通常医学とは大きく異なり、 ・魔力循環の滞りを改善する導脈術 ・精神損耗による臓器不全の診断 ・呪詛侵食部位の切除処置 ・魂魄損傷後の人格安定化療法 など、現在では再現不可能なほどの極めて高度かつ危険な技法が多数記されている。 特に有名なのは「幻肢魔力症候群」の記録である。 失われた四肢へなお魔力が流れ続けることで、“存在しない腕”が魔法的には残存している症例が詳細に報告されており、一部義肢魔導技術の基礎となった。 一方で後半には禁忌的研究も散見される。 中でも問題視されるのは、 ・他者から生命力を移植する延命術 ・魔晶石による疑似臓器生成 ・死者の魂魄残滓を利用した記憶補綴 など、「治療」と「冒涜」の境界が曖昧な技法群である。 巻末の最後の一文は特に有名。 「医とは生命を救う術ではない。生命がなお“人”であり続けるための術である。」 1779518897055
6号車 ハイン・マクター 「───それは?」取り出した本の表紙の文字が目に入り、思わず聞いてしまう 1779519030938
6号車 パルネ・ゼルクァス 「『霊脈医学提要』。古代魔法文明末期の医師アルベリク・トラウスの綴った記録です」 1779519047727
6号車 ハイン・マクター 「魔法文明時代の……」 1779519109932
6号車 パルネ・ゼルクァス 「他所に持ち出すと焚かれててしまう地域もありますので許可を求められても持ち出しはお断りしています」 1779519109933
6号車 ハイン・マクター 「……」 1779519136649
6号車 ハイン・マクター 「その本ですが……ハイマンについても……記されていたりするのでしょうか」 1779519170111
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ハイマンですか。……ありますが、|古代魔法文明末期《とうじ》の価値観で綴られたものですので……」 1779519192598
6号車 パルネ・ゼルクァス 「目を通すと少々気分を悪くされるかも知れません」 1779519203062
6号車 ハイン・マクター 「そう、ですか。ですが、えぇ……魔法文明時代の医学書まで置いてあるとは、驚きです」 1779519283780
6号車 ハイン・マクター 「この手の知識はその存在だけでも禁忌とされることも多いですから」 1779519305693
6号車 パルネ・ゼルクァス 「そうでしょうね。……ああ、それでも興味がありましたら閲覧はお好きにどうぞ」 1779519335454
6号車 パルネ・ゼルクァス 「本にかけられていた閲覧阻止の呪詛は解いてあります」 1779519354342
6号車 パルネ・ゼルクァス 「…………。ふむ。しかし、ハイマンの身体についてですか」 1779519383694
6号車 パルネ・ゼルクァス 「どこか体調に優れない点がおありで?」 取り出した本を元あったところにしまいながら尋ねる。慮ったとか気を使ったとかそういう素振りのない、そっけない尋ね方。 1779519429295
6号車 ハイン・マクター 「えっ!?あっ、いえ、身体の方は……その、健康そのものです」 1779519505108
6号車 ハイン・マクター 「健康なんです。今は少し……疲れはありますけれど」 1779519525595
6号車 パルネ・ゼルクァス 「それは重畳」 1779519525596
6号車 パルネ・ゼルクァス カウンターの奥に戻って再び腰掛ける。水差しからコップに水を注いで飲むなど。 1779519583294
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ぷは。そうですね。お疲れでしたらどうぞごゆっくり。儂は|蔵書《このこ》たちに狼藉をしない限りはこの車両でどう過ごすかに干渉しませんので」 1779519650630
6号車 ハイン・マクター 「……はい、お気遣いありがとうございます」 1779519707005
6号車 パルネ・ゼルクァス ちらちらと先程紹介した本のあたりに視線を遣っているハイマンを見つめる。 1779519718294
6号車 パルネ・ゼルクァス 普段は他人に気を使ったりしないが、興味が湧いたので久々に対人用の思考回路を励起させた。言動。態度。表情。そこから類推。 1779519770110
6号車 パルネ・ゼルクァス ふむ。 1779519790334
6号車 ハイン・マクター (今は……今は健康で生きていられる。身体には気遣っているし、それも当然でしょう。でも……例え健康な身体があっても……私達は抗えない)少し考えてしまう。今は生きられても、明日、未来ではどうなっているか分からないこの身体の事を 1779519828979
