昼下がりの城塞都市は、だいたい平和だった。  石畳の大通りには荷馬車が行き交い、軒先には赤や青の天幕が張り出している。  武器屋では店主が客と剣の値段でもめ、露店では焼いた肉と香草の匂いが漂い、広場の噴水では旅芸人が火の玉を三つ投げ上げて喝采を浴びていた。  魔物の襲撃もない魔王軍も来ない。  空を飛ぶ竜も今日は見えない。  そんな穏やかな午後の街を、一人の女がものすごい勢いで駆け抜けていた。 「どけどけどけどけぇぇぇ!」  黒髪をなびかせ、人波を縫う。  革鎧の上から深紅の布を巻き、腰には使い込まれた剣。  肩には旅道具を詰め込んだ鞄を提げている。  名を、能丹武子。  旅から旅を重ねる流浪の戦士である。  足は速いし剣もそれなり。  ただし、何かに追われることについてだけは、たぶん世界でも有数の経験を誇っていた。 「なんでだよ!」  武子は走りながら叫んだ。 「なんでいるんだよ! なんでこの街にもいるんだよ!」  背後から聞こえてくる。 「待てー!」 「待つか!」 「タケ子ー!」 「気安く呼ぶな!」 「団長ー!」 「それはもっとやめろぉ!」  速度を上げた。  果物屋の屋台をかわし飛び出してきた荷車を跳び越す。  酒樽を担いで歩いていた大男の脇をすり抜け、驚いて飛び上がった猫を踏みそうになってさらに跳ぶ。 「うおおおおおっ!」 「おお」  道行く冒険者が感心した。 「速え」 「何かに追われてるぞ」 「盗賊か?」 「いや、女の声がする」 「痴情のもつれ?」 「違うわ!」  聞こえたので否定しておいた。  タケ子には心当たりがある。 というかありすぎる。  依頼で酔っぱらいの護衛をしたら、いつの間にか酔っぱらい十二人を率いて盗賊団と戦っていたことがある。  野営地で魔物に襲われたとき、気づけば近くにいた冒険者たちへ指示を出していたこともある。  洞窟で道に迷った冒険者を助けたら、その冒険者が翌日から勝手についてきた。  その翌日には二人増えた。  さらに翌日には四人増えた。  こういうことが、なぜか昔から多い。  武子としては頼まれたことをやっただけだ。  困っている奴がいれば手を貸す。  襲われれば剣を抜いて戦うなら生き残れる方法を考える。  ただそれだけである。  ところが世の中には、それを別の言葉で呼びたがる連中がいる。  曰く人望。  曰く統率力。  曰く天性の指揮官。  そして最悪の呼び方が、 「団長ー!」 「だから違うっつってんだろ!」  武子は振り返った。  遠くに赤いものが見えた。  深紅のローブ。  その向こうには黒い影もいる。 「なんであいつら私より足速いんだよ!」  前を向くとそこには十字路。  一か八かで右へ飛び込む。  市場の大通りから一転して、薄暗い裏路地へ入る。  建物と建物の隙間を縫う細道だ。  ここなら馬車は来ない。  武子は壁を蹴った。  積み上げられた木箱へ飛び乗り、そのまま反対側へ跳ぶ。  樽をかわして走り、洗濯物の下を潜った。  道は二つに分かれている。  左へ!  さらに三つに分かれるので右!  そしてまた左と。  古い宿屋の裏口を通過して、その先の角を曲がった。 「あっちに行ったぞー!」  女の声が響いた。  武子はびくっとして壁に張りついた。  声は近い。 「追え追えー!」 「逃がすなー!」  足音が遠ざかっていく。 「…………」  壁から顔だけを出す武子。  誰もいないのを確認する。  どうやら奴らは反対方向へ行ったらしい。 「…………勝った」  拳を握る。 「勝ったぞ」  何に勝ったのかは分からない。  だが勝った! 逃げ切ったのだ。 「はああああぁぁ……」  ずるずると壁にもたれて座り込む。 「しつこいんだよ……」  剣を振るうより疲れた。  戦闘なら相手を倒せば終わる。  