6号車 パルネ・ゼルクァス 「儂は碩学でして、要するに人でなしでして、こういったことを直裁に尋ねる方だとあらかじめ断っておきますが」 1779519841958
6号車 パルネ・ゼルクァス 「今、おいくつです?」 カウンターに頬杖をつきながら世間話でもするみたいに聞いた。 1779519870621
6号車 ハイン・マクター 「……!」その言葉に見透かさてしまったような気がして 1779519932056
6号車 ハイン・マクター 「……17です」 1779519940896
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ああ、次の輪廻へ向かうまでもう数年ですね」 1779519940897
6号車 ハイン・マクター 「ッ……」その言葉に自らの運命を、現実を突きつけられる 1779519994953
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ハイマンのことについて記された文献をお探しだったのもそれが理由ですか?」 1779520012976
6号車 ハイン・マクター 「……いえ、元はと言えばハイマンについて記された本を読もうとは、これっぽっちも思ってなかったんです」 1779520086675
6号車 ハイン・マクター 「……私も昔はこの宿命に抗おうとしました。今持ちうる技術や知識は、それの副産物のようなものです」 1779520120879
6号車 ハイン・マクター 「でも……でも、諦めたんです。無理だと、私の時間で努力しても、きっとこの宿命を超えることは出来ないと」 1779520171800
6号車 パルネ・ゼルクァス 「─────いいですね」 微笑んだ。 1779520171801
6号車 パルネ・ゼルクァス 「儂は今110歳。エルフの寿命は500歳ほどとされていますが─────あなたの気持ちはよく分かります」 1779520188501
6号車 ハイン・マクター 「えっ?」あまりにも予想外の言葉だった 1779520235879
6号車 パルネ・ゼルクァス 「儂はですね。本を読みたいんです」 1779520235880
6号車 パルネ・ゼルクァス 「過去の本から現在の本、未来の本、世界各地の本、これまでに生まれた本からこれから生まれる本まで」 1779520256269
6号車 パルネ・ゼルクァス 「全部全部、読んで読んで読んで、読み尽くしたいんです」 1779520273797
6号車 パルネ・ゼルクァス 「とてもではないですがエルフの寿命程度では足りません。500年なんてあっという間」 1779520296941
6号車 パルネ・ゼルクァス 「積み重ねられていく歴史という叡智の前には瞬きほどの時間しかないでしょう」 1779520316853
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ですから、方向性は違っても時間が無いと惜しむあなたの気持ちは分かります」 1779520352637
6号車 ハイン・マクター 「───」その時は、スケールの違いに言葉が出なかった 1779520398846
6号車 ハイン・マクター 「で……では……」 1779520414068
6号車 ハイン・マクター 「その、この言い表せない、恐怖と……貴方は……どう戦っているんですか?」 1779520456767
6号車 ハイン・マクター 「私は怖くてたまらないんです。諦めて、見ないふりをしてしまったのに、ずっとずっと払拭出来ないこの恐怖に」 1779520494829
6号車 パルネ・ゼルクァス 「何を仰るのです。論理的に言って、諦めて投げ出せば迫りくるものが怖いのは当然でしょう。だって不可避ですもの」 1779520503701
6号車 ハイン・マクター 「じゃあ、もうどうしようもないって……!」 1779520568398
6号車 パルネ・ゼルクァス 「そうですか? 儂は残りの寿命全てを研鑽に費やしてこの残された時間という問題を解決しますよ」 1779520568399
6号車 パルネ・ゼルクァス 「結論としては、そうですね、ええ」 1779520568400
6号車 パルネ・ゼルクァス 「─────神にでもなろうかと」 1779520574532
6号車 ハイン・マクター 「か……神!?」 1779520617868
6号車 パルネ・ゼルクァス 「神」 1779520617869
6号車 ハイン・マクター 「神……」 1779520627627
6号車 ハイン・マクター 「その……あまりにも、考えのスケールが違いすぎて……」 1779520661708