追跡はそうはいかない。  まして相手は殺すわけにも殴るわけにもいかない顔見知りばかりだ。 「水……」  喉がからからだった。  武子は肩から鞄を下ろした。  革製の大きな旅鞄だ。  水筒に保存食と火打ち石。  包帯、薬草……予備の靴紐そして財布などが入っている。  蓋を開ける。 「水、水……」  中を探ると何かに触れた。 「ん?」  柔らかい。  水筒ではない。  もう一度触る。  ぷにっとした感触。 「…………」  一瞬、動きが止まった。  この感触には覚えがある。 「まさかな」  鞄を覗いた。  小さな妖精が寝ていた。 「…………」  薄汚れた赤いローブに全身を包み、荷物の隙間へ器用に丸くなって潜り込んで寝ている。  あれだけ揺れても起きないのはすごい。  完全に寝ているようだ。 「すぅ……」 「…………」 「すぅ……」  武子は鞄を閉じた。  空を見上げる。  青空だった。  雲が流れている。 「神様」  武子は言った。 「私は何かしましたか」  返事はなかった。  鞄を開ける。 「すぅ……」  まだいる。 「なんで入ってんだよ」  妖精は答えない。 「おい」  頬をつつく。 「起きろ」 「んにゅ……」 「起きろって」 「あと……三時間……」 「長い!」  武子は水筒を抜き取った。  栓を外して水を飲む。 「ぷはぁ」  生き返る。  その横で妖精がもぞもぞ動いた。 「ん……」  起きた。  小さな顔がローブの奥から覗く。 「ふぁぁぁ……」  大きなあくび。  目を擦り武子をじっと見て、眠そうな目が二・三回ぱちぱちした。  やがて妖精の顔に満面の笑みが浮かんだ。  武子は無言で妖精を掴んだ。 「え」  立ち上がり振りかぶる。 「ちょ」 「そぉぉぉい!」  投げた!    盛大に放り投げた!  妖精が空を飛ぶ。 「おはよう、だんちょーーーーーーーーー!」 「誰が団長だぁぁぁぁ!」  小さな赤い塊が青空の彼方へ飛んでいく。  羽があるので死にはしない。  途中からぱたぱたと羽ばたき始めたので問題なし。 「よし」  武子は鞄を閉じた。 「今度こそ逃げ――」 「団長がいたぞ!」  後ろから女の声がした。 「…………」  武子はその場で止まり。  首だけで振り返る。  路地の向こう。  黒い髪を結い上げた女が立っていた。  身軽な暗殺者風の格好。  短い衣装に手甲と脚甲をつけ、片手には短剣。  その女がにっこり笑う。 「見つけた」 「…………」 「団長」 「人違いです」 「能丹武子」 「人違いです」 「名前まで合ってるけど?」 「世の中には同姓同名が三人いるっていうし」 「能丹なんて名字の人、他に知らないよ」 「今日から知れ!」  走った。 「あ、逃げた! 団長いたぞー!」 「言うな!」  背後で足音が増える。 「いたの?」 「こっち!」 「やっと見つけた!」 「逃げ足だけは相変わらずですね」 「囲め囲めー!」 「お前ら敵に使う作戦を私に使うな!」  路地から飛び出した。  今度は住宅街。  低い石造りの家々が並び、窓辺には花が咲いている。  洗濯物が風にはためく。  武子は走る。  後ろから四人分の気配が迫る。 「なんで四人いるんだよ!」 「最初から四人だよ!」 「増えてんじゃねえか!」 「団長を探してみんな集合したから!」 「そんなことで集合するな!」  頭上から声が降った。 「だんちょー!」 「お前も戻ってくるな!」  さっき投げた妖精が追いついてきた。  これで完全に自分も入れて六人である。 「どうして逃げるのさー?」 「お前らが追うからだ!」 「追わなかったら止まる?」 「止まる!」  後ろの足音がぴたりと止まった。 「…………」  武子も止まりかけた。  振り返ろうとする。 「捕まえろー!」  誰かがそう叫んだ。 