6号車 ハイン・マクター 「……やはり神に、なれると考えていらっしゃるのですか?」 1779520688830
6号車 パルネ・ゼルクァス 「なれるのではなく、なります」 1779520688831
6号車 パルネ・ゼルクァス 「これは儂が導き出した論理的な結論であり、そこに辿り着けないという可能性の到達による死はあくまで結果にしか過ぎません」 1779520730028
6号車 パルネ・ゼルクァス 「諦めて定めてしまった終わりと、結果としての終わりは全く別のものです」 1779520803396
6号車 ハイン・マクター 「───」あまりにも強い言葉だった、本当にそうなってしまうのではないかと、思わせてしまう言葉だった 1779520853898
6号車 パルネ・ゼルクァス 「足掻いた末の死は、終焉ではなく結末です」 1779520853899
6号車 ハイン・マクター 「……」エルフの寿命は私達よりも数十倍も長い。だが、エルフとは言え神の領域へと到れる者は一握りすらいないだろう。なのにここまでハッキリと言えてしまうのはきっと、彼女の強さであり、自分にないもの 1779520961836
6号車 パルネ・ゼルクァス 「『蝋燭が一刻で尽きようと、魔導灯が百年灯ろうと、闇に抗った光であることに変わりはない』」 1779520997325
6号車 パルネ・ゼルクァス 「〈|大崩落《ディアボリック・トライアンフ》〉後に生活のための魔動機の復旧に生涯を捧げたグランベル髭長というドワーフの綴った書の一節です」 1779521037692
6号車 パルネ・ゼルクァス 「儂の寿命が残り400年であろうと、あなたの寿命が残り3年であろうと」 1779521060260
6号車 パルネ・ゼルクァス 「目的のために突き進んだのであれば、その時間の濃度に変わりはないと儂は思います」 1779521102932
6号車 ハイン・マクター 「……はぁ……」息を吐く。決して呆れているわけではない、心を落ち着かせる為に深く息を吐く 1779521221958
6号車 ハイン・マクター 「私の……私の母は、25で亡くなりました。私も、もしかしたら同じくらいに死んでしまうかもしれません」 1779521237927
6号車 ハイン・マクター 「私は貴方のように、偉大な人物にはなれないかもしれません。志半ばで終わってしまう可能性のほうがずっとずっと、高いかも知れない」 1779521265562
6号車 ハイン・マクター 「ですが……」 1779521279375
6号車 ハイン・マクター 「貴方の言葉に……少し、勇気をもらえました。この人生を、宿命と共に歩むための勇気を」 1779521318758
6号車 ハイン・マクター 「その本……『霊脈医学提要』読んでみてもいいでしょうか」 1779521344534
6号車 パルネ・ゼルクァス 「どうぞ。…………ふふ」 1779521408435
6号車 パルネ・ゼルクァス 微笑むエルフはぼんやりととぼけた眼差しをしているが、よくよく見れば瞳の奥に爛々と輝くものがある。生気か、狂気か、あるいはどちらもか。 1779521480699
6号車 パルネ・ゼルクァス 「悪魔に唆されたと思えばいいでしょう。古代魔法文明時代の魔法使いは現代の価値観からすると悪魔めいたものですし」 1779521518755
6号車 パルネ・ゼルクァス 「あなたの生に多くの成果を期待します」 1779521538851
6号車 ハイン・マクター 「でしたら私もきっと、その産物ですから。……ありがとうございます」本を大事そうに抱え、図書車両の座席の一つに座ることにした 1779521638106
6号車 パルネ・ゼルクァス 「ええ。……あ、そうそう」 再びカウンターの上に置かれていた本を手にとって読み始めようとして、ふと思い出したように言った。 1779521664690
6号車 ハイン・マクター 「はい?」 1779521728040
6号車 パルネ・ゼルクァス 「学ぶ意志のある方は好きです。いつか手段を求めてハールーン魔術研究王国を訪れることがありましたら儂の名を学院でお出しください」 1779521728041
6号車 パルネ・ゼルクァス 「多少のお役には立てるでしょう」 1779521728042
6号車 パルネ・ゼルクァス それだけ言って読書に戻ってしまった。 1779521732635
6号車 ハイン・マクター 「ハールーン……はい、いずれ、必ず」この先の旅路で今日話した彼女がハールーンの准教授だと知り、何故黒の猪号に住んでいるんでしょうかと疑問に感じるのはまた先の話だろう 1779521830251