「やっぱりな!」  再び走る。  後ろで笑い声が上がった。 「遊ぶなぁ!」  住宅街の先に緑が見えた。  中央に大きな木が一本立っている公園。    芝生と花壇があり、木製の遊具も置かれている。  親子連れや老人たちが思い思いに午後を過ごしていた。  人が多い。  ここならさすがに大騒ぎはしないだろう。  武子は公園へ飛び込む。 「団長待って!」 「その呼び方やめたら考える!」 「武子!」 「それも気安い!」 「能丹殿!」 「急に堅い!」 「隊長!」 「惜しくない!」 「お頭!」 「私は盗賊じゃねえ!」  公園の人々がこちらを見る。  武子は顔を覆いたくなった。  妖精は楽しそうに飛んでいる。  追ってきた仲間たちも、もう半分くらい追跡そのものを楽しんでいるようだった。 「お前らなぁ……!」  武子が振り向こうとした、そのときだった。 「ねえ、もっと上!」  子供の声が聞こえた。  公園中央の大木。  枝の上に上った少年が木登りをしている。  下では友達らしい子供たちが囃し立てていた。 「まだ行けるよ!」 「見てろよ!」  少年が一段高い枝へ手を伸ばす。  武子は走りながら眉をひそめた。  あの位置は高すぎる。 「おい!」  声をかけようとしたその時――少年の足元で枝が鳴った。  みしっ。 「え?」  枝が折れた。 「あっ」  小さな体が宙へ投げ出された。  公園から音が消えた。  タケ子の足が止まる。  止まったのは一瞬だけだった。 「――走れ!」  誰に言ったのか。  自分か――後ろの五人か?  分からないが次の瞬間、六人全員が動いていた。  少年がいる位置から高さはかなりある。  このまま石混じりの地面へ頭から落ちれば危ない。  武子が最短距離を走る。  間に合わない。  そう判断した瞬間、横から影が飛び出した。  黒髪の暗殺者だ。  速い――  地面を蹴り、遊具の柵を踏み台にして跳ぶ。 「まだ届かない!」  別の仲間が叫んだ。  魔法使い風の女が杖を向ける。  風が巻いた。  少年の服がふわりと膨らみ、体が横へ押される。  落下地点が変わった。 「そっち!」 「分かってる!」  銃装備の女が飛び込む。  足は決して速くないが少年の真下へ滑り込み、両腕を広げる。   「そのまま受けるな!」  タケ子が叫んだ。 「腕をやるぞ!」 「じゃあどうするの!」 「流せ!」 「了解!」  返事が早い。  迷いがなく判断力がある。  妖精が飛んだ。 「手伝うよー!」 「頼む!」 「はーい、団長!」 「今は許す!」 「許された!」 「喜ぶな!」  妖精の小さな手から光が溢れだし。  少年の周囲に淡い膜が広がって落下速度が鈍る。  だが止まらない。   「三秒しかもたないよ!」 「十分!」  タケ子は周囲を見た。  銃装備の女。  暗殺者。  魔法使い。  妖精。  そしてもう一人。  奇妙な術具をいくつも携えた女が、すでに少年の落下地点を見ている。  「右へ!」  タケ子が叫ぶ。  女が即座に動いた。 「二歩! そこで止まれ!」  止まる。 「暗殺者!」 「名前で呼んでよ! ゆいしーって!」 「あとで聞く!」 「ひどい!」 「左から押せ!」 「はいはい!」  空中で少年の肩を軽く押す。  軌道がずれた。  今度は魔法使いに! 「せいけも!」 「風なら!」 「下から!」  突風が吹き上がる。  少年の落下がさらに鈍る。 「アヤ!」  妖精に向かって声をかける。 「はーい!」 「あと一秒!」 「無茶言うね団長!」 「やれ!」 「はいよ!」  光が強くなる。  タケ子自身も飛び込んだ。  銃装備の女が最初に少年を受ける。 「ぐっ!」 「がんばれ! イクル!」  衝撃がはしる。  しかし真正面から抱き止めない。  団長の指示通り横へ流した。  少年の体が回る。  そこへ暗殺者が手を添え。  魔法使いの風を受ける。  術具を持った女が背中を支え。  妖精の光が最後の勢いを殺す。  そして―― 「こい!」  タケ子が両腕を伸ばした。  少年が胸へ落ちてきた。 「うおっ!」  重い。  タケ子は後ろへ倒れた。  石畳ではない、芝生の上に背中から転がり。  少年を抱えたまま一回転した。 「だ、団長!」 「っ痛―――」 「大丈夫!?」 「私はいい!」  すぐに起きる。 「子供!」  腕の中を見る。  少年は目を丸くしていた。 「…………」 「おい」 「…………」 「大丈夫か?」 「…………」 「どこか痛いか?」  少年が瞬きをする。  軽く体の様子を見てやる。 「痛く……ない」 「本当か?」 「うん」  武子は全身を確認した。  傷はないし血も出ていない。  妖精の魔法と五人の連携で、ほとんど衝撃を受けずに済んだらしい。 「よかったぁ……」  その場に尻餅をついた。  力が抜ける。 「もう……心臓に悪い……」 「団長が一番無茶してたけどね」  暗殺者が笑った。 「うるさい」 「最後、自分で受けたし」 「他にいなかっただろ」 「いたけど?」 「いたの?」 「私」 「お前は、軽装じゃねえか」 「そこ心配してくれるんだ」 「当たり前だろうが!」  武子は立ち上がった。 「全員怪我してないな?」 「大丈夫」 「問題ありません」 「平気」 「私は元気ー!」  妖精が空中で一回転する。 「お前はさっき投げても平気だったもんな」 「団長に投げられるの慣れてるから」 「慣れるな」  少年の友達や大人たちが駆け寄ってきた。  泣きそうな母親らしき女性が少年を抱きしめる。 「ありがとうございます、本当に……!」 「いや、私だけじゃないんで」  武子は後ろを見る。  五人がいた。  さっきまで自分を追い回していた連中だ。  暗殺者の女に魔法を扱う女。  銃装備の戦士に妙な術具を携えた女。  そして赤いローブの妖精。  服装も得物も戦い方もばらばら。  普通なら連携などできるはずがない。  なのに、武子が声を出せば全員が即座に動いた。  一瞬たりとも迷わなかった。  それが武子にとっては妙に腹立たしい。 「……お前ら」 「なに、団長?」 「なんであんなに動けるんだよ」  五人が顔を見合わせた。 「そりゃ」 「団長の指示だから」 「ねー」 「いつものことですし」 「うん」  妖精が元気よく手を挙げる。 「だんちょーの命令、分かりやすいもん!」 「命令じゃない」 「指示?」 「それも違う」 「号令?」 「違う」 「指揮?」 「もっと違う!」 「じゃあ団長命令!」 「どうしてそうなる!」  笑い声が起きた。  公園にいた人々まで笑っている。  武子は頭を抱えた。  こんなはずではなかった。  今日はただ街で補給をして、そのまま次の依頼へ向かうつもりだった。  一人で静かに誰にも追いかけられず。  誰の面倒も見ず、ましてや団長などと呼ばれることなくだ。 「もう行くからな」  武子は鞄を拾った。 「あ」 「追うなよ」 「えー」 「追うな」 「でも」 「追うな」  五人が黙った。 「絶対だぞ」  武子は念を押す。 「私は一人で旅をする。 お前らはお前らで好きにしろ。 私は戦士団なんかしらないし、団長にもならない」 「分かった」  暗殺者が答えた。 「本当か?」 「うん」 「信用していいんだな?」 「もちろん」 「じゃあな」  タケ子は踵を返した。  二歩三歩、歩いたところで背後から五人分の足音がした。  タケ子が止まると足音も止まる。  歩く。  足音。  止まる。  足音も止まる。 「…………」  振り返る。  五人がいた。 「追うなって言ったよな?」 「追ってないよ」 「じゃあ何してんだ」 「同じ方向に行ってるだけ」 「五人全員が?」 「偶然だね」 「そんな偶然あるか!」  妖精がタケ子の肩へ降りた。 「旅は大人数のほうが楽しいよ」 「重い。 降りろ」 「軽いよ!」 「存在が重い!」 「ひどい!」  武子は妖精を掴んだ。 「あ」  妖精が察する。 「待って団長、話し合おう」 「私は団長じゃない」 「話せば分かる!」 「さっき鞄に勝手に入ってたな」 「寝床が欲しかったの!」 「よし」 「何がよしなの!?」  振りかぶる。 「もう一回飛んでこい!」 「いやぁぁぁぁ――!」  投げようとした、そのとき。 「お姉さん!」  後ろから声をかけられタケ子の手が止まった。  先ほどの少年が母親のそばから駆けてくる。 「ん?」  武子は妖精を掴んだまま振り返った。  少年は目の前まで来ると、ぺこりと頭を下げた。 「ありがとう」 「……ああ」  武子の表情が少しだけ緩んだ。 「今度から、あんな高いところまで登るなよ」 「うん」 「木登りするなとは言わないけど、自分で降りられるところまでにしとけ」 「うん!」 「よし」  少年が笑ったのでつられて武子も笑う。  こういうのでいい。  こういう普通のことでいいのだ。  助けて礼を言われた。  それで終わり。  団長だの戦士団だの、余計なものはいらない。  少年は改めて武子を見上げた。 「ありがとう、お姉さん?」 「…………」  タケ子の笑顔が止まった。 「待て」 「?」 「なんで疑問形なんだ」 「え?」 「今『お姉さん?』って言ったよな」 「うん」 「そこ疑問にするところじゃないだろ」  少年は困った顔をした。 「だって……」  視線が武子の後ろへ向いた。  猛烈に嫌な予感がした。 「おい」  振り返らない。 「お前ら」  背後に四人の気配。 「余計なこと言うなよ」  沈黙。 「絶対だぞ」  沈黙。 「私は今、この子にお姉さんって呼ばれた。 それで終わり! いいな?」  妖精が武子の手の中でもぞもぞした。 「でも――」 「でもじゃない!」 「事実はちゃんと教えないと」 「何の事実だ!」  武子が振り返る。  五人が並んでいた。  全員、いい笑顔だった。 「やめろ」  タケ子が言う。  すると暗殺者が口を開く。 「やめろ」  魔法使いも口を開く。 「言うな」  銃装備の女が頷く。 「頷くな!」  術具を携えた女まで口元を緩める。 「待て待て待て」  最後に妖精がタケ子の手からするりと抜け空中へ飛ぶ。 「お前ら!」  五人が少年を見た。  そして声を揃えた。 「「「「「この人は団長だよ」」」」」 「……」  沈黙。  少年がタケ子を見る。 「団長?」  母親も見る。 「団長さん?」  公園の子供たちが見る。 「団長だって!」 「団長!」 「団長さん!」  周囲の冒険者まで振り向いた。 「何だ、戦士団の団長か」 「若いのに大したもんだ」 「さっきの指揮、見事だったぞ!」 「団長ー!」 「団長!」 「団長!」  あちこちから声が上がる。 「違う」  武子の肩が震えた。 「団長ー!」 「違うって」 「団長、次どこ行く?」 「知らん!」 「団長、お腹すいたー!」 「勝手に食え!」 「団長、宿は?」 「自分で探せ!」 「団長!」 「団長!」 「だんちょー!」 「団長さん!」  武子のこめかみに青筋が浮かんだ。  五人と少年は笑っている。  妖精は空中で両手を広げ、まるで勝利宣言でもするように叫んだ。 「やっぱり団長は団長だね!」  武子は拳を握り息を吸った。  街路の鳥が飛び立つ。  噴水の水面が震え、近くで寝ていた犬が飛び起きた。  そして城塞都市の昼下がりに、自称流浪の戦士・能丹武子の絶叫が響き渡った。 「私を団長というなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」